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日米金融政策決定会合で高まる相場変動リスク
  • MRA外国為替レポート

2025年9月15日号

◆先週の市場総括


先週は石破首相の退陣表明を受けて為替市場では日銀の利上げが遅れるとの見方から円安にはねて始まった。一方、米国の経済指標に利下げ期待を強める内容が続きドルの上値を抑制。148円には乗せきれず、むしろ146円台前半へ下落する場面もみられた。

米国の雇用統計年次改定暫定値は大幅下方修正。PPI、CPI、物価統計はインフレの加速を示さず。

ドル円相場は、米利下げ期待によるドル安圧力と日本の総裁選への思惑による円安圧力に挟まれ、147円台中心の値動きが続いた。

株価は堅調。米国株が利下げ期待とAI需要による期待からとくにハイテク株が堅調。木曜日には主要3指数がそろって史上最高値を更新。日経平均は米ハイテク株高、根強い日本株の先高観、海外投資家の買い、に支えられて史上最高値を更新。週末は44,700円台の高値引けとなった。

月曜日の東京市場では日経平均が3営業日続伸。大幅高。週末に石破首相が退陣を表明。次期政権が財政拡張的な政策に傾くとの思惑が株価を押し上げた。上げ幅は一時前週末比+800円を超えた。

日銀の利上げが遠のくとの思惑、それによりドル高円安に振れたことも支えとなった。引けは+625円高の43,643円。

為替市場では円安にはねて始まった。ドル円相場は148円20銭で寄り付いたあと148円を割ったが反発し148円60銭へ上昇。前週末の米雇用統計による下落をすべて取り戻した。

その後148円台前半に押し戻されて上下し、欧州市場に入ると147円50銭へ下落。東京市場での円安を吐き出した。米国市場では147円台後半で上下動横ばい。引けにかけて30銭に下落して引けは147円50銭と前週末とほぼ変わらない水準。

ユーロ円相場は173円60銭台で始まり90銭に上昇。その後は押し戻されて173円台半ばでもみ合い、欧州市場に入ると173円10銭近辺に下落。米国市場にかけて60銭へ持ち直し引けは173円50銭。

ユーロドル相場は終始横ばい小動き。東京市場では1.17ちょうど~1.1720の狭いレンジで推移。欧州市場では1.1740に上昇したが上値重く、米国市場では1.1740~60でもみ合い引けは1.1760。

米国株は上昇。利下げ期待が支え。長期金利の低下を好感。ハイテク株、消費関連株の一角に買いが入った。NYダウは前週末比+114ドル高の45,514ドル、ナスダックは+98ドル高の21,798ドル。米長期金利は低下。10年債は4.039%、2年債は3.488%。

火曜日の東京市場では日経平均が反落。朝方は+500円超上昇し一時44,000円台に乗せた。その後は過熱警戒感で利益確定売りが優勢。円高に振れたことも嫌気。引けは▲184円安の43,459円。

ドル円相場は上値の重い展開。147円50銭で始まり147円台前半で上下したあと15時には146円80銭に下落。欧州市場では147円30銭に持ち直したが146円30銭へ大きく下落した。その後米国市場にかけては持ち直し147円40銭近辺で引け。

ユーロ円相場は173円50銭で始まり173円台前半で上下し午後は173円ちょうど近辺で推移。欧州市場に入ると172円10銭台へ急落した。その後米国市場にかけては持ち直して引けは172円60銭。

ユーロドル相場は1.1760~80で上下横ばいのあと夕刻には1.1740台。米国市場ではさらに軟調となり1.1710近辺で引けた。

米国株は主要3指数がいずれも小幅高続伸し史上最高値を更新。雇用統計の年次改定暫定値で過去最大の下方修正となったことから利下げ期待が強まって株価を支えた。一方、実体経済への不安も。物価統計待ちで様子見姿勢も強かった。NYダウの引けは前日比+196ドル高の45,711ドル。ナスダックは+80ドル高の21,879ドル。

米長期金利はやや上昇。10年債は4.085%、2年債は3.556%。雇用統計の年次改定暫定値では雇用者数の絶対水準が91万人下方修正された。

水曜日の東京市場では日経平均が反発。米国株が利下げ期待の強まりで堅調。3週間ぶりに最高値を更新した。海外投資家の買いが活発。日銀は政治情勢が混乱しても利上げを排除しないとの報道を受けて銀行株が堅調。引けは前日比+378円高の43,837円。

為替市場は米国の物価統計発表、木曜日のCPI発表を前に動意薄。ドル円相場は147円40銭で始まり欧州市場にかけて終始147円30銭~60銭の狭い範囲でもみ合い横ばい。

ユーロドル相場は1.1710で始まり1.1690~1.1720近辺の狭い範囲でもみ合い。米国市場では1.1720に上昇したあと押して引けは1.17ちょうど近辺。

ユーロ円相場は172円60銭で始まり40銭~70銭でもみ合い小動き。米国市場の引けにかけては172円40銭~50銭。米国株はまちまち。前日に史上最高値を更新したことから利益確定売りが優勢。

CPI発表待ちで動意薄。PPIは予想より上昇率が低かったが9月利下げ幅が0.50%との確信を得るまででもないと受け止められた。AI関連が引き続きしっかり。NYダウは▲220ドル安の45,490ドル。ナスダックは+6ドル高の21,886ドル。

米長期金利は弱いPPIを受けて低下。10年債は4.045%、2年債は3.543%。発表された米国のPPI(生産者物価指数、8月)は前月比▲0.1%の下落と予想+0.3%を大きく下回った。前月も+0.9%から+0.7%へ下方修正。前年同月比は+2.6%と前月+3.1%から大幅低下。コア指数は前月比▲0.1%、前年同月比は+2.8%とこちらも大きく低下した。

木曜日の東京市場では日経平均が続伸、大幅高。終値で初の44,000円台。前日の米ハイテク株高を背景に海外投資家中心にAI関連株、先物に買いが入った。米オラクル社の受注が急増したと報じられ、ソフトバンク、アドバンテスト、東京エレクトロン、などが大幅高。一方、利益確定売りが上昇ピッチを抑制。引けは前日比+534円高の44,372円。

ドル円相場は147円40銭で始まりもみ合い横ばい。午後に入ると148円手前まで上昇しもみ合い。米国市場朝方に発表されたCPIの上層率がおおむね予想通りだったこと、雇用関連指標が弱かったことで利下げ期待が維持されると147円ちょうど近辺へ下落。その後はもみ合いとなり引けは147円20銭。

ユーロドル相場は1.17ちょうど近辺で始まり欧州時間にかけて小動きもみ合い横ばい。米CPIを受けて1.1740へユーロ高ドル安。その後はもみ合い横ばいのまま引けた。

ユーロ円相場は172円40銭~50銭で小動きのあと夕刻に172円90銭近辺に上昇してもみ合い。米国市場では172円台後半で上下動を繰り返し引けは172円70銭。米国株は大幅高。

NYダウは初の46,000ドル台。ナスダック、S&P500も史上最高値を更新した。利下げ観測が強まったことが支え。年内利下げ幅は0.75%との見方が8割程度に上昇した。引き続きAI関連需要が強いとの見方が関連銘柄を支え。NYダウは前日比+617ドル高の46,108ドル、ナスダックは+157ドル高の22,043ドルで引け。

米長期金利は低下。10年債利回りは4.026%。一時4%を割り込んだ。2年債は3.543%。発表された米国のCPI(消費者物価指数、8月)は前月比+0.4%、前年同月比+2.9%と前月からやや加速したが市場の予想通り。コア指数も前月比+0.3%、前年同月比+3.1%と前月と同水準で加速はみられず。

週次の失業保険申請件数は、新規申請が263千件と前週237千件から大幅に増加して2021年10月以来の水準。雇用情勢の悪化を示した。

欧州ではECB理事会が開催され予想通り政策金利は据え置き。中銀預金金利は2.00%。ラガルド総裁は、今後はデータ次第で会合ごとに判断、物価は良好な状況、年内は経済が抑制され続けるが来年には逆風が薄れるとみている、と述べた。

金曜日の東京市場では日経平均が3営業日続伸。連日の最高値更新。米株高の追い風、海外投資家の買い、投資家心理が強気に傾きリスク選好が強まったことが支え。引き続き米利下げ期待やAI関連への期待がけん引。

一方、内需関連には売りが入り下げる銘柄も散見された。引けは前日比+395円高の44,768円。

ドル円相場は底固く推移。147円20銭で始まり30銭~50銭で上下したあと夕刻には148円近辺へ上昇。共同通信社の調査で高市氏が総裁選でリードと伝えられ日銀の利上げが遠のくとの見方から円が売られた。

欧州市場から米国市場にかけては147円台後半で上下し一時148円10銭近くに上昇する場面もあった。その後は弱い米国の経済指標を受けて反落し147円50銭に下落、引けは70銭近辺。

ユーロドル相場は小動き。東京市場では1.1740で始まり欧州市場では緩やかに1.17ちょうど近辺へ下落。フランス中銀総裁は、インフレリスクは上振れより下振れ、今後の会合で追加利下げの可能性もある、と述べた。米国市場では弱い米経済指標を受けて持ち直し1.1740で引け。

ユーロ円相場は172円70銭で始まり欧州市場にかけて173円40銭へ上昇。その後は173円ちょうど近辺へ反落して173円台前半で小動きもみ合い引けは173円30銭。

米国株はまちまち。前日の大幅高のあとで主力株に利益確定売り。一方、利下げ期待は根強く下支え。消費者マインドの悪化は相場の重石になった一方、ハイテク関連は利下げ期待やAI需要への期待で支えられた。NYダウは前日比▲273ドル安の45,834ドル。ナスダックは+98ドル高の22,141ドル。

米長期金利は小幅上昇。10年債は4.068%、2年債は3.562%。発表されたミシガン大学消費者態度指数(9月速報)は前月58.2から59.3への改善予想に反して55.4へ悪化した。

◆今週の3つの注目ポイント


1. FOMC(米連邦公開市場委員会)

火曜日、水曜日、の2日間にわたりFOMCが開催され、終了後にパウエル議長が定例会見を行う。今会合では利下げが実施されると予想されている。現在のFF金利誘導水準は4.25%~4.50%。利下げ幅は0.25%の予想が主流ながら、0.50%との見方も一部にある。

まず利下げ幅がどうなるか。前回7月の会合では金利据え置き決定に対して2名が利下げを主張して反対する異例の事態となった。景気は底固くなおインフレ懸念が残ることを理由に利下げに慎重な主流派の見解がどのように変化するか。

今回はメンバーの景気・物価・政策金利予測が発表されるが、そこに前回6月の予測からどのような変化がみられるか。政策金利見通しがどの程度下方修正されるか、中立金利の水準に変化がみられるか、が最大の注目点。

パウエル議長はすでに8月のジャクソンホール会合で、リスクバランスをインフレから雇用に明確にシフトした。今回の会見でどのような発言となるか。

2. 米国の経済指標

月曜日 NY連銀製造業景気指数(9月、予想3.0、前月11.9)

火曜日 小売売上高(8月、前月比、予想+0.3%、前月+0.5%) 鉱工業生産(同、予想+0.0%、前月▲0.1%) 設備稼働率(予想77.4%、前月77.5%) 輸入物価指数(8月、前月比、前月+0.4%)

水曜日 住宅着工件数(8月、季節調整済み年率換算、予想1,375千戸、前月1,428千戸)

木曜日 週次の失業保険申請件数

景気に陰りがみえるか。

3. 日銀金融政策決定会合、植田総裁会見、CPI

木曜日、金曜日の2日間にわたり日銀金融政策決定会合が開催され、終了後に植田総裁が定例会見を行う。今会合では利上げは予想されていない。

自民党の総裁選前倒しが決定し新政権のスタンスが定まらないなか、政治情勢にかかわらず景気物価動向から利上げを判断できるか。景気物価動向をどのように判断しているか。

次の利上げ時期を測るうえで植田総裁の会見が注目される。また金曜日にはCPI(消費者物価指数、8月)が発表される。前年同月比は前月+3.1%、除く生鮮食品で+3.1%、除く生鮮食品・エネルギーで+3.4%だったが、沈静化がみられるか、高止まり感が強まるか。

◆今週のMRA's Eye


日米金融政策決定会合で高まる相場変動リスク

今週は日米双方で金融政策決定会合が開催される。ドル円相場はこのところ147円台での値動きが大半で狭いレンジでのもみ合いが続いている。両会合で相場が大きく動くリスクには留意が必要だ。

FOMCでは利下げが確実視されている。今会合での利下げ幅は予想の大勢が0.25%。一部が0.50%の可能性をうかがう。このところの雇用関連指標は悪い内容が続き、雇用情勢の悪化は一段と明確となった。

一方、物価指標は関税の影響による大幅な上昇は確認されない。インフレ懸念を理由に利下げを先延ばしにするなか、雇用情勢が急速に悪化しつつある。ウォラー理事は雇用情勢の急速な悪化リスクを理由に前回7月会合で据え置きに反対し利下げを主張した。

パウエル議長はリスクバイアスがインフレから雇用にシフトしたことを明言。前回据え置きを主張した利下げに慎重な主流派がどれほど宗旨替えしたか。

関税の不透明感がなければすでに利下げを実施していた、との発言があったことからすれば、0.50%の利下げが実施される可能性は少なくはない。

問題はトランプ政権サイドから利下げ要求が続いていること。利下げ実施、とくに0.50%の大幅利下げには、政治的な圧力に屈したとみられるリスクがあることから、逆に0.25%の通常の利下げ幅にとどめる可能性がある。

仮に0.50%の利下げを実施した場合には、市場のドル金利先安観が強まる可能性がある。

より注目されるのはメンバーの政策金利予測。6月会合の予測からどの程度下方修正されるのか。あるいはそのままか。6月の予測の中心値では、年内の利下げは0.50%、来年0.25%、2026年も0.25%、で合計1.00%の利下げが予想されていた。

ただ予測は上下にばらついており、意見が割れていることが示された。

そうしたなかで、金利下方見通しを裏付ける状況となっていることから、今会合での予測値は下方修正される可能性が高い。現状で、年内利下げ幅が0.75%となるとの予想が8割程度まで増加している。

今年の利下げ幅、あるいは来年の利下げ幅も増加するか。合計でどの程度、予測金利水準が低下するか。また中立金利、長期的な政策金利予測はここ数回の予測でじわじわと上方修正されてきた。

現状で3%程度になっているが、逆に低下する可能性はあるか。いずれにしても霧面からはドルに下落リスクが高まる可能性があり留意が必要だ。

日銀はFOMCが終了したあとの木曜日・金曜日に金融政策決定会合を開催する。今会合では政策金利は据え置きと予想されている。石破首相が退陣を表明し、総裁選が前倒し実施となったことから、市場では日銀の利上げが遠のく、年内の利上げは難しいとの見方強まった。

とくに積極財政・金融緩和志向の高市候補になるリスクを織り込み円安に反応している。積極財政は財政悪化リスクによる円安要因。利上げ遅延は金利面から円安要因に。

政治からの金融正常化抑止圧力は米国トランプ政権のFRBの金融政策の独立性の浸食に似る。日銀が現状の景気物価判断をどうみるか、そのうえで政治情勢に忖度なしに利上げスタンスを維持し方向感を明確に示すか。植田総裁の会見では政治情勢との兼ね合いを問う質問も多くなりそうだがどう返答するか。淡々と利上げ姿勢を示せば、市場の年内利上げ見送りとの見方は後退しよう。

日米の金融政策決定会合のリスクバイアスはドル安円高方向にみえる。総裁選が決着するまでは、日銀の利上げに対する懐疑的な見方は完全に払しょくされない可能性はあるが、ここまで147円台を中心とするレンジ相場が長引いているだけに、ドル安円高方向に大きく変動するリスクには留意したい。


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