日刊工業新聞連載『調達コストのリスク管理(56)リスク評価「顕在化する確率」議論を』
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- 大崎将行
リスク評価「顕在化する確率」議論を
頻度“軽重”決め対処適切に
多くの企業において、来年度の収支計画の策定も大詰めを迎えるころだ。例年にも増して、2022年は調達コストのリスク対策の検討に多くの時間が割かれているだろう。リスク対策の検討に当たっては、その前段として調達コストの“リスクの評価”が必須である。さまざまなリスク要因をテーブルに乗せ、それらリスク要因が顕在化した際の調達単価への影響を分析する。そして、その影響の大きさを踏まえた上で、具体的なリスク対策の作り込みに着手する。ただ、このリスクの評価においては、リスク要因が「顕在化した時の影響の大きさ」に加えて、「顕在化する確率」も併せて評価することが重要だ。
理由は、調達コストのリスクを過大に評価し、経営資本を無駄遣いしてしまうからだ。顕在化した際の影響が大きいリスク要因といえども、発生確率が何十年に一度といったリスク要因をメインシナリオと位置付ければ、リスク対策が過剰となる。
また、リスク要因の発生確率を考慮せず複数のリスク要因を同等に扱えば、リスクの顕在化による影響を積み上げた際に、リスクの大きさが莫大(ばくだい)となり身動きが取れない。理想は「何カ月、何年に一度」とリスク要因の発生確率を定量的に表すことだが、難しければ主観的に「低、中、高」で構わない。要はリスク要因ごとに発生確率の軽重をつけ、「顕在化した時の影響の大きさ」と「顕在化する確率」の2軸のマトリクスで複眼的にリスク要因を評価することがポイントだ。
身近な事例として、新型コロナウイルスのリスク評価で考えると分かりやすい。新型コロナに感染した場合、その症状や後遺症といったリスクの顕在化による影響は、軽いものから重いものまでさまざまだ。症状に応じて必要な医療が行き渡ることを大前提としながらも、症状ごとにその発生確率(何人に一人)をひも付けてリスク評価しないと、病床や医療従事者、薬の手配といったリスク対策の見積もりが過大となる。限られた医療資源の無駄遣いになりかねない。
リスクの評価は、リスク対策を検討する上では欠かすことのできないプロセスだ。発生確率の議論が抜け落ちたリスク評価は、「顕在化した時の影響の大きさ」だけが独り歩きし、過大にリスクを見積もりやすい。無論、リスクを過小に評価することは危険極まりないが、限られた経営資本の中で必要十分なリスク対策を実施しようとすれば、リスク要因ごとの発生確率も併せて評価することが欠かせない。(隔週木曜日に掲載)
◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行