異なるステージを織り込む市場
- MRA外国為替レポート
2025年4月7日号
◆先週の市場総括
先週はトランプ政権による相互関税の発表により大荒れ。貿易戦争激化、景気悪化懸念、とくに米国景気の後退懸念、スタグフレーションリスクが強く意識された。
世界的に株価が急落、暴落商状。NYダウは週末にかけて大幅安となり前週末の41,500ドル台から38,300ドル台へ。日経平均は37,100円台から33,700円台へ。VIX指数は週末に45ポイント台へ急上昇。米国ではFRBによる利下げ観測が強まった。
発表された米国の経済指標は軒並み弱かった。ISM景気指数は製造業・非製造業ともに悪化。週末の雇用統計の内容は強弱交じりも失業率が上昇するなどやや弱め。
リスク回避により国債に資金が流入。米長期金利は低下。米10年債利回りは前週末の4.25%近辺から週末には4%割れまで低下。2年債は3.6%台。
ドルは下落。ドルインデックスは前週末の104ポイント近辺から木曜日には102ポイント割れ。週末はドル買い戻しで反発し102.89ポイント。円は堅調。日銀による利上げ観測も後退、日本国債10年債利回りも低下して前週末1.54%から1.16%台へ。
ただ円高を止めるには至らず。ドル円相場は149円80銭で始まり相互関税発表後に急落して週末には一時144円台。引けはドル買い戻し円売り戻しで147円近辺。ユーロドル相場は前週末の1.0830から1.11台へ上昇し引けは1.10近辺。ユーロ円相場は前週末の162円台から一時159円ちょうど近辺へ下落して引けは161円。
月曜日の東京市場では日経平均が大幅下落。米国景気後退懸念、インフレ懸念、から前週末の米国株が大幅安。関税への警戒感もあり全面安となった。引けは前週末比▲1,502円安の35,617円。
ドル円相場は149円80銭で始まり軟調。昼頃には148円70銭~80銭。夕刻にかけては149円20銭台に上昇後148円70銭に反落と上下した。欧州市場から米国市場にかけては円安が進行。トランプ政権による相互関税発表を前に手仕舞いの円売り戻しが入ったとみられる。
米国市場では150円80銭をつけて引けは149円90銭。ユーロ円相場は162円20銭で始まり161円50銭に下落し161円台後半で上下したあと161円20銭に下落。午後は161円70銭台に上昇したあと夕刻は161円ちょうど近辺へ反落。欧米市場では一貫して円安が進み162円40銭まで上昇し引けは162円20銭。
ユーロドル相場は1.0830で始まり1.0840台でもみ合い。欧州市場では1.0810~30で上下したあと米国市場では1.0780台に下落したが底固く引けは1.0820。
米国株はまちまち。NYダウは▲400ドル超下落したあと持ち直し+417ドル高の42,001ドルで引ける値動きの荒い展開。四半期末の調整買いが支えたとみられる。
ディフェンシブ銘柄に買い。前週末の大幅安のあと主力株に自律反発狙いの買いが入った。ナスダックは▲23ドル安の17,299ドル。VIX指数は22.28ポイントに上昇。
米長期金利は低下。10年債は4.211%、2年債は3.887%。発表された米国のシカゴ購買部協会景気指数(3月)は前月45.5から47.5へ改善した。
火曜日の東京市場では日経平均が小幅高。前日の大幅安のあと自律反発狙いの買いが支え。一方、36,000円台では戻り売りに上値が重かった。関税への懸念も重石。国内機関投資家による期初の益出しも観測された。引けは+6円高35,624円。
発表された日銀短観では、大企業製造業の業況判断DIは、現状が前回14から12へ小幅悪化したが予想通り、先行きが13から12へ悪化したが予想9は上回った。非製造業は現状が33から35に改善、先行きは28で変わらず。予想より悪くなかった。
ドル円相場は149円90銭で始まり149円台後半で上下し夕刻は90銭台。欧州市場に入ると上値重く149円10銭台へ下落し米国市場朝方は50銭台。
発表された米国の経済指標が弱く149円ちょうど近辺へ下落。その後持ち直し引けにかけては149円80銭~90銭で推移した。
米国で発表されたISM製造業景気指数(3月)は前月50.3から49.0へ悪化し予想49.8を下回り3ヵ月ぶりに景況感の分かれ目である50を割った。雇用判断は47.6から44.7へ、新規受注は48.6から45.2へ悪化した。一方、価格判断は62.4から69.4へ上昇した。雇用動態調査(2月、JOLTS求人数)は前月7,740千人から7,568千人に減少した。
米長期金利は低下。10年債は4.161%、2年債は3.874%。ユーロドル相場は東京市場では1.0820近辺で始まり小動きもみ合い。夕刻にかけてやや上値重く1.08ちょうど近辺に下落し、その後欧州市場から米国市場朝方にかけては1.08前後で推移し引けは1.08ちょうど近辺。ドルインデックスは104.20で前日とほぼ変わらず。
ユーロ円相場は162円10銭台で始まり162円前後で小動きもみ合い。欧州市場では160円80銭に下落したが米国市場では161円60銭に持ち直し。その後は161円台前半で上下して引けは162円10銭。
米国株はまちまち。関税への懸念、弱い米経済指標もあり景気悪化懸念が強まり重石となった。ただ関税発表を前に過度な売りは手控えられた。NYダウは一時▲480ドル安に下落したが持ち直し▲11ドル安の41,989ドルで引け。ナスダックは+150ドル高の17,449ドル。
水曜日の東京市場では日経平均が小幅高。前日の米ハイテク株堅調が支えとなり半導体関連株中心に買い戻された。機械、自動車に打診買い。しかし相互関税発表前で様子見姿勢が強かった。引けは+101円高の35,725円。
ドル円相場は149円80銭で始まりもみ合い上下動横ばい。東証引け頃は150円ちょうど近辺。その後米国市場朝方にかけては149円10銭へ下落した。しかし米国市場では相互関税発表を前に円売り戻しが強まり円安に振れてドル円相場は150円20銭へ上昇。
その後も150円台前半で上下して150円40銭をつけた。ただ日本時間木曜日早朝の相互関税の発表を受けて大きくドル安円高が進んだ。
NY引け、東京市場木曜朝7時時点では148円台前半まで下落し、なお下落基調のまま取引を終えた。
ユーロドル相場は東京市場では1.08近辺で小動きもみ合い。米国市場朝方にかけて1.0870へ上昇。その後関税発表で乱高下。1.0920~1.0810で激しく上下してNY引け時点では1.0820近辺でユーロ高ドル安含み。ドルインデックスは103.77で下落基調。
ユーロ円相場は東京市場では161円台後半で小動きもみ合い。欧州市場では161円20銭へ下落したが米国市場では持ち直して163円ちょうどから164円ちょうどへ急騰。しかし関税発表で急落しNY引け時点では160円20銭。
米国株は関税発表を前に様子見。ベッセント財務長官が、相互関税は上限であり引き下げ交渉の余地があるとの見方を示した。また米政治サイトが、トランプ大統領が数週間以内にイーロン・マスク氏が退任すると述べた、と報じた。
これらが一定の安心感をもたらし株価を支えた。NYダウは前日比+235ドル高の42,225ドル、ナスダックは+151ドル高の17,601ドル。
発表された米国ADP雇用報告(3月)は雇用者数前月比が+155千人と前月+77千人から大きく増加して予想+119千人を上回った。トランプ大統領は相互関税の発動を発表。上乗せする関税は、中国に34%、欧州に20%、日本に24%、など想定より厳しい内容となった。4月9日から発動とし、その前段階として、まず4月5日から10%を一律上乗せする、とした。
木曜日の東京市場では米国の相互関税発表を受けて各市場が大荒れ。日経平均は相互関税が日本にとって想定以上に厳しい内容だったことを嫌気。米国の景気後退、スタグフレーション懸念、国内景気悪化懸念が下押し。全面安。日銀の利上げが難しくなったとの見方で銀行株も下落した。
一時▲1,600円の急落。引けは▲989円安まで持ち直したが34,735円と35,000円割れで引け。
日本国債10年債利回りは1.36%へ低下。ドル円相場はドル安円高基調のまま始まり148円台前半から夕刻18時頃には146円ちょうど近辺へ。さらに米国市場朝方には弱い米経済指標も手伝って145円20銭近辺へ下落した。その後はやや持ち直して146円台前半で上下し引けは146円ちょうど近辺。
ユーロドル相場は1.0820近辺で始まりユーロ高ドル安基調。夕刻は1.0990へ上昇。さらに欧州市場では1.1140台へ続伸した。その後1.1050へ反落したが米国市場では1.1120台へ。引けにかけてはドル安一服となり1.1050で取引を終えた。
ドルインデックスは101.95へ大幅安。ユーロ円相場は乱高下。東京市場では160銭20銭で始まり161円台前半で上下動。その後夕刻から欧州市場にかけては163円ちょうどへ上昇した。しかし米国市場では株価急落、リスク回避のなか急落して161円ちょうど近辺へ。下げ止まったあとは161円30銭~70銭で推移し引けは161円30銭。
発表された米国のISM非製造業景気指数(3月)は前月53.5から50.8へ悪化し予想53.1を大きく下回り昨年6月以来の低水準。雇用指数は53.9から46.2へ、新規受注指数は52.2から50.4へ悪化した。
米国株は急落。景気悪化懸念、スタグフレーションリスクが意識された。NYダウは▲1,679ドル安の40,545ドル。ナスダックは▲1,050ドル安の16,550ドル。VIX指数は30ポイント台に急騰。
長期金利はリスク回避を受けて大幅低下。10年債は一時4%割れとなり4.036%。2年債は3.689%。市場は年内4回の利下げを織り込んだ。
金曜日の東京市場では日経平均が大幅続落。一時▲1,450円超下落し全面安。貿易戦争激化、世界景気悪化への懸念でリスク回避が強まった。円高も重石。大引けにかけて自律反発狙いの買いが入って下げ幅を縮めた。引けは▲955円安の33,780円。
ドル円相場はなおも上値の重い展開。146円ちょうどで始まり朝方145円50銭台へ下落。その後は持ち直し145円80銭~146円40銭で上下したが午後には145円30銭へ下落した。夕刻から欧州市場序盤にかけては146円50銭へ反発したが、その後は株価続落、リスク回避を受けて144円50銭台へ下落した。
米国市場にはいると雇用統計が発表されたが市場の反応は鈍く、週末のドル買い戻し、円売り戻しを受けて上昇。147円50銭近辺まで反発したあと146円60銭~147円40銭で上下して引けは146円90銭近辺。
ユーロ円相場は東京市場では161円30銭で始まり161円ちょうどに下落したあと162円に反発。しかしドル円相場同様に欧州市場序盤にかけて159円60銭へ下落した。その後は値動き激しく上下。161円ちょうどへ反発したあと159円ちょうどへ急反落。米国市場終盤にかけては円売り戻しで反発して160円70銭~161円40銭で上下して引けは161円ちょうど近辺。
ユーロドル相場は東京市場では1.1050で始まり底固く夕刻は1.11ちょうど近辺。欧州市場では1.0970へ下落したが米雇用統計で1.1090へユーロ高ドル安。その後は週末のドル買い戻しに押されて終盤は1.0930~60で上下し引けは1.0950台。ドルインデックスは反発して102.89。
米国株は大幅続落。NYダウは史上3番目の下げ幅。関税の応酬による貿易戦争激化、景気悪化懸念がさらなる売りを呼んだ。FRBによる早期利下げも見込めず手掛かりなし。NYダウは▲2,231ドル安の38,314ドル、ナスダックは▲962ドル安の15,587ドルで引け。VIX指数は45.31へ急騰。
米長期金利は低下。10年債は3.998%、2年債は3.644%。
米雇用統計(3月)は非農業部門雇用者数前月比が+228千人と予想+135千人を上回ったが、前月が+151千人から+117千人に下方修正された。失業率は前月4.1%から4.2%へやや上昇。平均時給前年同月比は前月+4.0%から+3.8%へ鈍化し予想+3.9%をやや下回った。
FRBパウエル議長は、関税は予想を上回る、物価高と成長鈍化のおそれ、不確実性が高く利下げの判断は急がない、と述べた。
◆今週の3つの注目ポイント
1. 相互関税を巡る動きと米国株の動向
先週はトランプ大統領が発表した相互関税を受けて市場は大荒れとなった。第一段階として一律10%の関税上乗せがすでに4月5日に発動。さらに今回発表された各国別の関税が9日水曜日に発動される。各国がどのように対応するか。
トランプ政権には譲歩の姿勢がみられないが、交渉の余地がなく市場の失望が深まるか。米国内の反応はどうか。トランプ政権に修正を求める動きがみられるか。
米国株は急落したが、ひとまず下げ一服となるか、自律反発が生じるか。あるいは総じて低迷したままか、続落してさらに市場心理が悪化するか。
2. FOMC議事要旨
水曜日にFOMC議事要旨(3月開催分)が公表される。この会合では利下げは見送り。インフレ見通しは上方修正、景気見通しは下方修正されたが、政策金利見通しの予測中央値は12月会合のまま。年内2回、0.50%が中央値のままだった。ただ利下げなし~3回、4回と見方はさらに分散。不透明感から意見が割れる様相もみられた。
足元の相互関税が予想を上回るものだったことを今後どのように評価するか。スタグフレーションリスクが意識され、市場では景気悪化や株価急落から年内4回の利下げを期待しているが、3月会合での議論に何らかのヒントがみられるか。あるいは利下げ期待を後退させる内容か。
3. 米国の経済指標
足元では米国経済のスタグフレーションリスクが強く意識され始めた。足元の経済指標がそうした懸念を後押しするか。良好な数字でも関税発動前の過去のデータとして好感されにくいだろう。逆に悪いデータの場合はさらに事態が悪化するとして不安を煽りやすい。
木曜日 消費者物価指数(CPI、3月、前年同月比、予想+2.6%、前月+2.8%、コア指数、予想+3.0%、前月+3.1%) 週次の失業保険申請件数(継続受給者数、前週1,903千件)
金曜日 生産者物価指数(PPI、3月、前月+3.2%、コア、前月+3.4%) ミシガン大学消費者態度指数(4月速報、予想55.0、前月57.0)、同期待インフレ率(1年、前月5.0%、5年、前月4.1%)
ほか、火曜日に日本の国際収支(2月)、水曜日に日銀植田総裁発言、木曜日に中国のCPI・PPI(3月)が発表される。
◆今週のMRA's Eye
異なるステージを織り込む市場
先週はトランプ政権による相互関税発表を受けて市場は大きく揺れた。想定以上に高い関税を課する厳しい内容となったことで、貿易戦争激化、世界景気悪化懸念がより現実のものとして意識された。
米国経済についてはスタグフレーション懸念が一段と強まった。今後の交渉で引き下げの余地もあるとされるが、トランプ政権の態度は強硬で、時間がかかり、軟着陸するシナリオは描きにくい。
米国内の世論の反発が政権のスタンス変更を促すシナリオも考えられるが、米国経済にとって素晴らしい政策だと表明している以上、簡単には修正しそうにない。
市場の描く最悪のシナリオが現実のものとなり、初めて政策修正が行われるか。あるいはそれでも自説を曲げず、米国経済悪化の責任を他国に押し付けて強硬策を続けるのか。先はみえない。
米国経済について、昨年末にはソフトランディングにとどまらず、ノーランディング、つまり高成長がさらに持続するとの見方が強まっていた。しかし今や市場は景気の著しい悪化、景気後退とインフレが併存するスタグフレーション、などハードランディングを織り込んでいる。
市場が前提とする景気見通しや経済環境、米国経済は底固いとの見方が大きく揺らいでしまった。
実体経済に悪影響が生じる前に、市場が織り込んで先に反応。投資方針の大幅な修正を余儀なくされている。実体経済においては企業も大きく方針や計画を修正する必要が生じている。これが市場の懸念を現実のものとする可能性が高まっている。
コロナ禍と同様、サプライチェーン・マネジメントの大幅な修正を余儀なくされる。足元の計画が一旦停止する可能性は高い。米国企業にとってもコスト高となることから、設備投資や雇用に悪影響をもたらす可能性がある。
現時点においては、可能性や懸念に留まるが、こうした動きが経済指標で確認された場合、市場は織り込み済みとして追加的な反応をせずにいられるか。もう一段の市場心理悪化が生じないか。リスクはなおダウンサイドにある。
雇用統計や個人所得消費、鉱工業生産、など、ハードデータに関しては、当面はまだ相互関税の悪影響が生じる前のデータとなる。一方、足元で悪化が目立つソフトデータ、企業の景況感や消費者のセンチメントについては、速報ベースでさらに悪化する可能性がある。
今回の相互関税発動は、懸念を現実に、ソフトデータの悪化をハードデータの悪化へ、とつなげるリスクが高い。また市場の動向が実体経済へ悪影響をもたらすルートにも留意する必要がある。株価急落は個人消費のブレーキとなる。株高と消費堅調の好循環が逆転するリスクに留意が必要だ。
不確実性の高まり、とくに景気悪化サイドへの大きなリスクの高まりは、市場のリスク回避を一気に高めた。もとより米国株は金利対比で割高だった。成長期待や米国経済の底固さなどが、プレミアムを支える源泉だろう。
そこが崩れれば調整は必然。VIX指数は週末に45ポイントまで急騰した。株価下落や景気懸念は信用スプレッドの拡大につながる。金融環境は引き締まる。金融市場内でも投資家やファンドに異変が生じ、何らかのショックが生じるリスクが高まる。米国の金融市場はこれまで順調に、あるいは慢心した状態で推移してきただけに要注意だ。
市場はFRBの利下げを年内4回、合計1%ほど織り込んだ。しかし、パウエル議長は利下げを急がない姿勢を示している。スタグフレーションが現実になったときにどう対処するのか。インフレ重視で据え置きか、景気重視で利下げか。景気悪化がインフレを沈静化するに任せて金利据え置きを続けた場合、その後の利下げが急速になる可能性がある。
米国第一主義により発動した相互関税は、結局のところ米国に大きな悪影響が及ぶ。混乱の震源地は米国であり、米国の政権の政策への信認が低下、経済への信認が低下する状況で、ドルの信認が揺らぐのは自然。少なくともドル高が進む可能性は低くなった。
不透明ななかでは金利差によるキャリートレードの意義は低下する。円買いポジションの巻き戻しによる一時的な円安局面はありながらも、バリュエーション重視で円が堅調となるのはまた自然だろう。
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