CONTENTSコンテンツ

米国の雇用情勢と利下げ見通し
  • MRA外国為替レポート

2025年7月7日号

◆先週の市場総括


先週は米国の重要指標に注目が集まった。ISM景気指数は水準としては弱めながらも前月から改善したことで一定の安心感をもたらした。雇用関連指標は強弱まちまちだったが、雇用統計で失業率が低下したことで雇用情勢は足元でさほど悪化していないと受け止められた。

米国株は堅調。関税交渉はカナダが対米デジタルサービス課税方針を撤廃したことで交渉進捗期待が高まった。またベトナムとの関税合意が成立。中国向け半導体設計ソフトの輸出規制を一部撤廃したことも好感された。

またトランプ減税が上下両院で可決されたこともポジティブ材料に。ナスダック、S&P500指数は史上最高値を更新。日経平均も週末にかけて利益確定売りに押されたものの一時4万円台に上昇した。

ドル円相場は144円台前半で始まり米国の弱い経済指標を受けて一時142円台に下落。しかし週末にかけて堅調。雇用統計が良好と受け止められ実質週末取引となった月曜日に円売り戻しが強まって145円ちょうど近辺に上昇し週末は144円台半ばで取引を終えた。

月曜日の東京市場では日経平均が5営業日続伸。2024年7月17日以来11カ月ぶりの高値で引けた。前週末の米国株高を受けて前場に+700円超上昇。ただその後は利益確定売りが上値を抑えた、ドル円相場が143円台に下落したことも重石。自動車関税に関する懸念も懸念された。引けは前週末比+336円高の40,487円。

ドル円相場は144円30銭台で始まり70銭に上昇したあと午後にかけて下落。円高に振れた。夕刻から欧州市場にかけては143円80銭台~144円ちょうどで上下。その後は反発して米国市場では144円50銭に上昇したが押し戻されて引けは144円ちょうど近辺。

ユーロ円相場も同様の値動き。169円30銭台で始まり50銭~60銭でもみ合いのあと夕刻にかけて168円70銭へ下落。その後は反発して米国市場では169円60銭~80銭で上下し引けは169円60銭。

ユーロドル相場は1.1730で始まり東京市場から欧米市場にかけて終始1.17台前半でもみ合い小動き横ばい。米国市場ではユーロ高ドル安に振れて引けは1.18ちょうど。

米国株は3指数そろって上昇。ナスダックは史上最高値を更新した。カナダがデジタルサービス課税を撤廃すると表明。米国とカナダの貿易交渉再開への期待もありハイテク中心に堅調。四半期末の残高調整買いも支え。NYダウは前週末比+275ドル高の44,094ドル、ナスダックは+96ドル高の20,369ドル。

米長期金利は低下。10年債は4.229%、2年債は3.730%。

発表された経済指標は弱めだった。シカゴ購買部協会景気指数(6月)は前月40.5から42.8への改善予想に反して40.4へやや悪化。ダラス連銀製造業活動指数(6月)は前月▲15.8から▲12.7へ改善したものの水準としては弱く予想▲10を下回った。

火曜日の東京市場では日経平均が大幅安。短期的な過熱感で売りが優勢。午後には下げ幅が▲600円を超えた。日米関税交渉が難航しており自動車関連株に売り。期初の益出し売りも下げを加速した。

一方、発表された日銀短観は業況判断の底固さを示し下支え要因。引けは前日比▲501円安の39,986円。発表された日銀短観では、製造業の業況判断DIが悪化予想に反して小幅改善。非製造業はわずかに悪化。中小企業は製造業、非製造業ともにわずかに悪化。総じて懸念されたよりもしっかりだった。

ドル円相場は144円ちょうどで始まり朝方の日銀短観を受けて143円40銭に下落。ただその後は90瀬に反発。欧州市場に入ると円高に振れて142円80銭へ下落して143円手前で上下。米国市場では反発して143円80銭に戻し60銭~80銭で上下。引けは143円40銭。

ユーロ円相場も同様の値動き。169円60銭で始まり30銭に下落したあと60銭に反発したが、欧州市場が始まると168円40銭台へ下落した。米国市場では堅調。169円50銭に持ち直して引けは169円30銭。

ユーロドル相場は終始横ばい圏での値動き。東京市場では1.1780~1.18ちょうどでもみ合い横ばい。欧州市場に入ると1.1820へ上昇したがその後は反落。米国市場では1.1760に押されて引けは1.18ちょうど近辺。米国株はまちまち。ハイテク株は利益確定売りに押されて反落。

一方、上院で減税歳出法案が可決されたことは好感されハイテク以外の株はしっかり。NYダウは前日比+400ドル高の44,494ドル。ナスダックは▲166ドル安の20,202ドル。

米長期金利は小幅上昇。10年債は4.245%、2年債は3.774%。

発表された雇用動態調査(JOLTS求人数、6月)は7,769千人と前月7,391千人から予想7,300千人を上回り大きく増加。早期利下げ期待が後退した。ISM製造業景気指数(6月)は前月48.5から49.0へ改善。ただ雇用指数は46.8から45.0へ、新規受注指数は47.5から46.4へ悪化した。

パウエル議長は7月会合での利下げを否定せずどの会合でも選択肢を除外しないと述べた。トランプ大統領はこの日、交渉が難航する日本に対し30%~35%の関税を課する、と発言した。

水曜日の東京市場では日経平均が続落。日米関税交渉の先行き不透明感が重石。一時▲500円超下落した。ただ午後には下げ幅を縮小。配当金再投資への期待が下支え。引けは前日比▲223円安の39,762円。

ドル円相場は143円40銭で始まり40銭~70銭で上下したあと堅調。欧州市場から米国市場朝方にかけて144円20銭近辺まで上昇した。

発表された米国のADP雇用報告が弱い数字だったことで143円50銭に反落。その後は一時144円台を回復する場面もあったが概ね143円台後半で上下し引けは143円60銭。

ADP雇用報告(6月)は雇用者数前月比が▲33千人減少。前月の+37千人増加の弱い数字のあと、+115千人増が予想されていたが、それに反して減少となった。

ユーロドル相場は東京市場では1.18ちょうどで始まり欧州市場から米国市場にかけて下落し1.1750。ADP雇用報告を受けて1.1790へ上昇したが続かず。1.17台後半で上下して引けは1.18ちょうど近辺。

ユーロ円相場は169円30銭で始まり169円台前半でもみ合い横ばい。欧州市場では一時169円80銭に上昇したがすぐに反落して169円ちょうど近辺へ下落した。その後は169円台前半でもみ合い横ばい、引けは169円40銭と東京市場朝方と変わらず。

米国株はまちまち。この日はハイテク株が一転して反発。ナスダックとS&P500指数は史上最高値を更新した。トランプ政権はベトナムと関税交渉の合意に至ったと発表。関税交渉全般の進展期待が株価を支えた。一方、雇用悪化懸念は重石となった。NYダウは▲10ドル安の44,484ドル、ナスダックは+190ドル高の20,393ドル。

米長期金利は小幅上昇。10年債は4.282%、2年債は3.790%。

木曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに小反発。米ハイテク株高が心理的な支え。円高一服で大型株に買いが入った。ただ日米関税交渉の不透明感は重石。引けは+23円高の39,785円。

ドル円相場は143円60銭で始まり夕刻から欧州市場にかけて143円台後半でもみ合い上下動。米国の雇用統計発表待ち。雇用統計が強かったことをきっかけに円売り戻しで円は全面安。ドル円相場は145円20銭へ急騰。その後は145円を挟んで上下し引けは145円ちょうど。

ユーロ円相場は169円40銭で始まり欧州市場にかけて小幅上昇し169円80銭をつけたあと169円50銭近辺で雇用統計待ち。発表を受けて170円60銭へ上昇し170円台半ばでもみ合い引けは170円40銭。

ユーロドル相場は東京市場では1.18ちょうどで始まり小動きもみ合い横ばい。雇用統計を受けて1.1720へ下落したがすぐに1.1780へ反発し引けは1.1750。

雇用統計(6月)は、非農業部門雇用者数前月比が+147千人と前月+139千人から増加し予想+124千人を上回った。失業率が前月4.2%から4.3%への上昇予想に反して4.1%へ低下した。一方、平均時給は前年同月比+3.7%と前月+3.9%から低下した。労働参加率が62.4%から62.3%へ低下した。

米国株はナスダックとS&P500が連日の史上最高値更新。NYダウも上昇。雇用統計を受けて景気悪化懸念が後退した。半導体ソフトの中国への輸出規制一部解除を好感した。減税歳出法案は下院でも可決され成立した。NYダウは+344ドル高の44,828ドル、ナスダックは+207ドル高の20,601ドル。

米長期金利は上昇。減税法案の可決で財政悪化懸念が金利押し上げ要因に。ISM非製造業景気指数(6月)も前月49.9から50.8へ改善した。ただし雇用指数は50.7から47.2へ悪化した。週次の失業保険申請件数は新規申請が233千件と前月236千件からやや減少したが、継続受給者数は1,964千人と依然として高水準のままだった。

金曜日の東京市場では日経平均が連日の小幅高。朝方は一時4万円の大台を回復。半導体関連等値がさ株が牽引した。一方、日米関税交渉の不透明感は依然として重石。利益確定売り、戻り売りに押された。引けは前日比+24円高の39,810円。

為替市場は米国市場が休場のため終始動意薄で小動き。ドル円相場は145円ちょうどで始まり前日に急速に円安に動いた反動で弱含み。夕刻には144円20銭近辺へ下落した。その後は144円30銭~40銭で動意薄となりそのまま引け。

ユーロ円相場は170円40銭で始まり軟調。夕刻は169円90銭。その後は170円ちょうど近辺で推移し引けは170円20銭。

ユーロドル相場は1.1750で始まり1.1780へじり高となった後小動きとなりそのまま引けた。

◆今週の3つの注目ポイント


1. トランプ関税の動向

7月9日に相互関税の高率適用猶予期間の期限を迎える。現時点で合意したのはイギリスとベトナムだけだが、その他の国に対する猶予を打ち切り、現状の10%からそれぞれ提示していた高率関税の適用に踏み切るか。

日本に対しては当初表明していた24%ではなく、30%~35%の適用を仄めかす発言もみられた。すでに各国に書簡を送ったとの報道もあるが、その中に日本も含まれるのか。

交渉のための猶予が認められず、とりあえず高率関税が見切り発車的に適用された場合の米国経済あるいは他国の経済への悪影響、さらには市場がリスク回避要因と受け止めて金融為替市場に波乱が生じないか。

2. FOMC議事要旨

水曜日に6月のFOMC会合の議事要旨が公表される。同会合では政策金利の変更は見送られた。注目されたのはメンバーの予測だった。利下げ予測の中央値が年内2回と前回3月予測のままだったが年内据え置きとの予測が増えていた。

利下げに一段と慎重なスタンスが見受けられたが議論はタカ派に傾いていたか。7月会合での利下げの可能性は低いとの見方が大勢だが、そうした見方を裏付けるか。また9月会合での利下げの可能性について何らかの示唆があるか。

3. 日本の経済指標

月曜日に景気先行指数・一致指数(5月速報)、火曜日に国際収支(5月)、景気ウォッチャー調査(6月)が発表される。日銀短観では比較的良好な業況判断が示され、関税の悪影響はさほどみられなかった。

引き続き景気の底固さが確認できるか。日銀の利上げに向けた姿勢を支える内容となるか。国際収支統計は需給面から円安圧力が沈静化していることを確認できるか。

◆今週のMRA's Eye


米国の雇用情勢と利下げ見通し

先週は米国で重要な経済指標が発表された。結果は強弱まちまち。とくに雇用関連指標は受け止めかたが分かれた。ただ総じて弱めで雇用に関しても懸念が強い結果だったのではないか。

振り返れば、月曜日のシカゴ購買部協会景気指数は前月から小幅悪化して40.4と弱め。ダラス連銀製造業活動指数は前月からやや改善するも予想を下回る▲12.7と弱め。

火曜日のISM製造業景気指数は前月から小幅改善したが49.0と水準としては景況感の分かれ目50を下回り弱め。内訳の雇用指数は前月から小幅悪化して45.0と弱かった。

一方雇用動態調査(JOLTS求人数、5月)は前月から大きく増加して7,769千人と強い数字だった。しかし水曜日に発表されたADP雇用報告(6月)では雇用者数前月比が▲33千人の減少となり極めて弱い数字だった。木曜日のISM非製造業景気指数は前月から改善して50.8と景況感の分かれ目である50を上回り景況感は持ち直し。

製造業に比べてサービス業は関税の影響を受けにくいということもあろう。ただ内訳の雇用指数は前月の50.7から悪化して47.2と弱い数字だった。そして雇用統計は失業率が前月4.2%から4.3%への悪化予想に反して4.1%へ低下。非農業部門雇用者数前月比は+147千人と前月+139千人から予想+124千人増加へのペースダウン予想に反して加速。これが強めとの解釈がみられた。

しかし失業率の低下は労働参加率が62.4%から62.3%へ低下したことの影響がありそうだ。雇用者数増加も、民間部門だけに限れば増加は前月の+134千人から+74千人へ大きくペースダウン。平均時給は前月比が+0.4%から+0.2%へ、前年同月比が+3.9%から+3.7%へ鈍化している。

週平均労働時間も34.3時間から34.2時間へ減少。詳細をみれば必ずしも強いとはいえず、弱さが散見される。週次の失業保険申請件数も継続受給者数が増加傾向にあり、先週の数字も1,964千人と19万人を上回って高止まりしている。

市場では景気悪化懸念が後退したとされた。しかし雇用市場は着実に悪化したようにみえる。週末にドル円相場は145円ちょうどまで上昇し、雇用統計が強かったからドルが買われたとの説明もあった。

確かにややドルが買われた面もある。ただドルインデックスは前日水曜日の96.78から97.18へ上昇したに過ぎない。雇用統計が強くドルが買われたというにはわずかだ。

加えて、ユーロ円相場も170円台半ばまでユーロ高円安が進んだ。ドル高というよりも円安だ。総合してみれば、米国の雇用情勢に安心感が強まりドルが買われたというよりも、

積み上がっていた円買いポジションの一部手仕舞いが生じたに過ぎないとみるのが妥当だろう。金曜日の米国市場が休場だったことで、木曜日がロングウィークエンドを前にした実質的な週末となったことが大きい。雇用統計は単なるきっかけに過ぎなかったと思われる。

肝心の雇用動向についてはむしろ懸念が強まる指標が多かったのではないか。先週の指標も強かったのは雇用動態調査だけだった。ここからさらに悪化傾向を強める可能性もある。

一連の指標をFRBがどう解釈するか。雇用情勢が弱含みだが、なお景気全体は底固く利下げを見送る余裕があるとみるか。むしろこれから夏場にインフレ率が上昇するリスクがあるとみて様子見姿勢を続けるか。

トランプ減税法案が成立したことも利下げを見送る理由となるか。ただ現時点では、関税による財政面での引き締め効果、利下げ見送りで政策金利が高止まりしていることによる引き締め効果、財政金融両面から景気抑制的な力が働いている。

関税による価格上昇を見越した駆け込み需要の剥落、期待インフレ率の上昇による前倒し消費の剥落、などの反動が生じる可能性もある。雇用情勢に慎重な見方となれば消費性向は低下する可能性もある。

FOMCは7月の会合のあと8月はなく、次は9月となる。8月初に発表される7月の雇用統計が仮に大幅に弱かったとしても、利下げは9月になる。それこそトランプ大統領の言うようにtoo lateとみられるリスクもある。年内2回の利下げ予想が大勢だが、下げ幅が拡大するリスクも視野に入れておく必要がある。

不透明要因は引き続き関税政策も含めた財政政策だ。相互関税の高率適用猶予期間が今週9日に終わる。トランプ大統領は、交渉が不調な相手国に対して、一方的に高率関税の適用を通知する、猶予期間の延長はない、と強硬な姿勢を示しているがどうか。

相手国の経済に大きなダメージが加わるのか、米国に悪影響が跳ね返るのか。グローバルな景気先行き懸念が強まるか。市場のリスク回避が強まる可能性はないか。

いわゆるトランプ減税が成立したが、その景気への影響、財政への影響は来年以降となる。当面は関税動向がイベントリスクとなる可能性にも留意が必要だ。

トランプ政策や米国景気にポジティブなイメージが生じるとは考えにくく、ドル安基調が反転する可能性は少ないのではないか。心理面から金融市場に波乱が生じるリスクには留意。

円相場に関しては、投機的な円買いが積み上がっている状況で、一時的に円安に振れるリスクはある。ただドル円相場については上値が重い状況は不変だろう。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
【MRA外国為替レポート】について