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デルタ
  • ビジネスへのヒント
  • MRA商品市場レポート for MANAGEMENT(週末版)

【ビジネスへのヒント】第377号

山口課長「最近の商品価格は安定しているなぁ」
田中主任「そうですね、殆ど動いていませんし、サプライヤーからも価格変更の話は来ていないですね」
山口課長「でも商品価格が高騰、ってニュースを良く見るが」
田中主任「円高の影響で相殺されているんじゃないでしょうか」

足元の商品価格は比較的安定してます。世界的な景気減速懸念が需要面で価格を下押しする一方で、金融緩和に伴う政策期待が価格を下支えしているためです。ですが円ベースに倒した場合、必ずしもそうとは言えません。当たり前の話かもしれませんが、国内で円建で取引される国際商品の価格は「外貨ベース価格(多くの場合米ドル)×為替レート」で決定されます。つまり、国内商品価格の変動要因は、2つの変動要素によって構成されているということです。

「価格の変化率」を示す指標として「デルタ」という指標を用います。デルタは「変数が1動いた時に、測定対象である価格がどれだけ変化するか」を示す指標です。デルタが大きければ、対象変数が変化した時の変化幅が大きく、逆の場合には小さくなります。でここで、円建銅価格のデルタを考えてみましょう。先程ご説明したとおり、円建て銅価格の変数は、ドル建銅価格と、ドル円為替レートの2つです。現在の銅価格を6,000ドル/トン、ドル円為替レートを100円/ドルとした時、銅価格が1ドル変動すると円建銅価格の変化幅は100円、為替が1円変動した時の円建銅価格の変化幅は6,000円です。数字をみてお気づきかもしれませんが、円建銅価格の為替デルタは、その時のドル建商品価格の水準と同じになります。つまり、「ドル建商品価格の上昇は、円建商品価格の変化率が上昇すること」を意味するのです。

もし政府が介入等を行って為替の水準が110円に戻ったりでもしたら、その時の円建銅価格の上昇幅は60,000円/トンに達します。日本の金融・為替政策が国際商品価格に与える影響は大きくないため、ドル建商品価格が高い水準のまま、為替が円安に進行するということが起こり得ます。これでは安定調達に支障をきたしかねません。ではどうすればよいのでしょうか?為替のデルタを低下させればよいのです。

具体的には、為替レートを現在の水準で固定してしまうのです。もし、銅を100トン/月購入しているとして、現在の価格水準を6,000ドル/トンとした場合、リスクヘッジ対象となる金額は600,000ドルとなります。デルタを半分にするためには、300,000ドルを100円で予約してしまいます。その後、仮に為替が120円になったとすると円建銅平均コストは、(300,000ドル×100円+300,000ドル×110円)÷100トン=630,000円/トンとなります。本来であれば6,000円であるはずの為替デルタが、3,000円に低下します。もし何もヘッジをしていなければ、円建の調達コストは6,000ドル/トン×110円=660,000円/トンとなり(為替デルタは6,000円のまま)、ヘッジを行ったことによって「価格の変動幅を抑制」出来たことが分かります(但し銅価格がヘッジ後に大幅に下落すると、ヘッジ対象となるドル金額が減少するためオーバーヘッジの状態になりますので、数量の設定は慎重に行う必要があります)。もし、デリバティブ等の金融商品の利用に抵抗がある、あるいは社内規定で行うことができないようであれば、今の水準で外貨預金をするとよいでしょう。現物の決済日に合わせて外貨預金を解約し、その時の水準で円に変換すれば同様の効果が得られます。

価格を分解して考えるようにすると、背後に隠れているリスクを見つけることができ、具体的な対応方法が見つかることも多いので、現在の調達品、販売品の価格体系を見直しすることをお勧めします。

※過去に掲載したものを再掲しています。