短期的なドル高円安リスク
- MRA外国為替レポート
2025年6月9日号
◆先週の市場総括
先週は週初に米中首脳会談を近々行うと報じられ米中貿易摩擦の緩和期待が強まったリスク選好が強まった。具体的な成果としては、閣僚級協議を近々実施すると伝えられた。
これを受けて米国株は堅調に推移。為替市場ではドル高円安が進んだ。
米国で発表された重要指標はまちまち。ISM景気指数は弱かった一方、雇用関連指標は強弱まちまち。ただ最も注目された週末の雇用統計は予想より強め。米長期金利は週末に上昇。米10年債利回りは4.5%に乗せて引け。
ドル円相場は週初に142円台後半に下落したが週後半にかけて反発。週末は145円ちょうど近辺に上昇して高値引け。ユーロ円相場も週初の163円台前半から週末には165円ちょうど近辺へ上昇。
ECB理事会は事前の市場予想通り7会合連続で0.25%の利下げを実施。中銀預金金利を2.25%から2.00%へ引き下げた。ただ今後の利下げは関税の影響を見極めるべく一時停止の可能性が示唆された。
日経平均は米国株が底固く推移したこと、円安ドル高が支えとなり、37,000円台後半で推移した。
月曜日の東京市場では日経平均が続落。米中貿易摩擦激化への懸念、関税強化の動きが嫌気された。トランプ政権が対中ハイテク規制拡大との報道で週末の米ハイテク株が下落。それを受けて半導体関連株が売られた。鉄鋼・アルミ関税強化の動きも下押し。引けは前週末比▲494円安の37,470円。
為替市場では米中対立・関税強化・株安を受けてドル安・円高が進んだ。ドル円相場は143円80銭台で始まり早々に30銭台へ下落。60銭へ持ち直すも夕刻から欧州市場にかけて軟調となり142円80銭~143円ちょうどで推移。
米国市場に入ると発表されたISM製造業景気指数(5月)が弱めの数字となり一段安。142円50銭台へ下落した。その後は下げ一服。一時143円ちょうどへ戻し引けは142円70銭近辺。
ユーロドル相場は1.1350で始まり1.13台後半で上下したあと夕刻から欧州市場にかけて1.1430へ上昇。ユーロ高ドル安。その後は1.14台前半で推移してISMを受けて1.1450へ続伸した。その後は上昇一服。1.14台前半で上下して引けは1.1440。
ユーロ円相場は163円20銭で始まり163円台前半で推移。夕刻から欧州市場にかけて162円80銭へ下落した。ただその後は反発して米国市場では163円40銭へ上昇し引けは163円20銭。
米国株は下落して始まるも持ち直し。米中対立を嫌気したが、週内に米中首脳会談が行われるとの報道に交渉進展期待が強まった。またトランプ政権が6月4日までに交渉に関する最善の提案をするように各国に求めているとの報道も交渉進展期待を強めた。
一方、ISM指数が予想より弱かったことは重石。NYダウは前週末比+35ドル高の42,305ドル、ナスダックは+128ドル高の19,242ドル。
米長期金利は小幅上昇。10年債は4.439%、2年債は3.937%。
米国のPMI製造業景気指数(5月)改定値は速報52.3から52.0へ下方修正。ISM製造業景気指数(5月)は前月48.7から49台への改善予想に反して48.5へ悪化した。内訳の雇用指数は46.5から46.8へ改善したがわずかで依然として50割れ。新規受注指数は47.2から47.6へ改善したが同様。
火曜日の東京市場では日経平均が小幅下落。朝方は米国株が底固かったことからしっかり。植田総裁が利上げを急がない姿勢を示したことも支え。一時+200円高。しかし米重要指標が相次ぐことから様子見姿勢も強く利益確定売りが上値を抑えた。引けは▲23円安の37,446円。
植田総裁は、景気は一部に弱さがみられるが緩やかに回復している、としつつ、景気物価の改善がなければ無理に利上げをするつもりはない、将来の利下げ余地を設けるための利上げはしない、と述べた。ただ利上げ継続スタンスそのものは変えず。
為替市場では植田発言を受けて円安に振れた。ドル円相場は142円70銭で始まり40銭に下落していたが143円20銭に反発。その後は上値重く143円ちょうど近辺で推移し夕刻には142円60銭に反落。しかし欧州市場から米国市場にかけて円安が進み144円10銭まで上昇した。その後は144円近辺で上下して引け。
ユーロ円相場は163円20銭で始まり植田発言を受けて70銭へ上昇。その後幽谷にかけて反落し一時162円80銭へ。ただドル円相場と同様米国市場にかけて堅調となり163円70銭~90銭で上下し引けは163円80銭。
ユーロドル相場は1.1440で始まり上値重く夕刻は1.1420。その後米国市場ではさらに下落して1.1370~80でもみ合い引けた。ドルが堅調。
米国で発表された雇用動態調査(4月、JOLTS求人数)は前月7,192千人から7,100千人へ減少予測に反して7,391千人と強い数字だった。米長期金利が上昇しドルを支えた。10年債は4.456%、2年債は3.957%。
米国株は主要3指数がそろって上昇。米中貿易摩擦の改善期待が支え。ハイテク株がしっかり。半導体関連株が買われた。NYダウは+214ドル高の42,519ドル、ナスダックは+156ドル高の19,398ドルで引けた。
水曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに反発。米半導体株高、円安を受け、ハイテク株中心に上昇。精密機器、電機、機械、も買われた。一時前日比+400円高。前日までの下げで押し目買いが支え。引けは+300円高の37,747円。
ドル円相場は144円ちょうどで始まり143円70銭に下落したあと午後に144円30銭近辺に上昇した。その後も143円80銭に下落したが米国市場朝方は144円30銭。
発表された米国の経済指標に弱い数字が続くと142円60銭近辺まで大きく下落。その後は下げ止まり70銭~90銭で上下して引けは142円80銭近辺。
ユーロドル相場は1.1370~80でもみ合いのあと1.1360へ緩やかに下落。欧州市場に入ると1.14ちょうどに上昇したあと米国市場朝方は1.1370台。米国の弱い数字を受けて1.1430台へユーロ高ドル安に振れてもみ合い引けは1.1420。
ユーロ円相場は163円80銭で始まり夕刻にかけては143円70銭~144円ちょうどで上下し欧州市場では164円20銭へ上昇。米国市場ではドル円相場の急落に連れて下落し163円ちょうど近辺でもみ合い引けた。
米国株はまちまち。発表された米国の経済指標が弱く重石となった。利下げ期待が強まったことでハイテク株はしっかり。NYダウは▲91ドル安の42,427ドル、ナスダックは+61ドル高の19,460ドルで引けた。
米長期金利は低下。10年債は4.357%、2年債は3.868%。発表された米国のADP雇用報告(5月)は雇用者数前月比が+37千人と前月+62千人からさらに減少し予想+110千人を大きく下回り労働市場の緩和を示した。
ISM非製造業景気指数(5月)は前月51.6から52.0への改善予想に反して49.9へ悪化し景況感の分かれ目である50を下回った。雇用指数は前月49.0から50.7へ改善したが新規受注指数が52.3から46.6へ大きく悪化した。
公表された地区連銀経済報告(ベージュブック)では、前回調査から経済活動はわずかに縮小、見通しはわずかに悲観的、とされた。この日、トランプ大統領は弱い経済指標を受けて利下げを要求した。
木曜日の東京市場では日経平均が下落。米国の経済指標が弱く米国株が下落、円高も重石となった。自動車ほか輸出関連株が下落。一方、値がさ半導体関連の一角は買われた。海外短期筋が先物に買い。引けは前日比▲192円安の37,554円。
ドル円相場は堅調。142円80銭で始まり早々に50銭台に下落したが夕刻にかけて143円40銭へ上昇した。その後は143円ちょうど~30銭で上下。米国市場で発表された週次の失業保険申請件数が予想より多かったことから142円80銭へ下落、米中首脳会談が電話で実施されたと伝わると143円60銭へ急反発。
ただ、すぐに143円割れに反落と乱高下。その後は143円90銭台へ戻して引けは50銭台。
発表された週次の失業保険申請件数は新規申請が247千件と2週連続で増加。継続受給件数は1,904千件と前週につづいて1,900千件を超えた。一方、貿易収支(4月)では赤字が前月の▲1,405億ドルから▲616億ドルへ大きく減少した。
ユーロドル相場は1.1420で始まり小動き。1.1410~20の狭いレンジで推移しECB理事会の結果待ち。ECB理事会では事前予想通り預金ファシリティ金利が2.25%から2.00%へ0.25%引き下げられた。利下げは7会合連続。ただ利下げサイクルの終了に近づいた可能性があるとして一時停止を示唆した。
これを受けてユーロドル相場は1.1490台へ上昇。しかしその後は反落して1.1430~40で推移して引けた。
ユーロ円相場は163円ちょうど近辺で始まり夕刻は163円60銭へ上昇。その後は40銭~60銭でECB会合の結果待ち。結果を受けて上昇基調が強まり164円60銭へ。その後は上昇一服し引けは164円30銭近辺。
米国株は下落。米中首脳会談が電話で行われ、早期に閣僚協議を実施するとされたことは期待感を高めた。しかしイーロン・マスク氏が減税法案の廃案を主張してトランプ大統領と激しく対立。テスラ社の株価が大きく下落。また経済指標の弱さも重石となった。
NYダウは前日比▲108ドル安の42,319ドルで引け。ナスダックは▲162ドル安の19,298ドル。米長期金利は小幅上昇。10年債は4.393%、2年債は3.928%。
金曜日の東京市場では日経平均が反発。米中貿易摩擦緩和への期待、それを受けた円安ドル高の進行、を受けて一時前日比+200円高。
日米関税交渉を巡ってはこの日6日朝方に赤沢大臣が米国側と交渉。6月中旬のG7サミットに際して実施とみられる日米首脳会談で一定の合意に至るとの期待も支えとなった。けは+187円高の37,741円。
ドル円相場は143円60銭台で始まり夕刻にかけて上昇し144円20銭近辺を上値にもみ合い。米国市場に入ると発表された米雇用統計が強かったことからドル安円高が進んだ。145円台に乗せ144円60銭台~145円近辺で上下。引けは144円80銭~90銭。
ユーロドル相場は1.1440で始まり60に上昇したが上値重く1.14台前半で推移。米雇用統計を受けて1.1370へユーロ安ドル高。しかし下落も一服。1.14ちょうど近辺で推移して引けた。
ユーロ円相場は164円30銭で始まり50銭を挟んで上下動横ばい。欧州市場に入ると一時80銭に上昇したがすぐに反落。その後は堅調に推移して165円30銭に上昇し165円台前半でもみ合い引けは165円10銭近辺。
米国で発表された雇用統計(5月)は、非農業部門雇用者数前月比が前月+177千人から+139千人に増加しやや予想より多め。失業率は4.2%で前月と不変、平均時給は前年同月比+3.9%と前月+3.8%から+3.7%へ上昇率鈍化予想に反して伸びが加速した。総じて予想よりやや強めの内容となった。
米長期金利は上昇。10年債は4.514%、2年債は4.037%。米国株は上昇。雇用統計が強めの数字となり景気懸念が後退。早期利下げ観測が後退し米長期金利が上昇したのは重石となったが、米中関税交渉の進展期待が支えとなった。
NYダウは前日比+413ドル高の42,762ドル、ナスダックは+231ドル高の19,529ドルで引けた。VIX指数は16.77ポイントまで低下した。
◆今週の3つの注目ポイント
1. 米国の経済指標
今週は物価指標に注目。水曜日に消費者物価指数(CPI、5月、前年同月比、予想+2.5%、前月+2.3%、コア、同、予想+2.9%、前月+2.8%)、木曜日に生産者物価指数(PPI、同、前月+2.4%、コア、前月+3.1%)が発表される。
CPIは関税の影響、企業の価格転嫁により、前月から上昇率がやや加速すると予想されている。どの程度の影響が顕在化するか。また川上のPPIはより顕著な数字がみられるか。市場の利下げ期待を後退させる数字となるか。
木曜日には週次の失業保険申請件数(前週、新規申請247千人、継続受給、1,904千人)が、金曜日にミシガン大学消費者態度指数(6月速報、予想52.0、前月52.2)および期待インフレ率が発表される。雇用や消費への懸念が強まるか。
2. 米中関税閣僚級協議
引き続きトランプ関税に関するニュースに振らされる展開が続く。今週9日月曜日から米中関税閣僚級協議が行われる。何らかの進展、とくに具体的な成果が明らかになるか。トランプ大統領は成果を急ぎ、中国側はさほど急がずとみられるがどうか。継続協議でも市場の期待感は継続するとみられる。
3. 日本の経済指標
月曜日にGDP(1-3月期改定値)が発表される。速報は前期比年率+0.7%。修正は下方・上方いずれかあるか。また国際収支統計(4月)が発表される。
貿易収支は▲1,000億円程度の赤字予想。経常収支は2兆6,000億円程度の黒字予想。ほか、サービス収支の動向、および直接投資、証券投資の動向、それによる円の需給変化に注目。
同じく景気ウォッチャー調査(5月)が発表される。街角景気の景況感に底固さはみられるか。
◆今週のMRA's Eye
短期的なドル高円安リスク
依然として市場はトランプ関税を巡るニュースに振らされる展開が続いている。最大の注目は米中関税・貿易摩擦の行方。先週は両首脳が電話会談を実施。閣僚級協議を再開することが報じられた。9日月曜日から米中閣僚が協議を行う。
米国の重要指標が一巡したあと、市場の関心が集まりそうだ。
極めて高率の関税が提示されたあと大幅に引き下げた猶予期間を設け交渉を続けるトランプ大統領のやり方に、市場は慣れてきた。最悪事態を懸念したところから、何らかの合意に対する期待が醸成されている。
具体的な成果がみられればプラス要因。ただ米国側の譲歩がみられなければ中国側も安易な合意には応じないとみられる。交渉は難航しそうだ。
ただこのまま猶予期間が延長され交渉継続でも市場の前向きな受け止めは続きそうだ。市場の反応を気にしながら、あるいは交渉の決裂により成果が得られないことも回避したいとのトランプ大統領の姿勢は市場に見透かされている。
交渉継続だけでも交渉進展期待が維持され、リスク回避を防ぎ、リスク選好を支えて株価を支える可能性がある。交渉進展のため関税が抑制された猶予期間が長引くだけでも景気悪化懸念を抑制し、米長期金利を高めに維持。為替市場ではドルが底固く推移する要因となりそうだ。
今週からFRBは6月17日・18日に開催されるFOMC前のブラックアウト期間に入るため当局者からの発言はみられない。先週までの発言からは、一部はなおもインフレを懸念して利下げに慎重な姿勢が垣間見られた。
年内の利下げは否定せず、といった消極的な利下げ容認ともとれる発言もあった。米国経済はなお底固く推移しているとの見方が大勢のようだ。
その結果、市場の利下げ期待も後退している。FRBの慎重スタンスに市場の大幅な利下げ期待が擦り寄るかたちで修正された。
今週発表されるCPI、PPI、は前月からやや上昇率が高まると予想されている。その通りの結果なら利下げ期待は後退したまま、金利面からはドルを下支えすることになりそうだ。
注目された雇用関連指標は、大トリの雇用統計(5月)が予想よりやや強めの数字となり、それまでに発表された弱い数字による市場の景気悪化懸念が一服した。
景気悪化基調は続いているとみられるが、足元まではそれほど大崩れしていないことが確認された。
ただ依然として雇用悪化への警戒感は怠れない。
週次の失業保険申請件数は増加している。足元で数週間にわたり継続受給が1,900千人を超えた状態が続いている。ADP雇用報告でも雇用者数増加は+37千人と前月+67千人からさらに減少し2ヵ月連続で100千人を切る低水準となった。
一方で1ヵ月遅れて発表される4月の雇用動態調査における企業側の求人数は比較的高水準にあり、市場の不安感は抑制されたが、次回の数字が注目される。
一方、ISM景気指数は関税交渉の開始・継続で企業景況感の改善が期待されていたが、結果は逆に前月からやや悪化となり弱めの数字だった。関税の影響が相対的に小さいとみられる非製造業でも、総合指数と新規受注指数が50を割り込んだ。
公表されたベージュブック(地区連銀経済報告)では、前回調査から経済活動はわずかに縮小した、見通しはわずかに悲観的、とされた。大きな悪化はみられなかったものの、悪化傾向であることには変わらない。
関税が当初懸念より抑制された状況が続けばプラスだが、財政健全化の議論のなかで支出拡大には大きな期待は持てず、利下げが先送りとなる状況では景気浮揚のきっかけはない。
急激な景気悪化や景気後退の可能性は低下したが、メインシナリオは緩やかな景気悪化でいずれソフトランディングといったところか。
目先は米中関税交渉の継続、米長期金利の高止まり、でドル円相場は目先底固く推移する可能性がある。短期的な材料に反応し、円買いポジションの調整が一時的な円安をもたらすリスクがる。
メインシナリオ、大きな流れは緩やかなドル安円高で不変だ。リスクシナリオは現時点ではダウンサイドよりアップサイドが大きくなっている。主因は関税交渉の進展、関税政策の修正転換のリスクが以前より増している。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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