調達コストのリスク管理(52)インフレリスク顕在化 抑え込む
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- 日刊工業新聞
- 大崎将行
インフレリスク顕在化 抑え込む
「平時のうちから」対策で差
資源や素材などの原材料価格の変動性が高止まりし、このインフレ傾向がしばらく続くと想定される中、調達コストのリスク対策を日常的に行ってきた企業とそうでない企業では、足元の調達単価に明確な差が現れてきている。具体的にどの程度の差が生まれているのか、当社推奨のヘッジプログラムを採用している企業の事例を紹介したい。
紹介事例は、原油価格に単価が連動する原材料を調達している企業の2021年10月調達分のヘッジタイミングとヘッジ数量の推移だ。当社推奨のヘッジプログラムの特徴は以下の2点である。1点目は多頻度、少量による分散ヘッジで高値づかみのリスクの回避を徹底すること。調達月の2―3年前から分散してヘッジを行うことで高値づかみのリスクはかなり低減される。国内外の航空会社でもジェット燃料価格のリスク対策として古くから用いられている手法だ。
2点目は、ヘッジ機会ごとにヘッジ数量に軽重をつけて調達コストの低減を追求すること。過去の価格推移を統計的に分析し、割安と判断される価格水準では積極的にヘッジ数量を増やしていくことで、機会的に毎回同量ヘッジする場合と比べて、調達コストの低減を実現できる。とはいえ、相場をとってもうけることが主目的ではないので、こちらはあくまでも〝スパイス〟的な意味合いが強いが、高値づかみを回避しながら同時に安値も追求していくことが可能となる。そのためリスク対策のコストを気にする企業にも馴染みやすい。
これらの特徴を意識しながら、紹介事例を見てみよう。調達月(21年10月)の2年前からヘッジを開始し、合計11回に分けて分散してヘッジを実行していることが読み取れる。また、コロナショックで市場価格が大きく下落したタイミングではヘッジ数量を大幅に増加していることにも注目だ。結果として、仕上がり調達単価(各ヘッジ単価のヘッジ数量加重平均単価)はバレル当たり49・2ドルと、調達月にスポットで調達した場合の単価(バレル当たり78・6ドル)を大きく下回り、年初来から続くインフレリスクの顕在化の影響を抑え込めていることが理解できるだろう。
調達コストのリスクが顕在化してから慌てて対応策を考えても、目の前の火消しが精いっぱいで取り得る手段は限られる。一方で、あらかじめリスクを想定し、事前に(本例では2―3年前から)リスク対策を施しておけば、たとえ調達コストのリスクが顕在化しても、そのダメージは限りなく抑えられる。平時のうちから粛々と取り組んでいくことを強く推奨する。(隔週木曜日に掲載)
◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行