高市政権の本音かミスコミュニケーションか
- MRA外国為替レポート
2025年11月3日号
◆先週の市場総括
先週は日米欧で金融政策決定会合が相次いだ。FOMCでは予想通り0.25%の利下げが実施され、12月で量的引き締め(資産売却による資金吸収)を終了することが決定。
ただパウエル議長は、意見が強く割れており次回12月会合での利下げについて既定路線というにはほど遠い、と全く不透明であると述べ、タカ派的と受け止められドルは強含んだ。
日銀金融政策決定会合では利上げは見送り、政策金利据え置き。植田総裁も次回会合での利上げの可能性は明示せず。加えて片山財務相が、今回の決定はリーズナブル、と述べたことから政権サイドからの利上げ抑制圧力、さらには円安容認スタンスととられ、円が下落。ドル円相場は154円台へ、ユーロ円相場は178円台へ上昇した。
株価は堅調。米中貿易摩擦がひとまず一服したこと、良好な企業決算、さらにAI関連投資への期待が続き、個別決算に上下しつつも、米国株はハイテク株を中心に全般的に上昇した。
日経平均も週末に52,000円の大台乗せ。高市トレードというよりもAI関連銘柄を中心に値がさ半導体関連株が大きく上昇して日経平均を押し上げた。
月曜日の東京市場では日経平均が大幅続伸。初の5万円台で引けた。米中対立の緩和期待、米利下げ期待、で前週末に米国株がハイテク中心に上昇。これを受けてAI関連、半導体関連銘柄が大きく上昇。円安で輸出関連株も堅調。海外勢が先物に断続的に買いを入れた。引けは前週末比+1,212円の大幅高となり50,512円。
ドル円相場は152円80銭で始まり朝方153円20銭へ上昇し153円ちょうど~20銭でもみ合い。その後152円60銭台に反落したが午後には153円20銭台に反発し株価を支えた。その後欧州市場から米国市場朝方にかけては軟調。152円60銭割れまで下落。ただ下値は固く153円20銭へ反発して引けは152円80銭。
ユーロ円相場は178円ちょうどを挟んで横ばい上下動のあと、夕刻から欧州市場では177円60銭~80銭にレンジを切り下げてもみ合い。米国市場では178円20銭に反発し引けは178円ちょうど近辺。
ユーロドル相場は東京市場では1.1630で始まり20~40台でもみ合い上下動横ばい。欧州市場では1.1650へ強含んだが大きくは水準変わらず引けは1.1650。同日に日米財務相会談が行われたが、日本からは高市政権の責任ある積極財政の方針を説明し理解を求めたと伝えられた。
米国株は堅調。主要3指数がそろって史上最高値を更新。米中貿易摩擦への懸念が緩和。前週に発表されたCPIでインフレ懸念が緩和し利下げ期待が強まった。企業決算も好調な内容が相次いだ。
中国はレアアース輸出規制を1年延期。米国は対中関税の100%上乗せを見送り。ベッセント財務長官は、30日に米中首脳会談が実施される枠組みができた、と述べた。
NYダウは前週末比+337ドル高の47,544ドル、ナスダックは+448ドル高の23,637ドル。VIX指数は15.79へ低下。米長期金利はまちまち。
10年債は3.987%に小幅低下、2年債は3.496%に小幅上昇。ダラス連銀製造業活動指数(10月)は前月▲8.7から▲5.0へやや改善したがマイナスにとどまった。ドイツではIFO景況感指数(10月)が発表され前月87.7から88.4へ改善した。
火曜日の東京市場では日経平均が反落。大台の5万円乗せで目先の達成感から利益確定売りが優勢。円高に振れたことで海外勢が先物中心に売り下げ幅は一時▲400円に達した。全面安となったが下げ幅は限定的。先高期待も根強かった。引けは▲293円安の50,219円と5万円を維持。
ドル円相場は軟調。152円80銭で始まり朝方30銭に下落し午後には151円70銭台へ続落。その後欧米市場でも何度か152円30銭~40銭に戻す場面があったが上値重く152円ちょうどを挟んで方向感なく上下し引けは152円ちょうど近辺。
日本時間午後に米財務省がホームページに日米財務相会談におけるベッセント財務長官のコメントを掲載。為替レートの過度な変動を防ぐうえで健全な金融政策の策定とコミュニケーションが果たす重要な役割を認識した、と記した。
片山財務相は、会議では為替に関する具体的な議論は行われず、金融政策の方向性について、利上げを促したわけではない、と否定的な見解を述べた。ただ市場の疑念は残り円買い戻しが強まった。
ユーロ円相場も上値重く推移。178円ちょうどで始まり177円60銭~70銭でもみ合いのあと午後には177円ちょうど近辺へ続落。その後は50銭に反発したが反落して欧米市場では177円ちょうど~30銭でもみ合い横ばい。引けは177円20銭。
ユーロドル相場は東京市場から欧州市場、米国市場朝方まで1.1650~70でもみ合い横ばい小動き。一時1.1630に下落したが反発して1.1650~70でもみ合い引けは1.1650。
米国株は主要3指数がそろって続伸し連日の史上最高値更新。米中摩擦の緩和、利下げ期待と量的引き締めの終了が支え。決算で業績見通しが良好だったことも株価を押し上げた。NYダウは前日比+161ドル高の47,706ドル、ナスダックは+190ドル高の23,827ドル。
米長期金利はやや低下。10年債は3.977%、2年債は3.489%。
発表されたケースシラー住宅価格指数(8月)は前年同月比+1.6%と前月+1.8%から上昇鈍化。リッチモンド連銀製造業指数(10月)は前月▲17から▲4へ改善、消費者信頼感指数(10月)は前月94.2から94.6へ93.8への悪化予想に反して改善した。
水曜日の東京市場では日経平均が大幅反発。日米間の投資に関する共同ファクトシート、で対米投資に関心のある個別企業を中心に買われた。値がさ半導体関連株が大幅高。海外投資家の買いが入った。上昇は一部銘柄に限られ、8割以上の銘柄が下落した。引けは前日比+1,088円高の51,307円。
ドル円相場は152円ちょうどで始まり朝方151円50銭台へ下落したが反発して午後にかけて堅調。株高、リスク選好の高まりを支えに152円50銭まで上昇した。
欧州市場にかけては152円20銭~40銭で上下しその後米国市場では152円ちょうどを挟んで上下動。
注目のFOMCでは予想通り政策金利は0.25%引き下げられ、FF金利誘導水準は3.75%-4.00%となった。量的引き締め(資産売却による資金吸収)を12月に終了することも決定。
ただミラン理事が0.50%の利下げを引き続き主張したのに加え、逆にカンザスシティ連銀総裁が据え置きを主張。パウエル議長は会見で、12月の利下げは既定路線というにはほど遠い、見方は強く割れている、と異例のコメントを述べた。
タカ派的な発言を受けてドルは上昇。ドル円相場は153円ちょうどをつけて引けは152円70銭。
ユーロドル相場は1.1650で始まり軟調。欧州市場では1.1620に下落したあと米国市場にかけて1.1660へ持ち直し。しかしFOMCを受けて1.1580へ下落し引けは1.16ちょうど近辺。
ユーロ円相場は177円20銭で始まり朝方176円60銭台へ下落したあと177円40銭へ反発。その後は176円80銭~177円40銭で大きく上下して米国市場後半には177円20銭近辺。
米国株はまちまち。個別決算の内容を受けて上下した。ダウはキャタピラーが上昇を支えた一方、ボーイングやホームデポが下押し。午前中に+300ドル上昇し48,000ドル台に乗せたが反落。FRBの利下げ慎重姿勢が重石。
一方、AI関連株は堅調だった。NYダウは前日比▲74ドル安の47,632ドル、ナスダックは+130ドル高の23,958ドル。米長期金利は上昇。10年債は4.079%、2年債は3.60%。
木曜日の東京市場では日経平均が小幅続伸して終値で最高値をわずかに更新。一時51,600円台に上昇したが引けにかけて押し戻された。
FRBが市場の12月利下げ期待をけん制し重石となったが、AI関連株への投資意欲は根強かった。日銀が政策金利を据え置きハト派的な姿勢を示したことも支えとなった。引けは前日比+17円高の51,325円。
ドル円相場は152円70銭で始まり日銀政策決定会合の結果判明が遅くなったことで利上げ警戒感が強まり昼前に152円20銭近辺へ下落。
しかし結果は据え置き。これを受けて153円10銭へ反発。その後一時152円60銭へ押したが欧州市場から米国市場にかけて大きく円安が進んで154円40銭まで上昇した。引けは154円10銭近辺。
片山財務相は、今回の決定はリーズナブル、と発言。市場は暗に高市政権による金利据え置き圧力、円安容認姿勢を感じとった。
ユーロ円相場も同様の値動き。177円20銭で始まり176円80銭台へ下落したが日銀会合の結果を受けて177円80銭へ反発。さらに欧米市場で178円80銭まで上昇した。終盤は178円20銭~30銭でもみ合い引け。
ユーロドル相場は1.16ちょうど近辺で始まり1.1630台へ上昇したが、欧米市場にかけて1.1550へ下落した。その後は1.15台後半で推移し引けは1.1570近辺。
米国株は主要3指数がそろって下落。ハイテク株が軟調。前日引け後に決算を発表したメタ社の株価が大幅安。巨額のAI関連投資が回収できるかとの懸念、警戒感が下押し要因に。米中首脳会談ではなお中長期的な対立が燻ぶり重石となった。NYダウは前日比▲109ドル安の47,522ドル、ナスダックは▲377ドル安の23,581ドル。
米長期金利は小幅上昇。10年債は4.10%、2年債は3.612%。この日ECBは理事会を開催し政策金利を据え置いた。ラガルド総裁は、インフレ率は目標の2%近辺で安定しており景気は底固い、と述べた。
金曜日の東京市場では日経平均が大幅続伸。米株安、メタ社株急落も関係なく、日銀決定会合後の円安、日米企業の好決算が支え、前日の米国時間引け後に発表されたアマゾン、アップルなど好決算も好感。AI相場が続いた。
半導体関連株が上昇。電力、インフラ、送電設備需要をにらんだ買いが続いた。日本株が米国株対比で割安とみた海外勢が断続的に買い。引けは前日比+1,085円の大幅高で52,411円と52,000円の大台乗せで史上最高値更新。
ドル円相場は154円10銭で始まり朝方153円60銭台に下落したがすぐに持ち直し154円ちょうど近辺で推移。東証引け後には154円40銭台まで上昇した。その後欧米市場では154円ちょうど~20銭でもみ合い引けは154円ちょうど近辺。
ユーロ円相場は178円20銭で始まり朝方177円80銭台に下落したが178円50銭に反発。ただ欧州市場から米国市場にかけてはユーロが全面安。177円40銭台に下落してから下げ止まり引けは177円70銭。
ユーロドル相場は東京市場では1.1570近辺でもみ合い横ばい小動き。欧州市場から米国市場にかけて1.1520に下落し引けは1.1530台。
発表された10月の東京都区部CPI(コア指数)は前年同月比+2.8%と前月+2.5%から上昇加速し予想+2.6%を上回った。米国株は堅調。引き続きハイテク株が買われた。
AI関連銘柄がなおも堅調。米中対立が問題先送りながらもひとまず一服したことも支え。NYダウは前日比+40ドル高の47,562ドル、ナスダックは+143ドル高の23,724ドル。
米長期金利は横ばいないしやや低下。10年債は4.08%、2年債は3.58%。
発表されたシカゴ購買部協会景気指数(10月)は前月40.6から43.8へ改善し予想42.0を上回った。ユーロ圏CPI(10月速報)は前年同月比+2.1%と前月+2.2%からやや低下した。
FRB内の意見は割れており、ダラス連銀総裁、カンザスシティ連銀総裁、クリーブランド連銀総裁、らから利下げに反対意見が表明された一方、ウォラー理事は次回12月会合で利下げすべきと述べた。
◆今週の3つの注目ポイント
月曜日の東京市場は祝日で休場。
1. 米国の経済指標
今週は重要な経済指標の発表が相次ぐ。
月曜日 ISM製造業景気指数(10月、予想49.2、前月49.1) PMI製造業景気指数(10月改定値、速報52.2)
火曜日 貿易収支(9月) 雇用動態調査(JOLTS求人数、9月、前月7,227千人) 製造業新規受注(9月)
水曜日 ADP雇用報告(10月、雇用者数前月比増減、予想+25千人、前月▲32千人) ISM非製造業景気指数(10月、予想51.0、前月50.0) サービス業PMI(10月改定値、速報55.2)
木曜日 チャレンジャー人員削減数(10月、前月54.064千人)
金曜日 ミシガン大学消費者態度指数(11月速報、予想54.0、前月53.6) 雇用統計(10月)
今回は政府機関閉鎖の影響で発表が見送られるとみられる。
2. FRB当局者発言
FOMCが終わり当局者の発言禁止期間(ブラックアウト)が終了したことですでに数人の発言がみられる。タカ派とハト派、利上げ反対と賛成が入り混じり不透明感が高まっている。今週はどちらよりの発言が多いか。月曜日にサンフランシスコ連銀総裁、クック理事、木曜日にセントルイス連銀、クリーブランド連銀、NY連銀、フィラデルフィア連銀、各総裁の発言機会がある。
3. 米国の予算協議、政府機関一部閉鎖の終了の有無
今週は米国の予算協議でつなぎ予算が妥結して政府機関の一部閉鎖が解除されるとの期待が高まっている。
火曜日にNY市長選、ニュージャージー州知事選、バージニア州知事選が行われる。その後に与野党がつなぎ予算に合意する可能性があるとの期待が根強い。
最近ではNY市での反トランプデモのあとに妥結との見方があったが期待は裏切られた。今回はどうか。妥結がなれば市場のリスク選好を支えそうだ。
◆今週のMRA's Eye
高市政権の本音かミスコミュニケーションか
先週、日銀は金融政策決定会合で利上げを見送った。市場も金利据え置きは予想しており想定外ではない。ただ市場には高市政権の政策がアベノミクスを踏襲する財政拡張・金融緩和のリフレ政策であるとの刷り込みがある。
さらに首相は、金融政策についても政府が責任を負うと述べ、日銀の独立性に懸念を抱かせるギリギリのラインまで踏み込んでいた。
そうしたなかでは、今回の会合での利上げ見送りがたとえ日銀の独自判断だったとしても、高市政権からの圧力によるものではないか、と考えやすい。
疑心暗鬼に陥った市場の火種に油を注いだのが片山財務相だ。日銀の政策金利据え置きはリーズナブルと発言。日銀の政策決定を政権として評価したかたちとなった。
どうとらえても、政権として金利据え置きを望んでおり、その通りに利上げを見送った日銀の決定を好感している、と聞こえる。
円相場については、高市首相は、良い面もあれば悪い面もある、関税の悪影響を円安が相殺してくれるとのニュアンスの見方を述べていた。現状の円安を容認、あるいはさらなる円安も容認しているのではないか、ともとれた。
そこに片山財務相発言がかぶされば、投機的な円売りが加速するのは当然だ。片山財務相は、円相場の動きは急激であり十分注視すると述べたところで後の祭りだ。
とくに、ベッセント財務長官が、丁寧に日本の現状を踏まえて高市政権の政策スタンスのリスクを指摘したにもかかわらず、聞く耳を持たなかったととられた。
ベッセント財務長官の発言は至極当然な内容だ。
アベノミクスの当時、日本経済はデフレのなかにあり、グローバルにもディスインフレのなかにあった。積極財政・金融緩和はマクロ経済環境と整合的だった。
しかしその後グローバルに超インフレとなり、日本でも物価高騰が問題となるなか、超金融緩和政策の修正は後手に回った。こうしたマクロ環境で積極財政・金融緩和のリフレ政策をとることは経済政策の常識に反している。
インフレを高進し極端な通貨安を招いて経済が悪循環に陥るリスクがある。米国側としては、円安ドル高は望ましくないと考えているのはもちろんだが、普通に考えてもそれはリスクがある、という指摘だ。金融政策を適正に行えば、円相場も相応の水準に落ち着くと述べていた。
振り返れば、黒田総裁は超金融緩和をいつまでも改めようとせず、植田総裁になってようやく明確な金融正常化が始まった。正常化といわれる所以は、それまでが異常だったためだ。
超円安はそうした異常な、マクロ環境と乖離した金融緩和政策がもたらした。円先安観が円の信認低下をもたらし、日本の個人投資家は円の価値を信じなくなっていった。
折しも貯蓄から投資へ、新NISAのスタートとあいまって外貨資産投資が活発化。長期円安観が日本国民に定着するなか資本逃避が始まったといっても過言ではない。
日銀がようやくアベノミクスから脱却し始めたところで、今度は政治・政策がアベノミクスに逆戻りして日銀に圧力をかけ始めた。ループを描いて逆戻りに見えてしまう。
足元の円安再燃は、政府与党が意図していることなのか。すなわち、さらに資本逃避や円安をもたらしたいのか。円相場についてコメントはしない、市場が決定する、として放置していることそのものが円の信認の低下につながる事態となっている。
それは高市政権が意図していることなのか、円安放置・円安誘導が本音なのか。円安けん制発言は単なる申し訳程度のことで体裁をつくろっただけなのか。それとも、市場の反応を読めずに不用意な発言をしてしまっただけなのか。ミスコミュニケーションなのか。金融政策について責任をもつ、として、為替相場については責任をもたないのか。
為替政策の所管は財務省であり、片山財務相ということにはなる。政府としてどう責任をとっていくのか。
保守派としては、国家安全保障、経済安全保障の要として、通貨価値の維持が重要なはずだ。輸出企業を守る、輸出を促進する、という視点で通貨安を志向するのは、本質において保守主義と相容れない面がある。
また、高市政権は供給サイド重視ということなら、金融緩和継続や円安志向が整合的にはなる。
しかし政権は国内需要拡大が重要と述べている。国民のために、というのが需要サイド重視ということなら、現在の政策は整合的ではない。
高市政権の政策にはなお不透明感がある。全くのアベノミクスではありえないはずだが、イメージがなかなか払しょくされない。自ら安倍元首相の後継者であるという幻影を見せている限りは難しい。
結果として円先安観が払しょくされにくい。米国側が注意を喚起したとおり、高市政権が現状に適した現実的な政策に修正し、利上げ容認姿勢が伺われれば、市場は評価するだろう。
逆に関税の対抗策として円安を志向するなら中国の対米対抗措置と同じで軋轢が生じよう。当面は円安にとどまる可能性が高いが、今後の修正のタイミング、とくに12月の日銀金融政策決定会合が非常に大きな鍵を握ることとなった。
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