調達コストのリスク管理(16)「対応上限リスク」設定-その2
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- 日刊工業新聞
- 大崎将行
「対応上限リスク」設定-その2
方向性の見極め決断がカギ
【2つの方向性】
前回のコラムでは、リスク対策に費やせるリソースやコストに限りがある中では、想定リスク全域を対象としてリスク対策を実行することは難しく、リスク管理の目的(守るもの)の重要度を考慮しながら、対応するリスクに上限を設ける必要(対応上限リスク)があるという話をした。今回は、その対応上限リスクの設定についてもう一段掘り下げてみよう。
調達コストのリスク対策には大きく分けて二つの方向性がある。一つは調達コストの「想定リスクを低減させる」こと、もう一つはリスク許容度である「許容コスト(例:予算)を引き上げる」ことである。
“対応上限”という言葉が示す通り、この二つの方向性の上限を見極め、どこまでのリスクに対応するかの決断が鍵になる。
「想定リスクの低減」の上限については、自分たちが取り得る想定リスク低減手法(具体的な手法については次回以降本コラムで紹介していく)を洗い出し、各手法別にコスト対比でみた想定リスクの低減効果を試算する。その際のゴールは「発生確率:低」「発生確率:中」など、おのおのの想定リスクについて「現状どこまで低減できるのか」という限界値を把握することである。
【可能性を探る】
一方、「許容コストの引き上げ」についてはその上限の可能性を探ることになる。ここで“探る”という表現を用いたのは、この許容コストの引き上げについては往々にして自部門の判断だけでは決められないケースが多いからだ。例えば許容コストが「予算」の場合、経営層とのすり合わせや他部門との折衝が必ずつきまとう。それ故にまずは“探る”ことが重要となる。
最後に、把握した「想定リスクの低減の限界値」と、探った「許容コストの上限値」を突き合わせ、「(対策後)許容コスト≧(対策後)想定リスク」を満たす範囲から「リスク管理の目的の重要度」を鑑みて対応上限リスクを設定する。
【“掛け合う”】
場合によってはリスク対策に費やすコストやリソースの拡充、予算水準の引き上げを求めて経営層や他部署と“掛け合う”必要も出てくるだろう。ひとつ前のプロセス(調達コストのリスクの見積もり)が自分たちの「意思」「思惑」を排除し、客観的にリスク評価を行うことが重要であったのに対し、このプロセス(対応上限リスクの設定)では、それとは正反対に自分たちの「意思」「思惑」を積極的に詰め込んだ覚悟のある意思決定が求められる。
調達コストのリスク管理の骨格を決める最もエキサイティングで悩ましいプロセスとなる。(隔週木曜日に掲載)
◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行