米国のトリプル安一服もドル安円高バイアス続く
- MRA外国為替レポート
2025年4月21日号
◆先週の市場総括
先週はトランプ関税による市場全体の混乱がひとまず沈静化して始まった。前週末に米国株式市場がやや落ち着きを取り戻し週初はドル安が一服した。ただその後は日米関税交渉が最大の注目材料に。
円安是正へ何らかの話し合いが行われるとの見方から円が買われ、ドル円相場は週初の144円ちょうど近辺から141円台後半へドル安円高が進んだ。
交渉では為替相場は議題にならなかったことが明らかになると一時142円台後半へ反発。ただ交渉が長期化するとの見方からドル円相場の上値は重く週末は142円20銭近辺で取引を終えた。
ドルインデックスは前週末とほぼ変わらず99ポイント台半ばで引け。米長期金利の上昇・米国債の下落は一服。米10年債利回りは前週末の4.494%から4.329%へ低下した。
米国株は関税の悪影響による業績懸念、半導体輸出規制などへの懸念などが重石となり週末にかけて下落。金曜日が休場となる前の木曜日、NYダウは前週末から1,000ドルほど下落して取引を終えた。日経平均は前週末の急落から34,000円台に持ち直し。日米交渉や円高懸念から一時反落したが、週末にかけて持ち直し、引けは34,700円台。
月曜日の東京市場では日経平均が反発。前週末の米国株高が支え。前週末に一時2,000円の急落となり引けでも▲1,000円超下落したあとで、自律反発狙いの買いが入った。海外投機筋も先物中心に買い戻し一時前週末比+700円超上昇。
一方、日米関税交渉で円安是正が求められるとの見方が上値を抑え上げ幅を縮めた。引けは+396円高の33,982円。
ドル円相場は144円ちょうど近辺に上昇して始まったが早々に142円20銭台へ急落。その後は143円20銭台~142円20銭台で高下。欧州市場から米国市場朝方にかけては反発して144円ちょうどをつけた。ただ上値は重く押し戻されて143円を挟んで上下して引けた。
ユーロドル相場は1.1320で始まり早々に1.1410へユーロ高ドル安。その後は1.1360へ反落、1.1420へ反発、と上下し、米国市場朝方にかけては1.13ちょうど近辺へユーロ安ドル高となった。ただドルの上値は重くユーロ高ドル安に振れて1.13台後半でもみ合い引けた。
ユーロ円相場は162円90銭で始まり163円を挟んで上下したあと162円10銭へ下落。その後は夕刻から欧州市場にかけて163円ちょうど近辺へ反発しもみ合い。米国市場では162円10銭へ反落して下げ止まり引けは162円40銭近辺。
米国株は上昇。トランプ政権が相互関税の対象から電子関連商品を除外すると伝えられ過度な警戒感が後退。リスク回避が緩和。NYダウは一時前週末比+500ドル超上昇した。長期金利上昇一服も支え。トリプル安はひとまず一服。引けはNYダウが+312ドル高の40,524ドル、ナスダックは+107ドル高の16,831ドル。VIX指数は30.89へ低下。
米10年債は4.383%、2年債は3.853%。FRBウォラー理事は、関税引き上げによるインフレは一時的、景気減速が著しく景気後退のリスクが高まれば早く大幅な利下げを支持する、と述べた。
火曜日の東京市場では日経平均が続伸。関税への過度な警戒感が後退。米国株の上昇に支えられた。またトランプ政権が救済措置を検討との報道で自動車関連株中心に幅広く買われた。
ただ買い一巡後は伸び悩み。翌日からの日米関税交渉を前に様子見。引けは+285円高の34,267円。
ドル円相場は143円ちょうどで始まり143円台前半を中心に底固く推移。夕刻から欧州市場にかけては142円70銭に下落し143円を挟んで上下動。米国市場終盤は143円10銭~20銭で推移して引けた。
ユーロドル相場は東京市場では1.1360で始まり1.13台で上下し夕刻は1.1380。欧州市場から米国市場にかけてはユーロ安ドル高が進み1.1270へ下落し引けは1.1280。ユーロ安ドル高に振れた。ドルインデックスは100.15へ上昇。
ユーロ円相場は162円台半ばで上下したあと夕刻から欧州市場にかけて下落し161円80銭。その後も上値重く米国市場では161円30銭へ下落し引けは161円50銭。
発表されたZEW景況感指数(4月)は、ドイツ・期待指数が前月51.6から▲14.0へ、ユーロ圏が前月39.8から▲18.5へ急激に悪化した。
米国株は小幅下落。関税政策を巡る不透明感は重石。経済への悪影響、米金融政策の不透明感が弱材料。一方で交渉進捗への期待感は支えとなった。NYダウは▲155ドル安の40,368ドル。ナスダックは▲8ドル安の16,823ドル。VIX指数は30.12へ低下。
米10年債利回りは4.34%へ、2年債は3.851%へ小幅低下した。
発表されたNY連銀製造業景気指数(4月)は▲8.10と前月▲20.0からマイナス幅を縮めた。
水曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに反落。一時▲600円超下落した。トランプ政権による追加関税、対中輸出規制で半導体関連企業に業績悪化懸念が広がった。
中国の3月の主要経済指標は良好だったが関税発動前の数字として材料視されず。中国景気悪化懸念は強まったまま。引けは下げ幅を縮め▲347円安の33,920円。
発表された中国の小売売上高(3月)は前年同月比+5.9%と前月+3.7%から伸びが加速、鉱工業生産(同)は+6.2 % から+7.7%へ。GDP(1-3月期)は前年同期比+5.4%と前期と変わらず。
ドル円相場は143円20銭台で始まり円高が進行。この日から始まった日米関税交渉で円安是正が議論されるとの思惑が背景。午後から夕方にかけては142円台前半で上下し142円ちょうど近辺へ下落。
欧州市場では142円90銭へ反発し142円台後半で上下したが、米国市場に入ると141円60銭台へドル安円高が進んだ。その後一時142円台に反発し引けは141円70銭近辺。
ユーロドル相場は1.1280で始まり夕刻には1.1380~90へ上昇。欧米市場では1.13台後半で推移し1.14ちょうど近辺へ上昇しもみ合い引けた。ドルインデックスは反落し99.28。
ユーロ円相場は東京市場では161円50銭で始まり161円台後半で上下したあと欧州市場では162円20銭台へ上昇。その後反落すると161円60銭~162円20銭台で高下して引けは161円60銭。
米国株は大幅続落。FRBパウエル議長が早期利下げに慎重な発言をしたことが嫌気され一時NYダウは▲900ドル超下落。半導体の対中輸出規制強化で半導体関連株が大きく下落した。NYダウは▲699ドル安の39,669ドル。ナスダックは大幅下落。前日比▲516ドル安の16,307ドル。VIX指数はやや上昇し32.64。
米10年債利回りは4.278%へ、2年債は3.776%へ低下。パウエル議長は、状況がよりより明確になるまで待てる良い状況にある、物価安定を重視、期待インフレの抑制が重要、インフレが持続的となるリスクがある、として早期利下げに慎重な姿勢を示した。また政治的圧力には屈しないと述べた。
米国で発表された小売売上高(3月)は前月比+1.4%と前月+0.2%から大きく加速。ただ関税引き上げ前の駆け込み需要とみられ、今後の反動が懸念された。鉱工業生産(3月)は▲0.3%と前月+0.7%から急減。設備稼働率は前月78.2%から77.8%へ低下。
木曜日の東京市場では日経平均が上昇、為替市場では朝方ドル高円安が進んだ。日米交渉で為替が議題にならなかったことで円高への過度な警戒が緩和した。米ハイテク株安は前日に織り込み済み。
円高一服が株価の支えに。防衛関連支出拡大への思惑で関連銘柄が買われた。ただ過度な楽観や期待には遠かった。引けは+457円高の34,377円。
ドル円相場は141円70銭で始まり142円80銭台へ上昇。その後40銭に反落したが夕刻から欧州市場では142円60銭~90銭で上下した。米国市場にかけて141円90銭台へ反落したあと引けにかけては142円台半ばでもみ合い引けた。
ユーロ円相場は161円60銭で始まり162円20銭に上昇したあと161円90銭~162円60銭で高下。米国市場朝方は161円30銭近辺へ下落したあと反発し161円90銭近辺で引けた。
ユーロドル相場は1.14ちょうどで始まり1.1360へ下落したあと欧米市場を通じて1.13台後半で方向感なく上下動し引けは1.1370。この日ECBは理事会を開催し6会合連続で利下げを実施した。預金ファシリティ金利は2.50%から2.25%へ。
米国株は大幅続落。ユナイテッド・ヘルス社、エヌビディア社の株価が大きく下落して下げを牽引。トランプ大統領がパウエルFRB議長の退任を求め、早期利下げへ政治的圧力を強めていることも、金融市場の波乱要因として嫌気された。NYダウは▲527ドル安の39,142ドル、ナスダックは▲20ドル安の16,286ドル。VIX指数は29.65とやや落ち着き。
発表された米国の住宅着工件数(3月)は季節調整済み年率換算で1,324千戸と前月1,501千戸から急減。フィラデルフィア連銀製造業景気指数(4月)は前月12.5から▲26.4へ急激に悪化した。
金曜日の東京市場では日経平均が続伸。ディフェンシブ銘柄が物色された。医薬品株が上昇。米国関税への過度な警戒は緩和したが、決着まで時間がかかるとの見方は重石。円高に推移したことも上値を抑制した。半導体関連株は軟調。この日は欧米市場がいずれも休場で様子見姿勢も強まった。引けは前日比+352円高の34,730円。
日米間では財務相会合が4月22日に実施されると報じられた。米国側から円安是正を求められるとの見方は根強い。パウエル議長の解任要求報道も嫌気されドル安円高要因に。
ドル円相場は142円40銭で始まり30銭~40銭で終始もみ合い横ばい。東京市場のあとは値動き乏しく引けは142円20銭。
ユーロ円相場は161円90銭で始まり161円80銭~162円ちょうどでもみ合い横ばい、一時162円10銭に乗せたが引けは161円90銭台。ユーロドル相場は1.1370で始まり終始小動き横ばいもみ合い。引けは1.1390近辺。
米国の国家経済会議(NEC)ハセット委員長が、トランプ大統領とそのチームがパウエル議長を解任できるか検討し続けている、と述べた。ドルインデックスはやや下落し99.13。
◆今週の3つの注目ポイント
1. PMI景況感指数(4月速報)
水曜日にPMI景況感指数(4月速報)が発表される。トランプ関税の発動により企業の景況感は悪化しているとみられる。悪化度合いがどの程度か、またそうしたなかで米国と欧州の景況感格差・乖離はどうか。
ユーロ圏製造業は予想47.5、前月48.6、サービス業は、予想50.5、前月51.0。ドイツは製造業が予想47.6、前月48.3、サービス業が予想50.4、前月50.9。米国は製造業が予想49.3、前月50.2、サービス業が予想53.0、前月54.4。
2. ベージュブック(米地区連銀経済報告)
水曜日にベージュブックが公表される。トランプ関税の導入で景況感が悪化、インフレ期待が高まるなか、実態経済の現場からどのような声が聞こえてくるか。期待インフレが高まりインフレ率が高水準で定着するリスクはあるのか。
一方で企業の姿勢が慎重となり雇用に悪影響が生じ始めていないか。消費者が慎重になり、駆け込み需要のあとで消費急失速のリスクはあるのか。パウエル議長の様子見姿勢を支持するか、早期利下げを検討し始めるべき材料が見受けられるか。
3. 米国の経済指標
月曜日 景気先行指数(3月、前月比、予想▲0.5%、前月▲0.3%)
火曜日 リッチモンド連銀製造業指数(4月、予想▲6、前月▲4)
水曜日 新築住宅販売(3月、季節調整済み年率換算、予想680千戸、前月676千戸)
木曜日 耐久財受注(3月、前月比、予想+1.5%、前月+0.9%) 週次の失業保険申請件数、中古住宅販売(3月、季節調整済み年率換算、予想414万戸、前月426万戸)
日米財務相会合が22日火曜日に開催される。為替相場に関する議論はされずに済むか。
◆今週のMRA's Eye
米国のトリプル安一服もドル安円高バイアス続く
先週、米国のトリプル安、すなわち米株安と米国債下落・米長期金利上昇とドル安の同時進行、はひとまず一服した。トランプ政権による関税引き上げが行くところまで行き着き、中国の報復関税、米中間の応酬はひとまず歯止め。
さらにトランプ政権が国内事情に配慮して関税適用品目や税率を微調整する動きに出たことが、不安感の拡大に一定の歯止めをかけたようだ。先週は米長期金利が低下、米国債価格は上昇。株価は依然として調整気味だが、米長期金利が低下する「健全な」市場動向となった。
トランプ政権にとって、株安とドル安はある程度許容範囲だったとみられるが、安全資産である米国債の下落は許容しがたい事象。米金融市場の混乱を示している。米長期金利の想定外の上昇は、裁定取引のポジション解消による債券売りが悪循環をもたらしたことが背景にあるといわれる。
それも含めて金融市場に波乱が生じていた。米国債券市場の混乱がこれで終わりなのか、今後も注意深く見守る必要がある。金融機関の破綻や金融システムの不安定化は避けられるだろう。ただファンドなどプレーヤーの破綻が市場の混乱を引き起こすリスクは残る。景気悪化や企業業績の悪化が進めばクレジット市場にも波乱が生じる可能性があり要注意だ。
FRBが株価急落そのものに対して利下げで対応することは考えにくい。実体経済に悪影響が生じるような金融市場の混乱があれば対応するだろう。そのリスクはあるが今は顕在化していない。
また景気に悪影響を及ぼすかどうか、は、市場の混乱とまた別問題だ。
パウエル議長は先週、今は様子見を続けることができると述べた。期待インフレの上昇が実際のインフレ率上昇につながるリスクをより注視して早期利下げには慎重だ。
さらに、政治的圧力に屈しない、とも述べた。トランプ大統領はFRBとくにパウエル議長に対して早期利下げへの圧力をかけているが動きそうにない。
一方、ウォラー理事は、関税引き上げによるインフレ率上昇は一時的、との見解を示している。さらに、景気悪化が著しく景気後退のリスクが高まれば早く大幅な利下げを支持する、と述べた。パウエル議長よりは利下げに前向きではあるが、関税の効果見極めと景気悪化の前提条件が伴う。
結局のところ、金融市場の混乱が経済への悪影響を生じる懸念まで至って早期に急激な利下げをせざるを得なくなるか、関税引き上げによるスタグフレーションリスクから、インフレ圧力一巡、景気悪化が顕在化して急速な利下げとなるか。
大幅な利下げが手前か後かということになりそうだ。関税による実質的な財政緊縮と利下げ様子見による緩慢ながらも金融引き締め状態継続のなかで、ソフトランディングで緩やかな利下げというシナリオは考えにくい。トリプル安はひとまず一服したが、ファンダメンタルズの悪化に伴うドル金利先安感に伴い、ドル安基調は続きそうだ。
先週は日米関税交渉で円安是正が議題となるかが注目された。結果、為替問題は議題とならず、交渉には目立った進展なく継続交渉となった。これにより過度な円高懸念は後退したが、だからといって政治外交面から円安が容認されるわけではなく、円先高観は残ったままだ。
円安が生じるとすれば、引き続き積み上がった投機ポジションの巻き戻しが中心となる。先週火曜日時点のシカゴ通貨先物の円ポジションは、ネットで17万2千枚の買い越しとなり過去最大の円買いを更新した。数字のうえでは、ポジション解消による円買いリスクが一段と高まっていることを示す。
問題はそうした局面が生じるか。この間の株安やリスク回避局面においても、円売り戻しによる円安は限定的だった。
過去の円売りポジションの積み上がりで持続的な円安が進んだ局面では、一時的な円買い戻しが生じて円高に振れる局面がありながら、円売りによる円安が長期化した。逆に足元の円高も持続する可能性は高い。
日米金利差がなお開いていることからドル売り円買いは持続しにくいとの見方もある。これだけ不透明感が高くボラティリティが高い状況では、金利差の重要度は低下する。
為替政策に関しては日本は円高許容、米国はドル安円高を期待、という状況で、円買いのリスクは低いとみられ、むしろ円売りドル買いにリスクがあるとみられるのは自然だ。
またバリュエーションの視点からも、円はなお割安との見方は妥当。モメンタムはすでに円高基調が定着している。相場材料に大きな変化がない限り投機筋のスタンスには変化がなさそうだ。投資家にとっても、スタグフレーションリスクのあるドル資産の保有比率を引き下げるのは自然だ。
ドル円相場はすでに140円を目前にしており、140円割れのリスクが高まりつつある。ドル安円高となるケースはドル先高感が回復する場合。トランプ政権の本格的な政策修正があるか。少なくとも90日とした関税交渉期間には生じそうにない。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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