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米国市場のトリプル安~焦点は米中交渉に
  • MRA外国為替レポート

2025年4月14日号

◆先週の市場総括


先週もトランプ政権による相互関税に関するニュースで市場は荒れた。米国市場では株安・債券安・ドル安のトリプル安となった。

米中間で関税の応酬になったことで週初から株価が大幅安。ただ中国を除き報復関税を決定していない国に対しては相互関税の第2弾の実施を90日間延期する、とし、当面10%にとどめたことで市場心理が改善し株価が大きく反発した。

ただ米中双方の関税引き上げ合戦は続き市場心理は悪化。株価は反落。VIX指数は高止まりのまま。週末に辛うじてポジション調整の買い戻しが入った。NYダウは40,000ドル台を回復して引け。

日経平均は週初に31,000円を割る急落となったあと、関税を巡る報道に激しく高下して週末は33,500円台。

為替市場ではドル安が進んだ。米国市場では株安にもかかわらず米長期国債が売られ長期金利が上昇。米政権の政策に対する信認低下、米国からの資金流出が取り沙汰された。10年債利回りは前週末の4%割れ水準から週末には4.94%台へ上昇。

ドルインデックスは102.89ポイントから99.50ポイントへ下落して100割れ。ユーロドル相場は1.0960から1.1360へユーロ高ドル安が進んだ。ドル円相場は145円50銭に下落して始まり、その後関税発動の一部延期報道で148円台に反発する場面もあったが続かず反落。週末にかけて142円ちょうど近辺まで大きく下落し、引けにかけて円売り戻しで反発し143円50銭で取引を終えた。

月曜日の東京市場では中国の報復関税発動を受けて日経平均が急落した。関税の応酬で世界経済が急減速するとの警戒感で全面安。一時▲2,900円超下落して31,000円を割り込んだ。急落を受けてサーキットブレーカーが発動する事態に。引けは▲2,644円安の31,136円。日本国債10年債利回りは1.11%へ低下。

ドル円相場は円高に跳ねて始まった。145円50銭から朝方は144円80銭台へ下落。その後昼には146円台後半に反発したが夕刻は145円10銭台へ下落。欧州市場に入ると反発し米国市場では148円ちょうどまで上昇。

NEC国家経済会議のハセット委員長が、中国以外の国に対し関税引き上げ90日間一時停止を検討、と発言したことを受けて円が売り戻された。ただトランプ政権が否定。これを受けて147円ちょうど近辺へ下落。引けは戻して148円ちょうど近辺。

ユーロ円相場は158円30銭に急落して始まったが昼にかけて戻し160円30銭。その後欧州市場にかけて159円80銭~161円ちょうどで大きく上下動。その後欧州市場では162円40銭へ上昇した。

しかし米国市場では160円80銭へ反落するなど荒れ相場となり、162円に戻したあと161円50銭で引け。ユーロドル相場は1.0890で始まり1.10ちょうどに上昇したあと1.10を挟んで上下動。欧州市場から米国市場にかけては下落してユーロ安ドル高1.09ちょうど。その後もみ合い引けた。

米国株は大荒れ。米中の関税応酬への懸念でNYダウは一時▲1,700ドル超下落。トランプ大統領が株価下落は仕方ない、対中関税を強化する、との発言も嫌気された。NEC委員長の関税一時停止発言で下げ幅を縮め、引けは▲349ドル安の37,965ドル。ナスダックは+15ドル高の15,603ドル。VIX指数は46.98ポイントと引き続き高水準。

米国債は売られ米長期金利は上昇。10年は4.202%、2年は3.787%。ドルインデックスは下落して103.46。

火曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに大幅反発。一時+2,000円超上昇して33,250円。米国株の落ち着きから短期筋が買い戻し、円高一服も支えとなった。引けは+1,876円高の32,958円。

ドル円相場は148円ちょうどで始まり上下しながら下落して夕刻は147円ちょうど近辺。欧州市場では147円台前半で上下して米国市場朝方には146円70銭に下落。

その後147円60銭に反発したが米国が中国の報復関税に対して再報復し関税をさらに50%引き上げ、追加関税20%、相互関税34%、さらに50%上乗せし、合計104%の関税を適用することとなった。

これを嫌気して米国では株安、債券安とともにドル安。ドル円相場は146円ちょうどへ下落して146円台前半で上下し引けは146円10銭近辺。

NYダウは+1,400ドル超上昇していたが一転下落。主力株に自律反発狙いの買いが入ったが続かず。貿易摩擦激化、景気悪化懸念で売り優勢となり一時▲800ドル安まで下落した。引けは▲320ドル安の37,645ドル。ナスダックは▲335ドル安の15,267ドル。VIX指数は52.33に上昇。

米10年債は売られて利回りは4.291%へ上昇。ドルインデックスは102.97へ下落。ユーロドル相場は東京市場では1.0910で始まり1.0980へ上奏したあと欧州市場では1.0910へ反落。その後は概ね1.09台前半で上下したあと米国市場では1.0970へユーロ高ドル安。

ユーロ円相場は東京市場では161円50銭で始まり162円20銭へ上昇したあと欧州市場では160円40銭台へ下落。米国市場では160円台前半で上下して引けは160円20銭近辺。

水曜日の東京市場では日経平均が大幅反落。一時▲1,700円超下落。米中貿易摩擦の激化を懸念。相互関税がこの日予定通り発効。景気悪化懸念が重石となりリスク回避が強まった。引けはやや下げ幅を縮めて▲1,298円安の31,714円。

植田総裁は関税で不確実性が高まっていることは十分注意が必要と述べた。また財務省・日銀・金融庁の3者会談が実施された。

ドル円相場は146円10銭で始まり大きく下落、上下しながら144円60銭へ。夕刻は145円台半ばに戻したが欧州市場から米国市場朝方にかけて144円ちょうど近辺へ下落した。その後は145円近辺へ戻した。

ただトランプ大統領が相互関税の上乗せ分の適用を90日間停止するとしたことで急速にドル高円安が進み148円20銭へ上昇。引けは147円40銭。トランプ政権は報復措置をとっていないことを前提に、90日間は相互関税を10%にとどめることを発表。その間に解決策を交渉するとした。

米国10年債は売られ利回りは一時4.5%超に上昇していたが4.3%台に低下した。リスク回避の米長期国債売り、米国市場のトリプル安が一服。10年債は4.328%、2年債は3.914%。

米国株はトランプ関税の上乗せ90日間停止を受けて大幅高。ダウは過去最大の上げとなり一時+3,100ドル上昇。引けは+2,962ドル高の40,608ドル。ナスダックは+1,857ドル高の17,124ドル。VIX指数は低下して33.62ポイント。

ユーロドル相場は東京市場では1.0970で始まり夕刻には1.1080へユーロ高ドル安。欧州市場では1.10台で上下し米国市場では関税引き上げ停止の報を受けて1.0920へ下落し引けは1.0950。

ユーロ円相場は東京市場では160円20銭で始まり160円を挟んで上下し夕刻は160円80銭。欧州市場に入ると159円50銭へ下落。その後も159円台後半~160円台で上下。関税引き上げ延期を受けて162円20銭へ上昇して引けは161円50銭。

木曜日の東京市場では日経平均が大幅反発。米国株の大幅高、関税上乗せ90日間停止で自律反発狙いの買いが膨らんだ。海外投機筋も買い。ただ警戒感は根強いままだった。引けは+2,894円高の34,609円。

ドル円相場は147円40銭で始まり70銭に上昇したあと60銭~90銭で上下し夕刻は147円ちょうど近辺。その後欧州市場から米国市場にかけて大きくドル安が進み144円ちょうど近辺に下落。米中対立の激化が嫌気された。その後145円ちょうどに反発して引けは144円50銭。

ユーロドル相場は1.0950で始まり1.0960~80でもみ合い。欧州市場から米国市場にかけて1.1230へユーロ高ドル安が進んだ。その後は1.12を挟んで上下して引け。ドルインデックスは100.99へ下落。

ユーロ円相場は161円50銭で始まり161円割れに下落したあと161円台で大きく上下し欧州市場では161円割れ。米国市場ではユーロ高ドル安に支えられ162円60銭へ上昇し引けは押して161円80銭。

米国株は大幅反落。中国が対米関税を84%に引き上げ。トランプ政権が対中関税をさらに引き上げ合計145%とし、これに対して中国は対米関税を125%に引き上げる応酬合戦となり、米中貿易摩擦の激化が警戒された。

NYダウは一時▲2,100ドル超下落。引けは下げ幅を縮めて▲1,014ドルの39,593ドル。ナスダックは▲737ドル安の16,387ドル。VIX指数は40.86ポイントへ上昇。

米長期国債はなおも売られた。10年債利回りは4.422%へ上昇。2年債利回りは低下して3.868%。米国のCPI(3月)は前年同月比+2.4%と前月+2.8%から低下、コア指数も+3.1%から+2.8%へ低下した。ただ関税の影響前で材料視されず。

金曜日の東京市場では日経平均が大幅反落。一時▲2,000円近く下落した。米中貿易摩擦の激化、米国株安の流れ、円高の進行で売り優勢。一方週末で下値では売り方の買い戻しも入った。引けは▲1,023円安の33,585円。

日本国債10年債は1.306%に小幅低下。ドル円相場は144円50銭で始まり朝方142円80銭へ下落。その後143円半ばで上下したあと再び142円90銭へ。夕刻に一旦144円10銭へ反発したが欧州市場に入るとドルが下落し142円ちょうど近辺へ。

米国市場にかけては143円20銭~142円20銭で上下したあと引けにかけては週末のポジション調整で円売り。144円20銭へ上昇して引けは143円50銭。

ユーロドル相場は1.12で始まり1.1380へ上昇。夕刻に一時1.1250へ反落したが、欧州市場では1.1470までユーロ高ドル安が進んだ。その後は1.1330~1.1410で上下したあと週末のポジション調整でドルが買い戻され1.1280へ下落し引けは1.1360。

ドルインデックスは99.50へ下落。100ポイントを割り込んでドル安。

ユーロ円相場は161円80銭で始まり30銭へ下落したあと162円60銭へ上昇。その後は161円70銭へ下落、163円ちょうどへ反発、161円50銭へ下落、と乱高下。その後は週末の円売り戻しで163円ちょうど近辺へ上昇して引けた。

米国株は上昇。週末でポジション調整の買いでダウは一時+800ドル高。金融決算が良好だったことは一定の安心感。FRB当局者から市場の混乱があれば対処する発言があったことも支えた。

ただ米中対立はなお重石。引けは+619ドル高の40,212ドル。ナスダックは+337ドル高の16,724ドル。VIX指数は37.56ポイント。

米長期国債はなお売られ10年債利回りは4.494%へ上昇。2年債は3.970%。PPI(生産者物価指数、3月)は前年同月比+2.7%と前月+3.2%から低下、コア指数も+3.4%から+3.3%へ低下した。

ミシガン大学消費者態度指数(4月速報)は前月57.0から50.8へ大きく悪化した。期待インフレ率は1年が前月5.0%から6.7%へ上昇、5年が4.1%から4.4%へ上昇した。関税による物価上昇懸念が消費者マインドをさらに悪化させた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

トランプ関税による悪影響でスタグフレーションが懸念されるなか、弱い数字に反応しやすい状況が続く。強い数字でも反応しにくい。

火曜日 NY連銀製造業景気指数(4月、予想▲12.0、前月▲20.0) 輸入物価(3月、前月比、予想0.0、前月+0.4%)

水曜日 小売売上高(3月、前月比、予想+1.4%、前月+0.2%) 鉱工業生産(3月、同、予想▲0.2%、前月+0.7%) 設備稼働率(同、予想77.9%、前月78.2%)

木曜日 住宅着工件数(3月、季節調整済み年率換算、予想1,410千件、前月1,501千件) フィラデルフィア連銀製造業景気指数(4月、予想3.0、前月12.5) 週次の失業保険申請件数

2. ECB理事会、ラガルド総裁会見

木曜日にECB理事会が開催され終了後にラガルド総裁が会見を行う。前回3月6日の会合では5会合連続の利下げが実施され、中銀預金ファシリティ金利は2.75%から2.50%へ引き下げられた。

今会合ではさらに2.25%へ引き下げが予想されている。3月会合ではすでに政策金利は景気抑制的ではなくなったとされ、追加利下げに慎重なニュアンスも見受けられた。

しかし関税による景気悪化が懸念されるなか、追加利下げに動くとの見方が大勢に。ラガルド総裁の会見も含めどのような景気物価、政策金利判断となるか。

3. 日本の経済指標

木曜日に通関統計(3月)が発表される。貿易収支は前月に続き5,000億円弱の黒字が予想されている。今後は黒字動向、対米収支や品目に注目が集まる。

金曜日には消費者物価指数(CPI、3月)が発表される。総合指数は前年同月比が予想+3.7%で前月と変わらず。除く生鮮食品が+3.2%で前月+3.0%から加速予想、除く生鮮食品・エネルギーでは予想+2.9%と前月+2.6%から大きく加速が予想されている。

当面は関税の景気への悪影響が懸念され日銀の利上げは見送りとみられるが、物価面では日銀の追加利上げを後押しか。

そのほか、月曜日には中国で貿易収支(3月)が、水曜日に中国の重要指標(3月、小売売上高、鉱工業生産、固定資産投資、失業率)、1-3月期GDPが発表される。

米国と同様景気悪化が懸念されるなか、今回はまだ悪影響は健在化しないものの、弱い数字に反応しやすいとみられる。

◆今週のMRA's Eye


米国市場のトリプル安~焦点は米中交渉に

先週、トランプ政権は相互関税の全面発動を90日間停止した。条件は対米報復措置をとっていないことが条件。対米報復措置を実施した中国は除外し米中間では関税を100%超に引き上げる応酬合戦に。

一時停止を決断した要因は定かではないが、米長期国債が売られ長期金利が上昇したためと言われている。

経済への悪影響を懸念して米国株が大きく下落。トランプ大統領は、株安は一時的、として意に介さないスタンスを示していた。しかし米国債が売られていることに政権内部に危機感が生じたか。

株安など市場が混乱し、投資家がリスク回避を強める場合は、安全資産である国債が買われ長期金利が低下するのが通常。しかし今回は逆の動きとなった。とくに期間の長い国債、10年債などの下落、金利上昇が大きい。

リスク回避が極限に近づけばキャッシュ比率を極端に高めることになる。なおかつ、グローバルにリスク回避が生じれば、グローバルキャッシュであるドルに資金が回帰するのが通例でもある。

金融機関への不信が強まれば資金は国債へ。国債のなかでは期間の短い短期債に資金が流入することになり、長期債が売られることは生じうる。

しかし、海外投資家が米国債を手放しているとなると、ドル資産そのものへの不信が生じている可能性がある。ドル安と米長期金利上昇・米国債下落の同時進行は、トランプ政権の政策への信認低下であり、あるいは米国への信認低下、通貨であるドルへの信認低下、ともいえる。

ドルインデックスは先週末に100ポイント割れに下落した。100ポイント割れは2023年7月に一時的に生じたが、本格的に100ポイント割れが定着するとなると2022年4月以来だ。

株安、米債安(米長期金利上昇)、ドル安、のトリプル安は、トランプ政権の政策に対して市場が突き付けたノーだろう。スタグフレーションは、インフレ率上昇、金利高止まりでドル高要因との見方もあるが、政策運営が困難となり景気後退が深まる可能性が大きい。となれば結果的にドル安となるだろう。

株安だけであれば、景気悪化懸念、企業業績悪化懸念で生じることで、政権としてさほど気にすることでもない。最終的に景気や企業業績が好転すれば解決する。

ただ米長期金利上昇とドル安の併存、国債安と通貨安の併存は危険信号だ。

国債市場の動向は、その発するシグナルが政権に政策修正をもたらすため、債券自警団、ともいわれる。放漫財政となれば国債が売られ長期金利が上昇することで、政権は政策修正を余儀なくされる。

今回はトランプ政権の関税政策にノーを突き付けた。ベッセント財務長官は投資家でありヘッジファンドマネージャー、ウォール街出身であり、市場の発するシグナルは十分に理解しているだろう。

米国債利回りの低下を目標としてきたが現実には逆の動きとなったことで危機感を抱いたとしても不思議ではない。確かに、今回の「債券自警団」の動きによって、市場安定化のため、関税引き上げの一部延期が決まったとしてもおかしくない。

足元で市場が最も懸念しているのは米中間の関税引き上げの応酬。145%と125%という異常事態の行方だろう。実質的に米中間の貿易停止になりかねない。

実体経済への悪影響、米国の消費者や企業が被害者となるのは明らか。企業や有権者からの圧力が軌道修正を促すか。ここから交渉が具体的に動き何らかの妥協に至るのか。

すでにスマートフォンを関税の対象外とする決定が下されたようだが、そうした動きが広がっていくのか。トンランプ政権の強硬姿勢が緩和するようなら、市場にとって一定の安心感をもたらす可能性はある。過度のリスク回避は緩和しそうだ。

ただ、90日間の停止となった中国を除く各国の関税は10%引き上げられたまま。対中関税も容易には下がらないとみられる。

トランプ大統領の求めるのが貿易収支の改善であれば、その効果が顕在化するまでは妥協できないだろう。米国経済が犠牲になる状況は続くとみられる。

内需抑制すなわち景気悪化がなければ貿易収支は改善しない。インフレ率は関税の一時的な影響で上昇したあと、景気悪化による需給緩和で低下。FRBは当面様子見を続けるが、インフレ鈍化と景気悪化が明確となれば、利下げを急ぐ可能性がある。

一時的なリスク回避緩和の先にも、なおドル安が続くリスクをみておいた方が良いだろう。


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