CONTENTSコンテンツ

米政府機関閉鎖解除も高まる不透明感
  • MRA外国為替レポート

2025年11月17日号

◆先週の市場総括


先週の株式市場は波乱の展開、為替市場では円が軟調ながら円安値圏で保ち合い。米国の株式市場ではAI関連株の調整が続いた。過剰投資への懸念、投資収益の回収への懸念、が台頭しあらためて割高感が意識された。

AI関連株、半導体関連株、ハイテク株全般が週を通じて軟調。一方でNYダウは政府機関閉鎖解除を好感して相対的に堅調に推移したが、終盤には利下げ期待の後退、景気不透明感から押される展開となった。

日本株も同様にAI関連株や値がさ半導体関連株を中心にハイテク株が調整。日経平均を大きく押し下げた。一方で出遅れ銘柄、バリュー株が見直され、日経平均は一時5万円を割ったものの週末は50,300円台で引けた。

為替市場では円の軟調が続いた。政府閉鎖解除による米景気不安の後退、株価堅調、リスク選好の回復からドル円相場は週初に154円台に乗せ。その後はFRB高官による追加利下げ慎重発言から12月会合での利下げ織り込みが後退し155円に迫った。

週末にかけても株価調整の傍らで米利下げ期待の後退が支えとなり引けは154円台半ば。

ユーロ円相場もリスク選好・株高に支えられ堅調で180円に迫ったが乗せきれず。引けは179円60銭近辺。

月曜日の東京市場では日経平均が大幅高。米国で政府機関閉鎖解除への期待が高まり投資家に安心感が広がった。つなぎ予算をめぐる与野党折衝で合意が視野に入り、上院で採決される見通しとなった。

AI関連株は買い戻され、好決算を手掛かりに買われる銘柄も。一方で業績不振銘柄は冴えなかった。引けは前週末比+635円高の50,911円。

ドル円相場は堅調。朝方は米政府機関閉鎖解除に漸進との報で円安にはねて始まった。153円70銭で始まると夕刻には154円10銭台へ上昇。さらに欧州市場では20銭台へ。ただその後米国市場では頭打ちとなり153円90銭~154円ちょうどでもみ合い引けは154円10銭近辺。

ユーロ円相場も株高・リスク選好の強まりを背景に堅調。177円70銭で高寄りしたあと30銭に押したがすぐに反発して夕刻には178円40銭。米国市場では177円70銭台に反落したが持ち直して引けは178円10銭。

米国株は大きく上昇。上院でつなぎ予算を採決されるための動議が可決。下院でも週内に採決との見通しに。上下両院でつなぎ予算可決の可能性が高まった。これを好感して主要3指数はそろって上昇。ハイテク、半導体関連株が大幅高。ナスダックは前週末比+522ドル高の23,527ドル。NYダウは+381ドル高の47,368ドル。

米長期金利はやや上昇。10年債は4.119%、2年債は3.592%。

火曜日の東京市場では日経平均が小幅反落。朝方は米国株高を受けて+600円高と続伸したが、値がさ半導体関連株に高値警戒感から利益確定売りが入り下げに転ずるとマイナス圏に押された。

経済統計発表再開で悪い数字が出る、あるいは利下げ遅延の可能性も、と荒れ相場の懸念が下押し要因にも。引けは前日比▲68円安の50,842円。

為替市場では円が総じて軟調。ドル円相場は底固く推移。154円10銭で始まり午前中に50銭へ上昇。ただ株価が反落するに連れ東証引け頃には10銭近辺に押し戻されたが夕刻には40銭台へ。米国市場朝方には153円60銭台へ下落した。

米国でADP雇用報告が10月25日までの4週間で雇用者数が週平均で▲11千人減少したと伝えた。その後は持ち直し引けは154円10銭台。

ユーロ円相場は178円10銭で始まり午前中に40銭へ上昇。その後は20銭~40銭で上下動。欧州市場では50銭台に上昇したが20銭台に反落するなど底固いながら方向感定まらず。終盤は178円50銭~70銭で上下して引けは50銭。

ユーロドル相場は東京市場では1.1560中心に小動きもみ合い横ばい。米国市場朝方に1.1570から1.16ちょうどへユーロ高ドル安。その後は上値重く引けは1.1580台。

米国株はまちまち。ソフトバンクが決算発表でエヌビディア株を売却したことを明らかに。ハイテク株の重石となった。一方、上院でつなぎ予算が可決、下院でも12日に可決予定と報じられたことは支え。ナスダックは▲58ドル安の23,468ドル、NYダウは+559ドル高の47,927ドルと最高値を更新した。

米債市場はベテランズデーで休場。

水曜日の東京市場では日経平均が反発。AI関連銘柄には利益確定売りが広がった一方、好業績銘柄には買い。ソフトバンクのエヌビディア株売却もAI関連銘柄へ慎重な見方を強め、買い疲れ感から上値は重い一方、内需関連に触手が広がった。引けは前日比+220円高の51,063円。

為替市場では円が軟調。株価堅調、リスク選好の強まりで円は売られた。ドル円相場は154円10銭台で始まり堅調。午後には154円80銭へ上昇。その後は154円台後半で上下し欧州市場では90銭、米国市場朝方には一時155円台をつけた。

その後は引き続き154円台後半で上下して引けは154円80銭。

ユーロ円相場はドル円相場より堅調さが明確だった。178円50銭台で始まり午後には179円10銭台、さらに欧米市場を通じてじり高となり179円40銭まで上昇。その後も179円台を維持して引けは179円40銭。

ユーロドル相場は小動き。東京市場では1.1580台で始まり小動きながら上値重く、欧州市場では1.1560~80で推移。米国市場では持ち直し1.16ちょうどに上昇したものの、引けは1.1580近辺にとどまった。

米国株はまちまち。政府機関閉鎖解除に向け前進していることを好感しNYダウは史上最高値を更新。一方、AI関連は過剰投資が収益を圧迫するとの懸念で売られた。

NYダウは前日比+326ドル高の48,254ドル、ナスダックは▲61ドル安の23,406ドル。米長期金利は低下。前日に公表された民間の雇用関連データが弱く利下げ期待が強まった。10年債は4.07%、2年債は3.572%。

木曜日の東京市場では日経平均が続伸。米政府機関閉鎖解除、NYダウの上昇、円弱含み、を手掛かりに買い優勢。海外投機筋とみられる断続的な先物買いが支え。銀行ほかバリュー株が物色されAI関連株からのシフトがみられた。引けは前日比+218円高の51,281円。

ドル円相場は154円80銭で始まり155円を2度ほど試したが乗せきれず154円60銭~155円ちょうどで上下動。夕刻には154円30銭台へ押された。その後は154円50銭を挟んで30銭~70銭台で上下し米国市場では一時10銭台へ下落。引けは154円50銭近辺。

ユーロ円相場は179円40銭で始まり20銭~50銭で上下したあと夕刻に179円80銭へ上昇。ただすぐに反落しその後は179円台後半を中心に推移。下値は179円40銭近辺。引けは179円80銭。

ユーロドル相場は東京市場では動意薄。1.1590近辺で小動き横ばい。夕刻に1.1640へ上昇して欧州市場では1.1610近辺で推移。米国市場に入ると1.1660まで上昇して引けは1.1640。

米国株は大幅安。政府機関閉鎖解除も材料出尽くしで売りに押された。AI関連株への警戒感、過剰投資への懸念は根強くハイテク株は軟調。複数のFRB地区連銀総裁から利下げに慎重な発言が相次ぎ嫌気された。12月利下げ織り込みは50%程度に低下し不透明感が高まった。

NYダウは前日比▲797ドル安の41,457ドル。ナスダックは▲536ドル安の22,870ドル。米長期金利は上昇。10年債は4.121%、2年債は3.595%。

金曜日の東京市場では日経平均が大幅反落。米国のAI関連、半導体関連、ハイテク株が割高感から大幅安、下落基調に歯止めがかからず。日本株でも関連銘柄に売りが波及した。

高市トレードで上昇した銘柄にも利益確定売り。米政府機関閉鎖解除も経済指標発表の遅れで不透明感が高まり、利下げ慎重発言も重石。一方、出遅れ銘柄は物色された。引けは▲905円安の50,376円。

アドバンテスト、ソフトバンクグループ、東京エレクトロン、の3銘柄で指数を▲800円近く押し下げた。

ドル円相場は154円50銭で始まり底固く推移。70銭台に上昇したあと30銭に下落したが欧米市場にかけてじり高となり70銭台へ。米国株の急落を受けて一時153円60銭に下落したが持ち直し、154円70銭に反発したあと引けは154円50銭台。

ユーロ円相場は179円80銭で始まり180円手前まで上昇。179円70銭~180円ちょうどで推移したが180円には乗せきれず。米国市場では株安とともに一時179円ちょうどへ下落。ただその後は持ち直して179円60銭近辺で引け。

ユーロドル相場は1.1640で始まり終始1.16台前半で緩やかに上下動横ばい推移。引けは1.1620。

米国株はまちまち。NYダウは寄り付き直後に▲600ドルの大幅安。経済指標の発表遅れによる景気不透明感、雇用悪化懸念、FRB高官発言による利下げ不透明感、などが嫌気された。

12月の利下げ織り込みはさらに低下して50%割れ。ただ週末のポジション調整でこれまで連日売られてきたハイテク株に買い戻しが入った。連れてNYダウは下げ幅を縮めた。

NYダウは▲309ドル安の47,147ドル、ナスダックは+30ドル高の22,900ドルで引け。米長期金利はさらに上昇。10年債は4.150%、2年債は3.608%。

◆今週の3つの注目ポイント


1. 米国の経済指標

米国では政府機関閉鎖が解除され経済指標の発表が再開される。ただまだ不完全な状態で指標の発表は遅延。景気物価動向が把握しにくい状況が続きそうだ。

そうしたなか、20日木曜日に9月分の雇用統計が発表される。失業率は発表が難しいとみられるが、非農業部門雇用者数前月比増減(前月+22千人)がどのような数字となるか。

すでに民間ベースの統計では雇用者数の減少が確認されているが、あらためて利下げ期待を強める弱い数字となるか。

ほか、以下の統計が発表予定。

月曜日 NY連銀製造業活動指数(11月、予想6.7、前月10.7)

火曜日 NAHB住宅市場指数(11月、予想37、前月37)

木曜日 中古住宅販売(10月、季節調整済み年率換算、予想408万戸、前月406万戸)フィラデルフィア連銀製造業景気指数(11月、予想2.0、前月▲12.8)

金曜日 PMI景況感指数(11月、製造業、予想52.0、前月52.5、サービス業、予想54.5、前月54.8)

2. FOMC議事要旨、FRB当局者発言

19日水曜日にFOMC議事要旨(10月28日・29日開催分)が公表される。同会合では0.25%の利下げが実施されたが、パウエル議長は会見で委員の意見が大きく割れており、12月会合での追加利下げは極めて不透明とのニュアンスを示した。

議論の詳細がどうなっているのか。インフレ警戒やタカ派的な意見が多いのか、単に景気物価動向の把握が難しくなっているなか様子見とのスタンスか。

また今週もFRB高官の発言が多い。経済指標発表が再開されるなか、追加利下げに前向き、慎重、いずれの意見が多くみられるか。

月曜日にウォラー理事、ジェファーソン副議長、ミネアポリス連銀総裁、NY連銀総裁、火曜日にリッチモンド連銀総裁、ダラス連銀総裁、木曜日にシカゴ連銀総裁、クック理事、の発言機会がある。

3. 日本の経済指標

日銀の12月会合での利上げ観測は高市政権の誕生で後退していたが、ここにきて持ち直している。10月会合の議事要旨、景気物価動向、政策委員の発言、が背景。今週の材料がさらに利上げを後押しするか。

月曜日に発表されるGDP(7-9月期)は弱い数字が想定されている。予想は前期比年率▲2.4%、前期+2.2%から減少を見込む。一方、水曜日に発表される9月の機械受注は前年同月比で予想+4.9%と前月+1.6%から加速を見込む。

重要なのは金曜日に発表される消費者物価指数(CPI、10月)。前年同月比で総合指数は前月+2.9%から+3.0%へ上昇加速予想、除く生鮮食品のコアも同様に+2.9%から+3.0%への加速予想、除くエネルギー・生鮮食品のコアコアでは+3.0%から+3.1%への加速予想。

予想通りならインフレ加速から利上げを求める声は高まり、同時に円安への懸念も強まりそうだ。

ほか水曜日には通関統計(10月)が発表される。貿易収支は前月とほぼ同水準の▲3,000億円程度の赤字が予想されている。

ほか水曜日にはエヌビディア社が決算発表。このところのAI関連株価の調整が一服するか、継続するか、市場全体のリスクセンチメントを左右するため注目される。

◆今週のMRA's Eye


米政府機関閉鎖解除も高まる不透明感

米国ではようやく政府機関閉鎖が解除された。これで順次、停止していた経済指標の発表が再開される。政府機関再開は一面で景気への悪影響懸念を抑制する。雇用悪化の深刻化が回避され、給与支払いの再開で個人所得や消費への懸念も緩和しよう。

ただ、これを積極的な好材料と評価することはできない。景気下押しが加速する材料が緩和するのみ。景気悪化度合いが深刻化する可能性が軽減したところまでだ。

株価や投資家心理に対する影響は、政府機関閉鎖をどの程度深刻に受け止めていたかによる。景気後退の可能性が高まったとして過度に懸念した状態だったとすれば、政府機関閉鎖解除は一定のポジティブ材料。

一方、いずれ再開されるだろうとみて高をくくっていたとすれば、さほどの好影響はない。

この観点でみれば、政府機関閉鎖が史上最長となるなか懸念が高まってはいたが、依然として早晩再開されるとの期待は根強かった。とくに感謝祭やクリスマス休暇が迫るなか、このまま年越しすることはないとの見方が多くみられた。

その意味では、さほどのポジティブサプライズはないだろう。先週の米国株はNYダウが堅調に推移したが、政府機関閉鎖解除による下支え効果はさほどなかったとみられる。

むしろAI関連株の調整でディフェンシブ銘柄やバリュー株へ資金がシフトした効果のほうが大きかったとみられる。

一方、遅れていた経済指標の発表が再開されることについては市場の受け止めが分かれる。

景気の底固さを示すとの強気の見方もあれば、弱い経済指標が景気悪化を明確にするとの見方もある。さらにそれらを受けてFRBの追加利下げ判断がどのような影響を受けるのか。

今週の注目は20日木曜日に発表される9月の雇用統計。今回の発表ではサンプル調査が不十分なことから失業率を示すことは難しいといわれている。非農業部門雇用者数の前月比増減は発表されるとみられるがどうか。

民間調査の雇用関連統計では、ADP雇用報告が足元で雇用者数の減少が続いていることを示している。チャレンジャー・アンド・クリスマス社の調査による人員削減数は大きく増加していた。

それらから推察すれば、8月は+22千人の増加だったが、9月分は減少に転ずる可能性が高い。弱い数字は織り込み済みだが、実際に雇用情勢が悪化していることを示せば市場は反応しよう。

株価の反応は、景気懸念が強まり全体を下押すことになるか、利下げ期待が強まりハイテク株も含めて調整一服となるか。このところ上昇していた米長期金利は頭打ちとなり低下するとみられる。

ただ不透明なのはFRBのスタンスだ。このところのFRB当局者、地区連銀総裁や理事あるいは副議長らの発言は割れている。

利下げに慎重な意見が多いが、一方12月会合での追加利下げを支持する意見もみられる。市場の12月利下げ織り込みは50%をやや切るところまで後退した。

10月の雇用統計は12月初旬に発表、11月分は12月10日以降と見込まれている。次回FOMCは12月9日・10日。11月分の数字は間に合わない。

ただ民間部門の雇用関連指標は通常通り発表される。消費者信頼感やISMなど企業の景況感も同様。総合的な判断は可能とみられる。

そうしたなかFRB内の議論がどうなるか。利下げ慎重派にも二派ありそうだ。景気は底固くインフレ懸念が根強いなかで積極的に利下げを見送るべきとするメンバー。

景気とくに雇用悪化は懸念しつつも慌てるほどではなく、インフレ指標など経済指標が全体的に不十分なことから、ひとまず12月は見送ってもよいのではないかという消極的慎重派。

これに対して、積極的な利下げ支持派もいる。雇用悪化が加速しておりさらに悪化するリスクがある。一方、インフレは落ち着いていることから、なお実質政策金利がプラスで景気抑制的であるため、積極的に利下げを実施すべきという意見。市場の織り込み度合いが50%近傍で彷徨っており不透明感が極めて高いことを示す。

ドル円相場は10月に上昇した。高市政権の誕生による金融緩和継続圧力への警戒感、日銀会合での利上げ見送り、植田総裁のややハト派的スタンス、政権からの金利据え置きに対する高評価、など。利上げ期待が後退したことが円先安観を強めた。

一方、FRBは市場の予測通りに利下げを実施したものの、パウエル議長の発言は想定外にタカ派だった。12月利下げ確率を高く見積もっていた市場は梯子を外されたかたち。日銀が想定よりハト派、FRBが想定よりタカ派、となればドル高円安に振れるもの当然。

では12月会合がどうなるか。

まだ不透明ななかにある。日本サイドではこのところの円安に対してさすがに政権サイドからも懸念が強まっている。市場あるは世論も円安への警戒を示す。

今週発表されるGDP(7-9月期)が弱い数字となりそうなことから、利上げが難しいとの見方も強まりかねない。一方、CPIは高止まり、とくにコアコア指数は3%台となりそうで、物価高への懸念が強まり、日銀への利上げ期待を強めそうだ。

12月会合で日銀が利上げ、FRBが利下げ、となれば10月とは全く逆の動きとなることでドル高円安は一服しよう。しかし日銀が利上げを、FRBが利下げを、いずれも見送る可能性もある。その場合は155円超へのドル高円安もありうる。

なお極めて不透明な状況が続きそうだ。ただ不透明ゆえに明確な動きが出ず、短期的には、155円手前で様子見の時間帯がしばらく続くのではないか。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
【MRA外国為替レポート】について