なお残る日米の不透明要因とリスク
- MRA外国為替レポート
2025年9月8日号
◆先週の市場総括
先週は米国の利下げ観測が強まり、米長期金利が低下、株価は堅調。ドルは上値が重い展開で週末の雇用統計で下落して終えた。
米国ではISM景気指数や雇用関連指標が多く発表された。雇用指標は軒並み弱く、9月利下げが確実に。市場の年内利下げ幅合計の織り込みは0.50%がなお主流ながら0.75%との見方も強まった。
日本では自民党総裁選前倒しを巡る議論が続き政治不安定感が円安要因に。日本株は米ハイテク株の堅調、日米関税交渉の事実上の決着、などを好感し上昇。週末の日経平均は43,000円台で引け。
ドル円相場は147円ちょうどで始まり149円手前まで上昇したが反落し148円台で推移。週末の米雇用統計を受けて一時146円台後半に下落して引けは147円40銭。
月曜日の東京市場では日経平均が大幅安。一時前週末比▲900円程度下落した。米中半導体対立の激化、AI半導体開発競争激化で米半導体需要の減少を懸念。日本の半導体関連企業への悪影響を懸念して売りが膨らんだ。海外短期筋の売りが下押し。一方、国内勢の押し目買いが支え。内需株が堅調だった。引けは前週末比▲529円安の42,188円。
為替市場は米国市場が休場となるため小動き。ドル円相場は147円ちょうどで始まり午前中に40銭手前まで上昇したが146円80銭近辺に反落。その後147円を挟んで上下し、欧州市場から海外市場では147円ちょうど~30銭で緩やかに上下して引けは147円20銭。
ユーロ円相場は171円90銭で始まり172円30銭に上昇したあと172円ちょうどに反落。欧州市場では172円30銭~50銭で上下して引けは172円30銭。
ユーロドル相場は1.1690で始まり夕刻は1.1710台~30台でもみ合い。その後は上値重く緩やかに軟調。1.17ちょうど近辺に下落して引けは1.1710。米国市場へレーバーデーで休場。
火曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに反発。前日の大幅安の反動で幅広い銘柄に買いが入った。とくに割安株(バリュー株)の上昇が目立った。高配当銘柄には9月末の配当狙いの買いも。一方、半導体関連株は冴えず。引けは+121円高の42,310円。
為替市場では朝方から夕刻にかけて円安が進んだ。自民党は参議院選挙の大敗の総括を策定。党4役が辞任するとの報道で党内情勢不安定化が嫌気された。氷見野日銀副総裁が講演し、関税の影響はこれから顕在化、と述べ、利上げに慎重と受け止められた。
ドル円相場は147円20銭で始まり夕刻にかけて148円80銭へ上昇。その後30銭に下落したが反発して90銭。米国市場終盤は上昇一服し反落。148円ちょうど近辺に下落して148円台前半で上下し引けは148円30銭。
米国で発表された経済指標は弱め。製造業PMI(8月改定値)は速報53.3から53.0へやや下方修正。ISM製造業景気指数(8月)は前月48.0から49.0への改善予想に対し48.7。雇用判断は前月43.4から改善したものの43.8と50を下回った。新規受注は47.1から51.4へ改善、価格判断は64.8から63.7へやや低下した。
ユーロ円相場は172円30銭で始まり夕刻は173円40銭。その後172円70銭へ反落したあと欧米市場では172円台後半~173円で上下して引けは172円70銭。
ユーロドル相場は1.1710で始まり1.17ちょうど近辺でもみ合い横ばい小動き。欧米市場では1.1610へ下落したあと1.1680へ反発。大きく上下した後、1.1640近辺で引けた。
米国株は下落。トランプ関税に対し控訴裁判所が違法判決。財政悪化懸念から長期金利が上昇。トランプ政権がTSMC社への優遇措置を撤回し対中輸出管理が厳しくなるとの報道もあり重石に。
NYダウは一時▲500ドル超下落。引けは▲249ドル安の45,295ドル。ナスダックは▲125ドル安の21,279ドル。
米10年債利回りは一時4.3%をつけ4.265%、2年債は3.643%。
水曜日の東京市場では日経平均が反落し1ヵ月ぶりの安値。米国で長期金利上昇を受けた米ハイテク株安で半導体関連株が下落。日経平均は一時▲450円近く下落した。一方、下値では押し目買いが支え。
氷見野日銀副総裁が利上げを急がないニュアンスの発言をしたことで銀行株が下落。政局不透明感も重石となった。引けは▲371円安の41,938円。
ドル円相場は148円30銭で始まり昼過ぎには90銭に上昇。夕刻にかけて60銭~149円ちょうどで上下した。欧州市場に入ると148円50銭~80銭で推移。米国市場では弱い雇用関連指標を受けて利下げ観測が強まり147円80銭へ下落して引けは148円10銭。
発表された雇用動態調査(JOLTS求人数、7月)は7,181千人と予想7,380千人を大きく下回った。前月分も7,437千人から7,357千人へ下方修正。
公表された米地区連銀経済報告(ベージュブック)では、前回7月上旬の報告時点から米国の経済活動はほぼ変化なく横ばい、関税の不透明感が続き雇用に消極的な企業が目立つ、企業はレイオフや雇用削減の動き、賃金が物価に追いつかず個人消費が横ばいから減少傾向、と記された。
米長期金利は低下。10年債利回りは4.218%、2年債は3.620%。
ユーロ円相場は東京市場では172円70銭で始まり173円10銭に上昇したあと173円を挟んで上下した。欧州市場では173円10銭~40銭で上下動横ばい。米国市場ではドル円相場の下落に押されて172円台後半で上下し引けは172円70銭。
ユーロドル相場は1.1640で始まり1.16台前半で緩やかに上下。欧州市場に入ると1.16台半ばに上昇してもみ合い、米国市場では1.1680へ上昇した。引けは1.1660近辺。
米国株はまちまち。弱い雇用指標やベージュブックで消費の弱さが指摘されたことを受けてNYダウは一時▲300ドル安。一方、グーグルの独禁法違反の是正でアルファベット社の株価が大幅高、アップルも買われた。
ハイテク株は反発。NYダウは前日比▲24ドル安まで戻し45,271ドルで引け。ナスダックは+218ドル高の21,497ドル。
FRBウォラー理事は、あらためて9月の利下げを支持するとともに、雇用が急速に悪化するリスクを指摘した。
木曜日の東京市場では日経平均が大幅高。米ハイテク株が上昇。東京市場でもハイテク・AI関連株が買われた。9月末の配当権利取り狙いの買いが支え。一方、42,500円超えで利益確定売りが上昇ペースを抑制した。引けは前日比+641円高の42,582円。
ドル円相場は底固い値動き。総裁選前倒しで政治不透明感が円の重石。148円10銭で始まり148円を挟んで上下動横ばい。夕刻から欧州市場にかけては148円20銭~40銭で上下し米国市場朝方は148円70銭台へ上昇。
米国で発表された雇用関連指標が弱く利下げ期待が強まり米長期金利は低下。148円40銭近辺へ押し戻されて取引を終えた。
ユーロ円相場は172円70銭で始まり欧州市場にかけて終始172円台後半で上下動。米国市場朝方は173円20銭に上昇したが反落して173円ちょうど近辺でもみ合い引けた。
ユーロドル相場は東京市場では1.1660で始まり欧米市場まで通じて1.16台半ばで小動きもみ合い横ばい。引けは1.1650。
米国株はしっかり。利下げ期待、長期金利低下を好感。ISM非製造業景気指数が予想より強めで心理的支え。AI関連が引き続き堅調だった。NYダウは前日比+350ドル高の45,621ドル。ナスダックは+209ドル高の21,707ドル。
米10年債利回りは4.156%へ、2年債は3.587%へ低下した。
発表されたADP雇用報告(8月)は雇用者数前月比が+54千人に止まり予想+65千人を下回った。週次の失業保険申請件数は新規申請が237千件と前週229千件から増加。継続需給は前週1,954千件から1,940千件に減少した。
ISM非製造業景気指数(8月)は前月50.1から52.0へ改善して予想50.5を上回った。内訳の新規受注指数は前月50.3から56.0へ大きく改善。一方、雇用指数は前月46.4から46.5へわずかに改善したが50割れのまま。
金曜日の東京市場では日経平均が続伸。一時は前日比+600円超上昇した。日米関税交渉で自動車関税を15%とする大統領令が発動されることとなり決着。これを好感して自動車関連株が堅調。
引き続き半導体関連株もしっかり。雇用統計や総裁選前倒しの有無など不透明感にもかかわらず上昇基調が止まらず。引けは前日比+438円高の43,018円。
為替市場は米雇用統計発表待ちで小動き。ドル円相場は148円40銭で始まり20銭に下落したあと欧州市場にかけて終始148円10銭~20銭の狭いレンジでもみ合い横ばい。雇用統計の発表待ち。
米国市場朝方には発表が遅れるとの報道に148円割れ。その後予定通り発表された雇用統計は市場予想を下回る弱い内容となり利下げ観測が強まり米長期金利は低下。ドルは押されて146円80銭台へ急落した。その後は持ち直し引けは147円40銭。
ユーロドル相場は1.1650で始まり1.1670に上昇して小動きもみ合い。欧州市場では1.17ちょうど近辺に小幅上昇し、米国市場では雇用統計を受けて1.1760へ上昇。引けは1.1720。
ユーロ円相場は東京市場では173円ちょうどで始まり172円70銭に下落したあと欧州市場にかけて緩やかに上昇。173円20銭で雇用統計の発表待ち。
発表後はドル円相場の下落に押されて172円50銭に下落して引けは172円70銭。米国株は下落。NYダウは取引開始直後こそ上昇し史上最高値を更新したが、弱い雇用統計を受けて下げに転じた。
雇用悪化、消費減速懸念、企業収益への悪影響懸念、などで主力株に売り。一時▲400ドル安。引けは▲220ドル安の45,400ドル。ハイテク株は引き続き底固く推移。ナスダックは▲7ドル安の21,700ドル。
米長期金利は低下。10年債は4.073%、2年債は3.509%。
発表された米国の雇用統計(8月)は弱い予想よりもさらに弱かった。非農業部門雇用者数は前月比+22千人に止まり予想+75千人を大きく下回った。
前月は+73千人から+79千人に上方修正されたが、6月分は+14千人増から▲13千人減少に下方修正。前月比減少は2020年12月以来。
失業率は前月4.2%から4.3%に上昇。予想通りだが2021年10月以来の高水準となった。平均時給は前年同月比+3.7%と前月+3.9%から鈍化した。
◆今週の3つの注目ポイント
1. 米国の経済指標、雇用統計年次改定暫定値
FOMCでの金融政策判断の最後の材料として物価統計に注目。
水曜日 生産者物価指数(PPI、8月、前月比、予想+0.3%、前月+0.9%、前年同月比、前月+3.3%、コア指数、前月比、予想+0.3%、前月+0.9%、前年同月比、前月+3.4%)
木曜日 消費者物価指数(CPI、8月、前月比、予想+0.3%、前月+0.2%、前年同月比、予想+2.9%、前月+2.7% コア指数、前月比、予想+0.3%、前月+0.3%、前年同月比、予想+3.1%、前月+3.1%) 週次の失業保険申請件数
金曜日 ミシガン大学消費者態度指数(9月速報、予想59.3、前月58.2)
またより留意すべきなのが、9日火曜日に発表される雇用統計の年次改定暫定値。現在発表されている数字が年間で▲800千人下方修正されるとの予想もある。
雇用情勢のイメージが大きく変わり金融政策判断、あるいは市場の見方に大きく影響するリスクがある。
2. ECB理事会、ラガルド総裁会見
木曜日にECB理事会が開催され終了後にラガルド総裁が会見を行う。ECBは足元で利下げ様子見に転じているようだ。背景にはインフレ率が目標近辺に達したあと低下一服となっていること、政策金利はすでに2%まで引き下げたこと、などがある。
今回も金利据え置きが想定されている。ラガルド総裁も利下げ様子見姿勢をさらに明確にするか。利下げ打ち止めとの見方が強まるかどうかが焦点。
3. 日本の経済指標・政治動向
日銀の利上げ時期についてはなお見方が分かれる。12月、あるいは10月、年内は難しいとの見方も。景気物価動向が利上げを支持するか。あるいは政治情勢が妨げとなるか。
月曜日 GDP(4-6月期改定値、前期比年率、速報+1.0%) 国際収支(7月、経常収支、予想3兆1,100億円の黒字、前月1兆3,500億円) 景気ウォッチャー調査(8月、現状判断、予想45.7、前月45.2、先行き判断、予想47.4、前月47.3)
木曜日 法人企業景気予測調査(7-9月)
またこのところの円安の要因である政治の不透明感に関して、月曜日にも自民党の総裁選前倒しの有無が決定される見込み。石破首相が解散権を行使するとの見方もあるなか政治の空白が回避されるか。
ほか、欧州でも政治不透明感。フランスで8日月曜日に信任投票が実施されバイル内閣が総辞職に追い込まれるとみられている。
◆今週のMRA's Eye
なお残る日米の不透明要因とリスク
先週は米国で重要な経済指標の発表が相次ぎ、米国では9月の利下げが決定的となった。ただし、なお今週も中期的な金融政策スタンスを左右する材料が残る。
一方、日本では政治の不透明要因が高まっている。こちらも予断を許さない状況だ。ドル円相場はこのところ比較的安定して推移しているが、日米の不透明要因でドル円相場の変動リスクは短期的に高まっている。
先週末に発表された米国の雇用統計は予想以上に悪い数字だった。非農業部門雇用者数の増加はわずか22千人にとどまり、6月分は下方修正されて14千人増から13千人減少に。前月比で減少となったのは2020年12月以来だ。
雇用者数増加幅の直近3か月平均は30千人に満たず。ほぼゼロに近づく弱さとなった。失業率は4.3%へ上昇。2021年10月以来の高水準となった。
雇用統計の信頼性が疑われるなかではあるが、他の指標でも弱い数字が確認されており、雇用情勢の悪化は一段と明確になった。
ADP雇用報告では雇用者数前月比は54千人の増加にとどまった。チャレンジャー社調査による人員削減数(8月)は86千人と前月62千人から急増。雇用動態調査(JOLTS)の求人数は6月の7,357千人から7月は7,181千人に減少した。
ベージュブック(地区連銀経済報告)では、関税の不透明感が続き雇用に消極的な企業が目立つ、と記され、企業によるレイオフや雇用削減の動きが指摘された。総じてみれば、雇用の悪化はすでに夏前から急速に進んでいたことが明らかになった。
今週の注目は9日火曜日に発表される雇用統計の年次改定。これまでの調査結果を踏まえて季節調整などを見直して修正が行われる。暫定値が9月初に、確定値は年初に発表される。
今回の暫定値では年間で800千人が下方修正されるとの見方もある。すでに前回7月の雇用統計で大幅な下方修正が実施された。これは発表時点で集計が間に合わなかったことが大きいといわれる。
季節調整の見直しがさらにどの程度加わるか。大幅な下方修正となれば雇用に対する見方がさらに厳しくなるリスクがある。
今月16日・17日に開催されるFOMCでは0.25%の利下げが確定的となった。雇用情勢の悪化は前回7月会合で利下げを主張して反対したウォラー理事の見立て通りとなった。
パウエル議長は8月のジャクソンホールシンポジウムでリスクバイアスをインフレから雇用にシフトしたことを明確にした。利下げに慎重なスタンスを続けてきた「主流派」がどの程度宗旨替えするか。
インフレリスクがよりどころとなっていることからすれば、今週の消費者物価指数、生産者物価指数、が落ち着いた数字となれば、雇用統計の年次改定暫定値と合わせて市場の利下げ期待がさらに強まることになる。
焦点は9月会合の利下げ幅が0.50%となる可能性はないか、メンバーの政策金利予測が6月会合時点の予測からどの程度下方修正されるか。そのリスクは高まっており、今週もなおドル安リスクが漂う。
一方、日本では政治の不透明感が一段と高まっている。自民党内では総裁選前倒しを求める声が一段と強まっている。一方、石破首相サイドは回避すべく、解散カードもちらつかせる状況。政治の不透明感は円安要因となってきた。
総裁選前倒しか、解散か、8日にも結論が出るとみられている。仮に総裁選前倒しあるいは解散となれば、事実上、石破内閣の機能が停止することになりかねず、政策停滞などを嫌気して円売りが強まる可能性もある。
今週は、ドル安、円安、双方のリスクイベントがなお続く。ドル円相場はこのところ比較的安定推移しているが、危うい均衡状態にあるともいえる。その均衡がいずれかに傾き、相場が大きく動くリスク、あるいは新たなトレンドが形成される可能性があるので要注意だ。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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