日米関税合意もなお残る政治の不透明感~円相場のリスクバイアス
- MRA外国為替レポート
2025年7月28日号
◆先週の市場総括
先週は週初から円相場が大きく動いた。参議院選は与党が過半数割れ。ただ結果は想定通り。石破首相が続投を表明したこともあり、財政拡張・財政悪化リスクによる円売りは沈静化。
さらに日米関税合意が成立すると景気悪化懸念が後退し、日銀の利上げが前倒しとなる可能性が材料視されて円買いが進んだ。
前週末のドル円相場は149円手前までドル高円安が進んでいたが146円近くまで下落。ただその後はEUや中国との合意への期待が高まりユーロ高。米国景気悪化懸念も後退しドルが底固く推移した。
週末のドル円相場は147円台半ばで引け。ユーロ円相場は173円台前半。前週末とほぼ変わらず。米国株は関税合意への期待を背景に堅調に推移。S&P500指数が連日の史上最高値を更新。日経平均は連休明け週初から急騰して一時42,000円をつけ引けは41,400円台。
月曜日の東京市場は休場。アジア時間の為替市場では円高が進んだ。参議院選挙の結果は事前の予想通り与党が過半数割れ。結果は織り込み済みで、月曜日早朝の寄付きは、ドル円相場、ユーロ円相場、ともに1円ほど円高に跳ねて始まった。ドル円相場は147円90銭で始まりすぐに148円60銭に戻した上値重く148円台前半で上下。
午後には147円80銭に下落。148円の上値が重くなり欧州市場から米国市場にかけて147円40銭割れまで下落した。石破首相が続投を表明。消費減税が難しいとみられ、財政悪化懸念による円売りは巻き戻された。
米国市場では147円10銭まで下落して下げ止まり引けは147円40銭近辺。ユーロ円相場も早朝に172円10銭と円高に飛んで始まりすぐに80銭に反発したが172円台半ばで上下。
夕刻は172円ちょうどに下落してその後は172円台前半で上下した。米国市場朝方は171円90銭台に下落したが172円台に戻して引けは172円30銭。
ユーロドル相場はアジア時間に1.1630で始まり小動きながら底固く、夕刻は1.1640近辺で推移。米国市場朝方には1.1670に上昇し1.1720まで続伸。引けは1.1690。
米長期期金利の低下がドルを下押した。米10年債は4.377%、2年債は3.859%。米国株はまちまち。米国とEUの関税交渉を巡る不透明感が重石。一方、主力株四半期決算への期待は支え。関税による業績圧迫懸念がこのところ薄れている。ハイテクは堅調。NYダウは前週末比▲19ドル安の44,323ドル。ナスダックは6営業日続伸し+78ドル高の20,974ドル。
火曜日の連休明けの東京市場では日経平均が小幅続落。月曜日の米ハイテク株が堅調、参議院選挙結果は与党が過半数割れとなったが織り込み済みで4万円の大台に乗せた。
ただ利益確定売りに押されて下落。一時▲200円以上下落した場面もあった。日米関税交渉の不透明感は重石。日中の値幅は700円近くに及ぶ不安定な値動きとなった。引けは前週末比▲44円安の39,774円。
為替市場では夕刻にかけて円が軟調。与党敗北で財政拡張、財政悪化リスクが材料視された。
ドル円相場は147円40銭で始まり夕刻は147円80銭近辺。ユーロ円相場も172円30銭で始まり172円90銭近辺へ。ただ欧州市場では円売りは一服した。ドル円相場は147円50銭近辺で推移したあと米国市場で146円40銭近辺へ大幅下落。
発表されたリッチモンド連銀製造業指数(7月)が前月▲7から▲20へ予想外の大幅悪化。2024年8月以来の低水準となり米長期金利が低下。ドル円相場を下押した。その後はやや戻して引けは146円60銭近辺。ユーロ円相場も172円60銭からドル円相場の急落に連れて171円40銭へ下落。引けにかけては戻して172円30銭近辺。
ユーロドル相場は東京市場では1.1690で始まり小動きもみ合い横ばい。米国市場で1.1760へ上昇。引けは1.1740近辺。米国株はまちまち。パウエル議長の解任が否定されたことにより、金融市場に安心感が回復。一方、関税交渉の行方が不透明で重石となった。
NYダウは前日比+179ドル高の44,502ドル。ナスダックは▲81ドル安の20,892ドル。米長期金利は低下して10年債は4.368%、2年債は3.846%。ベッセント財務長官は、パウエル議長が辞任すべき理由はない、と述べた。
水曜日の東京市場では日経平均が反発、急騰した。トランプ大統領が米国現地22日に日米交渉の合意をコメント。赤沢大臣とベッセント財務長官が交渉に臨んでいると伝えられていたなか、朝方、合意が正式に発表となった。
関税率は一律15%で決着。懸案の自動車関税も15%へ引き下げられた。なお鉄鋼アルミは50%で維持。加えて石破首相が8月までに退陣の意向を表明と報じられ、財政拡張政策へ期待が高まった。
引けは前日比+1,396円高の41,171円と年初来高値を更新し、約1年振りの高値をつけた。日本国債利回り、長期金利10年債利回りは上昇して1.6%に。
ドル円相場は乱高下。146円60銭で始まり朝方は20銭近辺~90銭近辺を激しく上下して午後から夕方にかけては147円を挟んで146円80銭~147円20銭で上下動。欧州市場に入ると146円10銭へ大きく下落。米国市場では70銭に反発したあと30銭に下落するなど不安定な値動きで引けにかけてようやく落ち着き146円50銭。
ユーロドル相場は東京市場では1.1750で始まり1.1730~40の狭いレンジで小動き横ばいもみ合い。米国市場では1.1710にやや下落したあと1.1770へ上昇してそのまま引けた。
この日は日米合意に続いてEUとの関税合意も間近とFT紙が報じたことでユーロが買われた。
ユーロ円相場は東京市場から欧州市場にかけてはドル円相場と同様の値動き。172円30銭で始まり171円70銭~172円50銭で激しく上下したあと172円70銭に上昇。その後は40銭~70銭で上下。欧州市場では171円40銭に下落。しかし米国市場に入ると米国とEUの関税合意報道でユーロ高に振れて172円50銭近辺で上下して引けた。
米国株は上昇。日米合意を好感して買い優勢となるなか、さらにEUとの合意間近との報道で一段と買いに勢いがついた。
NYダウは半年ぶりに年初来高値を更新。S&P500指数は3日連続で史上最高値を更新した。NYダウは前日比+507ドルの大幅高で引けは45,010ドル。ナスダックは+127ドル高の21,020ドル。VIX指数は15.37へ低下した。
米長期金利は上昇。10年債は4.389%、2年債は3.884%。
木曜日の東京市場では日経平均が大幅続伸。連日の年初来高値更新。約1年振りの高値をつけた。米株高の流れを受けて堅調。米国とEU、中国との関税合意への期待が支えとなった。上げ幅は一時+900円に迫った。TOPIXは史上最高値を更新した。引けは前日比+655円高の41,826円。
ドル円相場は146円50銭で始まり午前中に145円80銭台へ下落。その後は146円を挟んでもみ合い横ばい。午後から欧米市場にかけては円が軟調となった。米国市場朝方にかけて146円80銭近辺まで上昇。欧米のPMI景況感指数が良好な数字だったことが支え。
米国の新築住宅販売が弱く、一時147円30銭台に下落したがすぐに持ち直し。147円手前でもみ合ったあと引けは147円20銭近辺。
ユーロ円相場は172円相場も同様の値動き。円が軟調。172円40銭~50銭で始まり午前中に171円80銭割れに下落したものの底固く172円手前でもみ合い横ばい。夕刻は172円30銭に上昇。米国市場では一段高となり172円70銭~90銭で上下した。
この日、ECBは理事会を開催し政策金利を据え置いた。中銀預金金利は2.00%のまま。ラガルド総裁は、成長リスクは下方、関税交渉を注視、CPIは目標の2%にある、と述べ様子見。市場では年内あと1回の利下げが予想されているが、次回9月かなお先となるか、意見が分かれ始めた。
米国とEUの関税交渉で高率関税回避なら利下げ先送りとの見方がユーロを支えた。ユーロドル相場は東京市場では1.1770~80の狭いレンジでもみ合い横ばい。夕刻から欧州市場にかけて1.1730に下落したがECB理事会を受けて1.1790へ反発。ただその後はドルが堅調となり押し戻されて引けは1.1750近辺。
発表されたPMI景況感指数(7月速報)は、ユーロ圏製造業が前月49.5から49.8へ、製造業が50.5から51.2へ、それぞれ小幅改善した。米国の製造業は52.9から49.5へ予想より悪化。
一方、サービス業は52.9から55.2へ予想以上に改善した。週次の失業保険申請件数は新規申請が217千件と前週221千件からやや減少。継続受給は前週1,951千件からやや増加して1,955千件。
新規住宅販売(6月)は季節調整済み年率換算で627千戸と前月623千戸からやや増加したが予想650千戸を大きく下回った。
米長期金利は小幅上昇。10年債は4.397%、2年債は3.919%。ドルを支えた。
米国株はまちまち。個別決算で上下。IBM、ハネウェル、が大きく売られ指数を押し下げた。主力株の一角には利益確定売り。ハイテク、半導体株は買い優勢だった。NYダウは前日比▲316ドル安の44,693ドル。ナスダックは+37ドル高の21,057ドル。
金曜日の東京市場では日経平均が反落。前日までの急騰の反動で利益確定売りが優勢となるなか一時▲400円超下落した。短期的な買われ過ぎ感が下押し。四半期決算が不芳だった銘柄にも売りが入った。引けは前日比▲370円安の41,436円。
発表された東京都区部の消費者物価指数(7月)は除く生鮮食品で前年同月比+2.9%と前月+3.1%から上昇率が鈍化した。ドル円相場は147円20銭で始まり147円ちょうどに下落したあとは147円台半ばでもみ合い。
欧州市場に入る夕刻には146円80銭近辺に下落したが、その後は大きく円安に振れて147円90銭に上昇。米国市場では147円台後半で上下して引けは147円60銭台。
ユーロ円相場も同様の値動き。172円90銭で始まり173円10銭で推移したあと夕刻は172円50銭に下落。その後は大きく円安に振れて173円60銭へ上昇。米国市場では173円台前半で底固く推移して引けは173円40銭。
ユーロドル相場は東京市場では1.1740~50で小動きもみ合い横ばい。夕刻は1.1760近辺から1.17ちょうど近辺に下落した。その後は1.17台前半で底固く推移して引けは1.1740台。
米国株は堅調。米関税交渉の進展期待が支え。トランプ大統領は8月1日の交渉期限に向けて協議を継続すると述べた。来週には米中協議がスウェーデンで開催されると伝えられた。
トランプ大統領とEUフォンデアライエン委員長が7月27日に会談するとも報じられている。NYダウは前日比+208ドル高の44,901ドル。ナスダックは+50ドル高の21,108ドル。米長期金利は小動き。10年債は4.391%、2年債は3.291%。
◆今週の3つの注目ポイント
1. FOMC、パウエル議長会見
火曜日・水曜日の2日間にわたりFOMC(連邦公開市場委員会)が開催される。結果判明は日本時間木曜日未明3時。終了後にパウエル議長が定例会見を行う。今回の会合では政策金利の変更は予想されていない。
FF金利誘導水準は4.25%-4.50%で据え置かれる見通し。足元で関税合意が進捗しつつある。インフレ指標はここまで大きな影響を見せず比較的落ち着いた数字。
一方、雇用は底固さも見受けられるが悪化傾向も散見される。ウォラー理事は利下げに前向きな発言を繰り返している。トランプ大統領からはなおも利下げを要求する強い圧力がかかるなか、メンバーの議論がどうなるか。
今回は9月会合での利下げを探ることになる。パウエル議長は様子見、指標次第としてきたが、その姿勢、ニュアンスに変化はみられるか。
2. 米国の経済指標
今週は重要な経済指標の発表が相次ぐ。景気悪化とくに雇用鈍化が確認できるか注目。
火曜日 雇用動態調査(6月、JOLTS求人数、予想7,400千人、前月7,769千人) 消費者信頼感指数(7月、コンファレンスボード、予想95.9、前月93.0)
水曜日 ADP雇用報告(7月、雇用者数前月比、予想+78千人、前月▲33千人) GDP(4-6月期速報、前期比年率、予想+2.4%、前期▲0.5%、個人消費、同、予想+1.5%、前期+0.5% 個人消費デフレーター、コア、前期比年率、予想+2.3%、前期+3.5%)
木曜日 個人所得・消費支出(6月、前月比、予想+0.2%・+0.4%、前月▲0.4%・▲0.1%) 個人消費支出価格指数(PCEデフレーター、前年同月比、予想+2.5%、前月+2.3%、コア、予想+2.7%で前月と変わらず) 米週間新規失業保険申請件数 シカゴ購買部協会景気指数(7月、予想42.1、前月40.4)
金曜日 雇用統計(7月、非農業部門雇用者数前月比、予想+110千人、前月+147千人、失業率、予想4.2%、前月4.1%、平均時給、前年同月比、予想+3.8%、前月+3.7%) ISM製造業景気指数(7月、予想49.5、前月49.0) ミシガン大学消費者信頼感指数(7月確報)
3. 日銀金融政策決定会合、植田総裁会見
水曜日・木曜日の2日間にわたり日銀金融政策決定会合が開催され、終了後に植田総裁が会見を行う。今会合では政策金利の変更は予想されていない。0.50%で据え置きとみられる。
足元で日米関税交渉が合意に至り、不透明感は大きく解消された。なおその影響は見極めが必要だが過度な景気悪化懸念は後退。
今会合では展望レポートが公表される。今後の景気見通しについて、関税合意を踏まえていかなる見解が示されるか。植田総裁の会見も含め、不透明感の解消、さらには利上げに向けた判断の前進がみられるか注目。
◆今週のMRA's Eye
日米関税合意もなお残る政治の不透明感~円相場のリスクバイアス
先週の円相場は前週の円安基調から一転し持ち直した。ただし、なお大幅な円高には至っていない。
このところ円安の原動力となっていたのは、日米関税合意の進捗が捗々しくなく30%~35%の高率関税を課されるとの懸念と、参議院選挙で与党が過半数割れとなり財政拡張・悪化リスクが高まる可能性、の2点。
前者については3連休明け早々に急遽合意に至ったことで円安に歯止めがかかり円高に反転する材料となった。合意決裂による景気悪化リスク、それによる日銀の利上げ先送りの可能性が円安要因とみられてきた。
しかし今回の合意により、25%とされていた関税は15%に引き下げられた。25%が明示されていた自動車についても15%へ引き下げられたことは、産業の裾野が広いことからポジティブに受け止められた。
これによる過度な景気懸念は後退。想定されていたよりも悪影響は少ないとの見方が大勢となった。日銀の利上げも年内は難しいとの見方から、年内に利下げとの見方へ変化している。これにより150円を超えてドル高円安が進むリスクは後退したとみられる。
一方、日本との合意を皮切りに対EU、対中国でも合意が成立するとの見方が強まっている。
トランプ大統領も日米合意を契機にドミノ倒しのように合意を進めたい考えのようだ。対EUの合意の可能性を織り込み、欧州景気への懸念が後退。米国景気への見方は関税合意全般の進捗により悲観的な見方が後退している。
米欧の景気見通しが好転したことは円にとっては相対的にマイナス材料だ。すでにECBは利下げの最終局面に到達している。政策金利は2%とインフレ率2%と同水準まで引き下げ済み。さらなる利下げはあと1回、0.25%で打ち止めとの見方が大勢だ。
ただ関税合意によって景気見通しが好転すればECBが利下げを躊躇する可能性が高まる。市場のユーロ金利先安観が後退すればユーロ円相場は底固く推移する可能性がある。
米国が次々と関税合意成立させれば、米国景気の見通しにも強気の見方が台頭する、ドル金利先安観の後退により、金融政策の限界的なバイアス変化は日米間で綱引きとなり、ドル安円高が進みにくくする要因ともなる。
ただ、米国景気の悪化見通しが緩和することはありうるが、堅調に推移するとまでは言いにくい。肝心な雇用情勢が悪化基調から好転する流れは想定が難しい。関税合意と過度なインフレ懸念の後退により、FRBには利下げ余地が広がったとみられる。今週7月のFOMC会合では利下げは見送りとなる可能性が極めて高い。
しかし9月会合での利下げの可能性は高まったとみてよさそうだ。そのうえで年内の利下げ幅が0.50%にとどまるか、あるいは0.75%となるか、逆に0.25%で様子見となるか。当面の経済指標の強弱は極めて重要だ。
今週はISM景気指数や雇用統計をはじめとする雇用関連指標の発表が相次ぐ。いずれもFOMC会合の終了後となることから、7月の据え置き判断が肯定されるか、あるいは弱い数字で9月利下げ期待を強めるか、注目される。
一方、もうひとつの円安要因となっていた日本の政局不安はなお燻っている。参議院選挙における与党過半数割れは想定通り。円相場への追加的な円安圧力とはならなかった。
しかし足元で自民党内から石破首相の退陣を求める声が強まっている。
政局を材料とする円安は、財政拡張路線へのシフト、財政悪化が進むとの見方が主因だ。消費減税の可能性は低くなったとみられるが、首相交代で与党が財政拡張路線に舵を切るなら、市場とくに海外投機筋は円安材料として円売りを強める可能性がある。
石破首相が退陣するのか、その場合、次期首相がどれほどの財政拡張路線をとるのか、あるいは財政健全性に配慮する方針を明確にするのか。ファンダメンタルズや内外金融政策の動向からは、なおも円高基調が続く可能性は高い。ただ足元の退陣騒動が落ち着くまで、市場の「半身の姿勢」は続き、円高を抑制することになりそうだ。
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