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中東情勢緊迫とドル円相場への影響
  • MRA外国為替レポート

2025年6月16日号

◆先週の市場総括


先週は米中関税交渉の動向を見極めながら始まった。交渉は予定より1日延長されたが目立った成果は得られず。5月の合意の順守を確認し関税率はそのまま交渉継続。中国は対米レアアース輸出を6か月の期限を切って許容することとなった。

注目された米国の物価指標ではいずれもインフレ率の落ち着き低下を確認。米国債入札は堅調で米長期金利は低下した。為替市場ではドルが軟調、ユーロが堅調。円は軟調。ドル円相場は一時145円台に乗せたが概ね144円台での推移。

米長期金利低下でドル安円高に推移するなか、週末にかけて中東情勢の緊迫が高まり142円台に下落する場面もあった。引けは144円ちょうど近辺。

米国株は底固く推移していたが、中東情勢緊迫化を受けて週末に大幅下落。日経平均は38,000円台を維持できず週末は38,700円台で引けた。

月曜日の東京市場では日経平均が上昇。前週末の米雇用統計が予想より強めの数字となり、米国株が堅調、ドル高円安に振れたことを好感。一時前週末比+400円高。米中協議の進展への期待も支え。一方、38,000円台では戻り売りが上値を抑制した。引けは+346円高の38,088円。

ドル円相場は144円80銭で始まり144円台後半で上下し一時145円をつけたが反落。午後には144円40銭近辺で推移し欧州市場では144円ちょうど近辺に下落した。その後米国市場にかけて70銭台へ反発。引けにかけては144円50銭を中心にもみ合った。

ユーロドル相場は総じて小動き。1.1390で始まりじり高。夕刻には1.1440へ上昇したが欧州市場では1.1390へ押し戻された。米国市場終盤は1.1420~30で推移し引けた。

ユーロ円相場は165円ちょうどで始まり軟調。夕刻から欧州市場にかけて164円50銭台へ下落した。その後は反発し米国市場終盤は165円10銭~20銭でもみ合い引け。

米国株は小幅な値動き。米中協議の行方を見極めるべく動意薄。そうしたなか輸出規制緩和期待で半導体関連株は堅調だった。NYダウは前週末比▲1ドル安の42,761ドル、ナスダックは+61ドル高の19,591ドル。

米長期金利は小幅低下。10年債は4.471%、2年債は4.003%。発表されたNY連銀調査の期待インフレ率が低下。1年は前月3.63%から3.20%へ、3年は3.00%、5年は2.61%、といずれも低下した。

火曜日の東京市場では日経平均が3営業日続伸。米ハイテク株高が支えとなり半導体関連株が上昇。ただ後場に失速した。引き続き利益確定売りに上値重く、米中協議進展を見極めるべく積極的な売買が手控えられた。引けは前日比+122円高の38,211円。

ドル円相場は144円50銭で始まり日銀植田総裁の発言を受けて一時145円20銭にドル高円安が進んだ。

植田総裁は、基調的な物価上昇はまだ2%まで距離がある、2%に近づく確度が高まれば利上げを実施、と発言。利上げに慎重な姿勢と受け止められ円が売られた。

ただその後は円安一服。ドル円相場は144円40銭に反落したあと欧州市場から米国市場にかけて144円台後半で上下。一時145円ちょうどをつけ引けは144円90銭近辺。

ユーロ円相場は165円10銭で始まり40銭に上昇したあと午後は164円60銭台へ反落。ただその後欧州市場から米国市場にかけて堅調。165円60銭に上昇して引けは165円50銭。株価堅調が支え。

ユーロドル相場は東京市場では1.1420で始まり、その後欧米市場にかけて概ね1.14を挟んでもみ合い横ばい。引けは1.1430。ドルインデックスは前日とほぼ同水準の99ポイントちょうど近辺。

米国株は米中協議が予定より1日長く継続となったことで様子見のなか期待感も。NYダウは前日比+105ドル高の42,566ドル。ナスダックは+123ドル高の19,714ドル。米長期金利はほぼ変わらず。10年債は4.473%、2年債は4.022%。

水曜日の東京市場では日経平均が続伸。米半導体株高を受けて関連株に買い。上げ幅は一時+300円を超えた。ドル円相場は145円台に上昇したことも支え。輸出関連が買われた。一方、米CPI発表前で大きくは動けず。引けは+209円高の38,421円。

ドル円相場は144円90銭で始まり夕方にかけて145円20銭へ上昇。欧州市場から米国市場朝方にかけて40銭台まで上昇した。

ただ発表された米CPIがインフレの落ち着きを示すと米長期金利が低下。144円30銭台へ反落した。その後は145円10銭に反発するなど底固く。144円台後半で上下して引けは144円50銭。

ユーロドル相場は1.1430で始まり小動きもみ合い横ばい。夕刻は1.1440。米国のCPIを受けて1.1490に上昇、ユーロ高ドル安。米国市場引けにかけて1.15へ上昇して引けは1.1490と堅調。ドルインデックスは98.64へ下落した。

ユーロ円相場は165円50銭で始まり底固く午後から欧州市場にかけて166円20銭へ上昇。米CPIを受けて165円70銭に下落したがすぐ反発し166円40銭をつけ、その後は押し戻されて引けは166円ちょうど近辺。

米国株は小幅安。延長されていた米中協議は5月の合意を履行するとの結論のみで具体的な進展はなし協議継続。関税はそのまま。レアアースは中国が対米輸出を6か月間の期限付きで延長となった。

CPIでインフレ率が低下したことを好感したが関税の不透明感は拭えず。NYダウは▲1ドル安の42,865ドル。ナスダックは▲99ドル安の19,615ドル。4営業日ぶりに反落した。

米長期金利は弱めのCPIと10年債入札の好調を受けて低下。10年債は4.422%、2年債は3.955%。

発表された米国のCPI、消費者物価指数(5月)は、前月比が+0.1%と前月+0.2%から上昇が鈍化、前年同月比は2.3%から2.4%へ小幅上昇したが予想2.5%を下回った。コア指数は前月比が+0.1%と予想+0.3%を下回り鈍い上昇にとどまった。前年同月比は前月と変わらず2.8%で予想2.9%を下回った。

木曜日の東京市場では日経平均が5営業日ぶりに反落。米国の関税政策に対する不透明感が再燃した。米中交渉も期待外れ。加えて円高に振れたことも嫌気された。

日本時間朝方、ベッセント財務長官は、相互関税の引き上げ猶予期間90日を延長する考えがある、と報じられた。

しかしその後、トランプ大統領が、一方的に関税率を設定し今後1~2週間の内に各国・地域へ書面を送る、猶予期間延長に必要はない、とし関税引き下げ交渉に否定的な考えを示した。引けは前日比▲248円安の38,713円。

ドル円相場は上値の重い展開。144円50銭で始まり143円70銭に下落したあと144円台では上値重く143円台後半を中心に上下。欧州市場では143円40銭に下落し米国市場朝方にかけては60銭~80銭で推移。

発表された米国のPPI生産者物価指数が弱い数字だったこと、米30年債入札が良好だったことから米長期金利が低下。143円20銭へ下落しその後は90銭に反発するも引けは143円50銭近辺。

ユーロドル相場は東京市場では1.1490で始まり1.1530に上昇したあと1.15台前半でもみ合い。欧州市場から米国市場にかけて一段高となり1.1630へ上昇。その後は反落し1.1570~80でもみ合い引けは1.1590。

ユーロ円相場は166円ちょうどで始まり夕刻にかけて165円50銭近辺へ下落。しかし米国市場朝方にかけて反発し166円70銭に上昇しその後は166円台前半で上下して引けは30銭。ドルが下落、ユーロが堅調だった。

発表された米国のPPI(5月)は前月比+0.1%と予想+0.3%を下回った。コア指数も+0.1%と予想+0.4%を下回った。

週次の失業保険申請件数は新規申請は前週とほぼ変わらず248千件だったが、継続受給が前週1,902千件から1,956千件と大きくぞうかし雇用情勢の悪化を示した。米10年債利回りは4.356%へ低下。2年債も3.910%へ。ドルインデックスは97.92へ下落した。

米国株は反発。オラクル社の決算でAI需要が堅調であることが示されハイテク株に買い。長期金利の低下も下支えとなった。NYダウは関税に対する不安が再燃し朝方から▲250ドルほど下落したが持ち直し。引けは+101ドル高の42,967ドル。ナスダックは+46ドル高の19,662ドル。

金曜日の東京市場では日経平均が続落。下げ幅は一時▲600円に達した。イスラエルがイランの核施設を攻撃。中東不安が高まった。原油価格上昇による業績下押し圧力が懸念された。

またトランプ大統領が自動車輸入関税を引き上げるとの報道も重石。ドル安円高に振れたことも株価を下押した。引けは▲338円安の37,834円。

ドル円相場は143円50銭で始まり朝方142円80銭に下落。ただその後は下げ止まり。リスク回避によるポジション手仕舞いで溜まっていた円買いが売り戻され円安が進んだ。

昼すぎには143円80銭に上昇し143円台後半で上下。欧州市場にかけて続伸し144円40銭台へ上昇した。その後米国市場にかけて円売りは一服。144円台前半で上下し引けは144円10銭。

ユーロ円相場は166円30銭で始まり朝方165円割れ。しかしその後は夕刻から欧州市場にかけて円安が進み米国市場朝方には166円60銭まで上昇した。その後は166円台前半で上下して引けは166円50銭。

ユーロドル相場は東京市場では1.1590で始まり1.1610に上昇したあと1.1510へ反落。その後は1.1560に上昇し1.15台前半で上下。欧州市場では1.1490近辺に押したが持ち直し米国市場では1.1570へ反発して引けは1.1550近辺。

ドルインデックスは小幅上昇して98.14。米国株は大幅下落。中東情勢の緊迫でNYダウは一時▲800ドル安。原油価格は急騰しWTI先物は一時77ドルに急騰し引けは73.18ドル。株価を圧迫した。

NYダウは▲769ドル安の42,197ドル、ナスダックは▲255ドル安の19,406ドルで引けた。

米長期金利は小幅上昇。リスク回避でも買われず。10年債は4.40%、2年債は3.95%。

発表されたミシガン大学消費者態度指数(6月速報)は前月52.2から52.0へ小幅悪化予想に反して60.5へ大幅改善。期待インフレ率の低下が後押し。1年が前月6.6%から5.1%に低下した。

◆今週の3つの注目ポイント


1. FOMC(米連邦公開市場委員会)、パウエル議長会見

火曜日・水曜日の2日間にわたりFOMCが開催される。結果は日本時間木曜日未明3時に発表。その後パウエル議長が定例会見を行う。

今回、政策金利(FF金利誘導目標)は4.00?4.25%で据え置きと予想されている。注目はメンバーの景気物価金利予測。なおも関税交渉は途上にあるが、インフレへの警戒感は緩和したか、景気見通しに警戒感がみられるか。

政策金利予測、年内および来年の利下げはどのように予測されているか。景気見通しが下方修正され、あるいは利下げ回数の増減はどうか。

2. 日銀金融政策決定会合、植田総裁会見

FOMCに先んじて月曜日・火曜日の2日間にわたり日銀金融政策決定会合が開催される。終了後に植田総裁が定例会見を実施。今会合では政策金利は据え置きと予想される。

トランプ関税の影響がなお確定的にみえないが、インフレ率は高止まりを続けている。植田総裁は基調的なインフレ率は2%にまだ距離があるとしたが、全体の判断はどうか。植田総裁の会見を含め、年内利上げの確度を探ることになる。

3. G7サミット(首脳会議)、日米首脳会談

15日日曜日から17日火曜日までG7サミット首脳会議がカナダで開催される。それに際して日米首脳会談も開催される予定。日米交渉に明確な進展がみられるか。リスク選好を回復させるような結果が得られるか。

ほか、火曜日の米国の小売売上高が火曜日、木曜日の週次の失業保険申請件数、に注目。月曜日には中国の5月の重要指標、小売売上高、鉱工業生産、固定資産投資、が発表される。

水曜日には日本の貿易収支(5月)が発表される。また今週はスウェーデン、スイス、ノルウェー、イギリス、など欧州の中央銀行の政策金利決定会合が相次ぐ。

◆今週のMRA's Eye


中東情勢緊迫とドル円相場への影響

先週末、イスラエルがイランの核施設を爆撃したのを機に両国の対立が深まり中東情勢がにわかに緊迫してきた。明確かつ当然の反応としては原油価格上昇、株価下落、金相場の上昇。一方、債券、為替への影響は明確ではない。

債券相場、長期金利の反応は、リスク回避と株安の流れからは、債券への資金流入、長期金利低下となる。また「有事のドル買い」というかねてからのセオリーもありドル高も想定されやすい。

加えてリスク回避の円買い・円高、との見方もある。ただこれに現状での問題やポジションを加味するとそれほど単純ではない。

リスク回避で米国債が買われるかどうかは微妙な面もある。まずリスク回避となった場合には、株式から債券への資金シフトもあるが、より安全な預金や短期債への資金シフトが生じる可能性がある。

米国債のなかでもリスクの低い短期債に資金が流れ、リスクプレミアムが上乗せされる長期債は相対的に敬遠され、10年債利回りなどより長期の金利は低下しにくい。さらに米国が当事者となるかどうかも左右する。

仮に米国が介入姿勢を強めてイスラエルに加担し軍事支援をした場合、財政支出の拡大が想定される。このところ米国の財政悪化、米国債の格下げが市場の注目を浴びるなか、とくに長期の米国債への資金流入は限定的となる可能性がある。

その結果、米長期金利はリスク回避のなかでも低下せず、横ばいか、状況次第で上昇圧力を受け、いわゆる悪い長期金利上昇となるリスクがある。この場合は株価にはダブルでマイナスとなる。

原油価格上昇や輸送コスト上昇による企業業績圧迫懸念に加え、長期金利上昇による株価の相対評価の悪化によって下押し圧力が加わる。紛争の成り行きとともに、米国の関与度合いに今後も留意が必要だろう。

為替市場では「有事のドル買い」といわれてきた。ただこれは、米国が国際社会において主導的な立場を維持し国際協調を司っている状況を根底に生まれた言葉だ。

現在のトランプ政権のもとでは、米国自らの外交政策スタンスによって、そうした地位が弱まっている。独自の立場で紛争に介入した場合には紛争当事者となり米国の安全性は損なわれる。有事のドル買い、リスク回避のドル買い、が成立しにくくなるため、ドル高となる可能性はかつてに比べれば低い。

また最近の投資家のスタンスからしても、投資資金をドルに避難する、という行動にはなりにくいとみられる。

米国ひとり勝ち観測から投資資金のアロケーションにおけるドル資産比率を高めたところから、このところ修正の動きがみられた。トランプ関税や米財政赤字拡大、米国景気悪化懸念、などから、いわゆる「ドル離れ」が生じている。

これは積極的にドル資産を売りアンダーウェートにする、というより、オーバーウェートし過ぎたところからの修正と考えられる。ただ、そうした動きのなかで、今回のイベントでリスク回避によりドル資産比率を高めるかは疑問だ。

ドル資産の比率を下げている傍らで中東緊迫化によりドル資産へ資金を振り向けるということにはならないだろう。米国の投資家は自国回帰、リパトリエーションにより海外資産からドル資産に戻すということはありうるが、そこまで危機的な状況でなければ、ドルに戻すまでは至らないだろう。

円に関しては、円高になる可能性はまた低い。日本の投資家がリスク回避的となり外貨ポジションを落とすかどうか。また投機筋が為替市場で円売りポジションをとっており手仕舞い円高となるか。

後者に関しては、足元でシカゴ通貨先物の投機ポジションをみると、円買いがなお高水準に積み上がったままだ。

かつては恒常的に円売りが積み上がっていたためにリスクイベントは円買い戻し、円高となった。しかし現状は真逆であり、リスクイベントによる手仕舞いは円売り、円安となりやすい。投機ポジションをみるかぎり、リスク回避の円高、が生じる可能性は低そうだ。

一方、日本の投資家がリスクポジションを抑制する可能性はある。ただ事態がさほど深刻化しなければ、リパトリエーション=自国回帰による円高が生じるまで距離がある。

紛争が長期化した場合、中期的な実体経済や対外収支面からは円安圧力となる可能性がある。原油価格が上昇した場合、日本の貿易収支は悪化し、また国内景気が悪化することによって日銀の利上げが後ずれするリスクがある。

この側面を相場に織り込むのはまだ先の先だが、そうした円相場への波及経路は頭に入れておく必要はあろう。

結論として、当面、円が独歩高となる可能性は低いが、トランプ政権の出方次第でドルには下落圧力がかかる可能性がある。

ドルと円の力関係、あるいは、中東情勢緊迫によるリスクバイアスは、ややドル安円高サイド、ということになりそうだ。あとはトランプ関税の行方と同様、事態の進展やそれに伴う影響を吟味していく漸進的なアプローチをとらざるを得ない。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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