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関税交渉進展でも残る景気悪化リスク
  • MRA外国為替レポート

2025年5月12日号

◆先週の市場総括


先週は注目されたFOMCで政策金利は予想通り据え置き。パウエル議長は引き続き様子見姿勢を強調し利下げに慎重なスタンスは変わらず。一方、トランプ関税に関しては交渉の進展への期待が週末にかけて高まった。

米中交渉が週内に行われると報じられ、週末10日・11日にスイスで行われることが明らかに。また米英交渉が合意。トランプ大統領が中国の出方次第としつつも対中関税率を引き下げる意向を明らかにしたことで、関税交渉への期待が高まった。

米中対立の緩和期待が高まり、世界経済悪化懸念が後退。リスク回避が緩和。株価は週央以降に底固く推移。と同時に週後半はドルが堅調。株価堅調に応じて円は売り戻された。

ドル円相場は週初から軟調で日本の連休中に142円台まで下落。ただその後週末にかけては急騰し一時146円をつけ週末の引けは145円台前半。ドルインデックスは100ポイント台半ば。ユーロ円相場は火曜日に一時161円台半ばに下落したが週末にかけて反発し163円台半ばで引け。

日本株は堅調。連休明けの日経平均は3連騰で週末は37,500円台で引け。TOPIXは11営業日連騰で引けた。

月曜日の東京市場は休場。為替市場では円が堅調。アジア通貨全般も対ドルで買われた。ユーロ円相場は163円60銭で始まり欧州市場早々では163円目前。

さらに米国市場では162円60銭近辺へ下落して引けた。ドル円相場は144円70銭で始まり145円ちょうど近辺で推移したあと下落して144円台前半で上下。米国市場朝方には143円50銭台へ下落した。

発表された米国のISM非製造業景気指数が予想より強めの数字だったことで144円ちょうどに反発。その後は144円を挟んで上下して引けは143円70銭台。

ユーロドル相場は1.13ちょうど近辺で始まり1.13台半ばに上昇したが上値重く、1.13台前半で上下し米国市場朝方は1.1360。強めの米国の経済指標で1.13ちょうど近辺に下落して引けは1.1320。

米国の経済指標は、サービス業PMI(4月改定値)は速報51.4から50.8に下方修正された。一方、ISM非製造業景気指数(4月)は前月50.8から51.6に改善し予想50.4を上回った。雇用指数は46.2から49.0へ、新規受注指数は50.4から52.3へ、それぞれ改善。米長期金利は小幅上昇。10年債は4.349%、2年債は3.841%。

米国株は下落。関税への警戒感が依然として重石。トランプ大統領が海外勢映画にもあらたに関税をかける旨発言したことも嫌気。一方、強めの経済指標は一定の安心感をもたらした。NYダウは前週末比▲98ドル安の41,218ドル、ナスダックは▲133ドル安の17,844ドル。

ベッセント米財務長官は、関税・減税・規制緩和で来年の今頃までに米国の成長率は3%を回復する、と述べた。

火曜日も東京市場は休場。アジア時間のドル円相場は143円70銭台で始まり144円20銭台に上昇したあと押し戻され午後は143円70銭台で推移。その後チャートポイントをドル安円高方向に抜けると欧州市場では142円90銭へ下落。さらに142円40銭割れに下落した。

米国市場ではドル安円高一服。143円ちょうどに反発したあと142円40銭に反落して引けた。

ユーロ円相場も同様。162円70銭で始まり40銭に下落したあと90銭に上昇していたが、ドル円相場と同様に夕刻から欧州市場にかけて急落し161円60銭。米国市場では持ち直して162円ちょうどを挟んで小幅に上下してそのまま引けた。

ユーロドル相場は1.1320で始まり1.1280に下落したあと1.1350へ上昇。その後夕刻から欧州市場にかけては1.13台前半で上下。米国市場では1.13台後半に上昇して引けは1.1370。米国株は3指数そろって続落。米国経済や企業業績への警戒感が重石。NYダウは▲389ドル安の40,829ドル、ナスダックは▲154ドル安の17,689ドル。

発表された米国の防衛機収支(3月)は過去最大の赤字。関税前の駆け込み輸入が主要因。トランプ‐カーニーの米加首脳会談では目立った進展なく反論の応酬。

トランプ大統領は再びカナダを米国の1州として併合する意思を表明。この日はFOMCの1日目が開催された。今会合では金利据え置き予想。この時点で市場の6月利下げ織り込みは3割強。

水曜日の連休明けの東京市場では日経平均が小幅下落。8営業日ぶりの反落。連休中の円高ドル安進行で輸出関連銘柄が売られ相場全体の重石に。米中関税協議を週内にスイスで開催するとの報道で上昇する場面もあったが、交渉過程や具体的な引き下げ幅がまだ不透明なことで買いが続かず。引けは連休前比▲51円安の36,779円。

為替市場では朝方円安に振れた。朝方に米中関税交渉を週内に実施と報じられドル円相場は142円40銭から143円30銭に上昇。その後は142円70銭台に押したが143円を中心に上下し夕刻は142円80銭台。

欧州市場では143円40銭に上昇して20銭~40銭で上下動。米国市場では143円60銭に上昇してFOMCの結果待ち。FOMCでは予想通り政策金利FF金利誘導水準は4.25%~4.50%で据え置き。経済は堅調なペースで拡大を続けている、インフレは幾分上昇、とされた一方、経済見通しの不確実性がさらに高まった、とされた。

結果を受けてドル円相場は一時143円割れに下落。しかしすぐに持ち直し、パウエル議長の会見144円ちょうどに反発して引けは143円80銭。パウエル議長は経済動向を見極め続けると様子見姿勢を強調し利下げに慎重なスタンスを示した。

ユーロドル相場は東京市場では1.1370で始まり朝方下落して1.1330~50でもみ合い。欧州市場では1.1370台でもみ合った。FOMC前には1.1330近辺。その後は1.1360に上昇したあと1.1290に下落し引けは1.1310。

ユーロ円相場は162円ちょうどで始まり朝方162円50銭に上昇したが162円ちょうどに反落。その後夕刻にかけては163円ちょうどへ上昇。欧州市場では162円60銭~163円で上下しFOMC前は162円40銭。FOMC前後は162円台後半で上下したあと引けは162円60銭。

米国株は上昇。FOMC直後には下落したがパウエル会見後に持ち直し。NYダウは前日比+284ドル高の41,113ドル。ナスダックはマイナス圏から持ち直し+48ドル高の17,738ドルで引け。米長期金利は10年債利回りがやや低下して4.269%、2年債はほぼ変わらず3.782%。

木曜日の東京市場では日経平均が反発。トランプ大統領が貿易に関する会見を同日の米国時間午前中に行う、と報じられたことで関税交渉の進展期待が高まった。米国株が堅調だったことも支え。半導体関連株がしっかり。ただ37,000円の大台を前に利益確定売りが上値を抑制した。引けは+148円高の36,928円。

ドル円相場は143円80銭で始まりやや下げて50銭~70銭で上下したあと関税交渉進展期待が支えとなりドル高円安が進行。欧米市場にかけて一本調子に上昇し、夕刻は144円40銭近辺、欧州市場では145円ちょうどに上昇。

米国市場では144円50銭に押したあと再び上昇して一時146円10銭台をつけた。引けは145円90銭。

トランプ大統領は会見でイギリスとの関税合意を発表。また中国との交渉で関税率を引き下げる可能性がある、株を買うべきだ、と発言した。また、中国が一部の米国製品に対し非公式で適用除外にしている、と報じられた。

ユーロドル相場は東京市場では1.1310で始まり上値重く夕刻には1.1270へユーロ安ドル高。その後米国市場では1.1310へやや反発したが引けにかけて下落して1.1230。ドルインデックスは100.63ポイントへ上昇した。

ユーロ円相場は162円60銭で始まりもみ合い横ばいののち、欧州市場にかけて上昇して163円30銭~60銭。その後も底固く米国市場引けは163円80銭。

米国株は上昇。米英関税合意、米中交渉の進展期待が支え。半導体輸出規制の緩和を検討との一部報道も好感された。NYダウは前日比254ドル高の41,368ドル、ナスダックは+189ドル高の17,928ドル。米長期金利は上昇。10年債は4.382%、2年債は3.88%。ドルを支えた。

金曜日の東京市場では日経平均が大幅高。米英関税合意、米中交渉の進展期待、対中関税大幅引き下げとの報道、などを好感。

貿易摩擦激化への懸念が緩和、世界景気悪化への過度な懸念が後退。日本企業の決算で自社株買いなどの姿勢に変化がなかったことも下支え。引けは+574円高の37,503円。TOPIXは11営業日連騰となった。

ドル円相場は145円90銭で始まり146円10銭台に上昇したあとは145円台後半で上下動。夕刻にかけては下落して欧州市場では145円10銭~40銭で上下した。米国市場では144円80銭台へ続落。引けにかけては持ち直し145円30銭台で取引を終えた。

ユーロドル相場は1.1230で始まり1.12へ下落したあと持ち直して欧州市場は1.1240~60で上下横ばい。米国市場では1.1290へ上昇したあと反落して引けは1.1250。ドルインデックスは小幅下落して100.42。

ユーロ円相場は東京市場では163円80銭で始まり午後から欧州市場は163円30銭~50銭でもみ合い横ばい。米国市場では163円台半ばで推移し引けは163円50銭。

米国株は上昇一服。米中関税交渉を前に様子見姿勢が強まった。トランプ大統領は、対中関税は145%ではなく80%が適正にみえる、と述べたが、ベッセント財務長官次第で中国側からの対応が必要とした。

引き下げの可能性もあるがなお高水準。NYダウは▲119ドル安の41,249ドル。ナスダックはほぼ変わらずの17,928ドル。

米長期金利は前日とほぼ変わらず。10年債は4.382%、2年債は3.895%。

◆今週の3つの注目ポイント


1. 米国の経済指標

ここから4月のハードデータが本格的に出始める。関税によるインフレ圧力が顕在化するか、駆け込み需要の反動が表面化するか。

火曜日 消費者物価指数(CPI、4月、前月比、予想+0.3%、前月▲0.1%、コア、予想+0.3%、前月+0.1 %)

木曜日 生産者物価指数(PPI、4月、前月比、予想+0.3%、前月▲0.4%、コア、予想+0.3%、前月▲0.1%) 小売売上高(4月、前月比、予想+0.0%、前月+1.4%) NY連銀製造業景気指数(5月、予想▲8.0、前月▲8.1) フィラデルフィア連銀製造業景気指数(5月、予想▲9.5、前月▲26.4) 鉱工業生産(4月、前月比、予想+0.3%、前月▲0.3%) 設備稼働率(同、予想77.9%、前月77.8%) 週次の失業保険申請件数

金曜日 住宅着工件数(4月、季節調整済み年率換算、予想1,368千戸、前月1,324千戸) 輸入物価指数(4月、前月比、予想▲0.4%、前月▲0.1%) ミシガン大学消費者態度指数(5月速報、予想53.0、前月52.2)

2. 欧州の経済指標

欧州の中央銀行は景気懸念から利下げに前向きだ。経済指標に弱さが散見されるか。

火曜日 ZEW景況感指数(5月、ドイツ、前月▲14.0、ユーロ圏、前月▲18.5)木曜日 ユーロ圏鉱工業生産(3月、前年同月比、前月+1.2%) ユーロ圏GDP(1-3月期)改定値

3. 日本の経済指標

月曜日 国際収支(3月、経常収支、予想、黒字3兆7,800億円、前月、黒字4兆60億円) 景気ウォッチャー調査(4月、現状判断DI、予想44.5、前月45.1)

水曜日 国内企業物価指数(4月、前年同月比、予想+4.0%、前月+4.2%)

金曜日 GDP(1-3月期、前期比年率、予想▲0.4%、前期+2.2%)

ほか、木曜日にパウエル議長が発言する。

◆今週のMRA's Eye


関税交渉進展でも残る景気悪化リスク

先週は関税交渉の進展で市場の過度な懸念が後退。ドルは買い戻され、また、円は売り戻され、ドル円相場は一時146円を回復した。米英関税交渉が合意に達したこと、米中関税交渉が始まることで米中対立緩和が期待された。

こうした材料に反応する市場心理に着目すると、相場の局面は変化したとはいえそうだ。しかし過度な懸念が緩和したまで。実体経済への悪影響がなくなったわけではない。景気の急速な悪化、景気失速、景気後退懸念がやや緩和したところまで。景気悪化基調には変わらない。

トランプ関税発動前にすでに米国景気は減速基調にあった。ノーランディング期待もあったが、ソフトランディング期待に下方修正。トランプ政権発足で再びノーランディング期待が高まり、市場心理は大きくリスク選好に傾いた。

米国株は堅調、米長期金利は景気堅調によるインフレ高止まり観測を受けて上昇。米国経済ひとり勝ち観測が強まるなか、ドルもまたひとり勝ち、ドル独歩高となった。

しかし関税が発動されると状況が一変。一転して景気懸念とインフレ懸念がともに高まり、スタグフレーション懸念が台頭。とくに対中関税が145%になるなど米中対立の激化もあり、米国経済がひとり負けするのではとの観測が強まった。

ドル独歩高期待の反動もありドルは独歩安に。さらに、トランプ政策の不透明感、度重なる利下げ要求やパウエル議長への批判や退任要求など金融政策への介入によるFRBの独立性の侵犯は市場に混乱を招いた。米国株は急落、米長期金利はいわゆる悪い金利上昇となり、金利上昇と逆行してドルは急落。トリプル安となった。

現状はその修正過程にある。関税政策に修正の動きがみえたことで、柔軟な姿勢を好感して過度な懸念が後退した。なおも利下げ要求は繰り返されているが、パウエル議長の退任要求は撤回し、口先介入程度にとどまっている。

この状況ではトリプル安が再燃する可能性は低い。トリプル安でドルが急落したが、その前の水準までドルがリバウンドするのは理にかなっている。

ただトリプル安も、そこからのリバウンドも、過度な懸念とその緩和という市場心理の変化によるもの。実体経済の動きとは乖離している。

トランプ大統領は関税交渉進展でも10%の関税は維持すると述べている。相互関税による高率関税適用まで90日間の猶予期間・交渉期間を設けたが、交渉次第でさらなる引き上げ幅が全額か一部となるか、ということだ。関税導入前の世界に戻るわけではない。

関税すなわち財政緊縮が続き、さらに緊縮度合いが激化するか、緩やかに留まるか。金融政策面では、トランプ関税の不透明感、期待インフレ率の急上昇を受けてFRBが利下げに慎重姿勢を続け、インフレ率対比で実質金利がプラス圏で景気抑制的な状況が続いている。

財政金融政策は景気抑制的なままだ。この状況では景気悪化が続くとみるのが妥当だ。

景気底打ち回復の鍵は、関税によるインフレ圧力の一巡、期待インフレ率の低下と、FRBの利下げが鍵となる。トランプ減税は追加的に減税が実施されるのではなく、現状の減税継続に留まる。プラスには働いているが新たな景気刺激策となるわけではない。

急速な景気悪化から緩やかな景気減速の可能性が高まったところまで。米国経済の大混乱の可能性から通常の景気悪化まで。ただ景気減速の度合いはトランプ就任前より依然として強まっている。

FRBパウエル議長は利下げに慎重姿勢を維持している。5月のFOMC後の定例記者会見ではwait and see という言葉を何度も繰り返した。一方、市場では年内の利下げを3回ないし4回織り込んでいる。

利下げ幅にして合計0.75%から1.00%に達する。次回6月の会合での利下げ織り込みは3割程度。メインシナリオは7月、9月、12月、のようだ。3月会合でのメンバー予測では年内利下げは2回が中央値で、市場の織り込みとのギャップはさほど大きくない。

ただ利下げ開始が後ずれする、ないし、6月会合での利下げスタンス次第で、市場の織り込みとのギャップが大きくなれば、市場が混乱するリスクがある。

6月に発表される経済指標は4月ないし5月の数字。今月に発表される数字も含め、関税導入後の影響が顕在化するとみられる。

これまではソフトデータすなわち企業景況感や消費者心理の悪化が中心だったが、小売売上高や鉱工業生産さらには雇用などハードデータが悪化を示す可能性がある。関税交渉の進展があればソフトデータは急激な悪化から回復する可能性があるが、市場心理と同様、過度な懸念から持ち直すところまで。心理が好転するまでは至らないと予想される。

ドル円相場はひとまず140円割れからリバウンドした。シカゴ通貨先物の投機ポジションは、最新の5月6日時点の数字で177千枚と過去最大の円買い越しを維持している。日銀の利上げ先送りは円買いの解消にはさほど寄与していない。

その後の先週末にかけての関税懸念の緩和、市場心理の改善にともない円は売り戻され、円買い越し幅は減少したとみられる。

ただ米国景気減速、想定される利下げとドル金利先安観が続くなかでは、基本的にはドル売り円買いが維持されるとみられる。

市場の織り込みや期待のブレで円が売り戻され一時的に円安に振れる局面はありうる。

しかしファンダメンタルズがトランプ関税前に戻るわけではないことをベースにみれば、ドル円相場が145円~150円に定着する可能性は低いとみられる。140円~145円での定着、さらには140円割れを再び試す可能性があるとの見方がメインシナリオとなる。

米国景気の悪化に歯止めがかかるとしても、その要因が利下げであればシナリオは変わらない。リスクがあるとすれば関税も含めた財政政策の変化による景気浮揚。関税の撤廃、追加的な減税、など財政支出拡大に政策が大転換する場合は本格的にドル高へ反転する可能性がある。ただ今のところその可能性は低く、発生確率の低いリスクシナリオにとどまる。


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