目先の注目はトランプ政策から経済指標へ~ドル高円安は一時的か
- MRA外国為替レポート
2025年4月28日号
◆先週の市場総括
先週はトランプ政権に政策修正の姿勢がみられ市場のリスク回避が緩和した。先週末にトランプ大統領がFRBパウエル議長の解任を検討していると報じられ米金融市場の混乱が深まるとの見方で始まった。
トランプ大統領からはパウエル議長をさらに批判。週初の米国市場では再びトリプル安に。さらに為替市場では日米財務相会合を前に、円安の修正が議論されるのではないか、との思惑からドル円相場は一時140円を割り込んだ。
しかしその後、ベッセント財務長官が中国との対立は持続不可能と述べたことで対中関税の緩和期待が高まった。またトランプ大統領はパウエル議長を解任するつもりはない、と発言。軌道修正ともとれる発言に市場の不安は後退。米中対立をはじめとする関税への懸念が後退し、交渉進展への期待が高まった。
米国株は大きく反発。NYダウは週初に大きく下げたあと週末にかけて2,000ドル近く上昇。堅調に推移した。
木曜日の日米財務相会談では為替相場は議論されなかった、と加藤財務相が会見。リスク回避の緩和、米株高、ドル不安の後退、円高懸念の緩和、などでドル円相場は一時144円をつけ週末は143円70銭。ドルインデックスは前週末と変わらず99ポイント台半ば。日経平均はリスク回避全般の緩和、米株高、円高一服、ドル高円安を受けて上昇。週末の引けは35,700円台。
月曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに反落。一時▲500円超下落した。為替市場でドル安円高が進行。輸出関連株が売られた。主要企業の決算発表前で様子見姿勢も強いなか、日米財務相会合を前に円高警戒感が上値を抑えた。引けは前週末比▲450円安の34,279円。
為替市場では前週末の流れのままドル安が進んだ。トランプ大統領がパウエル議長の解任を検討との報道で米金融市場は再び混乱。トリプル安への懸念が強まったまま東京市場でドル売り。
ドル円相場は142円10銭近辺で始まり昼前には140円60銭へ下落。140円台後半で上下して夕方は140円50銭。その後、欧州市場から米国市場にかけて終始140円50銭~141円ちょうどで上下した。
ユーロドル相場は1.1390で始まり欧州市場にかけてユーロ高ドル安が進み1.1570台まで上昇した。その後米国市場にかけては1.1480へ反落したが米国市場終盤は持ち直し引けは1.1520。
ドルインデックスは98.38へ下落し年初来安値。ユーロ円相場は162円ちょうどで始まり早朝に161円50銭に下落したあとすぐ反発して162円20銭。その後夕方から欧州市場にかけてユーロ高ドル安に支えられ162円60銭台へ上昇しもみ合い。
米国市場に入ると株安・リスク回避が強まるなか161円80銭に反落。その後は反発して引けは162円20銭。米国市場では再びトリプル安の動き。
トランプ大統領はパウエル議長を痛烈に批判。利下げが遅れれば景気が悪化する、として即時利下げを要求。議長をMr. too late 、負け犬、と呼んだ。中央銀行の独立性を脅かす姿勢を嫌気。
米国株は大幅安。NYダウは一時前週末比▲1,300ドル安。引けはやや戻して▲971ドル安の38,170ドル。ナスダックは▲415ドル安の15,870ドル。金は上昇し最高値を更新。米10年債は売られ金利は上昇し4.416%。一方、2年債は利下げ期待から利回りが低下し3.768%。10年債と2年債の利回りが逆行。
火曜日の東京市場では日経平均が小幅続落。ドル安円高の進行を嫌気。主力輸出関連銘柄に売り。決算発表前で引き続き様子見姿勢が強いなか、日米財務相会合への警戒もあり一時▲500円超下落した。一方円高メリットのある銘柄には買い。引けは▲59円安まで戻して34,220円。
ドル円相場は140円80銭で始まり141円10銭に上昇したが反落して午後の東証引け頃には一時139円90銭台へ下落した。ただその後は目先の目途だった140円ちょうどまで下落したこと、日米財務相会合を前にした円売り戻しも入り夕刻には140円60銭へ持ち直した。
欧州市場に入っても底固く、140円20銭に押したあと反発。米国市場では141円50銭に上昇。その後、ベッセント財務長官の発言を受けて関税懸念が後退すると引けにかけてドルが急伸し143円ちょうど近辺で引けた。
ベッセント財務長官は、現在の米中対立は持続的ではない、と述べた。対中関税の緩和への期待が高まり投資家心理が改善。またトランプ大統領が一転してパウエル議長を解任するつもりはない、としたことでドル買い戻しが進んだ。ドルインデックスは98.93へ反発。
米国株は大幅高。NYダウは+1,016ドル高の39,186ドル。ナスダックは+429ドル高の16,300ドルで引け。VIX指数は前日に33.82へ上昇していたが30.57へ低下。金は反落した。米10年債利回りはやや低下して4.402%、2年債利回りは上昇して3.823%。
ユーロドル相場は東京市場では1.1520で始まり欧州市場にかけて1.15を挟んで上下。米国市場では1.1420に下落したあと1.13台後半へユーロ安ドル高が進んだ。ユーロ円相場は162円20銭で始まり夕刻には161円30銭へ下落。欧州市場では70銭に反発したあと161円ちょうどへ反落。
ユーロ圏消費者信頼感指数(4月)は前月▲14.3から▲16.7へ悪化。その後米国市場では株高・リスク回避の緩和で163円近辺まで上昇して引けた。米国のリッチモンド連銀製造業指数(4月)は前月▲4から▲13へ大きく悪化した。
水曜日の東京市場では円高警戒感が緩和。朝方、ベッセント財務長官が、中長期的には強いドル政策を維持、日米財務相会合では関税・非関税障壁・政府補助金などがテーマ、円に関して特定の通貨目標を求める考えはない、と述べた。日経平均は大幅高。一時+900円超上昇。このところ大きく下落していた銘柄が反発し上昇を主導。引けは+648円高の34,868円。
ドル円相場は早朝に143円20銭へ上昇したあとは141円60銭台へ反落。その後142円20銭に上昇したあと欧州市場にかけては141円50銭~142円ちょうどで上下。米国市場では143円台に上昇して143円台前半で推移し引けは143円10銭近辺。ベッセント発言で日米財務相会合を前にした円高懸念が一段と緩和した。
ユーロドル相場は東京市場では1.1340から1.13ちょうど近辺に下落したあと反発して1.1370~1.1410で推移。欧州市場では1.1440へ上昇したが、米国市場では予想外に強い米経済指標を受けて1.1330へ下落。その後も1.13台後半の上値は重く引けは1.1320。ドルインデックスは99.90ポイントへ上昇した。
米国の新築住宅販売(3月)は724千戸と前月676千戸から予想外の増加。
発表されたPMI景況感指数(4月速報)は、ユーロ圏製造業が前月48.6から48.7へ予想より堅調、サービス業は51.0から50.1へ小幅悪化。米国の製造業は50.2から50.7へ予想外の改善、サービス業は54.4から51.4へこちらは予想より悪化した。
ユーロ円相場は162円ちょうど近辺で始まり夕刻にかけて161円20銭へ下落。欧州市場では162円でちょうどへ反発。米国市場にかけて161円60銭へ押し戻されたが底固く、162円40銭に反発したあと引けは161円90銭。
米国株は続伸。高率関税の緩和期待、パウエル議長を解任しない方針、などが支え。対中関税をおよそ半分に引き下げるとの見方も報じられ、ダウは一時+1,100ドル高。市場は最悪のシナリオを織り込んでいたが修正。ただ関税を巡る日透明感は残り上げ幅を縮めた。引けは+419ドル高の39,606ドル。ナスダックは+407ドル高の16,708ドル。
米地区連銀経済報告(ベージュブック)では経済活動は横ばいと記された。ただ貿易政策の不確実性への意見が多くみられた。
木曜日の東京市場では日経平均が続伸。およそ3週間ぶりに35,000円台で引けた。一時+400円超上昇も戻り売りに押された。引けは+170円高の35,039円。日米財務相会合への警戒感が緩和。一方、中国は米国の関税を激しく非難し、米中関税対立にはなお不透明感が残った。
決算発表シーズン入りし業績予想が未定との銘柄もあり買い手控えも。ドル円相場は143円10銭で始まり143円を挟んで上下、その後は142円80銭中心に上下した。欧州市場では142円30銭~60銭で上下。米国市場では142円台後半で上下して引けは142円80銭。
ユーロ円相場は161円90銭で始まり162円40銭に上昇、反落、と動いて欧州市場では162円20銭~40銭へ上昇。その後米国市場でも同様の値幅で上下して引けは162円30銭台。
ユーロドル相場は小動き。東京市場では1.1320で始まり1.13台前半でもみ合い。欧州市場では一時1.1380へ上昇したが反落して1.13台半ばで上下し米国市場の引けにかけて上昇し1.1390。
ドイツIFO企業景況感指数(4月)は前月86.7から悪化予想に反し86.9だった。クリーブランド連銀総裁が、今は忍耐強くあるべきとしつつも6月の利下げもありうる、と利下げに言及したことで米長期金利が低下しドルが軟化した。ドルインデックスは99.30へ小幅反落。
米国株は続伸。トランプ大統領、ベッセント財務長官、の発言で、米政権の貿易政策で対中姿勢が緩和するとの期待、交渉進展に伴い関税率が次第に低下するとの期待、が株価を支えた。ただし中国は米政権の圧力に反発。不透明さも残った。
良好な決算だった銘柄には買い。利下げ期待も株価を支えた。NYダウは前日比+486ドル高の40,093ドル、ナスダックは+458ドル高の17,166ドル。VIX指数は26.47へ低下。
米長期金利は低下。10年債利回りは4.316%、2年債は3.799%。
金曜日の東京市場では日経平均が3営業日続伸。一時上げ幅は+800円に迫った。米中貿易摩擦が緩和するとの期待、円安が支えとなった。前日の米半導体株上昇で電機・輸出関連銘柄が買われた。引けは+666円高の35,705円。
ドル円相場は142円80銭で始まり、昼頃に143円ちょうどから143円80銭へ急伸した。その後は上昇一服。欧州市場では143円20銭~70銭で上下。米国市場に入ると144円ちょうど近辺に続伸。引けは143円70銭だった。
ユーロドル相場は1.1390で始まり1.13台前半に下落してもみ合い。欧州市場に入ると1.1370へ反発して1.1340~70で上下し米国市場引けは1.1360台。
ユーロ円相場は東京市場では162円50銭台で始まり10銭台に下押したが、夕刻から欧州市場では163円に上昇したあと162円台後半で上下動。米国市場では163円70銭に続伸し引けは163円30銭近辺。関税懸念、米中対立の緩和期待、リスク回避の緩和が支えとなった。
米国株は堅調。米中貿易摩擦の緩和期待で大きく上昇したあと、主力株の一角に週末の持ち高調整売りが入り、NYダウは一時▲350ドル近く下落。ただ関税交渉の進捗期待が支えとなった。NYダウは前日比+20ドル高の40,113ドル。ナスダックは+216ドル高の17,382ドル。VIX指数は24.84ポイントへ低下。
米長期金利はさらに低下。10年債は4.235%、2年債は3.756%。
発表されたミシガン大学消費者態度指数(4月確報)は速報50.8から52.2へ上方修正された。期待インフレ率は、1年が速報6.7%から6.5%へ下方修正、5年は4.4%で速報と変わらず。
◆今週の3つの注目ポイント
1. 米国の経済指標
今週は重要指標の発表が相次ぐ。
月曜日 ダラス連銀製造業活動指数(4月、前月▲16.3)
火曜日 ケースシラー住宅価格指数(2月、前年同月比、予想+4.6%、前月+4.7%)、雇用動態調査(3月、JOLTS求人数、予想7,490千人、前月7,568千人) 消費者信頼感指数(4月、予想87.3、前月92.9)
水曜日 ADP雇用報告(4月、雇用者数前月比、予想+125千人、前月+155千人) GDP(1-3月期速報、前期比年率、予想+0.4%、前期+2.4%) 同個人消費(予想+1.2%、前期+4.0%) シカゴ購買部協会景気指数(4月、予想46.0、前月47.6) 個人所得・消費支出(3月、前月比、予想+0.4%・+0.6%、前月+0.8%・+0.4%) 個人消費支出価格指数(PCEデフレーター、前年同月比、予想+2.2%、前月+2.5%、コア、予想+2.6%、前月+2.8%)
木曜日 週次の失業保険申請件数 ISM製造業景気指数(4月、予想48.0、前月49.0)
金曜日 雇用統計(4月、非農業部門雇用者数・前月比、予想+133千人、前月+228千人、失業率、予想4.2%前月と変わらず、平均時給、前年同月比、予想+3.9%、前月+3.8%)
2. 日銀金融政策決定会合、植田総裁会見
水曜日・木曜日の2日間、日銀金融政策決定会合が開催される。終了後に植田総裁が定例会見を行う。今会合では政策金利の変更、利上げは予想されていない。トランプ関税の影響をどのように判断予測するか。金融政策の判断にどのような影響が生じているか。
市場では年内利上げは難しくなったとの見方が大勢だがどうか。今会合では展望レポートが公表される。その内容に注目。また植田総裁が会見でどのような見方、判断を示すか。
3, 中国の経済指標
米国の高率関税によって中国経済に悪影響が及ぶと予想されている。経済指標に顕在化し始めるか。水曜日にPMI景況感指数(4月、製造業、予想49.8、前月50.5、サービス業、予想50.7、前月50.8)、財新製造業景気指数(同、予想49.8、前月51.2)、が発表される。
◆今週のMRA's Eye
目先の注目はトランプ政策から経済指標へ~ドル高円安は一時的か
先週は市場の悲観的な見方、最悪事態の織り込み、リスク回避がひとまず峠を越えたようだ。トランプ政権の政策スタンスに変化の兆しが垣間見えたことが過度な不安を沈静化させた。米金融市場の混乱、トリプル安が政権にスタンスの修正を促したかたち。
ただし高率関税の引き下げの可能性が感じられただけで、現時点では実際には何も変化はない。今後の関税交渉進展のなかで税率が漸次引き下げられるとの期待が生じたまで。
FRBパウエル議長の解任騒動については、そもそも法的には難しいことを理解し、トランプ大統領はあきらめたか。中央銀行の独立性を脅かす事態に市場は色めき立ったがひとまず落ち着いた。
ただトランプ大統領は、解任はあきらめたものの、利下げを促す姿勢には変化がない。今後景気減速が明確となれば、関税による悪影響との批判を差し置いて、FRBの、とくにパウエル議長に責任を押し付ける姿勢を貫きそうだ。
過度な懸念、リスク回避は緩和したものの、景気下押し圧力には何ら変化がない。金融市場の混乱がひとまず最悪期を脱したとしても、次に実体経済の悪化、景気悪化が控える。市場の次なる注目はその顕在化だろう。
先週は米金融市場の混乱がトランプ政権の政策修正の可能性を高めた。今週は重要指標の発表が続く。今後は実体経済の悪化が政策修正を促す局面になるか。
この間の経済指標はソフトデータの悪化が先行して際立った。PMIやISMなど企業景況感、コンファレンスボードやミシガン大学の調査など消費者センチメント、企業と家計双方のマインド悪化はすでに確認されている。
次のフェーズはハードデータの悪化。企業部門では、鉱工業生産や設備稼働率、耐久財受注など。家計部門では、個人消費、小売売上、住宅販売など。
もっとも重要なのは両者をつなぐ雇用情勢。雇用は景気動向に追随する遅行指標とみられるが、個人消費動向に先行する側面もある。雇用情勢が悪化し始めるとしばらくはスパイラル的に景気が悪化する可能性がある。
今週は火曜日に雇用動態調査(3月、JOLTS求人数)、水曜日にADP雇用報告(4月)、金曜日に雇用統計(4月)が発表される。雇用者数増加ペースに変調がみられるか。
すでにISM景気指数では製造業・非製造業とも雇用判断が悪化している。関税による悪影響、企業業績への懸念から、企業が次第に雇用に慎重になるのは自然。雇用悪化が始まる「崖」にいる可能性があるので注意が必要だ。
ソフトデータである企業の景況感がさらに悪化すれば雇用にも影響が生じ始めるだろう。
今週発表されるシカゴ購買部協会景気指数、ISM製造業景気指数、はすでに悪化基調にあるが、今回の数字も小幅ながら悪化が予想されている。
コンファレンスボード調査の消費者信頼感指数(4月)は前月92.9から87.3への悪化が予想されている。コロナ禍で経済が全面停止となった2020年4月の最悪時が85.7であり、そのレベルにかなり近づく。
個人所得・消費支出はなお3月の数字であり、関税の悪影響は生じていないだろう。むしろ駆け込み消費が支出を押し上げている可能性がある。反動や本格的な悪化が生じるとすれば、4月ないし5月の数字以降になりそうだ。
市場はソフトデータの悪化がみられれば、先行指標として景気先行き懸念を増し、ハードデータに悪化がみられれば、いよいよと色めき立つだろう。今のところ米国の経済政策に景気刺激的な動きはない。関税による財政緊縮・利下げ停止で金融緩和先送りが続く。
トリプル安など米金融市場の混乱による「過度な異例のリスク回避」が一服したあと、次には景気悪化による「マイルドな通常のリスク回避」にフェーズが移行する可能性がある。その深度は景気悪化度合いによる。
先週、急速なドル安円高は一服し、ひとまず円売り戻しでドル円相場は反発した。しかし次のフェーズへの移行局面とすれば、ここからは緩やかなドル安円高局面に入っていく可能性がある。
ドル安円高の流れが本格的に底打ち反転するには、トランプ政権の政策が大転換し景気刺激策に転ずるか。金融政策では利下げ再開が期待されるが、この場合は景気底打ち期待が生まれるものの、金利面ではドル安圧力となりそうだ。メインシナリオでは、ドル円相場はなおも140円割れを試す流れにあるとみられる。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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