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日刊工業新聞連載『調達コストのリスク管理(51)リスク対策評価「説明」の重要性』
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  • 大崎将行

リスク対策評価「説明」の重要性

事前の備え、理由を丁寧に

調達単価のヘッジや事前の値決めなど、調達コストのリスク対策については、その“結果”だけを見てリスク対策の成否が議論されがちだ。リスク対策を実行する上で少なからずのリソースやコストが発生するが故に、リスク要因が顕在化し、リスク対策の効果が発揮され“元”が取れた場合に限って評価される傾向がある。一方で、本来であれば喜ばしいはずなのに、リスク要因が顕在化せずに、元が取れなかった際には「リスク対策なんてやる必要なかったのに」と後出しジャンケン的にケチをつける経営陣を目にすることもある。

リスク対策はあくまでも将来の不確実性に対する備えである、という正しい認識を持ち合わせていないが故の発言と言えるだろう。この誤った認識の下、「リスク対策は意味がない、今後はやめよう」という経営判断が下されてしまえば、持続可能な経営という観点においては極めてダメージが大きい。

経営側の調達コストのリスク対策に対する誤った認識がこのような事態を招く一方で、執行側の担当者に落ち度が全くないかと言ったら、そうとも言えない。執行側も結果論で評価しがちな相手に対して、リスク対策の重要性や、具体的な方針が決定するまでの過程、その判断理由などを丁寧に説明し、経営側に腹落ちしてもらう努力は必須だ。この部分を適当に済ましてしまうからこそ、リスク要因が顕在化せず事前の備えが発動しなかった際に、リスク対策に関する取り組みが正当な評価を得られないのである。

リスク対策における「説明」の重要性を実感した最近の事例が新型コロナウイルス感染症対策だろう。行政のコロナ対策の評価をみるに、コロナ対策による結果(重症者や死者の発生人数、発生率)とその行政のコロナ対策の評価は必ずしもリンクしていない。結果としていくら重症者や死者を低く抑えられたとしても、コロナ対策(=リスク対策)の中身やその決定プロセスに明確な説明がない場合、国民・市民の指導者への評価や支持は上がりにくい。むしろ、結果はそこまで芳しくなくても、丁寧な説明を続けてきた指導者の方が、傾向として評価や支持が高い可能性がある。

将来、リスク要因が「顕在化するかしないか」現時点でわからないから、事前に備えるのである。本来リスク対策の評価は、その結果でなく、事前に何をやっておいたかに焦点が当てられるべきであり、そのためにも経営陣に対する丁寧な説明は欠かすことができない。(隔週木曜日に掲載)

◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行

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調達コストのリスク管理(52)インフレリスク顕在化 抑え込む