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なおも利下げに慎重なFRBも意見割れる
  • MRA外国為替レポート

2025年6月23日号

◆先週の市場総括


先週はイスラエルによるイラン攻撃に端を発する中東情勢の緊迫で市場が動揺した。当初はある程度織り込み済みとして大きくリスク回避に振れることはなく、株式市場も落ち着いた値動き。

しかし米国によるイラン攻撃の可能性が生じたこと、外交による鎮静化が進展しなかったことは市場心理の重石となった。

為替市場では円安が進行。一方、有事のドル買いはみられず。植田日銀総裁が火曜日に、経済物価の下振れリスクの方が大きい、として利上げに慎重な姿勢を示したことが円を下押し。

火曜日・水曜日に開催されたFOMCではメンバーの政策金利予想が前回からやや上方修正され、予想通りながらもややタカ派と受け止められドルを支えた。

中東情勢緊迫による投機ポジションの手仕舞い、円売り戻しも円安圧力となった。ドル円相場は週初に144円ちょうど近辺で始まりほぼ右肩上がり。週末は146円台に乗せて引けた。米長期金利はリスク回避を受けてやや低下。

米国株は週初こそ上昇したがその後は上値の重い展開となった。日経平均は週央まで堅調で38,800円台まで上昇したが週末にかけて反落し引けは38,400円近辺。

月曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに反発。中東情勢が緊迫を増したが深刻な事態に至らないとの見方やある程度織り込み済みとされ下押しせず。円安ドル高も支えとなった。前週末の欧米株安に逆行高。引けは前週末比+477円高の38,311円。

発表された中国の5月の主要経済指標は、小売売上高が前年同月比+6.4%と前月+5.1%から加速。鉱工業生産は+5.8%と前月+6.1%から減速。失業率は前月5.1%から5.0%へやや低下した。関税の悪影響はさほどみられず。

ドル円相場は144円ちょうどで始まりすぐに70銭台へ急騰。円買いの手仕舞い、円売りが主導。ただ早々に反落して午後には144円ちょうど近辺に押し戻された。

その後欧州市場では144円台前半中心に上下したあと米国市場午前中には143円70銭割れに下落した。米国市場午後には反発急騰して144円90銭へ上昇し引けは70銭近辺。

ユーロ円相場も166円ちょうどから早朝に70銭~80銭へ上昇。その後は反落して40銭~50銭で推移。夕刻から欧州市場にかけては167円20銭へ急騰し米国市場朝方は166円70銭近辺へ下落したが底固く、持ち直して引けは167円30銭。

ユーロドル相場は東京市場では1.1530で始まりもみ合い横ばい。夕刻から欧州市場ではユーロが買われて1.1580台。米国市場朝方にはさらに1.1610へ上昇し引けは1.1560。米国株は主要3指数がそろって上昇。ハイテク株がしっかり。

中東情勢は事態鎮静化を早くも織り込み。イランが防戦一方となったこと、停戦を模索、との報道が支えとなった。

NYダウは一時+500ドル超上昇。引けは+317ドル高の42,515ドル。ナスダックは+294ドル高の19,701ドル。原油価格WTI先物は下落し71.77ドル。米長期金利は小幅上昇。10年債は4.450%、2年債は3.970%。日米首脳会談では関税交渉に大きな進展なく終わった。

火曜日の東京市場では日経平均が続伸。中東情勢への懸念がやや後退。米株高、ドル高円安を支えに上昇。ハイテク株が堅調。一方日米関税交渉が進展しなかったことは重石となった。引けは+225円高の38,536円。

この日、日銀金融政策決定会合は2日目で結果を公表。政策金利は現状維持。国債購入について、現状の四半期ごと4,000億円の減額ペースを、来年4月以降は2,000億円にペースダウンすることを決めた。

植田総裁は会見で、経済物価の下振れリスクが大きい、として利上げに慎重なニュアンスを示した。

ドル円相場は144円70銭で始まり朝方145円台に乗せたがすぐに反落して午後から欧州市場にかけては144円台後半で上下動。その後米国市場にかけて145円20銭台へ上昇し145円を挟んで上下し引けは145円20銭台。日銀の利上げ慎重姿勢とドル高が押し上げた。

ユーロ円相場は167円30銭で始まり167円台前半で上下動。米国市場に入るとユーロ安ドル高に押されて166円70銭~90銭でもみ合い引けた。

ユーロドル相場は東京市場では1.1560で始まり欧州市場にかけて終始1.1550~70でもみ合い小動き横ばい。米国市場では下落して1.1480近辺で引け。ドルインデックスは前日98.14から98.80へ上昇した。米国の軍事介入の可能性が高まりドルがひとまず買われた。

米国株は反落。トランプ大統領がG7を切り上げ国家安全保障会議開催のため帰国。イランに全面降伏を求めた。中東不安が高まり株価は下落。小売悪化も重石となった。NYダウは前日比▲299ドル安の42,215ドル、ナスダックは▲180ドル安の19,521ドル。VIX指数は21.60へ上昇。

原油価格WTIは74.84ドルへ上昇した。米長期金利は低下。10年債は4.390%、2年債は3.951%。

発表された米国の小売売上高(5月)は、前月比▲0.9%と前月▲0.1%から減少幅が拡大。鉱工業生産(同)は▲0.2%と前月0.0%から鈍化した。設備稼働率は前月77.7%から77.4%へ低下。

水曜日の東京市場では日経平均が続伸。円安ドル高を材料に海外短期筋が先物中心に買い。日銀が利上げに慎重との見方が安心感につながった。引けは前日比+348円高の38,885円。

ドル円相場は145円20銭台で始まり40銭に上昇したが午後は軟調で夕刻から欧州市場にかけて145円ちょうどを挟んで狭いレンジでもみ合い横ばい。その後米国市場朝方にかけて144円50銭に下落した。

この日はFOMCの2日目。結果、政策金利は据え置きとなったがメンバー予測がタカ派とみられドルが上昇。145円20銭に上昇して引けは145円ちょうど近辺。

ユーロドル相場は東京市場では1.1480で始まり夕刻にかけて1.1520に上昇したが米国市場朝方は1.1490~1.15ちょうど。狭いレンジでもみ合い横ばいとなった。FOMCを受けて1.1460にユーロ安ドル高に振れたがインパクトを欠き引けは1.1480と東京市場朝方と同水準。

ドルインデックスも前日とほぼ同水準。

ユーロ円相場は東京市場では166円80銭で始まり167円をつけたがその後は166円台後半で上下動。欧州市場から米国市場にかけては166円台後半で上下し、米国市場では166円50銭を挟んでもみ合い横ばいそのまま引けた。

米国株はまちまち。FRBが利下げを急がないとの見方、中東情勢は重石。一方ハイテク株はしっかりだった。NYダウは▲44ドル安の42,171ドル、ナスダックは+25ドル高の19,546ドルで引け。

米長期金利は前日とほぼ変わらず。10年債は4.394%、2年債は3.939%。FOMCの結果は、FF金利誘導水準は現状維持。4.25%~4.50%。

注目のメンバー予測では成長率見通しが3月予測より下方修正され、インフレ見通しは上方修正された。政策金利予測は、今年は2回の利下げ予測が中央値だったが、据え置き予測が3月の4人から7人へ増加。26年は0.25%の利下げ1回に下方修正。27年はそのまま0.25%の利下げ1回。政策金利予測は若干上方修正された。概ね予想通りだったがややタカ派と受け止められた。

声明文で数か月様子見と記されたことから9月の利下げは微妙との見方が強まった。

この日発表された週次の失業保険申請件数は、新規申請が245千人と前週からやや減少したが依然として高い水準。継続受給は前週1,956千人からやや減少し1,945千人だったがしっかりと1,900千人を上回った。

木曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに反落。前日までの上昇の反動、中東情勢への警戒、で利益確定売りが優勢となった。引けは▲396円安の38,488円。

為替市場では総じて円が軟調。ドル円相場は145円ちょうど近辺で始まり夕刻から欧州市場にかけて一貫してドル高円安。145円70銭台まで上昇した。その後は概ね145円40銭~80銭で大きく上下。引けは145円40銭近辺。

この日は米国株式・債券市場が休場となり材料を欠いた。トランプ政権が米軍にイラン攻撃を許可しイランに降伏するよう圧力をかけたことで中東情勢の緊迫、懸念が再び強まった。

ユーロ円相場は166円50銭で始まり20銭に押した後、欧州市場では167円30銭近辺まで上昇した。しかしその後は167円ちょうどを挟んで上下し引けは167円20銭。

ユーロドル相場は東京市場では1.1480で始まり欧米市場にかけて終始1.14台後半で上下して引けは1.15ちょうど近辺。この日、イギリス中銀は金融政策決定会合で政策金利を4.25%で据え置き。決定は支持が6名に対し利下げの主張が3名。

スイス中銀は0.25%から0.00%へ利下げ。スイスフランはゼロ金利となった。

金曜日の東京市場では日経平均が小幅続落。中東情勢を巡り懸念と楽観が交錯。米国の攻撃リスクの一方、交渉の可能性もみえ様子見姿勢が強まった。前日の欧州株安の流れで上値は重かったが個人投資家の押し目買いも見られた。引けは前日比▲85円安の38,403円。

ドル円相場は145円50銭で始まり朝方20銭割れに下落。発表された日本のCPI(5月)は総合指数こそ前年同月比+3.5%と前月+3.6%から低下したが、生鮮食品を除くベースでは+3.5%から+3.7%へ、生産食品とエネルギーを除くベースでは+3.0%から+3.3%へ上昇。日銀の利上げ観測をやや強め円高要因に。ただその後は円高一服、145円台前半で上下動し夕刻は30銭近辺。

欧州市場から米国市場にかけては円安が進行。ポジション手仕舞いの円売り戻しが進んだとみられる。米国市場では145円80銭~90銭で上下したあと146円20銭に上昇し引けは146円10銭近辺。

ユーロ円相場は167円20銭で始まり午後にかけて167円70銭に上昇したあと夕刻に30銭台に反落。しかし欧米市場では一貫して円安が進み米国市場では168円30銭~40銭でもみ合い引けた。

ユーロドル相場は東京市場では1.15ちょうど近辺で始まりその後は小動き。欧州市場を通じて1.1510~30の狭いレンジでもみ合い横ばい。米国市場では1.15ちょうど~40で上下したが水準は変わらず引けは1.1520。

米国株はまちまち。中東情勢については外交による仲介が進むとの期待が高まった。英独仏とイランの協議は目立った進展なく終了。イランは対米強硬姿勢で歩み寄りをみせず。

ただトランプ大統領はイラン攻撃を猶予する姿勢を示した。貿易協議に関連して、トランプ政権が対中半導体規制を強化するとの観測が強まりハイテク株の重石となった。NYダウは前日比+35ドル高の42,206ドル。ナスダックは▲98ドル安の19,447ドル。

原油価格WTIは73.84ドルに上昇。米長期金利は水曜日に比べ小幅低下。10年債は一時4.42%に上昇したが4.378%。2年債は3.906%。FRBウォラー理事は、早くて7月にも利下げは可能、さらに長く待つ必要はない、と利下げに前向きな姿勢を示した。

◆今週の3つの注目ポイント


1. パウエル議長議会証言、FRB当局者発言

パウエルFRB議長は火曜日に下院金融サービス委員会で、水曜日に上院銀行委員会で、議会証言を行う。トランプ大統領は利下げ要求を強めており、議会共和党議員から利下げ要求が相次ぐとみられる。どのように説明し、またどのようなスタンスを示すか。

ウォラー理事は前週末に早期利下げに前向きな姿勢を示した。FRB内では意見が割れているようだがどうか。

ほか、今週は地区連銀総裁らの発言機会も多い。FOMCではメンバー予測数値がややタカ派寄りに修正されたが、いかなる見解を示すか注目される。

2. 米国の経済指標

月曜日 PMI景況感指数(6月速報、製造業、予想51.2、前月52.0 サービス業、予想53.0、前月53.7) 中古住宅販売(5月、季節調整済み年率換算、予想395万戸、前月400万戸)

火曜日 ケースシラー住宅価格指数(4月、前年同月比、前月+4.1%) 消費者信頼感指数(6月、予想99.4、前月98.0) リッチモンド連銀製造業指数(6月、前月▲9)

水曜日 新築住宅販売(5月、季節調整済み年率換算、予想695千戸、前月743千戸)

木曜日 GDP(1-3月期確報)、耐久財受注(5月、前月比、除く輸送機器、予想+0.1%、前月+0.2%) 週次の失業保険申請件数

金曜日 個人所得・消費支出(5月、前月比、予想+0.2%・+0.2%、前月+0.8%・+0.2%) 個人消費支出価格指数(PCEデフレーター、前年同月比、予想+2.3%、前月+2.1%、コア、予想+2.6%、前月+2.5%)

3. 中東情勢

イランへの停戦交渉は長引いている。市場は早期に解決を見込んでさほどリスク回避に振れていなかった。しかし英独仏によるイランとの協議に進展がみられず。

またトランプ大統領がイラン攻撃を許可して待機姿勢なことも懸念を高めている。

トランプ大統領は攻撃の必要はないかもしれない、2週間以内に攻撃するか否か決定する、と圧力をかけている。今週も停戦に向けた進展があるか注目される。

ほか、月曜日には欧州でもPMI景況感指数(6月速報)が、火曜日にはドイツでIFO企業景況感指数(6月)が発表される。このところ欧州の景況感はやや改善しているがどうか。

また今週は米国債入札が行われる。火曜日に2年債、水曜日に5年債、木曜日に7年債が実施される。米国債への投資家の需要はどうか。

国内では金曜日に都区部CPI(6月、除く生鮮食品)が発表されるが、除く生鮮食品で前年同月比+3.3%と前月+3.6%から低下すると予想されているが高い水準が想定されている。

◆今週のMRA's Eye


なおも利下げに慎重なFRBも意見割れる

先週開催されたFOMCでは政策金利(FF金利誘導水準)は4.25%-4.50%で据え置かれた。注目はメンバーの予測。前回3月会合での予測に比べ、成長率は下方修正、インフレ率は上方修正された。

景気悪化・インフレ上昇の併存であるスタグフレーションのサイドに寄ったかたち。関税による悪影響を素直に考慮した数字となった。成長率は25年が1.7%から1.4%へ、26年が1.8%から1.6%へ、27年は1.8%で変わらず。インフレ率は25年が2.8%から3.1%へ、26年が3.4%から3.6%へ、27年が2.0%から2.1%へ。

最も注目されたのが政策金利予測。25年末の中央値は3.9%で3月時点の予測と不変。3.75%-4.00%を示唆し、現状対比では0.25%の利下げを2回との予想。ただ年内利下げなしとしたメンバーの数は、3月時点の4人から7人に増加した。

26年末は前回3.4%から3.6%へ上方修正され利上げは0.25%を1回。27年末は利下げ回数0.25%1回のまま着地水準が3.1%から3.4%に上方修正された。

こうした結果はある程度、事前の市場予想通りとはいえ、ややタカ派と受け止められている。

声明文では経済活動は堅調なペースで拡大を続けており、失業率はなお低く雇用市場の現状はなお堅調なまま、と記された。政策金利を据え置き、現状維持を続ける理由としては相応の表現だ。

しかし経済指標をみると必ずしも強めの数字ばかりではない。景況感指数は、一時は懸念された高率関税の発動がひとまず交渉のための猶予期間が設けられ、トランプ政権の柔軟な姿勢が一定の安心感をもたらしたとみられる。消費者センチメントも期待インフレ率が低下したことで持ち直した。

しかしハードデータである小売売上高や雇用指標には陰りがみられる。小売売上高には関税による価格引き上げ前の駆け込み需要の反動がみられる。今週末には個人所得・消費支出(5月)が発表される。

ここであらためて消費の伸び悩みが確認されるか。一方で、インフレ率がなおも比較的抑制された状況を確認するか。やや上昇しても想定の範囲内となるか。

またこのところ気になるのは週次の失業保険申請件数。継続受給者数がここ数週間確実に1,900千人を超えている。失業率に上昇はみられないものの、足元でじわじわと雇用情勢は緩和している。

またFOMCの声明文と乖離があるのが、それに先立って公表された地区連銀経済報告だ。FOMCにおける政策判断の基礎となる。

今回の報告には前回報告から経済活動はわずかに縮小した、と記されていた。FOMC声明文に比べ経済の見方は明確に弱い。声明文では利下げ見送りを正当化する強めの表現となった可能性もある。

ただ足元の判断が難しいことも事実。関税交渉がなお続いており、その影響を見極めるには夏頃までかかりそうだ。加えて中東情勢の緊迫で原油価格が上昇。その影響が今後どうなるのか趨勢を見極める必要もあろう。

現時点でメンバーの見方が割れるのも当然だ。FOMCメンバー予測では年内利下げなしとの予想が7人に及んだ。

しかし政策判断に一定の影響力を持つとされるウォラー理事は、先週末に早ければ7月の利下げは可能、と発言。労働市場は問題ないが2022年ほどの強さはない、とした。

今後、米国経済には財政金融両方の政策から下押し圧力がかかっている。景気減速や悪化に歯止めをかけるのは利下げか、関税発動の停止ないし減税など財政拡張策の導入が必要だ。

減税法案については進みつつあるが、成立しても効果が発生するのは早くて来年の夏前。中間選挙には間に合うが、今年の景気浮揚には効果はない。

FRBが利下げに前向きとなり、緩慢ながらもドル安圧力がかかる状況は続きそうだ。

一方、足元の不透明感の高まりや、日銀の利上げ慎重姿勢は、投機筋の円売り戻しを強めているとみられる。シカゴ通貨先物の円ポジションは過去最大水準に積み上がったままだ。

短期的なイベントリスクは円安方向であり、足元の円全面安はそうした動きとみられる。その持続性については当面留意する必要はある。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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