期待の剥落、利益確定、資金フローの逆流に留意
- MRA外国為替レポート
2025年11月10日号
◆先週の市場総括
先週は株式市場が波乱の展開。週初からNYダウが軟調な傍ら、火曜日には著名投資家や投資銀行幹部からAI関連株の割高感が指摘され、それをきっかけに米ハイテク株が大きく調整。日本株のAI関連や値がさ半導体関連株にも波及して日経平均は急落。水曜日には一時▲2,400円超下落した。
火曜日・水曜日の2日間で下げ幅は2,000円を超えた。その後もハイテク株は内外ともに不安定な値動き。米国では人員削減が22年ぶりの高水準を示し懸念が台頭。一方、政府機関閉鎖解除に向けた期待が週末にかけて高まった。
日経平均は5万円を割り込む場面もあったが週末には50,200円台と大台を維持した。
株式市場の波乱に対して為替市場は小動き。ドル円相場は153円~154円で方向感なく上下。ユーロ円相場も176円台から177円台を中心に推移した。
月曜日の東京市場は祝日で休場。アジア時間の為替市場は小動き。ドル円相場は154円ちょうど~20銭でもみ合い上下動。欧州市場から米国市場にかけては154円10銭~30銭でもみ合い。
発表された米国のISM製造業景気指数(10月)が前月49.1から48.7へ悪化し予想49.2を下回ると153円90銭台に下落。ただその後は持ち直して引けは154円20銭近辺。
ユーロドル相場は、アジア時間は1.1520~40でもみ合い小動き。欧州市場では1.1510~20。ISMを受けて1.1530台へ上昇したが上値も重く引けは1.1520。
ユーロ円相場は177円60銭台で始まり80銭台~90銭台へ強含み。欧州市場では177円40銭割れに反落したあと60銭に戻すもISM指数によるドル安円高に押されて177円20銭台へ下落。その後は70銭台へ反発して引けは177円60銭近辺。
ISM製造業指数(10月)の内訳では、雇用指数が前月45.3から46.0へやや改善したが依然として50割れ。新規受注指数も48.9から49.4へ改善したが50割れのまま。米国株はまちまち。
NYダウは相場過熱感、高値警戒感から利益確定売りに押されて一時前週末比▲400ドル超下落。ISM指数が弱く製造業の苦戦を示したことが重石。引けは▲226ドル安の47,336ドル。一方ナスダックは+109ドル高。ハイテク株は底固かった。米長期金利はやや上昇。10年債は4.102%、2年債は3.598%。
火曜日の連休明けの東京市場では日経平均が反落、大幅安。急ピッチで上昇したあとで利益確定売りに押された。AI関連株は引き続きしっかりも個別決算で明暗。引けは▲914円安の51,497円。
ソフトバンク、アドバンテスト、2銘柄だけで日経平均指数を750円ほど押し下げた。
ドル円相場は154円20銭で始まり朝方50銭目前まで上昇したが急反落して夕刻には153円30銭台。片山財務相が再び円安けん制発言。これを受けて円が買い戻された。その後は70銭台に反発して欧州から米国市場では153円30銭~60銭で上下もみ合い横ばい。引けは153円60銭台。
ユーロ円相場は177円60銭で始まり下落して欧州市場では176円80銭~177円ちょうどでもみ合い。米国市場ではさらに下落して176円10銭。引けにかけては176円40銭近辺。
ユーロドル相場は東京市場では1.1520で始まり1.15ちょうどに下落するなど上値重く夕刻は1.1530。欧州市場から米国市場にかけては1.1470台へ下落して引けは1.1480近辺。
米国株は主要3指数がそろって下落。AI関連株の下げが目立った。ウォール街の著名投資家がエヌビディア社の株のプットオプションを大量に買っていたことが明らかになったことを嫌気。
またゴールドマンサックスのCEOがハイテク株の割高感を指摘。高値警戒感が強まり利益確定売りが優勢となった。NYダウは▲251ドル安の47,085ドル、ナスダックは▲486ドル安の23,348ドルと大幅反落。
この日発表予定だった米国の経済指標、貿易収支、雇用動態調査、製造業新規受注、などは発表延期となった。
この日行われたNY市長選挙では民主党のマムダニ氏が勝利。ニュージャージー州、バージニア州、の知事選はともに民主党が勝利した。
水曜日の東京市場では日経平均が大幅安。AI関連株に売りが膨らんだ。過熱感から利益確定売りに押されて一時▲2,400円の急落。その後は押し目買いが入り下げ幅を縮めた。引けは前日比▲1,284円安の50,212円。
ソフトバンク、アドバンテスト、東京エレクトロン、の3社だけで日経平均をほぼ▲1,000円押し下げた。
為替市場では株価急落をみて午前中に円高に振れた。ドル円相場は153円60銭台で始まり一時153円割れ。その後は反発して全値戻し。夕刻から欧州市場にかけては153円40銭~70銭で上下。
米国市場にかけて154円ちょうど近辺に上昇すると、強めの米経済指標を受けて一時154円30銭へ上昇した。ただ上げもそこまでで引けは154円10銭近辺。
ユーロ円相場は176円40銭近辺で始まり175円70銭へ下落。その後は持ち直して夕刻にかけて176円30銭~60銭で上下。欧州市場から米国市場にかけては一段高となり177円10銭。
ユーロドル相場は1.1480で始まり80~90台で小動きもみ合い横ばい。欧米市場でもほぼ同水準で推移して引けは1.1490。
米国株は反発。朝方からハイテク株売りが続いたが一巡後は持ち直し。経済指標は利下げを妨げない程度にしっかりとした数字となり企業業績期待が下支えとなった。
前日の大幅安のあと下げ止まったことで投資家には安心感。NYダウは前日比+225ドル高の47,311ドル。ナスダックは+151ドル高の23,499ドル。
米長期金利は上昇。10年債は4.162%、2年債は3.634%。米株高・米長期金利上昇がドル円相場を支えた。
発表されたADP雇用報告(10月)は雇用者数前月比が+42千人と予想+25千人を上回った。前月分は▲32千人から▲29千人に若干上方修正された。
ISM非製造業景気指数(10月)は前月50.0から51.0への改善予想を上回り52.4。内訳項目では雇用指数が47.2から48.2へ改善したがなお50割れ。新規受注指数は50.4から56.2へ改善した。
木曜日の東京市場では日経平均が反発。米国株が反発したことで安心感。前日までの大幅安のあとで押し目買いが入った。一時前日比+1,000円高。
ウォーレンバフェット氏が率いるバークシャーハザウェイ社が円建て社債を発行したことで商社株買い増しの思惑で商社株がしっかり。一方、上値の重さもみられた。引けは前日比+671円高の50,883円。
ドル円相場は154円10銭で始まり153円80銭に下落したあとは80銭~154円ちょうどでもみ合い横ばい。東証引け後から欧州市場、さらに米国市場にかけては152円80銭台まで下落した。
米国で発表された雇用関連指標が大幅に悪い数字となり米景気悪化懸念、ドル金利先安観が下押した。引けにかけては持ち直し153円10銭近辺。
ユーロ円相場は177円10銭で始まり177円ちょうど~20銭でもみ合い小動き横ばい。欧州市場では円高に振れて176円80銭台、さらに米国市場では30銭近辺まで下落。その後は持ち直して引けは176円80銭近辺。
米国株は反落。雇用データの悪化で労働市場悪化の懸念が広がり、景気悪化懸念から株価を下押し。またAI関連株の高値警戒感は根強くハイテク株の下げが目立った。NYダウは前日比▲398ドル安の46,912ドル、ナスダックは▲445ドル安の23,053ドル。
米長期金利は低下。10年債は4.089%、2年債は3.561%。
発表された民間調査会社・チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社による人員削減数(10月)は153,074人と前月54,064人からおよそ3倍に急増。2003年以来22年ぶりの高水準となった。これを受けて市場の12月利下げ織り込みは7割ほどに上昇した。
金曜日の東京市場では日経平均が大幅反落。前日の上昇分をほぼ消した。米国で民間の雇用統計が大きく悪化し米国株が下落。投資家心理が悪化して海外短期筋が先物に断続的に売りを入れた。
AI関連銘柄、半導体関連銘柄が売られ一時▲1,100円超下落。ただ午後には下げ幅を縮めた。
衆議院予算員会で高市首相がプライマリーバランスの黒字化目標を柔軟に考える姿勢を示し、積極財政が可能になるとの思惑が株価を支えた。引けは前日比▲607円安の50,276円。ソフトバンク、アドバンテスト、の2社で指数を600円以上押し下げた。
ドル円相場は153円ちょうど近辺で始まり朝方152円80銭に下落したが持ち直し、その後は欧米市場まで通じて153円ちょうど~50銭のレンジで大きく上下、方向感なく推移した。欧州市場から米国市場にかけて153円ちょうど近辺で低迷。
米雇用統計は政府機関閉鎖の影響で発表延期。ミシガン大学消費者態度指数(11月速報)は50.3と前月53.6から悪化した。
一方、終盤には政府機関閉鎖の解除に向けた与野党協議の進展期待から米国株が持ち直すとドル円相場は強含み、引けは153円50銭近辺。
ユーロ円相場は176円80銭で始まり50銭に下落したあとは総じて堅調。欧州市場では177円10銭~20銭、さらに米国市場にかけて60銭近辺へ続伸。米国株が下げ止まったことが支えとなり引けは177円50銭近辺。
ユーロドル相場は動意薄。東京市場では1.1550で始まり小動き横ばいのなかやや軟調で夕刻は1.1530。欧米市場では底固く1.1590に上昇し引けは1.1570近辺。米国株はまちまち。前日の雇用懸念、下げの余波でNYダウは▲400ドル余り下落。しかしその後持ち直しプラスに転じた。
政府機関閉鎖解除に向けた動きが進展するとの思惑が支え。民主党がつなぎ予算成立に向けて歩み寄り提案との報道がきっかけ。一方、AI、半導体関連には高値警戒感が根強かった。NYダウは+74ドル高の46,987ドル、ナスダックは▲49ドル安の23,004ドル。
米長期金利はほぼ変わらず。10年債は4.093%、2年債は3.56%。雇用統計(10月)の発表は延期となった。
◆今週の3つの注目ポイント
火曜日は米国債券市場がベテランズデーで休場。CPIやPPIなど経済指標の発表は政府機関閉鎖の影響で延期される見込み。
1. 米国の予算協議、政府機関一部閉鎖の終了の有無
米国では予算協議紛糾による政府機関一部閉鎖が過去最長となった。先週末にはつなぎ予算成立・政府機関再開に向けた動きが進展するとの期待も高まった。
上院の共和党・民主党の間で妥協に向けて修正案策定の動きがみられる。ただ共和党内では強硬派の反対を受ける可能性がある。
民主党は、NY市長選、ニュージャージー州知事選、バージニア州知事選で勝利し勢いを増しており、こちらも対立姿勢を緩めない可能性がある。
影響はさらに広がっており、なおも妥結しなければ市場心理の重石となる。ドル円相場には下押し要因。妥結すれば逆にドル高に振れる可能性がある。
2. 日銀金融政策決定会合主な意見
月曜日に10月の日銀金融政策決定会合における主な意見が公表される。同会合では政策金利は据え置き、利上げは見送られた。結果は市場の予想通りだったが、政権からの金利据え置き圧力、植田総裁がハト派に傾いているとの思惑、などから円安が進んだ。
政策委員の意見は前回会合からハト派に傾いたのか、正常化に向けた姿勢は変わらなかったのか。あるいは利上げに向けて判断がまた一歩進んでいたのか。
3. 株価動向
先週は内外株価が大きく変動した。米国ではAI関連株、ハイテク関連株の割高の指摘をきっかけに急落する場面もあった。決算発表が一巡し、さらなる株価押し上げ要因が当面見当たらなくなるなか、引き続き調整リスクを孕んだ状態が続きそうだ。
市場全体のリスク選好が左右されると同時に、日本株の動向、さらに円相場にも影響が及ぶ可能性がある。日本株は高市政権の政策期待が支えだが、予算委員会における与野党論戦がプラスとなるか、マイナスとなるか。金融政策や為替政策に関する何らかのインプリケーションが伺えるか。
◆今週のMRA's Eye
期待の剥落、利益確定、資金フローの逆流に留意
先週は株式市場が米国、日本ともに大荒れの展開となった。この先、年末に向けて産駒ギビング、クリスマス、と米国市場は休暇シーズンに向かう。11月はヘッジファンドの決算が多く、また多くの企業・機関投資家が12月に年次決算を迎える。利益確定が生じやすい時間帯となることから、一段と荒れ相場のリスクが高まるので留意が必要だ。
株式市場の波乱を横目に為替市場は違和感があるほど終始落ち着いた値動きだった。ドル円相場は一時152円台に下落する場面もあったが、概ね153円~154円のレンジで方向感なく上下動。
ユーロ円相場も177円を挟んで上下した。米国では政府が所管する経済指標の発表が延期となっており動きにくい面もあろう。また日米の金融政策決定会合が次は12月となることで、様子見となりやすい面もある。
ただ材料とは別に、時間帯として、利益確定やそれによる資金フローの逆流が生じやすいことには留意が必要だ。
株式市場は結果的には週末に落ち着きを取り戻し、日経平均は50,000円の大台を維持して引けたものの、日経平均は一時高値から3,000円以上の大幅安となる場面もあった。
ただ下げ幅の大半はAI関連銘柄、値がさ半導体関連銘柄だった。その誘因となったのが米国のAI関連株や半導体関連株の調整。著名投資家がプット(売る権利)を大量に購入していることが明らかになり、また大手投資銀行のCEOがAI関連株の割高についてあらためて指摘したことが下落の呼び水となった。
AI関連株や半導体関連株の割高感は常につきまとう。PERが40倍近くに達し、成長期待が先行。現在の利益からは株価を正当化しにくいが、今後の成長・増益を踏まえれば妥当との見方がベースにある。
確かにAIや半導体に対する需要は今後も増加するだろう。ただ問題はそのペース。足元で問題視されているのが「循環投資」。半導体製造企業がAI関連企業のデータセンター増設投資に出資。投資の際に半導体を購入することで出資企業に資金が還流。その繰り返しが続く構造となっている。この循環が続く限り成長が続くというわけだ。
問題は需要の伸びに対して投資が過大になっていないか。投資のリターンが得られるかがひとつ。さらに、需要の伸びが鈍化ないしその兆しがみえた場合に急速に循環が停止するリスク。それは現在の伸びの延長線上で成長期待を描いた投資家の失望を招く。90年代後半のITバブルとその崩壊と同様のリスクが指摘される所以だ。
経済と市場の動き全体の共通点もある。
ITバブル時には、ITの普及によって生産性が向上すると同時に雇用が抑制された。企業収益は改善する一方、雇用が圧迫されて家計には逆風が吹いた。そして賃金で所得が増えないのなら、企業からの取り分を増やすために株式投資で利益の分配を得ようという流れになった。それがITバブルにつながった面もある。
足元の状況も、AIの普及による雇用圧迫、AI関連企業はもとより、AIを利用して人件費の削減を図り利益を拡大している一般企業、という構図でITバブル時と酷似している。
こうした流れがすぐに途絶えるとは思えず、成長神話は簡単には崩れそうにない。しかし一旦立ち止まるような局面が今後は頻発する可能性もある。年末にかけてはそうした動きが生じやすいことには留意が必要だろう。
加えて、FRBの利下げに対する期待に株価が支えられている金融相場の側面も強い。成長期待と金融相場の重なりにはリスクも伴う。
日本株にはこうしたAIバブルの恩恵とともに高市政権の政策への期待が重なる。日本株が米国株よりも急騰しているのはそのためだろう。
日銀は金融正常化に向かっており、この点が金融相場の要素が強い米国株との違い。ただ高市政権が利上げに抑制的との期待が株価への逆風を緩和している。またそもそも金利水準がなお低く、景気刺激的、緩和的であることから、株価にとって問題にならないという面もある。
ただ日本株についても、今後は様々な期待と現実の折り合いを見極める段階になりそうだ。
成長戦略会議が立ち上がり、重点産業が列挙された。期待は織り込まれ、次第に具体的な企業業績への好影響を探ることになろう。いわゆる「高市トレード」は新たな局面に入るとみられる。
リスクがあるとすれば、期待で買って材料出尽くしでひとまず売り、ということが年内に生じる可能性。米国の「トランプトレード」を振り返れば、就任前の買い、就任後の売り、となった。もちろん、関税政策や財政政策、FRBの独立性を侵害することによる政策やドルへの信認低下という面があった。
高市政権に関してはまだ発足早々であり期待感のほうが強く失望は生じていない。ただ今後は政策の信認がテーマになる可能性がある。高市政権の政策に対する評価、そもそも財政・金融・為替政策におけるスタンスがどのようなニュアンスなのか明確でない面もある。
積極財政、とはいえ、その程度についても健全性にも配慮としており、どの程度の匙加減なのか。金融政策については、本来日銀の所管だが政府が責任ももつとしている。
日銀の利上げにどの程度圧力をかけるのか、独立性を毀損するような発言があるか。円安について容認なのか修正しようという意向はあるか。
大きな枠組みでみれば、マクロ政策においてリフレ政策をとり高圧経済を実現しようとしているのか。あるいはアベノミクスでやり残した成長戦略に集中して完結を目指すミクロ政策重視なのか。
物価高対策と成長戦略が課題としているが、では円安に対してどう向き合うのか。時間をかけて成長戦略が成果を上げればいずれ円高に戻るとして眼下の円安は放置するのか。
ミクロ重視となれば円安期待は剥落しよう。ただ成長戦略会議や経済諮問委員会のメンバーをみれば、積極財政・金融緩和を主張するメンバーの登用が際立つ。自らの意見に沿った人材しか登用しない姿勢は、冷静客観的な議論のうえでのマクロ経済政策が求められる観点からは疑問も残る。
格差拡大につながるような政策に対しては、盲目的な期待による高い支持率には陰りも生じよう。
政策のニュアンス、傾き度合いになお不透明感が残るなか、年末に向けて期待値の変化や米国株の動向、日銀の利上げの有無、など波乱要因は多い。株価調整なら円高に振れよう。
日銀の利上げ実施なら同様。一方、このインフレ状況下で高圧経済志向なら円安がさらに進むリスクもある。波乱に満ちたホリデーシーズンになりそうだ。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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