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日刊工業新聞連載『調達コストのリスク管理(45)原材料・素材価格上昇へ抜本的な対策』
  • 大崎将行
  • 新聞掲載
  • Web掲載
  • 日刊工業新聞

原材料・素材価格上昇へ抜本的な対策

原因把握“正しい処方箋”を

【1兆円の減益】

原材料や素材価格の世界的なインフレ傾向に歯止めがかからない。直近の米国の生産者物価指数(PPI)は前年比7・8%、前月比1・0%の伸び、日本のPPIは前年比5・6%、前月比1・1%の伸びだ。原材料や素材の調達コストの上昇による企業への影響も顕在化し始め、7月末に出そろった2021年4―6月期の製造業の決算を見ると、軒並み原材料や素材価格の高騰が収支に影響を及ぼし始めている。

日本の主要産業である自動車で言えば、業界全体で22年3月期におよそ1兆円の減益要因になるとも言われている。この影響を販売価格に転嫁できる環境であれば幾分ダメージは緩和されるだろうが、特に川下の消費者物価が上がりにくい日本においては現実的にそれも期待しにくい。

【その場しのぎ】

このような状況下、企業としては調達コストの上昇による減益の影響を、別の応急的な施策によってカバーし決算の数字を整えていく必要に迫られる。そこでは、単価の安い代替品への切り替えや、間接部門の人員削減など、通常の原価低減対策の延長線上でその場をしのいでいる企業が多い。

ただ、代替品の調達にしても設計の変更から取引先との交渉まで含めてリードタイムが相応にかかる上、他社も同様な対応を取れば、そもそも代替品の価格自体が上昇してしまう。また、間接部門の人員を削減すると言っても、未来永劫(えいごう)人員を削減し続けることなど不可能であるし、社内の士気低下など副作用が大きいのも事実だろう。いずれの対策も抜本的な解決策にはなりそうもない。では何をすれば良いのか。端的に言えば、この現状を引き起こしている原因とそれに対する対応策を一致させることだ。今、足元で起こっている現象は、原材料や素材価格などの「市場価格」のリスクの顕在化であり、その対応策は「市場価格リスク対策」の一択しかない。

【原価低減でなく】

年率で数十%、時には数百%と高騰する原材料や素材価格に対して、平時の原価低減対策は対症療法にすぎず、市場価格リスクに直接的に働きかける対策でなければ抜本的な解決には至らない。新型コロナウイルスの抜本的な治療には、解熱剤やステロイドなどの対症療法でなく抗ウイルス薬が必要なように、市場価格リスクに対しては原価低減対策でなく、市場価格リスク対策が必要なのである。

何らかの困り事や厄介事を解決しようと思えば、起こっている事象に対する“正確な原因の把握”と、それに対する“正しい処方箋”が不可欠である。原材料や素材価格の上昇に対する対処法についても決して例外ではない。(隔週木曜日に掲載)

◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行

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調達コストのリスク管理(46)リスクの受け止め場所