キャッシュコスト、フルコスト
- ビジネスへのヒント
- MRA商品市場レポート for MANAGEMENT(週末版)
【ビジネスへのヒント】第356号
商品を購入するとき、その購入する商品に着けられている価格が満足できるものであるならば、構成要素に分解してコストを積み上げ、価格の妥当性を判断する、ということまでする必要はないと思います。ですが購入する商品の安いか高いかを判断するときにはよく採用されるアプロ―チです。その考え方を「市場で取引されている価格」に適用することがあります。いわゆる「コストカーブ」の概念です(詳しくは「原材料の市場分析入門 P64「生産コスト」をご参照ください。
鉱山や油田のコストは、ブルック・ハント社の定義では以下のように分かれています。まず一番基本的なコストがOPEX(Operating Expense)と言われる操業費用で、採鉱費、選鉱費、管理費などが含まれます。キャッシュコスト、C1コストと呼ばれ、毎年キャッシュアウトが発生します。これに初期の投資でかかった費用の減価償却分(CAPEX)を上乗せしたのがC2コスト、これに金利やロイヤルティフィを加えたものがフルコスト、C3コストと呼ばれます。キャッシュフローという意味では、C1コストをカバーできる価格で金属や原油を販売できれば、キャッシュフローが赤字になることはありません。最近では、減価償却などのその他のコストも含めたフルコストをカバー出来る価格水準か否かが注目されることが多いようです。
仮に市場の価格がこれらのコストを下回っていた場合、生産が持続不能となり減産が発生し、これらのコストを上回る水準で価格が推移していた場合、増産が起きることになります。概念的には分かりやすいのですが、キャッシュフローが赤字の会社であれば、当然コスト削減を行いますし、仮に増産するとしても直ちに増産が起きるわけではありません。さらに「どの程度のコストの鉱山・油田まで稼働させるか」を判断する上では現在の需要動向が重要になりますが、この需要の数値を正確に把握することは簡単ではありません。そのため、数字の集計が終わり事後的に見てみると確かに市場価格は生産コストを上回る水準で推移していた、ということになるため、「価格急落時や価格急騰時」の中長期的な価格水準を考える上では有効な指標なのですが、日々の価格分析を行う上ではあまり参考にはなりません。
実際、中国の需要が爆発して以降は、このコストカーブの水準を大きく上回る価格で推移している金属が多いため、日々の値動きを分析するには余り適切な指標ではないのです。言葉を変えると、日々の値動きを分析するには、別の手法を用いなければならない、ということです。