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FRB内部対立も雇用統計で決着か
  • MRA外国為替レポート

2025年8月4日号

◆先週の市場総括


先週は米国とEUの関税交渉合意を受けて始まり、その後は日米の金融政策決定会合および米国の重要経済指標など重要な材料が相次いだ。

米国のFOMCでは予想通り政策金利は据え置き。パウエル議長は引き続き利下げに慎重姿勢を示しタカ派的と捉えられた。ただ決定は2名が利下げを主張して反対する異例の事態に。

一方、日銀金融政策決定会合も政策金利は据え置かれたが、植田総裁の会見は利上げに慎重なニュアンスと受け止められた。円相場は週初から軟調。関税合意で米欧の景気見通しが改善するなか円が独歩安に。加えて日銀の利上げ慎重姿勢が円の重石となり円安が進んだ。

さらに米国の経済指標が強めの数字となったことで木曜日から金曜日にかけてドルが堅調。ドル円相場は週初の147円台後半から151円目前までドル高円安が進んだ。

一方、ユーロ安ドル高が進んだことでユーロ円相場は上値が重く173円台後半から172円を中心とする値動きに。

注目された米雇用統計(7月)が想定より大幅に悪い数字となったことで米景気懸念が台頭。早期利下げが確実との見方が強まり米長期金利は急低下。ドルは急反落。ドルインデックスは100ポイントを回復していたが週末は98.60台に。ドル円相場は3円ほど急落して週末は147円台半ばで引けた。ユーロ円相場は連れて170円台後半。

月曜日の東京市場では日経平均が続落。41,000円割れで引けた。米欧関税合意で上昇して始まったものの、前週の急騰のあと高値警戒感が強く、値がさ半導体関連株やこのところ上昇が大きかった銘柄に利益確定売りが嵩んだ。引けは前週末比▲457円安の40,998円。

為替市場ではドルが堅調、ユーロが下落。週末27日に米国とEUの合意が成立したが、織り込み済みで、米国の景気見通し改善がドルを押し上げ、ユーロは反落した。

ドル円相場は底堅く推移。147円80銭で始まり50銭~148円ちょうどで上下したあと午後には148円20銭へ上昇。欧州市場では148円台前半でもみ合った。米国市場では148円割れに下落する場面もあったがすぐに反発し148円台半ばでもみ合い引けは148円50銭台。

ユーロドル相場は東京市場では1.1760で始まりもみ合い横ばい小動き。夕刻から欧州市場に入ると1.1670へ下落。さらに米国市場にかけて終始軟調に推移して引けは1.1590近辺。

ユーロ円相場は173円60銭~80銭でもみ合い。夕刻は50銭~70銭。その後欧米市場では終始下落基調。172円台半ばでも下げ止まらず、引けは172円10銭~20銭。

米国株はまちまち。米国とEUの関税合意を好感。米中協議が継続するなか合意への期待も支えとなった。ただ米欧合意は先週に織り込み済み。利益確定売りが上値を抑制した。NYダウは前週末比▲64ドル安の44,837ドル。ナスダックは+70ドル高の21,178ドル。

米長期金利は上昇。景気見通しの改善が支えとなった。10年債は4.413%。2年債は3.930%。

発表されたダラス連銀製造業景気指数(7月)は前月▲12.7から+0.9へ大きく改善した。

火曜日の東京市場では日経平均が3営業日続落。前週の急騰の反動が続き、短期筋からの利益確定売りが下押した。下げ幅は午後に一時▲400円を超えた。日米の金融政策決定会合、米国の重要経済指標、米中交渉、などを見極めるべく様子見姿勢が強かった。引けは前日比▲323円安の40,674円。

ドル円相場は東京市場から欧米市場を通じて終始方向感なく上下動横ばい。148円50銭台で始まり70銭台~20銭台で上下したあと欧米市場では148円30銭~70銭で上下動。引けは148円50銭近辺。

ユーロは上値が重かった。ユーロドル相場は1.1590で始まり午後遅く1.1530へ下落。欧州市場で1.1590へ戻したが反落して1.1520~90で推移し引けは1.1550。

ユーロ円相場は172円20銭で始まり171円30銭へ下落。欧州市場で172円ちょうどに戻したが反落して米国市場では171円ちょうど近辺へ。その後は反発して引けは171円50銭近辺。

米国株は主要3指数がそろって下落。ダウは続落、S&P500指数は7営業日ぶりに下落。FOMC前で様子見のなか決算を材料に上下。医薬品、ヘルスケアの下げが目立った。NYダウは前日比▲204ドル安の44,632ドル、ナスダックは▲80ドル安の21,908ドル。

米長期金利は低下。10年債利回りは4.326%、2年債は3.873%。

米中関税交渉は現状維持を90日間再延長で合意。トランプ大統領の承認待ち。トランプ大統領は米中首脳会談を年内にも開きたいと希望した。

発表された雇用動態調査(6月、JOLTS求人数)は7,437千人と前月7,712千人から大きく減少した。消費者信頼感指数(7月)は前月93.0から97.2へ改善。

水曜日の東京市場では日経平均が小幅ながら4営業日続落。日米金融政策決定会合の結果を前に様子見が続き方向感を欠く値動きとなった。決算を受けた個別銘柄物色が活発。TOPIX指数は4営業日ぶりに反発した。日経平均の引けは前日比▲19円安の40,654円。

ドル円相場は148円50銭で始まり朝方148円ちょうどに下落したあと148円を挟んで147円80銭~148円20銭で上下動横ばい。欧州市場から米国市場にかけては強い米国の経済指標を受けて149円10銭近辺へ上昇。その後FOMCを受けて一時148円60銭に下落したが反発して引けは149円50銭近辺。

ユーロドル相場は1.1550で始まり1.1560近辺で小動きもみ合い横ばい。夕刻から欧米市場にかけて1.1460へユーロ安ドル高。その後1.15ちょうどへ持ち直したものの大きく反落して引けは1.1410近辺。

ユーロ円相場は171円40銭~50銭で小動きのあと夕刻は170円90銭に下落。その後は171円を挟んで170円90銭~171円20銭で上下した。ドルが全般に堅調。

ユーロが軟調。ドルインデックスは99.94と100ポイント目前まで反発して引けた。米国市場ではユーロ安ドル高に押されて引けは170円50銭近辺。

米国株はまちまち。この日発表された経済指標は強い数字となり景気悪化懸念が後退。一方、FOMCではパウエル議長が引き続き利下げに慎重な姿勢を示し、強めの経済指標とあいまって長期金利が上昇し重石となった。NYダウは前日比▲171ドル安の44,461ドル。ナスダックは+31ドル高の21,129ドル。

米10年債は4.374%、2年債は3.946%。

発表されたADP雇用報告(7月)は雇用者数前月比が+104千人と前月▲33千人減少から一転増加し予想+75千人を上回った。

GDP(4-6月期速報)は前期比年率+3.0%と前期▲0.5%から好転して予想+2.4%を上回った。

FOMCでは予想通り政策金利は据え置き。FF金利誘導水準は4.25%-4.50%。ただ決定は9対2で反対票が2名。ボウマン理事とウォラー理事が利下げを主張した。

声明文では、失業率は低水準を維持し、労働市場は引き続き堅調、インフレはなお高止まり、と記された。パウエル議長は会見で、雇用の需要と供給が同じペースで緩和している、と述べた。総じてタカ派的と受け止められた。

木曜日の東京市場では日経平均が5営業日ぶりに反発。米ハイテク株高を支えに半導体関連株が買われた。日銀が政策金利据え置きを決定、利上げ姿勢は維持しつつもなお慎重な姿勢を示したことも支え。決算を材料に個別銘柄の物色が続いた。引けは前日比+415円高の41,069円。

為替市場では日銀金融政策決定会合の結果を受けてやや円高に振れたものの、植田総裁会見を受けて夕刻から海外市場にかけては円独歩安となった。

ドル円相場は149円50銭で始まり正午ごろには148円60銭に下落。その後は70銭~90銭で推移した。総裁会見の終了後、欧州市場では150円ちょうど近辺へドル高円安。さらに米国市場では強めの物価指標で利下げ観測が後退したことから150円台後半までドル高円安が進み引けは150円70銭近辺。

ユーロ円相場は170円50銭で始まり昼には169円80銭に下落。ただその後反発して夕刻は171円30銭。欧州市場では171円50銭~70銭で推移。米国市場では172円30銭に上昇し172円ちょうど~30銭で上下し引けは172円10銭近辺。

ユーロドル相場は方向感なく収支1.14台で上下動。東京市場では1.1410で始まり夕刻は1.1460近辺。米国市場では1.14台前半で上下して引けは1.1420。ドルインデックスは100.05と100ポイントの大台を回復した。

米国株は主要3指数がそろって下落。経済指標がタカ派を支持する強めの内容となり利下げ観測が後退。重石となった。決算や業績見通しを受けて個別銘柄の上下動は続いた。NYダウは前日比▲330ドル安の44,330ドルで引け。ナスダックは▲7ドル安の21,122ドル。

米長期金利は小幅上昇。10年債利回りは4.376%、2年債は3.957%。

発表された米国の個人所得・消費支出(6月)は前月比+0.3%・+0.3%といずれも前月のマイナスからプラスに転じた。個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前年同月比+2.6%と前月+2.3%から上昇が加速して予想+2.5%を上回った。コア指数は+2.8%と前月+2.7%からやや上昇加速。

週次の失業保険申請件数は新規申請が218千人と前週217千人とほぼ変わらず、継続受給も1,946千人と前週と同水準。シカゴ購買部協会景気指数(7月)は前月40.4から47.1へ大きく改善し予想42.1を上回った。

金曜日の東京市場では日経平均が反落。一時▲480円安。東京エレクトロンが業績見通しを大きく下方修正。ストップ安となり1銘柄だけで日経平均指数を▲500円近く押し下げた。さらに半導体関連全体に売りが広がった。一方、その他の銘柄は堅調に推移。引けは前日比▲270円安の40,799円。

ドル円相場は雇用統計を前に様子見。150円70銭で始まり60銭~90銭で上下動横ばい。夕刻から欧州市場では150円40銭~60銭で推移した。発表された米国の雇用統計は予想を大きく下回る弱い内容だった。景気先行き懸念、早期利下げ観測が強まり米長期金利は大幅に低下。ドルを押し下げた。

ドル円相場は150円60銭から147円50銭へ3円ほどの急落。その後は148円台に戻したがその他の指標も弱く引けにかけて軟調で147円40銭で取引を終えた。

ユーロドル相場は1.1410台で始まり1.14台前半で小動きもみ合い横ばい。欧州市場で1.1390に下落したが雇用統計前は1.14を挟んで上下。発表後は1.1590へ急速にユーロ高ドル安が進んだ。その後は上昇一服となり1.1520へ押したがドルは弱く1.1590近辺で引け。

ユーロ円相場は172円10銭で始まり底固く推移し夕刻から欧州市場にかけて172円20銭へ上昇。その後は反落して雇用統計発表前には171円台半ば。発表後はドル円相場の急落に押されて170円30銭近辺に下落して引けは170円80銭近辺。

ドルインデックスは前日に100ポイントの大台を回復していたが急落して98.69ポイント。

米国株は主要3指数が大幅下落。弱い雇用統計で景気懸念が台頭し、週末の手仕舞いと相まって下落した。NYダウは前日比▲542ドル安の43,588ドル、ナスダックは▲472ドル安の急落で20,650ドル。VIX指数は20.38へ上昇した。

米長期金利は急低下。10年債は4.219%、2年債は3.684%。

注目の米雇用統計(7月)は非農業部門雇用者数前月比が+73千人と予想を大きく下回った。加えて前2か月が大幅に下方修正。6月は+147 千人からわずか+14千人へ、5月は+125千人からわずか+19千人へ。

失業率は前月4.1%から4.2%へ上昇し予想通り。ただし労働参加率が前月の62.3%から62.2%へ低下しており実体はもう少し悪いと受け止められた。

ISM製造業景気指数(7月)は前月49.0から49.5への改善予想に反して48.0へ悪化。雇用判断は45.0から43.4へ悪化した。新規受注指数は46.4から47.1へ持ち直したが50を下回っている。

ミシガン大学消費者信頼感指数(7月確報)は速報61.8から61.7へやや下方修正された。FRBクグラ―理事がこの日退任。理事が1名空席となった。

◆今週の3つの注目ポイント


1. 米国の経済指標、FRB当局者発言

先週末の雇用統計が大幅に悪い数字だったことから、急速に米国景気先行き懸念が強まっている。今週の経済指標とくにISM非製造業景気指数に対しては弱い数字への反応が大きくなりそうだ。

月曜日 製造業新規受注(6月、前月比、予想▲5.0%、前月+8.2%)

火曜日 サービス業PMI(7月)改定値(速報55.2) 貿易収支(6月) ISM非製造業景気指数(7月、予想51.5、前月50.8)

木曜日 週次の失業保険申請件数

また雇用統計を受けてFRB当局者の発言にも注目。

水曜日にサンフランシスコ連銀総裁、木曜日にアトランタ連銀総裁、金曜日にセントルイス連銀総裁、が講演を行う。

2. 日本の経済指標、日銀金融政策決定会合議事要旨

引き続き景気動向が日銀の利上げに追い風となるか、円安の修正に寄与するか。

金曜日に国際収支(6月、経常収支、予想1兆6千億円の黒字、前月3兆4千億円の黒字)、景気ウォッチャー調査(7月、現状判断DI、予想45.6、前月45.0、先行き判断DI、予想46.5、前月45.9)、が発表される。

また火曜日には日銀金融政策決定会合議事要旨(6月16日・17日開催分)が公表される。

3. イギリス中銀金融政策決定会合、ベイリー総裁会見

イギリス中銀(BOE)が木曜日に金融政策決定会合を開催する。今回は政策金利を4.25%から4.00%へ0.25%引き下げると予想されている。

終了後にベイリー総裁が会見を行うが、景気物価見通しにどのような判断を下しているか。BOEの政策スタンスはECBよりもむしろFRBに近いとみられ、実際、政策金利の水準も米国と同様な水準にある。その判断が市場の思惑に影響する可能性に留意しておく必要はあろう。

◆今週のMRA's Eye


FRB内部対立も雇用統計で決着か

先週のFOMCでは政策金利が据え置かれたが決定は9対2。ウォラー理事とボウマン理事の2人が利下げを主張して反対に回った。全会一致とならなかったのは32年ぶりという異例の事態だ。

ともにトランプ政権で指名されており、ウォラー理事はパウエル議長退任後の次期議長候補とも目されていることから政治的な発言とみる向きも多かった。

しかし先週末に発表された雇用統計はウォラー理事の見方を裏付ける極めて弱い数字だった。利下げ先送りを決め込む主流派にとっては考え方の修正を余儀なくされるほどの結果だ。

もはやウォラー理事の発言を政治的と片付けることは難しい。

ウォラー理事は、雇用がすでに急速に悪化している、として強い警戒感を示してきた。一方で関税引き上げによるインフレへの影響は一時的との考え。インフレ率が関税の影響で上昇してもそれを利下げ見送りの理由とすべきではない、と述べてきた。

一方でパウエル議長を含む主流派は、声明文にあるとおり、景気は堅調に推移しており、雇用情勢は緩やかに緩和しているものの底固く、関税によるインフレ懸念が根強い、として利下げに慎重なスタンスを取り続けてきた。

FRBの2大使命は物価の安定と雇用の最大化。主流派は物価重視、反対派は雇用を懸念。パウエル議長は、雇用者数が減少しているものの、雇用の供給も減少していることから雇用の需給は崩れず失業率がさほど上昇しない、との解釈を示した。

ただ会見では、ここからは雇用を注視する、とも述べていた。そこに今回の極めて弱い雇用統計が示された。

雇用関連指標は総じて弱い数字が続いてきた。週次の失業保険申請件数は新規申請こそ増加は止まったが、継続受給は増加基調のまま。失業保険を申請した人が復職できていないことを示していた。

民間調査のADP雇用報告では、雇用者数前月比は増加ペースが次第に鈍り、6月は前月比減少していた。ISM景気指数では、製造業、非製造業、ともに雇用判断が50を割り込んで雇用姿勢の弱さを示していた。

そうしたなか雇用統計だけが強い数字で雇用の底固さを示していた。雇用者数前月比は大きく減少せず極めて緩やかに減少。失業率は上昇せず4%をわずかに上回ったまま。違和感のある状況となっていた。

先週末に発表された7月の雇用統計は5月、6月分の非農業部門雇用者数が大幅に下方修正され、そうした違和感が解消したかたちだ。

と同時に、利下げに慎重な主流派と早期利下げを主張する反対派の議論の優劣に変化が生じたと思われる。あるいは決着がつきつつあるようにみえる。

主流派にとっては今回の雇用統計は主張を揺るがす衝撃となったのではないか。ウォラー理事が主張してきた雇用の急激な悪化との主張通りの数字がみられた。雇用の悪化傾向が容易に反転、あるいは景気や企業の雇用スタンスが好転する要因はない。

関税合意は進んでいるが、関税がなかったときに比べれば景気下押し要因となり続けている。現時点で9月のFOMC会合で利下げ実施との見方が過半になったとみられる。

9月初に発表となる8月の雇用統計が悪い数字となれば9月の利下げにダメ押しとなろう。あるいは数字がかなり悪い数字となれば、0.50%の大幅利下げの可能性もあるのではないか。

政治的にみれば、クグラ―理事が退任し空席が生じたことで、トランプ政権は次期FRB候補を理事として採用することが可能。利下げ圧力は一段と強まりそうだ。

利下げに抗する材料が失われつつあるなか、パウエル議長の立場は一段と厳しくなってきた。トランプ大統領は、今回の雇用統計の大幅な下方修正や弱い数字をもって労働省の統計局長を解任した。しかし今回の弱い数字があってこそ早期利下げに道が開けた。

パウエル議長の利下げ先延ばしを痛烈に批判してきたトランプ大統領にとっては追い風のはずだ。政権の姿勢に疑念も生じる。景気悪化懸念の台頭、現実的になった利下げ、トランプ政権に対する不信、などから再びドル安が強まるリスクに留意が必要だ。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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