ドル円相場のリスクバイアス再確認
- MRA外国為替レポート
2025年8月11日号
◆先週の市場総括
先週は前週末の米雇用統計が大幅に悪化し米国景気懸念が急速に強まるなか始まった。週末に米国株が景気懸念で大幅安となったことを受けて月曜日の日経平均は一時▲900円安で始まった。しかし4万円割れでは押し目買いに支えられショックは免れた。
加えてFRBによる早期利下げ観測が強まったことが米国株を支え、日経平均もすぐに反発。その後のFRB当局者の発言や、FRB人事を受けて利下げ期待が強まり米国株、ひいては日本株の支えとなった。
日米関税交渉の不透明感が台頭する場面もあったが、解決の道筋が示されたことで安心感に。週末には日経平均が一時42,000円の大台に乗せ41,800円台で引け。株価は終始堅調に推移した。
ドル円相場はFRBの早期利下げ観測を受けて147円台に下落して始まり147円を割り込んだ。しかし米長期金利が堅調に推移するとドルは支えられ週末の引けは147円70銭。ユーロ円相場は170円台後半で始まり週末は172円ちょうど近辺。株高リスク選好のなかクロス円相場がなお堅調。円は全般的に弱かった。
月曜日の東京市場では日経平均が大幅反落。前週末の米国株が弱い雇用統計を受けた景気懸念で大きく下落。半導体関連株を中心に売り優勢。国内長期金利低下で金融関連株が大幅安。ドル安円高を受けて輸出関連株にも売りが広がった。下げ幅は一時▲900円。
しかし4万円の大台割れでは押し目買いが支えた。引けは前週末比▲508円安の40,290円。
ドル円相場は147円20銭台で始まり10銭近辺に下落したあとは反発。昼頃には147円90銭近辺。その後欧州市場にかけては147円台後半で上下動して一時148円乗せ。ただ欧米市場では円高が進み米国市場では146円90銭台に下落。147円ちょうどを挟んで上下して引けは147円10銭近辺。
ユーロ円相場も同様の値動き。170円70銭で始まり50銭に下落したあと171円10銭に反発。171円ちょうどを挟んでもみ合い横ばい。欧州市場から米国市場にかけてはユーロ安円高が進み169円90銭に下落。引けは170円20銭近辺。
ユーロドル相場は終始横ばい上下動。東京市場では1.1590で始まり1.1550に下落したが下げ止まり。欧米市場を通じて1.15台後半で上下横ばい引けは1.1570近辺。
米国株は反発。早期利下げ観測が支え。9月会合での利下げ織り込みは9割を超えた。トランプ大統領は、クグラ―理事退任のあとを受けた後任を早々に発表する、と述べた。サンフランシスコ連銀総裁は、労働市場軟化の証拠が多く出る一方、インフレ持続の兆候はない、と述べた。
さらに、利下げの時期が近づいている、利下げは2回から上下双方の可能性があるが、上回る利下げが必要になる可能性の方が高い、とした。米長期金利はさらに小幅低下。10年債は4.196%、2年債は3.677%。
NYダウの引けは前週末比+585ドル高の44,173ドル、ナスダックは+403ドル大幅高の21,053ドル。
火曜日の東京市場では日経平均が反発。早期利下げ観測が強まったことによる米国株高が支え。一時+300円超上昇。主力株に買いが入ったほか決算で個別物色も。引けは前日比+258円高の40,549円。
ドル円相場は147円10銭で始まり朝方146円60銭に押したもののその後は堅調に推移。夕刻、欧州市場にかけて147円80銭近辺へ上昇し米国市場にかけて60銭~80銭で上下動。その後は弱い経済指標を受けて147円30銭に下落して引けは147円60銭近辺。
ユーロ円相場は170円20銭で始まり169円90銭に下落したあと170円を挟んで上下動。夕刻から欧州市場にかけて上昇し米国市場で170円20銭~50銭で推移した。その後はユーロ高ドル安が支えとなり引けは170円80銭近辺。
ユーロドル相場は東京市場では1.1570で始まり欧米市場まで通じて1.15台半ばを中心に上下動、横ばい圏内の動き。米国市場後半は弱い米経済指標を受けてやや上昇して1.1580近辺で引けた。
米国株は主要3指数がそろって反落。ハイテク株が軟調。関税による悪影響、景気全般、個人消費への懸念が下押し。発表されたISM非製造業景気指数(7月)が予想より弱く不安が広がった。一方利下げ期待は支え。NYダウは前日比▲61ドル安の44,111ドル。ナスダックは▲137ドル安の20,916ドル。
米長期金利は小幅上昇。10年債は4.210%、2年債は3.726%。
ISM非製造業景気指数(7月)は前月50.8から51.5への改善予想に反して50.1へ悪化。内訳で雇用指数が47.2から46.4へ、新規受注指数が51.3から50.3へいずれも悪化した。トランプ大統領はクグラ―FRB理事が退任して空席となった後任を週内にも任命する、と述べた。
水曜日の東京市場では日経平均が続伸。好決算銘柄を中心に物色された。ドル安円高一服で輸出関連銘柄も買われ一時前日比+300円超。ただ米ハイテク株安は重石となった。引けは前日比+245円高の40,794円。
ドル円相場は147円60銭ではじまり147円台半ばを中心に緩やかに上下動。夕刻は147円80銭。欧米市場では軟調となり147円20銭に下落して147円台で上下。一時147円を割り込んだ。引けは戻して147円40銭。
ユーロ円相場は170円80銭で始まり60銭に下落したあと午後から欧米市場にかけて一貫してユーロ高円安が進んだ。米国市場では171円90銭まで上昇し引けは171円80銭。
ユーロドル相場は東京市場では1.1570~80で小動きもみ合い横ばい。欧州市場から米国市場にかけて上昇し1.1660近辺で引けた。
米国株は上昇。引き続き利下げ期待が支え。アップル社が国内投資を拡大する方針を表明し関税コストが減少するとの見方から大幅高。個別決算で物色される銘柄も。一方景気減速への懸念も根強かった。NYダウは前日比+81ドル高の44,193ドル。ナスダックは+252ドル高の21,169ドル。
米長期金利はまちまち。10年債利回りは上昇して4.231%。10年債入札が不調だったことが重石。一方、利下げ期待が強まっていることで2年債利回りは低下して3.715%。
FRBクック理事は、雇用の伸び鈍化を懸念、大幅な修正は経済の転換点でみられる典型的なもの、と懸念を表明した。サンフランシスコ連銀総裁は、労働市場減速のなか関税による物価上昇は短期的脅威にすぎない、労働市場は一度躓くと悪化かつ大幅に落ち込む傾向がある、近いうちに利下げを実施する必要がある、と述べた。
木曜日の東京市場では日経平均が続伸。引けは41,000円台。前日の米国株がハイテク株を中心に堅調。アップル社が大幅高。これを受けて投資家心理が強気に傾いた。海外短期筋に加え、中長期の海外投資家の買いが入ったとの見方があった。
一方、関税の不透明感はやや重石。トヨタが業績見通しを大きく下方修正したことも上値を抑えた。引けは前日比+264円高の41,059円。
日米関税交渉に関する不透明感がにわかに台頭したが大きな影響はなかった。ドル円相場は上値重く終始147円台前半を中心に上下動。東京市場では147円40銭で始まり20銭~70銭で上下したあと夕刻にかけて146円70銭に下落。ただその後は持ち直して147円台前半で上下。米国市場終盤にドルが軟調となり引けは147円ちょうど近辺。
ユーロドル相場は1.16台後半を中心に上下。東京市場では1.1660近辺で始まり夕刻にかけて緩やかに1.17ちょうど近辺へ上昇。欧米市場では軟調に転じて1.1610へ下落。引けにかけてドルが軟調となり1.1670で取引を終えた。
ユーロ円相場は171円80銭で始まり171円台後半で上下したあと夕刻は171円40銭。欧州市場では172円ちょうどに上昇したが反落し米国市場では171円台半ばで上下して引けは171円60銭。
米国株はまちまち。雇用指標が弱く経済の先行き不透明感が重石。主力株に利益確定売りが優勢だった。NYダウは前日比▲224ドル安の43,968ドル。ナスダックは+73ドル高の21,242ドル。
公表されたNY連銀調査の期待インフレ率は1年が前月3.02%から3.09%に小幅上昇。週次の失業保険申請件数は新規申請が226千件と前週218千件から増加。継続受給(7/26週)は1,974千件に増加して2021年11月以来の高水準となった。
米長期金利は小幅上昇。10年は4.248%。30年債入札が不調で金利押し上げ要因に。2年債は3.727%。
FRB人事に関して、次期議長にウォラー理事が有力と報じられた。また退任したクグラ―理事の後任にミランCEA議長が2026年1月までの任期を引き継ぎ指名されるとの情報も流れた。
金曜日の東京市場では日経平均が大幅高。一時前日比+970円高となり42,000円の大台に乗せた。米ハイテク株が堅調に推移。
ソフトバンク株が10%を超えて上昇し指数を牽引した。米国の早期利下げ期待が下支え。米国の関税に関する不透明感が緩和したこともマインドを改善した。引けは+761円高の41,820円。
ドル円相場は147円ちょうどで始まり堅調に推移。夕刻まで147円台前半で上下動。欧州市場から米国市場にかけては147円台後半で上下し引けは147円70銭。
ユーロ円相場は171円60銭で始まり171円台後半で推移したあと欧米市場にかけてユーロ高ドル安。172円30銭近辺に上昇して引けは172円ちょうど近辺。
ユーロドル相場は東京市場では1.1670近辺で始まり、その後欧米市場にかけて終始1.16台半ばで上下し米国市場の引けは1.1640。
米国株は上昇。引き続き早期利下げ期待が支え。加えて米ロ首脳会談の予定が示されウクライナ停戦期待も心理的な支え。主力株に買いが入り、とくにハイテク株が堅調。NYダウは前日比+206ドル高の44,175ドルで引け。ナスダックは+207ドル高の21,450ドル。
米長期金利は小幅上昇。10年債は4.283%、2年債は3.762%。
◆今週の3つの注目ポイント
1. 米国の経済指標
今週はとくに物価指標に注目。また小売・生産動向も気にかかる。
火曜日 消費者物価指数 CPI、7月、前月比、予想+0.2%、前月+0.3%、前年同月比、予想+2.8%、前月+2.7% コア指数、前月比、予想+0.3%、前月+0.2%、前年同月比、予想+3.0%、前月+2.9%
木曜日 生産者物価指数 PPI、7月、前月比、予想+0.2%、前月0.0%、前年同月比、予想+2.5%、前月+2.3% コア指数、前月比、予想+0.2%、前月0.0%、前年同月比、予想+3.0%、前月+2.6% 週次の失業保険申請件数
金曜日 小売売上高(7月、前月比、予想+0.5%、前月+0.6%) NY連銀製造業景気指数(8月、予想▲1.0、前月5.5) 輸入物価(7月、前月比、予想+0.0%、前月+0.1%) 鉱工業生産(7月、前月比、予想0.0%、前月+0.3%) 設備稼働率(同、予想77.6%で前月と変わらず) ミシガン大学消費者態度指数(8月速報、予想62.1、前月61.7)
2. 欧州の経済指標
火曜日 ZEW企業景況感指数(8月、ドイツ期待指数、予想39.5、前月52.7、ユーロ圏、予想28.1、前月36.1)
水曜日 ドイツCPI改定値(速報、前年同月比、+2.0%)
木曜日 ユーロ圏GDP(4-6月期改定値、速報は前期比+0.1%、前年同期比+1.4%) イギリスGDP(4-6月期速報、前期比、予想+0.1%、前期+0.7%、前年同期比、予想+1.0%、前期+1.3%)
3. 日本の経済指標
総じて日銀の利上げを支持する内容となるか。
水曜日に国内企業物価指数(7月、前月比、予想+0.2%、前月▲0.2%、前年同月比、予想+2.5%、前月+2.9%)、金曜日にGDP(4-6月期速報、前期比、予想+0.1%、前期0.0%、前期比年率、予想+0.3%、前期▲0.2%)、が発表される。
日経平均がなお高値更新するかどうかにも注目。
◆今週のMRA's Eye
ドル円相場のリスクバイアス再確認
米国の弱い雇用統計を受けて米国景気悪化懸念が強まるとともに早期利下げ観測が台頭した。その後のFRB当局者の発言をみても利下げに前向きなニュアンスが目立つ。9月利下げは確実な情勢で、利下げ幅が0.25%となるか、あるいは0.50%の可能性もあるかが焦点となりつつある。
一方、日銀は利上げ継続姿勢を明確にしている。一時は関税による不透明感や悪影響、さらには景気後退懸念から、利上げ様子見、先送り姿勢が強まったとみられた。
しかし関税問題が決着し当初予想ほどの税率とはならなかったことで利上げに向けた動きが再開したと受け止められている。大勢は12月会合で利上げとみるが、少数派ながら10月会合で利上げとの見方も散見される。
欧州においてはECBの利下げを打ち止めが目前とみられる。すでに政策金利(中銀預金金利)を2.00%まで急速に引き下げ、インフレ率とほぼ同水準となった。市場ではあってもあと1回、1.75%までとの見方と、打ち止めとして様子見期間に入るとの見方に割れている。
当局者のなかでもハト派・タカ派で意見が割れているようだ。ただいずれにしても些細な差であり、ほぼ打ち止めといってよい状況だ。
こうした金融政策面での為替相場、とくにドル円相場のリスクバイアスは、ドル安円高サイドだ。
日米金融政策の方向は、FRBが利下げ、日銀が利上げ、で真逆であり、その金利差の変化はドル安円高を示唆する。この状態はすでに織り込み済みであり、限界的なドル安円高に効かないとの見方もある。
ただ金融政策変化は織り込み済みとはなりにくい。確かに2年債利回りには先々の金融政策の変化は織り込まれているが、短期金利の変化は着実にこれから影響をもたらすとみられる。さらに限界的なリスクバイアスの変化にも留意する必要がある。
FRBの利下げは、再開時期については一時の先送り観測から前倒しとなり9月に戻った。年内利下げ幅については、0.50%から0.75%との見方が生じてきた。9月の利下げが0.50%ではなく0.75%になるリスクもあり、これは織り込まれていない。リスクバイアスとしてはドル安サイドに傾いている。
日銀の利上げについては、次回利上げ幅は0.25%で変化はない。問題はタイミング。年内見送りとの見方に傾いたところから、ここにきて年内実施に回帰した。今のところ12月が予想の大勢だが、万一10月となった場合は想定外となる。
その可能性がないとはいえず、リスクバイアスは想定より早くなるケース。円相場のバイアスは円高サイドだ。
欧州については利下げがあと1回あるかどうか。利下げ打ち止めは時間の問題であり、さほど大きなリスク要因とはならなそうだ。
金融政策を左右するファンダメンタルズのリスクは、米国についてはダウンサイドに傾いている。すでに景気悪化傾向にあるとの見方が大勢だが、その度合いが、なお底固いとみるのか、景気後退に至らないまでもそれ近い状態にまで悪化するのか。
景気は底固いとの認識がFRBの公式見解だが、それが雇用の悪化で崩れるリスクが強まりつつある。
一方で、日本の景気動向もダウンサイドリスクが漂う。ただ米国に比べて景気下押し圧力は相対的に少ないようだ。今後の企業業績には留意が必要だが、関税による悪影響は今のところ大きくないようだ。政策金利がなお大きくインフレ率を下回り金融緩和状態にある点は米国との大きな違いだ。
一方、国内政治情勢によるリスクバイアスは円安に傾く。参議院選挙で与党が過半数割れとなった余波はなお続いている。自民党内では総裁選の実施の有無、石破首相の退陣があるかが焦点となっている。
問題は財政政策に変化があるか。財政健全化が脅かされるかどうか。ひとまず消費税減税は見送りとなっているが、議論が復活する可能性はないか。
仮に石破政権が退陣した場合、自民党内で政策の主流がアベノミクスに再び傾く懸念はないか。与党が大敗した要因はアベノミクスの弊害に他ならないものの、党内の政治バランスはまた異なる。財政拡張・金融緩和維持に傾けば円安要因とみる海外投機筋は多いだろう。
すでに投機筋の円買いポジションは減少傾向にある。財政悪化懸念が強まるようなら、一気に中立に戻り、さらには円売り越しに回る可能性もある。政治・政策のリスクバイアスは円安サイドであり、当面はその動向に留意が必要だ。
米国の政権・政策スタンスは、FRBに利下げ圧力をかける方向で変化はない。関税政策も含めて政策の不透明感・不安定性は引き続きドル離れをもたらす要因。さらにドル安志向は燻り続けており、ドル先高観を抱くには障害となり続けるだろう。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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