CONTENTSコンテンツ

パウエル議長が利下げ示唆
  • MRA外国為替レポート

2025年8月25日号

◆先週の市場総括


先週は日経平均が反落。急騰のあとの過熱感から利益確定売りに押され、火曜日から億曜日まで3営業日続落し月曜日の高値から1,000円以上の大幅安。米ハイテク株にも利益確定売りが嵩んだ。

市場の注目は金曜日のジャクソンホールシンポジウムにおけるパウエル議長の発言。FRB当局者から利下げに慎重な発言が続いていたが、議長は雇用悪化のリスクに言及して近々利下げを実施する可能性を示唆した。

米長期金利は低下。金曜日の米国株は大幅高。ドル円相場は月曜日に147円台前半で始まりパウエル議長の発言直前には欧米の景況感指数が強めだったことから148円台後半に上昇していたが、発言を受けて146円台後半に急落し146円90銭近辺で週末の取引を終えた。

国内では自民党総裁選前倒しの可能性が生じていることで、財政拡張への思惑が高まった。日銀の早期利上げ観測とあいまって長期金利が上昇。10年国債は1.6%台にのせた。日本株は海外勢の買いや押し目買い意欲も根強く下げ一服。日経平均は42,600円台で引けた。

月曜日の東京市場では日経平均が2営業日連続で史上最高値を更新した。半導体関連や電機が下落したものの消費関連がしっかり。業績期待が支え。買い遅れていた投資家の買いが押し上げた。引けは前週末比+336円高の43,714円。

ドル円相場は147円20銭で始まり147円台半ばで上下動。夕刻には一時10銭に下落したが持ち直し欧米市場では147円台半ばから148円ちょうどへ上昇。引けにかけては押されて147円80銭で取引を終えた。

ユーロドル相場は総じて小動き、やや軟調。東京市場では1.1710で始まりじり安。夕刻には1.1670近辺。その後も小動きながらやや軟調で引けは1.1660。

ユーロ円相場は172円40銭で始まり60銭に上昇したあと夕刻は172円10銭近辺。欧米市場では持ち直し20銭~60銭で上下して引けは172円60銭。

米国株はまちまち。利益確定売りが上値を抑えた一方利下げ期待は下支え。22日から始まるジャクソンホールシンポジウムで利下げのヒントを探るべく様子見姿勢が強かった。米長期金利は小幅上昇。10年債は4.334%、2年債は3.769%。

火曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに反落。短期的な過熱感で売り優勢。6月決算発表一巡で材料難のなか、高値警戒感から利益確定売りが出やすかった。引けは前日比▲168円安の43,546円。

ドル円相場は147円80銭で始まり147円台後半で小動き横ばい。引けは147円60銭。あらたな材料待ち。

ユーロドル相場は1.1660で始まり1.16台後半で緩やかに上下して引けは1.1650。

ユーロ円相場は172円60銭で始まり172円ちょうどに下落したあと172円ちょうど~60銭で緩やかに上下。米国市場では一時171円70銭に下落したあと戻して172円ちょうど近辺で引けた。

米国株はまちまち。ハイテク株が大きく下落した。エヌビディア、マイクロソフト、など大手株が大幅安。一方、ディフェンシブ銘柄の一角は買われた。NYダウは前日比+10ドル高の44,922ドル。ナスダックは▲314ドルの大幅安で21,314ドル。

米長期金利は小幅低下。10年債は4.310%。2年債は3.754%。報道によれば、ベッセント財務長官は9月初旬に11人の次期FRB議長候補と面談を実施する、と伝えられた。

水曜日の東京市場では日経平均が大幅続落。米ハイテク株安を受けて半導体関連中心に下落。このところの急騰で業績対比での日本株の割安感が解消したとの見方が強まった。引けは前日比▲657円安の42,888円。

ドル円相場は147円60銭で始まり147円台半ばを中心に上下動。夕刻から欧州市場は147円70銭。米国市場にかけては軟調となり146円90銭に下落したがその後は持ち直して引けは147円30銭近辺。

公表されたFOMC議事要旨(7月会合分)は、物価上振れ、雇用下振れ、双方のリスクを強調。過半はインフレリスクの方が大きいとした。数人は関税のインフレへの影響が完全に明確になるまで待つのは適切ではない、とした。

労働市場は依然として堅調との見方が大勢。ただこうした見方はすでに根拠を失っている。

米長期金利は小幅低下。10年債利回りは4.29%、2年債は3.752%。

ユーロドル相場は1.1650で始まり1.16台半ばを中心に終始小動きもみ合い横ばい。米国市場の引けは変わらず1.1650近辺。ユーロ円相場は172円ちょうどで始まり上値重く推移し夕刻には一時171円10銭台に下落。ただすぐに反発すると171円台後半で上下して引けは171円60銭近辺。

米国株はまちまち。利下げ期待が支えとなった。ディフェンシブ銘柄中心に物色が続いた。一方、利益確定売り、持ち高調整で半導体、ハイテク銘柄は下落した。NYダウは前日比+16ドル高の44,938ドル。ナスダックは▲142ドル安の21,172ドルで引け。

木曜日の東京市場では日経平均が続落。米ハイテク株の軟調が続き、半導体関連株が下落。利益確定売りも続いた。一方、海外勢の物色は続き下値は固かった。引けは前日比▲278円安の42,610円。

ドル円相場は147円30銭で始まりじり高。夕刻は147円60銭近辺。欧州市場では90銭まで上昇したあと60銭~80銭で推移したあと米国市場では148円40銭へ上昇して引けた。

欧米のPMI景況感指数が強く円が弱含み。またFRB当局者から利下げに慎重な発言が相次いて米長期金利が上昇しドルが堅調。

ユーロドル相場は東京市場では1.1650で始まり小動きもみ合い横ばい。夕刻は1.1660。米国市場ではユーロ安ドル高に振れて1.16ちょうど近辺へ下落。引けは1.1610近辺。

ユーロ円相場は171円60銭近辺でもみ合い横ばい。夕刻から欧州市場にかけては強めの欧州PMIを受けて172円30銭台へ上昇した。米国市場に入るとユーロ安ドル高を受けて171円70銭台へ反落したが持ち直して172円20銭近辺で引け。

発表されたPMI(8月速報)はユーロ圏製造業が50.5と前月49.8から49.5への悪化予想に反して改善し景況感の分かれ目である50を超えた。サービス業は50.7と前月51.0からやや悪化したが50超は保った。

米国の製造業は53.3と前月49.8から改善、サービス業は55.4と前月55.7から小幅悪化したがともに50超となった。

ただ週次の失業保険申請件数は新規申請が前週224千人から235千人へ増加。継続受給者数も1,942千人から1,972千人へ増加した。

フィラデルフィア連銀製造業景気指数(8月)は前月15.9から▲0.3へ予想以上に悪化した。

米長期金利は10年債が4.327%、2年債が3.791%へ上昇。

米国株は下落。ウォルマート社が大幅安。他の消費関連銘柄が連れ安。関税による仕入れ価格上昇を価格上昇抑制のため一部のみ転嫁したことで利益が圧迫された。

全般には翌日のパウエル議長発言を前に様子見姿勢が強かった。NYダウは前日比▲152ドル安の44,785ドル、ナスダックは▲72ドル安の21,100ドル。FRB当局者からはインフレリスクが雇用リスクを上回るとの利下げ慎重発言が相次いだ。

金曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに小幅反発。パウエル議長の発言を前に様子見姿勢が強かった。円がやや軟調で輸出関連株がしっかり。長期金利上昇で銀行株が買われた。個人投資家の押し目買いも支え。配当再投資の先回り買いへの思惑も支え。引けは前日比+23円高の42,633円。

発表された日本のCPI(消費者物価指数、7月)は、総合指数が前年同月比+3.1%、除く生鮮食品が同+3.1%といずれも前月+3.3%から低下したが予想通り。除く生鮮食品・エネルギーは+3.4%で前月と同水準の高止まりとなった。

ドル円相場は147円30銭~40銭で始まり夕刻は148円70銭台まで上昇。その後40銭に押したが148円70銭近辺に戻してもみ合い、パウエル議長発言待ち。

議長の発言が想定よりハト派だったことから米長期金利が低下、ドルが下落。ドル円相場は146円台へ急落して60銭~80銭で上下し引けは146円90銭近辺。

ユーロドル相場は1.1610で始まり夕刻は1.1580へ下落。その後はもみ合い横ばい、パウエル発言を受けて1.1740へ大きくユーロ高ドル安が進んだ。引けは1.1720近辺。

ユーロ円相場は172円20銭で始まり172円台前半で緩やかに上下したあと欧州市場では172円60銭台。パウエル発言を受けたドル安円高で171円80銭へ下落したあと持ち直して引けは172円20銭で引けた。

米国株は大幅高。パウエル議長の発言を受けて利下げ期待が高まったことが支え。関税発動でも企業業績が想定よりもしっかりだったことで投資家心理が強気に傾いた。一方、過熱感や割高感が高まった。NYダウは前日比+846ドル高の45,631ドル、ナスダックは+396ドル高の21,496ドルで引け。

10年債利回りは4.257%、2年債は3.701%へ低下した。

パウエル議長は、ジャクソンホールシンポジウムで、利下げに前向きな発言を行った。

労働市場は最大雇用に近い状態を維持し、インフレ率は依然高い水準にあるがピークから大幅に低下。リスクバランスも変化した。インフレは目標に近づき上振れリスクは後退。労働市場は需要と供給がともに減少して特異なバランスにある。

雇用の下振れリスクが高まっており、急速に悪化するリスクもある。政策修正(利下げ)を慎重に進める余地があり、リスクバランスの変化は調整を正当化する可能性がある、と述べた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

月曜日 新築住宅販売(7月、季節調整済み年率換算、予想630千戸、前月627千戸)

火曜日 耐久財受注(7月、前月比、予想▲3.9%、前月▲9.4%) ケースシラー住宅価格指数(6月、前年同月比、予想+2.2%、前月+2.8%) リッチモンド連銀製造業指数(8月、前月▲20) 消費者信頼感指数(8月、予想96.3、前月97.2)

木曜日 GDP(4-6月期改定値、前期比年率、予想+3.1%、速報+3.0%) 個人消費(同、予想+1.6%、速報+1.4%) 週次の失業保険申請件数

金曜日 個人所得・消費支出(7月、前月比、予想+0.4%・+0.5%、前月+0.3%・+0.3%) 消費支出価格指数(PCEデフレーター、前年同月比、予想+2.6%、前月+2.6%、コア、予想+2.9%、前月+2.8%) シカゴ購買部協会景気指数(8月、予想46.5、前月47.1) ミシガン大学消費者態度指数(8月確報、速報58.6)

2.ECB理事会議事要旨

木曜日にECB理事会議事要旨が公表される。7月会合では利下げは見送られ、中銀預金金利は2.00%で維持された。

成長リスクは下方、関税交渉を注視、CPIは目標の2%近辺にある、とされていた。

年内あと1回の利下げが次回9月にあるか、なお先か、あるいは打ち止めか市場は注目。あらためて何らかのヒントが示されるか。論点から最近の状況を踏まえて市場の金利見通しに影響するか。

3.日本の経済指標

月曜日 景気一致指数(6月、前月106.1)、先行指数(同、前月116.8)

金曜日 失業率(7月、予想2.5%で前月比不変) 有効求人倍率(同、予想1.23倍、前月1.22倍) 鉱工業生産(7月、前月比、予想▲1.2%、前月+2.1%) 都区部消費者物価指数(8月速報、除く生鮮食品、前年同月比、予想+2.6%、前月+2.9%)

円金利先高観を維持する内容となるか。

◆今週のMRA's Eye


パウエル議長が利下げ示唆

先週、ジャクソンホールシンポジウムで、パウエル議長は近々の利下げ実施を示唆した。FRB当局者からはなおインフレ懸念から利下げに慎重な意見が散見されるなか、利下げに前向きな姿勢を明確にしたことは想定外。発言内容をみてもハト派に傾いたとみてよい。

まず物価動向については、なおインフレ率は高止まりしているものの、ピークからは大幅に低下し目標に近づいていると評価。さらに関税による上振れリスクも後退したと踏み込んだ。

雇用情勢に関しては、労働市場は最大雇用に近い状態を維持しているとした。ただ失業率がなお低水準にあるのは、労働市場の需要と供給がともに減少して特異なバランスをもたらしているためとした。

こうした状態では雇用の下振れリスクが高まり、急速に悪化するリスクがあると述べた。ここまでの雇用情勢への懸念を示したのは想定外だ。

雇用悪化のリスクを主張して7月会合で利下げを求めて現状維持に反対したウォラー理事の考え方に後追いで同調したかたち。インフレリスクから雇用悪化のリスクへ焦点をシフトしたことを明確にした。

リスクバランスの変化は利下げを正当化する可能性があるとして近々の利下げを示唆したことは新たな一歩だ。

雇用者数の減少でも失業率が上昇しないことは、企業側の労働需要の減退と移民規制による労働供給の減退が釣り合っていることで確かに説明ができる。

その結果として失業率が低位安定していることで、雇用堅調として良しとするわけにはいかない。

加えて、週次の指標である失業保険継続受給者数が増加傾向を続け、200万人に迫りつつあることは、労働需給が均衡しているとも言えない面もある。雇用者数の減少や失業保険申請が増加していることそのものが労働市場の悪化を示す。

パウエル議長の発言通り、雇用の下振れリスクが高まっており、急速に悪化する可能性は否めない。9月初に発表される8月の雇用統計が弱い数字であれば、そのリスクが一段と現実味を帯びてきたと判断されるだろう。

また他の雇用関連指標、ISM景気指数の内訳である雇用指数、ADP雇用報告による雇用者数増減も一段と重要度を増している。

パウエル議長の発言を受けて9月会合での利下げ織り込みは7割強から8割5分程度まで高まったようだ。ただ▲0.25%の利下げの確率でもその程度にとどまる。

12月の追加利下げも確実視され始めたが、年内の利下げ幅は▲0.50%内にとどまる。

なお利下げに慎重なメンバーの発言までもが今後ハト派に傾くか。パウエル議長のみるリスクバイアスが明らかに雇用悪化に傾くなか、雇用堅調・インフレ警戒のままの慎重派がギブアップするかが今後の焦点。9月会合での政策金利予測がハト派に傾くリスクが次第に高まっているとみたほうが良さそうだ。

米国株は利下げ期待が強まったことで堅調さを取り戻している。関税発動でも企業業績が大きく悪化していないことも強気材料だ。

ただ小売価格への価格転嫁を一部に留めたウォルマートなど業績悪化もみられる。今後、価格転嫁が続けば消費にブレーキとなりかねない。今後しばらくは、関税の負担を、米国企業が負うのか。米国の消費者が負うのか、米国への輸出企業が負うのか、その負担割合がどのようになるのか、見極める必要がある。

ただ雇用情勢がすでに悪化していることは明確で、リスクはダウンサイドに傾いたままとなりそうだ。

FRBの利下げ確度が高まったことで、米国株は堅調、ドルは下落している。日本株はドル安円高のなか米国株の堅調に支えられなおも堅調を維持しそうだ。

米国株は金利対比で割高感が依然から強い。日本株の割安感はこのところの急騰で消失しつつあるが、それでも海外投資家の日本株買い意欲は強い。日本株買いに伴う円買いが、金利差縮小により強まる可能性がある。

シカゴ通貨先物のポジション動向をみると、投機筋はじりじりと円買い越し幅を縮小させている。と同時にドル売り越しも減少している。これが足元でドル安円高の勢いを削いでいる。

円サイドの要因としては、日銀の利上げ前倒し観測による円高リスクと財政悪化による円安リスクの双方が対立。

また株高により日本の個人投資家の海外投資意欲が高まるようならこれも円売りのフローとなりうる。

ただここからFRBの利下げ、日銀の利上げ、がいずれも現実となれば着実に海外勢のフローは変化しそうだ。リスクがドル安円高サイドに傾いた状況は変わらず、パウエル議長のスタンス変更で、リスクバイアスはドル安にまた一歩傾いた。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
【MRA外国為替レポート】について