日刊工業新聞連載『調達コストのリスク管理(12)想定コストからの乖離幅』
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- 大崎将行
想定コストからの乖離幅
時間軸に沿い「数値」で表す
【成功の鍵】
新型コロナウイルスの影響は、サプライチェーンの末端である川下まで波及し、日常生活にまで影響を及ぼしてきた。調達コストに限らず、あらゆるリスク管理において、共通する唯一の成功の鍵は「平時のうちにリスクを想定して備えること」に尽きるが、この局面になると、まざまざとそれを実感する。
前回、前々回と2回にわたり、「調達コストのリスクの把握」の前段として「リスク要因の洗い出しとそのまとめ方」について述べてきた。今回からは、後段のリスク要因が顕在化した際の「調達コストのリスクの見積もり方」について説明する。本コラムで繰り返し述べている通り、調達コストのリスクとは「想定コストからの乖離(かいり)幅」であり、本作業はその構成要素である「想定コスト」と「(想定コストからの)想定乖離幅」を時間軸に沿って見積もる作業となる。
【「数値」で表す】
この「調達コストのリスクの見積もり」が調達コストのリスク管理における一連のプロセスの中で最も重要なプロセスだ。「調達コストのリスクの見積もり」と聞くと漠然と捉えがちになるが、要はこの作業を通じ、「最悪どこまでのリスクを想定しておけば良いのか?」ということを具体的に“コスト”や“単価”といった「数値」で表すと理解すれば、イメージはつきやすい。
ここで見積もったリスクを元にリスク戦略や方針を決定し、具体的にリスク対策を設計・構築していく。その意味でも、リスク管理を成功させる上での一番の肝と言って良いだろう。
経営サイドや事業部門・調達部門の責任者からしてみても、さまざまな経営「判断」を下すための根拠となる数値であり、最も重要で興味ある情報であることは間違いない。
【メインシナリオ&リスクシナリオ】
具体的には図のように横軸に時間、縦軸に調達コストを取り、期間ごとに「想定コスト」と「想定乖離幅」を見積もっていく作業となる。「想定コスト」とは現時点において最も確度が高いと思われる調達コスト(メインシナリオとも呼ぶ)であり、その想定コストからリスク要因が顕在化した際に想定される上振れ幅(&下振れ幅)が「想定乖離幅」である(リスクシナリオとも呼ぶ)。時間軸の切り方については、予算や中期経営計画の策定・見直しのタイミングを鑑みると短期(―半年)、中期(―1年)、長期(1年―)という切り方が実用的であり、前回説明したリスクマップの時間軸と平仄(ひょうそく)を合わせたい。それぞれの見積もり手法については、次回以降説明していく。(隔週木曜日に掲載)
◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行