株価調整とリスク回避
- MRA外国為替レポート
2025年3月31日号
◆先週の市場総括
先週も引き続き関税を巡る動きで左右された。週末にかけて株が大きく下落した。週初は米国の追加関税の対象が一部の国や品目に限定されるとの報道が好感され米国株は上昇。しかし週後半には自動車の追加関税25%の一律発動が表明されたことが嫌気された。
消費者センチメントの悪化も確認され景気懸念も株価を下押し。日経平均も週末には自動車や半導体関連が売られて一時37,000円割れとなるなど調整。ドル円相場は149円台半ばで始まり木曜日には151円台をつけたが、週末には景気懸念が強まり、米長期金利が低下。ドル円相場は150円割れに下落し149円80銭近辺で引けた。
月曜日の東京市場では日経平均が3営業日続落。週末にトランプ政権の関税政策に関して一部の国や品目が除外されるとの報道。米国株高や個人投資家の配当取りの買いが支えとなったが戻り売りが上値を抑えた。引けは前週末比▲68円安の37,608円。
ドル円相場は底固く推移。149円40銭で始まり80銭近辺でもみ合い。夕刻から欧州市場では60銭近辺で推移した。米国市場では強い経済指標を受けて149円80銭から150円70銭台へ上昇し60銭~70銭で引けた。全般的にドルが堅調、円に売り戻し。
発表されたPMI景況感指数(3月速報)は、ユーロ圏製造業が前月47.6から48.7へ改善した一方、サービス業が50.6から50.4へ小幅悪化。ドイツは製造業が46.5から48.3へ改善、サービス業が51.1から50.2へ悪化した。
米国の製造業は52.7から49.8へ予想以上に悪化。一方サービス業は51.0から54.3へ予想を上回る大幅改善で市場に安心感をもたらした。シカゴ連銀景気指数(2月)は前月▲0.08から0.18へ改善。
ユーロドル相場は東京市場では1.0810で始まり1.08台前半で推移。欧州市場では1.0830~50で上下したが、米国市場ではドル高ユーロ安となり1.0790へ反落。引けは1.08ちょうど近辺。ユーロ円相場は東京市場では161円60銭で始まり上昇して162円台前半へ。その後は欧米市場にかけて162円台前半で上下した。
米国市場終盤にはドル円相場の上昇に支えられ162円台後半へ。引けは162円80銭近辺。米国株は大幅高。関税への警戒感が後退するなか、景況感の改善が市場心理を好転させた。半導体や自動車関連など幅広く買い戻しが入った。NYダウは前週末比+597ドル高の42,583ドル、ナスダックは+404ドル高の18,188ドル。米長期金利は上昇。10年債は4.338%、2年債は4.040%。
火曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに反発。米国株が大幅高、関税への過度な懸念が後退。午前中に一時+500円超上昇した。半導体関連や円安を受けて輸出関連が買われた。ただ38,000円の大台では戻り売りに押され上げ幅を縮めた。引けは+172円高の37,780円。
ドル円相場は150円70銭で始まり150円台後半で底固く推移。一時40銭台に下落したが夕刻は70銭台。欧米市場に入ると下落。米国市場では経済指標で景気懸念が強まり149円50銭台まで下げた。引けは149円90銭近辺。
発表された米国の消費者信頼感指数(3月)が前月98.3から92.9へ予想94.0を下回る大幅悪化。リッチモンド連銀製造業指数(3月)は前月6から▲4へ悪化。景気懸念が強まり、米長期金利が低下。10年債は4.317%、2年債は4.017%。
ユーロ円相場は東京市場では162円80銭近辺で始まり163円ちょうどに上昇したが反転し夕刻にかけては軟調。162円30銭に下落した。米国市場にかけてドル安円高に押されて続落。161円60銭台まで下げた。引けは161円80銭近辺。
ユーロドル相場は東京市場では1.08ちょうどで始まり小動きもみ合い横ばい。欧州市場から米国市場にかけても1.08前後で上下し引けは1.0790。
米国株は小幅高。トランプ政権が4月2日の関税発動は段階的に行うとの報道から過度な懸念が緩和し支え。一方景気懸念が下押し要因となった。前日の大幅高のあと上値重く、NYダウは前日比+4ドル高の42,587ドル、ナスダックは+83ドル高の18,271ドル。
水曜日の東京市場では日経平均が続伸。海外投資家の買いが支え。利益確定売りをこなして一時+400円高。米国株が週明けから堅調で個人投資家の心理が改善した。配当取りの動きが引き続き支え。引けは+246円高の38,027円。
ドル円相場は堅調。149円90銭で始まり昼過ぎには150円60銭へ上昇。その後夕刻にかけて反落し150円ちょうどへ。ただ150円近辺では底固く米国市場では150円40銭台~70銭台でもみ合い引けは150円50銭近辺。
ユーロドル相場は1.0790で始まり1.08近辺で小動きもみ合い横ばい。欧州市場では1.0770~90にやや下落したのち米国市場ではさらに下げて1.0740で引けた。
ユーロ円相場は161円80銭で始まり162円30銭~40銭に上昇したが欧州市場では162円ちょうど近辺に下落。その後162円60銭に持ち直したが米国市場終盤にかけて下落して引けは161円60銭。
米国株は下落。関税への懸念が重石となり自動車関連、半導体関連、ハイテク株中心に売られた。NYダウは▲132ドル安の42,454ドル、ナスダックは▲372ドル安の17,899ドル。
米長期金利は小幅上昇。10年債は4.353%、2年債は4.020%。
トランプ大統領は日本時間木曜日の朝方、自動車関税を一律25%引き上げ4月2日から適用するとした。一方、相互関税については寛大なものとなり、必ずしも相手国の水準まで引き上げないとした。
木曜日の東京市場では日経平均が下落。トランプ大統領の自動車関税発動声明で自動車株が下落。米ハイテク株安でIT、半導体関連株も下げが目立った。配当権利付き売買最終日で支えとなったが上昇力は欠いた。引けは前日比▲227円安の37,799円。
ドル円相場は150円50銭で始まり150円台前半で推移。夕刻から欧州市場にかけては上昇して151円ちょうど。米国市場にかけては150円台後半で上下。引けにかけては151円10銭に上昇し151円ちょうど近辺で取引を終えた。
ユーロ円相場は161円50銭前後で始まり夕刻にかけて162円20銭へ上昇。161円70銭へ反落したあと163円ちょうどへ上昇した。その後は162円台前半に下落する場面もあったが上下しながら水準を切り上げ、163円30銭をつけ引けは163円10銭。
ユーロドル相場は1.0790で始まり1.07台後半で推移。欧州市場にかけては堅調で1.0820へ。その後は1.08中心に上下もみ合い引けた。
米国株は主要3指数がそろって下落。関税への不透明感が引き続き重石。NYダウは▲155ドル安の42,299ドル。ナスダックは▲94ドル安の17,804ドル。米長期金利はまちまち。10年債利回りはやや上昇し4.363%。2年債はやや低下して3.996%。
金曜日の東京市場では日経平均が大幅続落。一時▲900円下落し37,000円割れ。配当権利落ちの影響で▲300円ほど下落圧力。関税への懸念で自動車、半導体関連が下落した。
東京都区部の消費者物価指数が強めの上昇率を示したことで日銀の利上げ前倒し観測が強まり重石となった。東京都区部のCPI(3月)は前年同月比+2.4%と前月+2.2%から上昇が加速した。
ドル円相場は151円ちょうどで始まりCPIを受けて150円80銭に下落し夕刻にかけて150円80銭近辺で上下した。欧州市場に入ると一時150円40銭に下落したが持ち直し米国市場朝方は150円90銭近辺。発表された米国の経済指標が弱くドルが下落。
ドル円相場は149円90銭に下落した。その後は150円30銭に持ち直したが上値重く反落して引けは149円80銭近辺。
ユーロドル相場は1.08ちょうど近辺で上値重く小動きもみ合い米国市場朝方にかけて1.0770。米国の弱い指標を受けて1.0840台へユーロ高ドル安となったが上昇一服。引けは1.0820。
ユーロ円相場は163円10銭で始まり下落して162円台後半でもみ合い。夕刻には162円10銭に下落したあと米国市場朝方は162円80銭。その後は162円台で大きく上下動して終盤は下落して引けは162円20銭台。
発表された米国の個人所得・消費支出(2月)は前月比+0.8%・+0.4%。所得の伸びは前月+0.9%からやや減少したが強め。ただ消費支出は前月▲0.2%から+0.6%への加速予想には届かず。
PCEデフレーター(消費支出価格指数)前年同月比は総合指数が+2.5%で前月と変わらず、コア指数は前月+2.7%から+2.8%へやや加速した。
ミシガン大学消費者態度指数(3月確報)は粗供養57.9から57.0へ下方修正。期待インフレ率は1年が速報4.9%から5.0%へ、5年も3.9%から4.1%へ、それぞれ上方修正された。
米国株は大幅下落。関税への懸念のなか期待インフレ率の上昇、消費者マインドの悪化が嫌気された。四半期末の調整売りも下押し要因。NYダウは前日比▲715ドル安の41,583ドル、ナスダックは▲481ドル安の17,322ドル。VIX指数は21.65へ上昇。米長期金利は低下。10年債は4.248%、2年債は3.910%。
◆今週の3つの注目ポイント
1. 米国の経済指標
今週は重要な経済指標の発表が相次ぐ。景気懸念が強まるか注目。
月曜日 シカゴ購買部協会景気指数(3月、予想45.0、前月45.5)
火曜日 ISM製造業景気指数(3月、予想49.8、前月50.3) 雇用動態調査(JOTS求人数、2月、予想7,690千人、前月7,740千人)
水曜日 ADP雇用報告(3月、雇用者数前月比増減、予想+119千人、前月+77千人) 製造業新規受注(2月、前月比、予想+0.4%、前月+1.7%)
木曜日 貿易収支(2月) 週次の失業保険申請件数 ISM非製造業景気指数(3月、予想53.1、前月53.5) 雇用統計(3月、非農業部門雇用者数増減、予想+135千人、前月+151千人、失業率、4.1%で前月と変わらず、平均時給、前年同月比、予想+3.9%、前月+4.0%)
2. 日銀短観ほか日本の経済指標
火曜日に日銀短観が発表される。景況感はどうか。大企業製造業の現状判断DI(予想12、前回14)、先行き判断DI(予想9、前回13)と、ともにやや悪化が予想されている。一方、大企業非製造業ではいずれも前回から横ばい予想。製造業がトランプ関税の影響をどれほどネガティブにみているか。
一方、非製造業では比較的良好な見通しが維持されているか。
ほか月曜日には鉱工業生産(2月)、火曜日に失業率と有効求人倍率(2月)、が発表される。日銀の利上げ積極姿勢の妨げにならないかのネガティブチェックとなる。
3. ECB理事会議事要旨
木曜日にECB理事会議事要旨が公表される。直近の会合では利下げが実施されたものの、今後の利下げについて慎重な姿勢がみられた。
背景は、インフレ率が下げ止まりをみせていること、連続利下げによってインフレ率同等水準まで政策金利を下げたことで実質金利がゼロ近傍となったこと。利下げに慎重なニュアンスがどれほどか。景気物価見通し、トランプ関税の影響、財政規律の緩和の動きなど、どのような議論か。
◆今週のMRA's Eye
株価調整とリスク回避
このところ米国株の調整が際立つ。金利水準との相対比較で割高だったところに、関税への懸念、景気先行き懸念が加わり、複合的に株価下押し圧力がかかっている。
金利との相対比較、すなわち10年債利回りと株式益回りの比較で、米国株の割高状態は続いている。米10年債利回りはこのところ低下したものの、なお4.2%~4.3%で推移している。
一方、株式益回り(1株利益/株価)、すなわちPER(株価/1株利益)の逆数は、PERが20倍強で推移していることから4%から4.5%程度。最近の株価調整でようやく国債利回りと同水準まで上昇した。
ただリスクのある株式の利回りとリスクのない国債利回りが同水準では、よほど企業業績の成長期待、増益期待がなければ正当化されない。
米国経済が順調に推移し、また米国経済ひとり勝ち観測、さらには世界経済が堅調に推移するとの期待感のなかでは株高も正当化された。しかし景気や企業業績への悪影響が懸念されるなかで成長期待を維持することは難しい。金利対比での株価割高を正当化するプレミアムは消失する。
実際の企業利益が維持され、株式益回りが低下しないとしても、株価が割高にみえてしまうだろう。ましてや企業業績が実際に悪化するようなら株価下落リスクが高まる。
そうした金利面での株価割高感が続くなか、関税引き上げはさらなるダメージだ。最近はトランプ政権による関税引き上げによる企業業績への懸念の影響が最も大きい。
もう少し大きな目でみれば、関税引き上げの応酬による世界経済全体への悪影響への漠然とした懸念もある。関税に関しては、他国よりもむしろ米国経済そのものへの悪影響がより大きいとの懸念もある。
米国景気の先行き懸念がこのところ強まっていることが米国株安の背景だ。関税引き上げの悪影響はこれから顕在化するとみられるが、すでに足元の経済指標には弱い数字が散見される。
米国の経済指標には弱い数字が散見される。今のところ景況感が悪化を先行。とくに消費者の信頼感の悪化が際立つ。期待インフレ率の上昇が主因で、これに雇用情勢が緩やかながら緩和していることで、先行き懸念が増し防衛的な心理状態になっているとみられる。
企業の景況感は消費者ほどには悪化していないが、関税引き上げによる業績や事業環境への悪影響を懸念し今後は悪化する可能性がある。問題は先行して悪化するセンチメント系の指標に続き、実数値に悪化が顕在化するか。企業の慎重なスタンス、企業業績の悪化などが雇用悪化を加速するか。
鍵を握るのは雇用情勢だ。今週は毎月初の雇用関連指標の発表が相次ぐ。雇用は遅行指標でもあり、まだ悪影響は顕在化しないとみられるが、この先3ヵ月程度が重要。また個人消費の堅調さは株価上昇にも支えられてきたといわれる。
株価調整が長引くようだと個人消費の鈍化をもたらす可能性があり要注意だ。株価調整、個人消費の鈍化、企業業績への懸念、さらなる株価調整、と悪循環となるリスクもある。
これらの複合的な要因が米国株はアンダーパフォームしている。足元まで調整してきた米国株には、さらなる調整リスクが漂う。時折買い戻しが入る場面もあるとみられるが、上値が重いまま推移しそうだ。
米国株の動向は世界の金融市場全体のリスク選好を左右する。今後もリスク回避に傾いた状況が続くとみたほうがよい。これが金融市場における何らかのショックを誘発するリスクは以前より高まっている。
景気堅調や株高を背景にリスク選好が強まったことで、信用スプレッドは大きく低下してきた。ただ企業業績の悪化や株価調整が深まり、リスク選好が後退すれば信用スプレッドは拡大する。
そうした動きは企業ファイナンスにも悪影響をもたらすが、投資行動の変化が金融市場に波乱を生じるリスクもある。
こうしたリスクが為替市場に与える影響は一様ではない。短期的には投機ポジションの手仕舞いによる動きが顕在化する。シカゴ通貨先物のポジションでは円買い越しは過去最大に積み上がっており、手仕舞いは円売り、円安となる。一方、リスク回避の主要因となった市場、資産は継続的に売られる。
米国景気の悪化、米国市場での波乱、であれば、ドルが売られる可能性がある。あるいはドル資産のなかでリスク資産から米国債に資金がシフト。米長期金利が低下、ないしFRBによる金融緩和への思惑が強まることで、ドル安となる可能性が高まる。米国景気、米国株、米金融市場全般の動向には留意が必要だ。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
【MRA外国為替レポート】について