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調達コストのリスク管理(55)海外からの原材料調達の正体
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海外からの原材料調達の正体

生産国のリスク要因も輸入

世界的に原油価格をはじめとしたエネルギー価格の上昇が止まらない。北海ブレント価格は1バレル当たり90ドルに迫り、7年半ぶりの水準まで達している。期末を迎え、期初のエネルギー価格の想定値との比較でいえば、エネルギーコストのリスクが顕在化した企業も多いだろう。現状、2022年度の予算策定のタイミングと相まって、電力・ガス費用といった光熱費や機械設備や車両の燃料費に対する22年度以降のエネルギーコストのリスク対策に関する問い合わせが増えているが、エネルギーコストのリスクを考えていく上では、これら目に見える形でリスクが顕在化する費目以外に、平時では気付きにくい隠れたリスク要因にも注意を払う必要がある。

その正体は、調達する原材料価格の中に隠されている。原材料の生産者(売り手)も自社同様に原材料を生産するために電力・ガスや燃油を使用する。当然、算式化の有無による程度問題はあるが、その上昇分は原材料価格に反映されてくる。また、原材料調達のほとんどを海外からの輸入に頼るわが国の企業にとっては、海外からの輸送に係る運賃についてもエネルギー価格の上昇に伴う割り増しは避けられない。

この事実が意味するところは、国内のエネルギーコストの値決めのルール(電力であれば燃料費調整制度など)や需給バランスのリスク要因に加えて、原材料の〝生産国〟のエネルギーの値決めのルールや天候リスク、地政学リスクなどのリスク要因も、自社の調達コストのリスク要因になり得るということだ。欧州における天候不良や地政学リスクに起因した天然ガス価格や電力価格の高騰、中国の石炭供給不足に伴う石炭価格、電力価格の急騰は、一見すると対岸の火事のようにも見える。しかし、それらの地域から原材料を輸入する企業にとっては、決してひとごとではなく自社コストのリスクそのものであり、原材料の輸入を通じて、生産国のエネルギーコストのリスク要因も併せて輸入していると考えられる。

特に、現在のような供給制約で、力関係上、生産者が優位な状況下では、リスク要因の顕在化による影響が原材料価格にダイレクトに反映されやすい。この状況は、脱炭素などの中期的なテーマにより、しばらく続いていくと想定される。今後、計画予算やリスク対策を策定していく際には、原材料価格を通じて輸入される日本以外の各地域のリスク要因についても俯瞰(ふかん)して把握していく必要がある。(隔週木曜日に掲載)

◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行

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