FRBのスタンスを左右する1週間
- MRA外国為替レポート
2025年9月1日号
◆先週の市場総括
先週は前週にパウエル議長が利下げ方針を明確にし、ドル安が進んだことを受けて始まった。株価は利下げ期待が強まったことで株価は総じて堅調。週前半は米経済指標がやや強めだったことも下支え。ドル円相場も148円に持ち直した。
ただ週後半はトランプ政権がクック理事の解任を表明したことに対してクック理事が違法として裁判所に提訴。政権とFRBの対立が深まり、FRBの独立性への懸念も再燃してドルの重石となった。
週末は弱めの経済指標を受けてドルは軟調。ドル円相場は146円台に下落して引けは147円ちょうど近辺。上方修正された米国のGDP(4-6月期)には反応薄。
日経平均は日本株の先高観が根強く海外勢の買い、買い遅れた投資家の押し目買いに支えられ堅調。週末にやや調整したものの42,700円台で引けた。
週末に発表された米国のPCEデフレーターはインフレの落ち着きを示した。一方、企業景況感や消費者心理には悪化がみられた。
月曜日の東京市場では日経平均が上昇。前週末のパウエル議長の発言で利下げ期待が強まったことで米国株が大幅高。それを受けて一時+500円超上昇した。
一方、ドル安円高が進んだことで輸出関連株の重石となり上値を抑制。米雇用景気懸念も重石となった。引けは前週末比+174円高の42,807円。
ドル円相場は前週末に急落したあと146円90銭で始まったが反発して147円30銭~50銭で推移。夕刻は147円10銭近辺に押されたが、欧米市場では147円台後半まで持ち直して引けは147円70銭。
ユーロ円相場は172円20銭で始まり60銭に上昇したあと172円30銭へ緩やかに下落した。米国市場午前中には172円60銭に上昇したが、その後はユーロ安ドル高に押されて171円70銭近辺で引け。
ユーロドル相場は1.1720で始まり1.17ちょうど近辺に下落したが下げ止まり夕刻は1.1720近辺に戻した。ただその後は上値重く米国市場では1.1620まで下落して引けた。米国株は反落。前週末の大幅高のあと利益確定売りが優勢となった。
トランプ政権が輸入家具への分野別課税方針を明らかにしたことで、あらためて関税の影響が今後顕在化するとの懸念が再燃した。
NYダウは前週末比▲349ドル安の45,282ドル、ナスダックは▲47ドル安の21,449ドルで引け。
米長期金利は上昇。利下げ期待の一方でインフレ懸念は根強く、2年債金利と10年、20年、30年債金利の差が広がった。10年債は4.279%、2年債は3.727%。
発表された米国の新築住宅販売(7月)は季節調整済み年率換算で652千戸と前月627千戸から増加。ドイツのIFO企業景況感指数(8月)は前月88.6から89.0へ改善した。
火曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに反落。前日の米国株が下落。トランプ大統領がFRBクック理事の解任を発表したことでFRBの独立性への懸念が台頭。朝方一時ドル円相場が147円ちょうど近辺に下落したことを嫌気。一時▲600円超下落した。
しかしその後はこのところの上昇に買い遅れた投資家の押し目買いに支えられ下げ幅を縮小。引けは前日比▲413円高の42,394円。
ドル円相場は147円70銭で始まり80銭台に上昇していたが、トランプ大統領がクック理事を解任すると発表したことで147円ちょうど近辺へ急落。しかしその後は持ち直して147円90銭へ。夕刻から欧州市場にかけては軟調に推移して147円30銭台へ下落。米国市場では70銭に反発したが147円10銭近辺に反落。147円台前半で上下して引けは147円40銭。
ユーロドル相場は1.1620で始まり1.1660へ上昇したが夕刻にかけては軟調となり1.16ちょうど近辺へ下落。米国市場では1.16台半ばでもみ合い横ばいとなり引けは1.1640。
ユーロ円相場は171円70銭で始まりドル円相場の下落に押されて30銭台へ下落。その後は夕刻にかけて172円ちょうど近辺へ持ち直したが上昇もそこまで。171円台前半~172円を中心に上下し、引けにかけて171円台後半でもみ合い171円70銭で取引を終えた。
米国株は反発。FRBの独立性への懸念は重石となったが、発表された米国の経済指標が予想より強めだったことで米国景気がなお底固いとの見方が支えとなった。主力株の一角に買い。NYダウは前日比+135ドル高の45,418ドル、ナスダックは+94ドル高の21,544ドル。
米長期金利は小幅低下。10年債は4.255%、2年債は3.644%。
発表された米国の耐久財受注(7月)は除く自動車が前月比+1.1%と前月+0.2%から伸びが大きく加速した。
リッチモンド連銀製造業指数(8月)は前月▲20から▲10への改善予想に対し▲7と予想より良好。消費者信頼感指数(8月)は前月97.2から96.3への悪化予想に反して97.4へわずかに改善した。
水曜日の東京市場では日経平均が反発。前日の米国株高、継続的な日本株先高観による海外短期筋の買いが続き一時+200円高。エヌビディア決算前に半導体関連株に先回り買いが入った。一方、利益確定売り、戻り売りが上昇を抑制した。引けは前日比+125円高の42,520円。
ドル円相場は147円40銭で始まり午後にかけて148円ちょうど近辺へ上昇。その後70銭に反落したが欧州市場では148円ちょうど~20銭で上下した。米国市場では147円30銭に反落して引けは40銭近辺。
ユーロドル相場は1.1640で始まり夕刻にかけて軟調。1.1580へ下落した。欧州市場では1.16ちょうど近辺でもみ合い、米国市場では1.1640へ上昇して引けた。
ユーロ円相場は171円70銭で始まり午後にかけて90銭に上昇したあと夕刻にかけて171円30銭へ反落。欧州市場では171円80銭に上昇したが、米国市場では反落して171円台半ばでもみ合い引けは171円50銭近辺。
米国株は上昇。エヌビディア社の決算発表を直前に控え期待感から買われた。出遅れ感のある割安銘柄にも買い。NYダウは前日比+147ドル高の45,565ドル、ナスダックは+45ドル高の21,590ドル。米長期金利は低下。10年債は4.234%、2年債は3.615%。
木曜日の東京市場では日経平均が続伸。朝方はエヌビディアの決算発表が期待外れとなり下落したことを受けて安く始まり▲200円ほど下落。ただ押し目買い意欲も根強く、商社株がバフェット氏の買い増し堅調、幅広い業種、割安株に買いが入った。引き続き日本株の先高観は根強い。引けは前日比+308円高の42,828円。
為替市場ではドルの上値が重かった。トランプ大統領が解任を発表したクック理事が、解任は不当として提訴。ドルの信認が低下するリスクを意識してドル売りが優勢だった。
ドル円相場は147円40銭で始まり概ね20銭~40銭で上下。欧州市場では146円80銭に下落した。ただその後は持ち直し147円20銭に反発したあと146円60銭台に下落するなど上値重く、146円台後半で上下して引けは146円90銭。
ユーロ円相場は171円50銭で始まり欧米市場にかけて終始171円40銭~60銭を中心に上下動横ばい、引けは171円60銭。
ユーロドル相場は東京市場では1.1640で始まり横ばい小動き。欧州市場で1.1690に上昇し、60~90で上下したあと米国市場では1.17ちょうど近辺に上昇。その後は反落して引けは1.1680。
米国株は上昇。ロシアのウクライナ首都攻撃で地政学的リスクへの懸念が強まったが、米国の経済指標が比較的良好だったことで安心感が支え。NYダウは前日比+71ドル高の45,636ドル、ナスダックは+115ドル高の21,705ドル。
米長期金利はまちまち。10年債は4.205%へ低下、2年債は3.633%へ小幅上昇。発表された米国のGDP(4-6月期)改定値は、前期比年率で+3.3%と速報+3.1%から上方修正。個人消費も同+1.6%へ+1.4%から上方修正された。
週次の失業保険申請件数は、新規申請が229千件と前週235千件から減少、継続受給者数は1,972千人から1,954千人へ減少した。
公表されたECB理事会議事要旨では、政策金利は中立水準に達した、物価見通しには上下リスク見方が割れ、待つという選択肢に価値がある、とされた。
金曜日の東京市場では日経平均が反落。月末を控えた利益確定売り、持ち高調整売りが下押し要因。機関投資家からポートフォリオリバランスの売りが入った。一時▲200円安。円高ドル安で輸出関連の上値が重かった。引けは▲110円安の42,718円。
ドル円相場は146円80銭~147円ちょうどで上下動横ばい。夕刻に147円20銭~146円90銭で上下したあと欧州市場から米国市場にかけて147円40銭に上昇。その後は弱い米経済指標を受けて146円80銭へ下落して引けは14円ちょうど近辺。
ユーロドル相場は1.1680で始まり終始1.16台後半でもみ合い小動き横ばい。米国市場では弱い米経済指標を受けて1.1650から1.1710へ上昇。1.17ちょうど近辺でもみ合い引けは1.1690。
ユーロ円相場は171円50銭~70銭で始まり20銭台へ下落したあと、欧米市場にかけて一貫して緩やかに上昇。172円ちょうどをつけて引けは171円80銭。
米国株はハイテク株が大幅安。一部企業の業績売上高見通しでAI需要への先行き警戒感が浮上。ハイテク株が大きく売られた。
一方、インフレが落ち着きを示し利下げ期待が下支え。NYダウは前日比▲92ドル安の45,544ドル、ナスダックは▲249ドル安の21,455ドル。
発表された米国の個人所得(7月)は前月比+0.4%と前月+0.3%からやや上昇加速、消費支出は同+0.5%と前月+0.3%から加速した。
注目のPCEデフレーター(個人消費支出価格指数、前年同月比)は+2.6%で前月と変わらず。コア指数は+2.9%と前月+2.8%からやや上昇が加速したが予想通り。
シカゴ購買部協会景気指数(8月)は41.5と前月47.1から悪化して予想46.5を大きく下回った。
ミシガン大学消費者態度指数(8月確報)は速報58.6から58.2へ下方修正された。米長期金利はまちまち。10年債は4.23%へ小幅上昇。2年債は3.623%へやや低下。
◆今週の3つの注目ポイント
月曜日の米国市場はレーバーデーで休場
1. 米国の経済指標
火曜日 製造業PMI(8月改定値、速報53.3) ISM製造業景気指数(8月、予想48.7、前月48.0)
水曜日 雇用動態調査(JOLTS求人数、前月7,437千人) 製造業新規受注(7月、前月比、予想▲1.2%、前月▲4.8%)
木曜日 ADP雇用報告(8月、雇用者数前月比増減、予想+80千人、前月+104千人) 貿易収支(7月、予想▲626億ドル、前月▲602億ドル) 週次の失業保険申請件数 サービス業PMI(8月改定値、速報55.4) ISM非製造業景気指数(8月、予想50.5、前月50.1)
金曜日 雇用統計(8月、非農業部門雇用者数前月比、予想+80千人、前月+73千人、失業率、予想4.3%、前月4.2%、平均時給、前年同月比、予想+4.3%、前月+4.2%)
2. ベージュブック(米地区連銀経済報告)
水曜日にベージュブックが公表される。経済指標にはなお強弱まちまちだが、定性的な景気物価動向の報告、判断はどのように示されるか。9月利下げを後押しする内容となるか。
雇用情勢について、底固いとの報告か、雇用に慎重あるいは雇用情勢全般の悪化傾向を示す報告となるか。
また関税の影響、とくに物価への影響、あるいは消費者や企業のセンチメントへの影響がどのように示されるか。
3. PMI景況感指数
米国以外でもPMI景況感指数の発表が続く。
月曜日 欧州のPMI製造業景況感指数(8月改定値、ユーロ圏、速報50.5、ドイツ、同49.9、イギリス同47.3)
水曜日 PMIサービス業景況感指数(8月改定値、ユーロ圏、速報50.7、ドイツ、同50.1、イギリス、同53.6)。
また中国では月曜日に財新製造業PMI(8月、予想49.7、前月49.5)、水曜日に同サービス業PMI(同、予想52.5、前月52.6)が発表される。
◆今週のMRA's Eye
FRBのスタンスを左右する1週間
今週は米国で重要な経済指標の発表が相次ぐ。
とくに金曜日に発表される雇用統計は9月16日・17日の両日に開催されるFOMC会合での政策判断を左右するとともに、より中期的な政策スタンスを左右することにもなりそうだ。
すでに9月会合での利下げは確定的になったとみられる。
パウエル議長はジャクソンホールシンポジウムで、インフレの上振れリスクは後退、雇用の下振れリスクは高まっている、と述べた。政策判断の軸足を明らかに物価から雇用へ移している。
前回7月のFOMC会合では利下げ慎重派が大勢で利下げを見送ったが、ウォラー理事、ボウマン理事、2名が利下げを主張して反対する異例の事態となった。
とくにウォラー理事は、雇用が悪化しており急速に悪化するリスクがあるとの見方を根拠としていた。
パウエル議長の発言はこの見方に寄ったものだ。議長以外の主流派、利下げ慎重派がどれほど宗旨替えすることになるか。軸足をインフレ警戒から雇用悪化に移すかが焦点。それを大きく左右するのが今週の一連の経済指標だ。
なおも経済指標が強弱まだら模様で、景気は底固いとの見方も根強いなか、現時点では9月会合での利下げは確実視されているものの、市場の利下げ幅予想の大勢は0.25%にとどまる。
利下げ積極派のウォラー理事も、9月会合では0.25%の利下げが望ましいとし、大幅利下げには踏み込んでいない。
トランプ政権によるFRBへの利下げ圧力はさらに強まっている。クック理事の解任を表明し、人事面から揺さぶりをかけている。ただこうした事態はさらにFRBの態度を頑なにするだけだろう。
FRBが政治からの独立性、中央銀行としての信認を重視するなら、政治からの利下げ圧力は逆に利下げに動きにくい方向に作用する。政治からの圧力の度が過ぎればドルの信認を揺るがすことになりかねない。
ベッセント財務長官は、個人的な見解としつつも、9月会合での0.50%利下げが正当化される、と発言した。ドルの信認を気にして財務長官の物言いは比較的マイルドだ。
そうしたなか、経済指標に弱い数字が続けば、10月以降の利下げペース、年来利下げ回数や来年以降の政策金利予測に影響を与えることになる。
市場は、すでに9月会合での0.25%利下げを確実としてその先を見据える。年来利下げが合計で0.50%となるのか、あるいは0.75%に増えるのか。来年の利下げ幅、あるいは政策金利の年末水準は下方修正されるのか。
メンバーの政策金利予測が6月会合での予測に比べて下方修正されるかどうかが焦点となっている。
今のところ年内の利下げ幅は0.50%~0.75%の間にある。利下げが2回ないし3回で、どちらかといえばなお2回が有力だ。したがって年内の利下げ幅が0.75%となり、あるいは来年の政策金利水準が下方修正されれば、市場にとって織り込み済みとはならない。
ISM景気指数(8月)は、市場予想では製造業が48.0から48.7へ、非製造業が50.1から50.5へ、ともにやや改善が予想されている。
問題は雇用判断指数。前月は製造業が43.4、非製造業が46.4と、いずれも50を割り込む悪化となった。雇用判断指数の動きは概ね雇用統計の非農業部門雇用者数の増減と相関している。雇用判断指数が悪化すれば雇用統計の数字が悪化する兆しを示すことになる。短期的には「前哨戦」として留意が必要だ。
ADP雇用報告の雇用者数増減と雇用統計の数字は一致しないことが多かった。しかし前回の雇用統計の大幅な下方修正による、その相違も概ね解消された。
ADP雇用統計の数字の確からしさを裏付けたとも言え、こちらも注目される。
8月の数字は雇用統計発表の前日、木曜日に発表されるが、前月+104千人に対して予想は+80千人。雇用統計の非農業部門雇用者数増減も前月比+80千人と予想されている。
経済指標の発表には市場予想通りなら織り込み済みで反応は限られるとの見方もある。しかし、政策金利予測は十分に織り込んでおらず、今後の金利見通しに影響を与えるとなれば織り込み済みとはならず。ドル円相場には金利面からドル安円高圧力となる可能性が高く留意が必要だ。
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