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市場心理と実体経済のタイムラグ
  • MRA外国為替レポート

2025年5月19日号

◆先週の市場総括


先週は週初には米中関税交渉のひとまずの合意をうけてドル高・円安・株高が進んだ。ドル円相場は前週末の145円台前半から146円台前半へ跳ねて始まり月曜日の海外市場で148円台半ばまで急騰。

米国株は急騰してNYダウは1,000ドルを超える上昇、ナスダックも700ドルを超える上昇となった。しかしその後株価は週末にかけて落ち着いた値動き。

米国の経済指標がインフレがなお落ち着いていることを示し、個人消費の鈍化や消費者マインドの悪化を示したことで長期金利上昇が一服。ハイテク株が支えられた。

ドル円相場は週末にかけてドル安円高。前週末~週初の水準まで押し戻され引けは145円台半ば。週末には米国債格下げが発表され市場に影を落とした。

日経平均は米ハイテク株の堅調やドル高円安を好感して38,000円台を回復したが、戻り売りや利益確定売りに上値重く、その後為替相場がドル安円高方向に押し戻されたこともあり週末の引けは37,700円台。

月曜日の東京市場では日経平均が米中関税協議の進展期待で上昇。半導体関連や機械関連銘柄が買われた。TOPIXは12営業日連騰。日経平均は前週末比+140円高の37,644円で引けた。

米中協議結果は東証引け後に判明。米国が中国製品への関税を90日間145%から30%へ、中国が米国製品への関税を125%から10%へ、それぞれ大幅に引き下げることを合意、と発表された。

為替市場では結果を受けて夕刻から大きくドル高円安に振れた。ドル円相場は朝方146円20銭にややドル高円安に振れて始まった。その後145円70銭~146円20銭で上下し夕刻は146円ちょうど近辺。米中協議の結果判明後148円20銭に急騰。その後は一時147円60銭に押したが148円60銭に続伸した。米国市場では148円台前半を中心に上下し引けは148円40銭。

ユーロドル相場はややユーロ安ドル高に振れて1.1190で始まり、その後はやや持ち直して1.1220~40でもみ合い。米中協議結果を受けて1.1080へユーロ安ドル高。その後は1.1140へ反発したが1.1170台へ下落するなど1.11を挟んで方向感なく上下し引けは1.1090。

ユーロ円相場は163円70銭で始まり164円ちょうどへ上昇。その後やや反落したが164円20銭へ続伸。午後は164円を割り込んでいたが協議結果を受けて164円60銭台へ上昇。その後一時164円90銭に続伸したが米国市場では伸び悩み、引けは164円60銭近辺。

米国株は大幅高。3指数そろって上昇。NYダウは1,000ドルを超える急騰。米中がひとまず合意したことで投資家心理が改善。ディフェンシブ銘柄のみ下落。トランプ大統領が薬価引き下げ令に署名したことで医薬品銘柄は下落。ハイテク関連の上昇が目立った。

引けはNYダウが前週末比+1,160ドル高の42,410ドル。ナスダックは+779ドル高の18,708ドル。VIX指数は18.39へ低下。米長期金利は上昇。10年債は4.47%、2年債は4.012%。ドルインデックスは101.78へ上昇。

火曜日の東京市場では日経平均が大幅高。米中関税協議でひとまずの合意、米国株が大幅高となり一時前日比+800円高に上昇。大型株に買いが入った。引けは+539円高の38,183円。TOPIXは13連騰。

ドル円相場は148円40銭台で始まり147円70銭に下落。その後は147円台後半で上下。午後から欧州市場、米国市場朝方にかけては堅調で148円20銭まで上昇した。

発表された米国のCPIでは警戒されたインフレ率上昇はみられず。米長期金利はやや低下。米国市場ではドルが全般に軟調。ドル円相場は下落して147円台後半で上下したあと引けは147円50銭。

ユーロドル相場は1.1090で始まり1.11ちょうど~1.1120でもみ合い小動き横ばい。米国市場ではユーロ高ドル安。引けは1.1190。ドルインデックスは100.94ポイントンへ下落。

ユーロ円相場は164円60銭で始まり下落して164円10銭~30銭でもみ合い。夕刻は30銭~40銭でもみ合い。欧州市場から米国市場にかけてはユーロ高円安となり165円20銭に上昇。NY引けは165円ちょうど近辺。

発表されたZEW景況感指数(5月)はドイツが前月▲14.0から25.2へ、ユーロ圏が▲18.5から11.6へ大幅に改善。米国で発表されたCPI(消費者物価指数、4月)は、前年同月比が+2.3%と前月+2.4%から小幅低下、コア指数は同+2.8%で前月と変わらず。警戒された関税の影響は表面化しなかった。

米国株はまちまち。CPIでインフレが顕在化しなかったことは好感されたが個別材料で上下。ユナイテッドヘルス社の株価が大幅安となったことがNYダウを下押した。引けは前日比▲269ドル安の42,140ドル。ナスダックは+301ドル高の19,010ドル。米長期金利はほぼ横ばい。10年債は4.47%、2年債は4.00%。

水曜日の東京市場では日経平均が小幅下落。5営業日ぶりの反落。米ハイテク株高を受けて堅調も38,000円台では利益確定売り、戻り売りが上値を抑えた。ドル高円安の一服も重石。引けは前日比▲55円安の38,128円。

ドル円相場は147円50銭で始まり40銭~60銭で上下したあと上値の重い展開。147円ちょうどへ下落し147円を挟んで上下。夕刻から欧州市場にかけて145円60銭近辺へ急落した。その後米国市場にかけては上下しながら持ち直し。米長期金利上昇が支え。一時147円を回復したが引けは146円70銭近辺。

ユーロドル相場は1.1190で始まり1.1180~1.12ちょうどの狭いレンジでもみ合い横ばい。欧州市場では1.1260へ上昇したがその後は反落して米国市場引けは1.1180。

ユーロ円相場は165円ちょうど近辺で始まり午後にかけて164円30銭へ下落。その後欧州市場では80銭へ反発したが上値重く、米国市場では164円を中心にやや値幅大きく上下動し引けは163円90銭近辺。

米国株はまちまち。ハイテク関連、半導体関連株が買われて全体を牽引した。トランプ大統領がサウジアラビアを訪問しAI関連のビジネスをとりまとめ。サウジアラビアへAI関連輸出を増加することで合意したことが好感された。ナスダックは上昇し前日比+136ドル高の19,146ドル。

ダウは引き続きヘルスケアが重石。長期金利上昇も嫌気された。引けは▲89ドル安の42,051ドル。米長期金利は上昇。10年債は4.544%、2年債は4.059%。ドルインデックスは小幅高の101.11ポイント。

木曜日の東京市場では日経平均が続落。一方的な上昇で38,000円台を回復してきたあとで利益確定売りが優勢。一時▲500円安。ドル安円高も重石となった。ただ中長期的先高観が支えとなった。引けは▲372円安の37,755円。

ドル円相場は前日に続き上値の重い値動き。翌週のG7財務相会合に併せて日米財務相会合が開催されることから再び円安是正への思惑が強まった。東京市場では146円70銭で始まり午後は10銭~20世でもみ合い、夕刻には145円50銭へ下落した。

欧州市場にかけては146円10銭へ反発したが上値重く、米国市場では145円台後半~146円ちょうどで上下して引けにかけては145円60銭~70銭でもみ合い。

ユーロ円相場は163円90銭で始まり、やや下落して夕刻から欧州市場にかけては30銭~50銭で上下。米国市場では162円80銭に続落し163円では上値重く引けは162円80銭台。ユーロドル相場は1.1180で始まり底固く、1.12ちょうどを中心に上下。米国市場では1.1170~90で推移し引けは1.1190。

米国株はまちまち。生産者物価指数(PPI)を受けてインフレ懸念が後退し米長期金利が低下。株価を支えた。NYダウは前日比+271ドル高の42,322ドル、ナスダックは▲84ドル安の19,112ドル。

米10年債利回りは4.431%、2年債は3.954%へ低下。

発表された米国のPPI(4月)は前年同月比+2.4%と前月+2.7%から低下して予想+2.5%を下回った。コア指数も前月+3.3%から+3.1%へ低下した。

小売売上高(4月)は前月比+0.1%と前月+1.4%から大きく減速。鉱工業生産(同)は前月比0.0%と前月▲0.3%から持ち直したが予想+0.3%には届かず。設備稼働率は前月77.8%から77.7%にやや低下した。

NY連銀製造業景気指数(5月)は前月▲8.1から▲9.2へやや悪化。フィラデルフィア連銀製造業景気指数(5月)は▲4と前月▲26.4から改善した。

金曜日の東京市場では日経平均が前日とほぼ変わらず▲1円安の37,753円。米ハイテク株が軟調だったことを受けて半導体関連株が売られた。円高ドル安も重石。輸出関連が下落して一時▲250円安。一方押し目買いが支えとなり下げ幅を縮めた。

ドル円相場は引き続き上値重く推移。145円60銭台で始まり午前中に一時145円を割り145円台前半で上下。夕刻には再び144円90銭へ下落した。その後欧州市場にかけて持ち直し145円70銭に上昇。米国市場終盤にかけては146円ちょうど近辺でもみ合い、引けにかけて下落して145円60銭台。

ユーロドル相場は小動き。1.1190で始まり午後にかけて小幅高1.1220へ上昇したあと欧州市場では1.1190~1.12ちょうどでもみ合い。米国市場では1.1130に下落したあと引けは1.1160。

ユーロ円相場は162円80銭台で始まり162円台後半~163円ちょうどで上下。米国市場で162円50銭近辺に下落し引けは60銭近辺。米国株は上昇。連日下落していたユナイテッドヘルス社が急反発してダウを押し上げ。

一方、ミシガン大学調査で個人消費への懸念が強まり上値を抑えた。NYダウの引けは+331ドル高の42,654ドル、ナスダックは+98ドル高の19,211ドル。

米長期金利は利下げ織り込みの後退で上昇。また格付け会社ムーディーズ社が米国債の格付けを最上位のAAAからAA1へ1段階格下げしたことも影響した。10年債利回りは4.482%へ、2年債は3.997%へ上昇、債券価格は下落。

発表されたミシガン大学消費者態度指数(5月速報)は前月52.2から50.8に悪化。期待インフレ率は1年が6.5%から7.3%へ、5年が4.4%から4.6%へそれぞれ上昇した。

ほか、住宅着工件数(4月)は季節調整済み年率換算で1,361千戸と前月1,324千戸からやや増加。輸入物価指数(4月)は前月比+0.1%と前月▲0.1%からプラスとなり予想▲0.4%を上回った。

◆今週の3つの注目ポイント


1.G7財務相会合、日米財務相会合

20日火曜日から22日木曜日まで3日間、カナダにおいてG7財務相会合が開催される。併せて日米財務相会合も行われる予定。米国からはトランプ大統領に関税交渉を一任されているとみられるベッセント財務長官が出席。

会合での議論はどうなるか。トランプ大統領はあらたな関税率を提示すると発言しているが、この場で明らかになるか。

また日米財務相会合ではいかなる議論がなされるか。市場では為替相場に関する議論があるのではないか、円安是正に関して何らかの議論があるか、注目されているがどうか。

2.PMI景況感指数

木曜日にPMI景況感指数(5月速報)が発表される。関税への懸念はなお残るものの、交渉進展への期待などで景況感は持ち直しが見込まれている。

ユーロ圏製造業は予想49.3、前月49.0、サービス業は予想50.5、前月50.1。

ドイツ製造業は予想49.0、前月48.4、サービス業が予想49.5、前月49.0。

一方、米国の製造業は予想49.8、前月50.2と悪化予想。サービス業は予想51.1、前月50.8とやや改善が見込まれている。

3.日本の経済指標

関税の影響が顕在化するか。水曜日に通関統計(4月)が発表される。貿易収支は予想+2,150億円の黒字、前月は+5,440億円の黒字。

輸出は前年同月比、予想+2.0%、前月+4.0%から伸びが鈍化する予想。輸入は予想▲4.5%、前月+1.8%から減少に転ずる見込み。

木曜日に機械受注(3月、前年同月比、予想▲1.8%、前月+1.5%)、金曜日に消費者物価指数(CPI、4月、前年同月比、予想+3.6%、前月+3.6%、除く食料品・エネルギー、予想+3.0%、前月+2.9%)が発表される。

ほか、今週はFRB当局者発言が相次ぐ。月曜日に、ボストン、アトランタ、ダラス、各連銀総裁、およびジェファーソン副議長が、火曜日にアトランタ、サンフランシスコ、クリーブランド、セントルイス、各連銀総裁が、木曜日にNY連銀総裁が、発言する。

景気物価および金融政策に対する見方考え方はどうか。月曜日には中国で小売売上高、鉱工業生産、など重要指標が発表される。

◆今週のMRA's Eye


市場心理と実体経済のタイムラグ

先週は米中関税交渉における一旦の合意を受けて市場心理が改善。株価は上昇しドル円相場は一時148円台半ばまで上昇した。ただ市場は次第に、合意慣れ、してきたようだ。

先週のドルインデックスの上昇幅は限定的だった。

ドル円相場は週末には145円台半ばへ押し戻された。米中合意が伝わる前の水準、米英間で最終的な関税合意が成立して上昇したあとの水準だ。あるいは日銀の利上げ先送り観測が強まった5月1日の水準でもある。

円相場に関しては、なおもG7財務相会議に際し実施される日米財務相会合で、円安是正について何らかの議論があるのではないか、との思惑が足元で円買いを促している可能性もある。

何ら議論がなければ円安方向へ反発する可能性もあろう。短期的にはなお大きなブレがありそうだ。

市場はなお関税交渉の行方を見守る時期にある。最終的に相互関税が一部10%適用から大幅な水準への引き上げを猶予している90日間、7月初までは落ち着かないだろう。

交渉によってこのままとなるのか、10%から幾分でも引き上げることになるのか。それによって経済への影響も異なってくる。

米中交渉は90日間の猶予期間が設けられ、互いに100%を超えて適用されていた関税は大幅に引き下げられた。ただそれでも米国の対中関税は30%。消費財がほとんどなだけに、米国の小売業あるは個人消費への影響は懸念される。

関税交渉を巡る状況変化、それに応じた景気懸念の強弱のブレで、市場心理のアップダウンは激しい。一方で実体経済はそれほど上下していない。景況感などソフトデータは企業心理や消費者マインドが関税交渉の行方に影響されるため上下する。ただ実体経済の変化は緩やかだ。

悪影響の顕在化は、とくに生産や企業業績、個人消費にこれから顕在化するとみられる。市場心理の感応度やブレ幅と実体経済の動向にはタイムラグや振れ幅に大きな差がある。

FRBのスタンスは市場心理ほどにはブレないだろう。市場の利下げ織り込み幅のブレほどのスタンス変化はなく、また利下げのタイミングは市場の織り込みより後ずれする可能性がある。

市場心理の推移を振り返ると最悪の織り込みから緩和へと向かっており、今はどこまで楽観してよいのか手探りの状況だろう。まずは高率の相互関税適用方針が決定された際に最悪を織り込んだ。

スタグフレーション懸念が強まり、またトランプ大統領の金融政策への介入姿勢で金融市場は混乱した。そこから90日間は10%に据え置かれることとなり過度な懸念が緩和。さらに交渉開始、米英合意で一定の安心感がもたらされた。

米国経済に影響が大きいとみられる米中交渉が始まったことも安心感につながった。

さらに、トランプ大統領が関税交渉をベッセント財務長官に一任したとみられることも大きい。

トランプ大統領は株安や長期金利の上昇、ドル急落が自分の手に負えないと考えたのだろう。市場の混乱を避けながら、相互関税の交渉や決着を図ろうということだろう。

これを信ずるなら、市場が混乱する可能性は少ない。またベッセント長官は強いドルを志向しているとみられ、少なくともドル安を積極的に促すことはない。トランプ大統領がドル安志向との見方は封じられたとみてよい。

ただ米政権がドル安を志向しないことと、実際にドルが下落することは別だ。市場の安心感とは裏腹に、今後、米国経済に悪影響が顕在化する局面になるとみられる。

市場心理の悪化と改善によるドル急落と反発という局面は終わり、ここからは米国のファンダメンタルズの悪化に応じた緩やかなドル安局面に入る可能性がある。

ドルインデックスは現在100ポイント近辺にある。実績値として90ポイント程度までであれば自然体でのドル安は容認されるだろう。

関税による財政緊縮と抑制的な金融政策によって、米国経済の悪化基調は続くとみられる。関税が現状から引き下げないし撤廃されない限り、トランプ就任前よりも財政は緊縮的で景気下押し圧力をかけ続ける。景気下支えは大幅な金融緩和に委ねられている状況だ。

景気悪化とインフレの落ち着きで利下げが実施されるようなら、景気持ち直し期待が生じても金利面でのドル安圧力は続くとみられる。

一方、財政政策が大きく転換し緊縮から拡大へ向かえば景気を浮揚する。この場合利下げは躊躇され、ドルは堅調に推移する可能性がある。

ただ現時点で議会は減税に否定的。共和党内でも財政規律の観点から反対意見が多い。このタイミングでムーディーズが米国債を格下げしたことも一定の歯止めとなりそうだ。財政政策の転換は確度の低いシナリオにみえる。

現状の流れに大きな変化がなければ緩やかなドル安円高が続くとみられる。ドル円相場は年末に140円程度まで下落するとの見方がメインシナリオだ。

リスクシナリオは関税を含めた財政政策の転換。ドルは堅調に推移しよう。ただこの場合は日銀の利上げを先送りする理由はなくなり、円安に一定のブレーキをかけることになる。145円~150円で定着し堅調に推移するとみられるが、155円までドル高円安再燃の可能性は低いとみる。


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