調達コストのリスク管理(28)原材料価格の変動リスク
- 大崎将行
- 新聞掲載
- Web掲載
- 日刊工業新聞
原材料価格の変動リスク
供給網で吸収、工夫凝らす
【ひも付き密接】
調達コストのリスクは、最終的には「売り手のコスト構造の変化」と川上から川下の各工程での原材料や素材・部品の「需給バランスの変化」によってもたらされ、特に原材料の需給バランスの変化に起因した「原材料価格のリスク」は調達コストのリスクと密接にひも付いてくる。そのひも付き度合い(原材料価格のリスクが及ぼす調達コストのリスクへの影響)は「調達コストに占める原材料価格の割合」に応じて決まり、この割合が大きければ原材料価格のリスクの影響をダイレクトに被ることになる。逆に小さければ原材料価格のリスクの影響は軽微となる。極端に言うと、どれだけ原材料価格のリスク自体が大きくても、この割合が小さければ調達コストのリスクとしては無視できる。
【転嫁難しく】
調達コストに占める原材料価格の割合は、一般的に川上よりも川下の調達品の方が小さくなりやすい。これは、川上から川下に至る過程で原材料価格以外のコストや利益が累積的に上乗せされていくことで、結果として原材料価格が“薄まる”からだ。そう考えると、完成品メーカーなど川下でビジネスを展開している企業は原材料価格のリスクを起因とした調達コストのリスクと無縁でいられそうだが、そう単純ではない。というのも、川上、川中でのプレーヤーの取引相手は企業であり、価格交渉やフォーミュラ方式で調達コストのリスクをまだ川下側のプレーヤーに一定程度パスすることもできなくはないが、最終消費者に近い川下のプレーヤーは、長らく続くデフレ・低インフレ環境下では顧客に価格転嫁することは難しい。安易な値上げが販売数量の低下に即つながるため、いくら調達コストのリスクが小さいといえども、自社で調達コストのリスクを吸収せざるを得ない局面は意外に多い。
【原油・非鉄40%】
原油や非鉄などの原材料価格の変動性は年率40%と非常に高い。サプライチェーン全体では、この年率40%の変動性に起因した原材料価格のリスクが、川上から川下側のプレーヤーへと順々に広がっていく。流れの末端である最終消費者の物価の変動性が高くない(低インフレ)以上、サプライチェーンの途中の段階で、誰かが何らかの形でこの変動性を吸収していかざるを得ない。サプライチェーンの中にいる限り、このリスクから逃れることはできない。
川上側と川下側の双方をにらみ工夫を凝らしながら、この原材料価格のリスクから自社の身を守る手段が調達コストのリスク管理である。(隔週木曜日に掲載)
◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行