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外交と政治 足元で強まる円安リスク
  • MRA外国為替レポート

2025年7月14日号

◆先週の市場総括


先週は為替市場で円安が進んだ。米国の関税交渉、相互関税の高率関税適用までの猶予期間が水曜日に期限を迎えるなか、トランプ大統領が交渉相手国に対して期限後の適用税率を通知すると表明。日本に対して25%の関税を適用するとした。

猶予期限は8月1日に延期されたが日米交渉の不調、日本の景気悪化懸念、利上げの先送り観測が強まり、円が売られた。

また参議院選挙を前に与党敗北リスク、財政拡張・悪化リスクを織り込む見方も台頭した。ドル円相場は月曜日に144円台半ばで始まり週央には147円台へ上昇。その後も高止まりし146円~147円台で推移。週末の引けは147円台半ば。

ユーロ円相場は170円台前半で始まり週末の引けは172円台前半。ユーロドル相場は小動きでドルインデックスはほぼ横ばいだった。

米国株は週初こそ関税懸念で下落したものの楽観的な見方は続き週末にかけては堅調。四半期決算を前に、関税の企業業績への影響を見極めるべく週末には上昇一服した。

日経平均は円安に支えられたものの、関税懸念と業績見極めで上値を抑制され39,000円台での上下動に終始した。

月曜日の東京市場では日経平均が3営業部ぶりに反落。米国の関税引き上げへの警戒感で輸出関連株に売りが優勢。設備投資・工作機械受注の指標とされる安川電機株が大幅安となりFA関連株が大きく下落した。引けは前週末比▲223円安の39,587円。

ドル円相場は144円50銭近辺で始まり朝方20銭台に下落したあとは夕刻、さらには欧米市場にかけて一貫して円安が進んだ。日米関税交渉が難航し景気後退リスク、貿易赤字拡大リスク、日銀の利上げ遅延を織り込む動きとなった。米国市場では146円20銭まで上昇し引けは146円ちょうど近辺。

ユーロ円相場は170円20銭で始まり一時170円割れに下落したがすぐに反発し午後には170円70銭へ上昇。170円台半ばでもみ合いのあと、米国市場では171円20銭へ上昇し171円を挟んで上下し引けた。

ユーロドル相場は東京市場では1.1780で始まり夕刻には緩やかに下落して欧州市場にかけて1.1730を中心に小動きもみ合い。米国市場では一時1.17割れに下落し引けは1.1710近辺。トランプ政権は日本に対し8月1日から一律25%の関税を適用する、と発表した。

米国株は下落。関税の引き上げ方針を受けて貿易や世界経済への悪影響を懸念する見方、物価高による消費悪化が意識された。NYダウは前週末比▲422ドル安の44,406ドル、ナスダックは▲188ドル安の20,412ドル。米長期金利は小幅上昇。10年債は4.381%、2年債は3.896%。

火曜日の東京市場では日経平均が小幅反発。トランプ関税の引き上げ通告で25%は想定の範囲内。先日示された30%~35%より低く、当初発表された24%と変わらないと受け止められた。

円安が支えとなり輸出関連株が買われたが積極的な買いは手控えられた。引けは前日比+101円高の39,688円。

ドル円相場は146円ちょうどで始まり40銭台に上昇したあと145円90銭に反落。ただ下値は固く持ち直して欧州市場では146円台前半で上下し、米国市場では147円ちょうどまで続伸した。その後は一服して引けは146円60銭近辺。

日米関税交渉が難航し景気後退リスクが強まったとの見方から利上げが難しくなるとの思惑が引き続き円売り戻しを促した。

ユーロ円相場は171円ちょうどで始まり80銭へ上昇。その後欧州市場にかけて171円40銭~80銭で上下し、米国市場では172円台へ続伸した。引けは171円80銭。

ユーロドル相場は1.1710で始まり1.17台半ばでもみ合い横ばい。米国市場にかけてはドルが強含み1.1680へ下落したが引けは1.1720と東京朝方と変わらず。

米国株は小動き。トランプ大統領が関税交渉で強硬姿勢を繰り返したことが不安視され様子見姿勢が強まった。トランプ大統領は高率の相互関税適用期限を8月1日に延長したが再延長しないことを明言。

また銅の輸入に50%の関税を、医薬品に200%の関税を課すことを表明した。NYダウは前日比▲165ドル安の44,240ドル。ナスダックは+5ドル高の20,418ドル。

米長期金利は小幅上昇。10年債は4.401%、2年債は3.897%。NY連銀の調査では期待インフレ率(1年)が前月3.20%から3.02%へ低下したことが報告された。

水曜日の東京市場では日経平均が小幅続伸。前日の米ハイテク株が底固かったことに加え、円安進行を受けて輸出関連株が買われた。一方、参議院選挙の不透明感は上値を抑制した。引けは前日比+132円高の39,821円。

ドル円相場は146円60銭で始まり昼頃には147円10銭台へ上昇。しかしその後、欧州市場から米国市場にかけて一貫して軟調となり米国市場の引けは146円30銭。

ユーロ円相場も同様の値動き。171円80銭で始まり朝方172円20銭に上昇してもみ合い。夕刻から欧州市場、米国市場にかけては軟調となり171円台半ばでもみ合い引けた。ユーロドル相場は引き続き方向感なく終始横ばい圏。東京市場では1.1720台で始まりその後も1.17ちょうど~1.1720で小動きもみ合い横ばい。米国市場の引けは1.1720。

米国株は堅調。ハイテク株がしっかり。米長期金利が低下したことが支えとなった。NYダウは一時+300ドル高。ただトランプ関税の不透明感は重石となった。NYダウは前日比+217ドル高の44,458ドル、ナスダックは+192ドル高の20,611ドルで引け。

米長期金利は低下。10年債は4.331%、2年債は3.849%。公表された6月のFOMC議事要旨ではメンバーの意見対立が確認されたが利下げの選択肢が排除されたわけではないと受け止められた。

木曜日の東京市場では日経平均が反落。円が持ち直したことで先物中心に売り。ETF分配金捻出のための売りが出るとの見方も重石。日米関税交渉、トランプ関税全体の動きを見極めるのに時間がかかるとの見方で様子見姿勢が強かった。引けは前日比▲174円安の39,646円。

ドル円相場は146円30銭で始まり145円80銭に下落したあと午後から欧州市場にかけて146円20銭~40銭で上下動。米国市場では146円80銭に上昇したが反落し引けは146円20銭近辺。

ユーロ円相場は171円40銭で始まり20銭に下落したあと171円円台半ばから後半で推移。欧州市場から米国市場にかけては下落して171円ちょうどをつけて引けは171円10銭。

ユーロドル相場は引き続き小動き横ばい。東京市場では1.1720で始まり1.17台前半で小動き。米国市場で一時1.1660へ下落したが持ち直し、引けは1.1710と東京市場朝方と変わらず。

米国株は続伸。関税不透明感のなかでも上昇した。ハイテク株に対して出遅れていた消費関連、景気敏感株が買われた。旅行需要が旺盛との見方から航空株が大幅高となった。

米長期金利は小幅上昇。10年債は4.351%、2年債は3.874%。

週次の失業保険申請件数はまちまちの内容。新規申請件数は227千件と前週233千件から減少したが、継続受給者数は1,965千件と前週1,641千件とほぼ変わらず高止まり。2021年11月以来の高水準で推移したまま。

金曜日の東京市場では日経平均が小反落。米ハイテク株堅調で半導体関連銘柄が買われたが、米関税への懸念が重石。4-6月期決算発表を前に警戒感から上値が重かった。ファストリテイリング社が大幅安となり1社で指数を▲262円押し下げた特殊要因も。引けは▲76円安の39,569円。

為替市場では円が軟調。海外市場に入ると円は一段安となった。ドル円相場は146円20銭で始まり午後には147円20銭へ上昇。その後は147円を挟んで上下したが、欧米市場では147円50銭へ上昇した。その後は147円台前半で推移し引けは147円40銭。

米長期金利上昇がドルを押し上げたが、週末でさらに円売り戻しが進んだ。日米関税交渉の難航、景気悪化懸念が円を下押し要因に。参議院選挙での与党敗北リスクも嫌気された。

ユーロ円相場は171円10銭で始まり朝方171円を割ったがすぐに反発して171円70銭台へ上昇。その後は171円台半ばで上下したが、欧州市場から米国市場にかけて172円台前半に上昇してもみ合い。引けは172円30銭近辺。

ユーロドル相場は引き続き小動きもみ合い横ばい。東京市場では1.17ちょうどで始まりやや押して1.1670~80でもみ合い。欧米市場では1.1680~1.17ちょうどでもみ合い横ばい小動きで引けは1.1690。

米国株は反落。関税への懸念が再燃。企業業績への影響を見極めるべく四半期決算発表前で様子見が強まった。トランプ大統領は対カナダ35%、対ブラジル50%の関税適用を発表した。関税通知は交渉術の一環との見方は多いものの不安は強まった。NYダウは前日比▲279ドル安の44,371ドル、ナスダックは▲45ドル安の20,585ドル。

米長期金利は上昇。10年債は4.412%、2年債は3.893%。

◆今週の3つの注目ポイント


1. 米国の経済指標、ベージュブック

今週は物価指標、消費関連指標、ベージュブック(地区連銀経済報告)がとくに注目される。

火曜日 消費者物価指数(CPI、6月、前月比、予想+0.3、前月+0.1%、前年同月比、予想+2.6%、前月+2.4%、コア、前月比、予想+0.3%、前月+0.1%、前年同月比、予想+3.0%、前月+2.8%) NY連銀製造業景気指数(7月、予想▲10.0、前月▲16.0) 水曜日 生産者物価指数(PPI、6月、前月比、予想+0.2%、前月+0.1%、コア、予想+0.2%、前月+0.1%) 鉱工業生産(6月、前月比、予想+0.1%、前月▲0.2%) 設備稼働率(同、予想77.4%で前月と変わらず)

木曜日 小売売上高(6月、前月比、予想0.0%、前月▲0.9%、除く自動車、予想+0.3%、前月▲0.3%) 週次の失業保険申請件数 フィラデルフィア連銀製造業景気指数(7月、予想▲0.5、前月▲4.0)

金曜日 住宅着工件数(6月、季節調整済み年率換算、予想1,300千戸、前月1,256千戸) ミシガン大学消費者態度指数(7月速報、予想61.3、前月60.7)

また水曜日には地区連銀経済報告(ベージュブック)が公表される。景気物価動向はどうか。景気悪化の程度、関税の物価への影響など、現場の動向がどう報告されるか。

2. 日本の経済指標

日本の景気悪化懸念が台頭するなか、そうした不安を強める数字がみられるか。また物価動向は日銀の利上げスタンスを後押しするか。

月曜日 機械受注(5月、前月比、予想▲1.5%、前月▲9.1%)

木曜日 通関統計(6月、前月、貿易赤字▲6,380億円)

金曜日 消費者物価指数(CPI、6月、総合指数、前年同月比、前月+3.5%、除く生鮮食品、前月+3.7%、除くエネルギー・生鮮食品、前月+3.3%)

3. 中国の経済指標

今週は中国で重要指標の発表が続く。景気懸念が強まるか、まだ底固さを示すか。

月曜日 貿易収支(6月、予想+1,090億ドル、前月+1,030億ドル) 輸出(前年同月比、予想+5.0%、前月+4.8%) 輸入(同、予想+1.3%、前月▲3.4%)

火曜日 小売売上高(前年同月比、予想+5.1%、前月+6.4%) 鉱工業生産(同、予想+5.6%、前月+5.8%) 固定資産投資(同、予想+3.7%前月不変) 4-6月期GDP(前期比、予想+1.0%、前期+1.2%)

ほか、米国企業の4-6月期決算発表が始まる。関税の悪影響はこれからとみられるが、予測も含めて業績動向が注目される。

◆今週のMRA's Eye


外交と政治 足元で強まる円安リスク

足元で円が軟調だ。先週のドル円相場は144円台半ばで始まり週末は147円台半ばまでドル高円安が進んだ。ユーロ円相場も170円台前半から172円台前半に上昇。円は全面安となった。

足元で日本の政治経済動向を巡る先行き不透明感が増していることが要因だろう。

シカゴ通貨先物の円ポジションは先週火曜日時点でネット買い越しが116千枚となり、5月初旬のピーク180千枚から減少傾向が続くなか直近で最少となった。週末にかけてさらに円安が進んだことを踏まえればさらに減少したと予想される。円を巡る不透明感が増したことで円先高観が揺らぎ、手仕舞いがさらに加速するリスクが高まっている。

要因のひとつは外交。日米関税交渉の不調に端を発する景気悪化懸念の台頭だ。

関税交渉はここまで明確な進展がみられず、楽観が後退して次第に不安感が強まっている。トランプ大統領は、日本に対して8月1日から25%の関税率の適用を通知した。

先日は日本に対し30%~35%の税率に引き上げると発言。それよりは低く、当初発表された24%とほぼ同水準なためさほどのサプライズはないが、トランプ大統領が日米交渉の進展が捗々しくないことに対し苛立っていることは明らかだ。

日本は自動車関税の全面撤廃を求めているが米国側は譲りそうにない。事実上、交渉期間が8月1日まで延期されたがそれまでに交渉の進展があるかが焦点。日本経済の先行きに不透明感、ダウンサイドリスクが強まったことは否めず。自ずと日銀の利上げもさらに先送りされる、あるいは来年半ばまで難しいとの見方が台頭。円先高観が揺らぐのは当然だ。

仮に25%の関税が適用された場合にどれほどの景気下押し圧力がかかるか。

様々な試算があるがマイナス成長が2四半期続くとの見方もある。ただ試算は難しい。そもそも関税は誰が負担するのか。日本企業が負担するのか。日本企業が輸出価格を維持して米国側輸入サイドが負担するのか。相半ばとなるのか。また輸出数量がどれほど減少するのか。

日本の輸出総額が減少し貿易赤字が拡大。純輸出がどれほど減少してGDPにマイナス寄与となるか。予測は困難だ。

ただ不透明感そのものは円のリスクをとらない方向に働くことは間違いない。リスクバイアスは景気ダウンサイド、利上げ先送りサイドが強まったことは事実であり、予測や結果がどうなるかにかかわらず、とりあえず円買いポジションを手仕舞う方向に作用する。

もうひとつの円の逆風は政治情勢。来る参議院選で与党大敗のリスクが高まっていると言われる。こちらも結果はふたを開けてみなければわからないが、現時点で不透明感が高まっていることは間違いない。

このところ市場参加者とくに海外勢の関心事は、政治の不安定化による大衆迎合的な傾向の強まり、財政規律の悪化だ。

イギリスでは財政悪化懸念で一時トリプル安が生じポンドが売られた。米国でもトランプ減税による財政悪化リスクをみて米国債が売られた。とくにFRBへの利下げ圧力と財政悪化の組み合わせがトリプル安を招いた。

財政悪化が市場のテーマとなるなか、選挙結果とその後の政策動向によるリスクが高まっている。

選挙結果はなお不透明だが、仮に与党が大敗した場合、党勢巻き返しのために与党内で財政拡大路線が勢いを増すか。石破政権は財政健全維持に軸足を置いてきたが、アベノミクスサイドへの揺り戻しはあるか。日銀に対し政治サイドからあからさまな金利据え置き圧力がかかるか。

すでに日本の超長期国債の利回りは急騰する場面が散見される。その要因は財政悪化による長期金利のさらなる上昇懸念であり、それにともなう需給悪化が背景だ。

財政規律の緩みや日銀への圧力が強まらないか。実際に舵がそうした方向に切られるかはわからない。ただそうしたリスクが意識されるだけで、円への不透明感が強まる。7月下旬から8月初にかけて、円安リスクが高い時間帯となることに留意が必要だ。


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