日米欧の財政金融政策予測変化でドル「ひとり負け」
- MRA外国為替レポート
2025年3月10日号
◆先週の市場総括
先週はトランプ政権による関税の不透明感と米国景気の先行き懸念から米国株が大きく下落。リスク回避が強まるとともに早期利下げ観測が強まって米長期金利を抑制した。為替市場では大幅にユーロ高が進んだ。
欧州ではEUが軍備増強計画を表明。ドイツが財政規律を緩和する方針を決定。欧州長期金利が上昇。ECB理事会では市場予想通り0.25%の利下げが決定されたものの、今後の利下げに慎重姿勢がみられ金利先安感が後退。ユーロを押し上げた。
ユーロドル相場は週初の1.04ちょうど近辺から週末には1.09目前まで上昇した。ドルインデックスは週初の107ポイント台前半から週末には103ポイント台後半へ大幅下落。
円相場は対ドルで堅調。上下動しつつドル安円高が進んだ。週初にトランプ大統領が円安への懸念を表明。春闘で大幅な賃上げ要求がみられたこと、内田副総裁が利上げ継続姿勢を再確認したことで、3月会合にも利上げとの見方が台頭。日本の10年国債利回りは1.5%台に上昇した。
ドル円相場は週末に一時147円を割り引けは148円ちょうど近辺。ただユーロに対しては下落。ユーロ円相場は週初の156円台後半から木曜日には一時161円台をつけたあと上昇一服。引けは160円台半ば。
日経平均は米国株安と円高の影響を受けて大幅安となり週末には昨年9月半ば以来の36,800円台で引けた。
月曜日の東京市場では日経平均が大幅高。前週末に日経平均が1,000円を超える大幅安のあと米国株が大幅高。自律反発狙いの買いが入った。
ウクライナ和平が頓挫したとの見方から自衛力増強に向けた動きへの期待から防衛関連が買われた。また金融株も上昇。ただ関税への警戒で終盤に伸び悩んだ。引けは前週末比+629円高の37,785円。
ドル円相場は150円70銭で始まり151円ちょうど近辺に上昇したあと反落して150円30銭~50銭で夕刻までもみ合い。欧州市場に入ると一時149円90銭台へ続落した。その後は急速に円安が進み米国市場朝方には151円30銭へ。
ユーロ円相場の上昇に押し上げられた。しかし米国市場に入ると弱い経済指標を受けて反落。150円10銭~30銭での上下に。さらにトランプ大統領が、中国と日本の通貨安が米国にとって不利になる、と円安批判をしたことで149円10銭へ続落した。引けは戻して149円60銭。
ユーロ円相場は156円80銭で始まり157円30銭に上昇したあと反落して156円50銭~80銭で上値重く推移し欧州市場朝方は156円割れ。ただその後は急反発。米国市場朝方には158円40銭まで急騰した。
ただその後はドル安円高に押されて157円50銭~80銭で上下。トランプ発言で続落し156円10銭。引けは戻して156円90銭。
ユーロドル相場は東京市場では1.04ちょうどで始まり1.0420近辺でもみ合い小動き。欧州市場朝方は1.0390。ただその後は米国市場朝方までユーロ高が続き1.05ちょうど近辺へ急上昇。その後は1.05手前でもみ合い横ばい引けは1.0490。ドルインデックスは106.47へ下落。
ドイツ株DAX指数は史上最高値を更新。防衛関連株が牽引。一方米国株は大幅反落。関税への警戒感が漂うなか弱い経済指標を受けて投資家心理が悪化。ダウは一時▲900ドル安。
エヌビディア社の株価は最新AI半導体を中国に不正に輸出したとの疑いから大幅安。半導体関連株全般に売りが広がった。NYダウは前週末比▲649ドル安の43,191ドル、ナスダックは▲497ドル安の18,350ドルで引け。VIX指数は22.78ポイントに上昇。
米長期金利は低下。10年債は4.157%、2年債は3.955%。
米国のISM製造業景気指数(2月)は前月50.9から50.3へ予想50.6を下回る悪化。景況感の分かれ目である50に接近。雇用指数は50.3から47.6へ、受注指数は55.1から48.6へ、それぞれ悪化して50割れ。一方で価格指数は54.9から62.4へ大幅上昇。景気悪化とインフレの併存するスタグフレーションを懸念させる数字となった。
火曜日の東京市場では日経平均が反落。米国の関税発動、スタグフレーション懸念、米国株安、ドル安円高を嫌気。ウクライナ情勢への懸念で地政学リスクも意識された。午前中に下落幅は一時▲1,000円に迫った。
自動車関連、半導体関連株が下落。引けは▲454円安に下げ幅を縮めて37,331円。
トランプ発言を受けて日銀が利上げしやすくなるとの思惑から日本の10年債利回りが1.420%へ上昇した。ドル円相場は149円60銭で始まりトランプ発言の余波で午前中に148円60銭へ下落。ただその後は上下しながら持ち直し夕刻は149円50銭台。
ユーロ円相場は156円90銭で始まり156円割れに下落。その後は持ち直して夕刻は157円20銭まで上昇した。
ユーロドル相場は1.0480~90でもみ合い、午後から夕刻にかけて堅調。1.0520へ上昇した。欧州市場から米国市場朝方にかけては円高、ユーロ堅調、ドル安。ドル円相場は148円10銭へ下落。
ユーロ円相場は155円70銭へ下落。ユーロドル相場は1.0560へ上昇。ただその後は1.05ちょうど近辺に反落した。米国市場終盤にかけてはユーロが全面高。とくにユーロ高円安が大きく進んだ。
EUフォンデアライエン議長が8,000億ユーロ、125兆円の再軍備計画を発表。ドイツではメルツ次期首相が防衛支出増強方針を表明し財政規律を緩和して財政拡大を容認すると発言。
さらに米国とウクライナが鉱物協定に署名することになったトランプ大統領が発言したこともユーロに追い風。ユーロ円相場は155円70銭から159円ちょうどへ急騰して引け。ユーロドル相場は1.05ちょうどから1.0620へ上昇。ドルインデックスは105.55へ続落。
ドル円相場は米長期金利10年債利回りが一時4.10%台前半に低下したあと反発し4.223%で引け。ユーロ円相場の急騰に連れて149円80銭へ反発した。
米国株は続落。この日対カナダ、メキシコへの関税が発動。消費者マインド悪化による景気悪化懸念が広がり景気敏感株が下落。NYダウは連日の大幅安となり一時▲800ドル超下落して引けは▲670ドル安の42,520ドル。ナスダックは▲65ドル安の18,285ドル。VIX指数は23.51ポイントに上昇。
水曜日の東京市場では日経平均が小幅反発。米国株安が重石となり午前中は下落。その後トランプ施政方針演説で日本に対する言及なく安心感から午後に持ち直し。+270円高まで上昇。東証引けまでドル円相場が150円ちょうど近辺で推移したことも支え。引けは前日比+87円高の37,418円。
ドル円相場は149円80銭で始まり60銭~80銭で上下したあと午前中に150円ちょうどへ上昇。東証引けは149円70銭近辺。
その後欧州市場では149円10銭まで下落。米国市場朝方は149円70銭に戻したが弱い米国の雇用指標を受けて米長期金利が低下するにつれ148円40銭へ下落。その後148円40銭~149円10銭で方向感なく上下動を繰り返す不安定な動き。
ISM非製造業景気指数が予想より強めだったことを受けて米長期金利が反発するとドル円相場も149円20銭に上昇したが引けは148円80銭。
米国のADP雇用報告(2月)は雇用者数前月比が+77千人と前月+183千人から大きく減少し予想+140千人を下回った。
一方ISM非製造業景気指数(2月)は前月52.8から53.5へ改善し予想53.0を上回った。雇用指数は52.3から53.9へ、新規受注指数は51.3から52.2へ改善した。価格指数は60.4から62.6へさらに上昇した。
米10年債利回りは4.186%へ低下したあと4.286%へ反発して引け。2年債は4.006%と4%をかろうじて回復。
ユーロは欧州市場で大幅高。ドイツで財政規律の緩和、財政支出の拡大方針を受けて長期金利が2.6%台後半へ上昇。ユーロを押し上げた。
ユーロドル相場は東京市場午後まで1.0620近辺で小動きもみ合い横ばい。欧州市場に入ると1.07台へ上昇。米国市場では1.0790まで上昇して引けた。ドルインデックスは続落して104.30ポイント。
ユーロ円相場は東京市場では159円ちょうどで始まり158円70銭台~159円50銭で大きく上下。その後は159円ちょうど~30銭に変動幅を縮めて推移。欧州市場に入ると160円10銭台へ上昇。米国市場では一段高となり160円60銭で引けた。
米国株は上昇。トランプ政権が対カナダ、メキシコへの関税のうち自動車に関して1ヵ月発動を猶予することを決定。これを好感して自動車関連が買われた。
PMIサービス業景気指数が上方修正され、ISM非製造業景気指数が持ち直したことも安心感をもたらした。ただADP雇用報告は弱くスタグフレーション懸念は燻った。NYダウは前日比+485ドル高の43,006ドル。ナスダックは+267ドル高の18,552ドル。VIX指数はやや低下したが21.93ポイント。
木曜日の東京市場では日経平均が反発。トランプ政権が関税を一部発動猶予したことが好感され、米国株の上昇も手伝って午前中は一時+400円高。ただ利益確定売りに上値を抑制された。防衛関連と長期金利の上昇に伴い銀行株が堅調。引けは+286円高の37,704円。
円長期金利は一段と上昇。10年国債は1.515%と1.5%の大台に乗せた。2009年6月以来15年9か月ぶり。春闘を巡り連合が今年の賃上げ要求をまとめ平均6.09%となったと発表。6%超は1993年以来32年ぶり。これを受けて早期利上げ観測が強まった。市場では3月会合での利上げも織り込み始めた。
為替市場では午後に入り円高が進んだ。ドル円相場は148円80銭で始まり149円ちょうど~30銭で上下したあと午後から欧州市場にかけて下落。147円80銭~148円ちょうどへ。米国市場朝方にかけて一段安となり147円30銭台へ下落した。
ユーロ円相場は160円60銭で始まり161円ちょうど~20銭で推移したあとドル円相場と同様欧州市場にかけて下落し159円40銭~80銭で上下し159円20銭へ下落した。
ユーロドル相場は1.0790で始まり1.0820へ上昇したあと1.08中心にもみ合い横ばい。
この日はECB理事会が開催され予想通り0.25%の利下げが実施された。中銀預金金利は2.75%から2.50%へ。声明文ではインフレ抑制は進捗している、としたが、政策金利は景気抑制的ではなくなりつつある、と前回の声明文から変更され今後の利下げペースダウン、慎重姿勢が示唆された。
ユーロは上昇。ユーロドル相場は1.0850へ上昇。ただその後はひとまず利益確定売りで反落して1.0760台へ。引けは1.0790~1.08ちょうど。ユーロ円相場は160円70銭に上昇したあと159円10銭台へ反落して引けは159円60銭。
ドル円相場はユーロ円相場の上昇に支えられ148円40銭に上昇したあと147円台後半で上下して引けは148円ちょうど。
米国株は下落。関税への不透明感、米国景気減速懸念で主力株に売りが膨らんだ。トランプ大統領はメキシコ、カナダに対する幅広い品目への関税発動を4月2日の相互関税発動まで1ヵ月見送るとしたことは下支え要因となったが予測困難であり心理改善は限定的。NYダウは▲427ドル安の42,579ドル、ナスダックは▲483ドルの大幅安で18,069ドル。
米長期金利は10年債が4.289%と横ばい、2年債は低下して3.967%。
金曜日の東京市場では日経平均が大幅反落。米ハイテク株安で値がさ半導体関連に売り。円高で輸出関連株も総じて下落した。海外短期筋がまとまった先物売りを入れ一時▲900円安。引けは▲817円安の36,887円。終値で37,000円割れは2024年9月18日以来。
ドル円相場は148円ちょうどで始まり147円40銭台に下落。その後は40銭台~70銭台で上下もみ合い。夕刻に147円20銭に下落した。
米国市場にかけては反発して147円80銭台で雇用統計待ち。結果を受けて147円10銭~148円ちょうど近辺で激しく上下。その後147円割れに下落した。
米雇用統計(2月)は非農業部門雇用者数前月比が+151千人と前月+143千人から増加したが予想をやや下回った。失業率は前月4.0%から4.1%へ予想外に上昇。平均時給は前年同月比+4.0%と前月+3.9%からやや上昇した。
ただ最も幅広い失業率であるU6失業率は前月7.5%から8.0%へ上昇。2021年11月以来の8%乗せとなった。
その後147円ちょうど近辺~70銭で上下したあと、パウエル議長発言を受けて148円20銭に上昇し引けは148円ちょうど近辺。
パウエル議長は、米経済は全体として堅調なペースで成長している、追加利下げを急ぐ必要はない、と述べた。米10年債利回りは4.304%へ上昇。2年債は4.002%。
ユーロドル相場は東京市場では1.0790で始まり夕刻にかけて1.0870へじり高。欧州市場では1.0840~90で上下し、米国市場ではやや下落して1.0830で引けた。ドルインデックスは103.91ポイントへ下落。ユーロ円相場は東京市場では159円60銭で始まり159円台半ばで上下。
欧州市場にはいると上昇して160円40銭へ。米雇用統計の発表後は159円60銭~160円60銭で何度か大きく上下。引けにかけてドル円相場の上昇につれて160円30銭台で引けた。
米国株は上昇。パウエル議長発言が一定の安心感をもたらした。景気への過度な警戒感が後退。大きく下落したあとで週末の買い戻しが支え。NYダウは前日比+222ドル高の42,801ドル、ナスダックは+126ドル高の18,196ドル。
◆今週の3つの注目ポイント
1. 米国の経済指標
今週はとくに物価指標に注目。インフレが鈍化を示すか。
火曜日 雇用動態調査(JOLTS求人数、1月、予想7,725千人、前月7,600千人)
水曜日 消費者物価指数(CPI、2月、前年同月比、予想+2.9%、前月+3.0%、コア、予想+3.2%、前月+3.3%)
木曜日 生産者物価指数(PPI、2月、前年同月比、予想+3.2%、前月+3.5%、コア、予想+3.6%、前月+3.6%) 週次の失業保険申請件数
金曜日 ミシガン大学消費者態度指数(3月、速報、予想63.8、前月64.7)
2. 日本の経済指標
月曜日 国際収支(1月)、景気先行指数(1月、予想108.2、前月108.3) 一致指数(同。予想116.3、前月116.4) 景気ウォッチャー調査(2月、現状判断DI、予想48.5、前月48.6、先行き判断DI、予想47.5、前月48.0)
火曜日 GDP(10-12月期改定値、前期比年率、速報+2.8%)
水曜日 国内企業物価(2月、前年同月比、予想+4.0%、前月+4.2%)
3. 株価動向、リスクイベント
先週は米国株が大きく下落。日本株も週末にかけて一段安となった。トランプ政権の関税政策が不透明ななか、米国景気悪化観測が強まり、米国株を押し下げている。リスク選好が弱まり、リスク回避が強まった状況がなお続くか。
投機的な円買いポジションが積み上がっており、株価急落となれば手仕舞いの円売りで急速な円安が生じる可能性がある。リスクイベントには留意を要する。
◆今週のMRA's Eye
日米欧の財政金融政策予測変化でドル「ひとり負け」
先週は日米欧の財政金融政策を巡る市場の予測・思惑が変化し、ユーロ、ドル、円の主要3通貨が大きく変動した。ユーロは大幅高。ユーロドル相場は急騰。ドルインデックスは急落。円も堅調に推移しつつ、ドル円相場はドル安円高。ユーロの堅調には敵わずユーロ円相場は上昇。以外に対しては概ね中立だった。
米欧間の財政金融政策を巡るコントラストがこれまでと逆の方向、リスクバイアスとなったことがユーロドル相場大変動となった主因。米国は実質的に「財政緊縮」、欧州は「財政拡大」に舵を切ったととられた。
金融政策では、FRBは利下げに前向きとなり、ECBは利下げ打ち止めに傾いた、との思惑が強まった。日本の財政政策のバイアスは変化がないが、日銀が早期利上げに傾いているとの見方が円を支えた。
大変動となったのがユーロ。これまでは欧州景気の悪化、ECBの利下げ継続姿勢からユーロ安との見方が大勢だった。とくに足元で米国景気が底固く推移し、トランプ政策によって米国経済がひとり勝ちとなるとの見方も手伝って欧米景況格差が拡大。
金融政策も、米国でFRBが利下げ見送り、様子見。欧州でECBが連続利下げで積極的な金融緩和を継続。米欧金融政策格差もユーロ安ドル高観測を支えた。
しかし昨年末以降、欧米景況格差は縮小。欧州の景況感が底ばいを続け、粘り腰を示す傍らで、米国の企業・家計の景況感が悪化した。
トランプ政策への懸念と期待が入り混じっていたが、期待が後退し懸念のみが強まるかたちとなった。関税発動やインフレ期待の上昇、利下げ先送り、長期金利の高止まり、などから景況感は悪化。減税など財政拡大による景気刺激期待は、政府職員の大幅削減など財政支出削減が先行という逆の動きに。
むしろ関税による実質増税、政府効率化による財政支出削減、で財政緊縮に傾いたことは想定外。期待が崩れるに十分だ。米国の経済指標には弱い数字が続き景気悪化観測、さらにはスタグフレーション懸念が強まった。
米国の金融政策見通しも大きく変化している。
昨年末にはFRBの次の一手は利上げ、とまで金利先高観が強まったが、足元では年内利下げ観測は1回から2回へ、さらに3回の可能性も織り込み始めた。米10年債利回りは年初に4.8%近辺へ上昇していたが、足元では4.2%台へ大きく反転低下した。
欧州の景気物価見通し・政策見通しは米国と全く逆のリスクバイアスが生じている。ウクライナ和平が難航するなか、米国が軍事支援の縮小を打ち出したことでEUが軍備拡張を決断。財政規律を緩めて財政支出を容認する方向へ動きだした。
とくに財政健全化を頑なに守り、さらに軍備拡張に慎重だったドイツが、次期首相のもとで財政規律緩和を決断したことは大きなインパクトを与えている。
欧州景気が底ばいから底打ちの気配、粘り腰を示し始めたなか、財政拡張によるリスクプレミアムの上昇もあって、欧州の長期金利は際立って上昇した。米国が、関税拡大、政府支出の抑制により結果的に緊縮財政に傾く一方、欧州は、財政支出拡大、財政規律の緩和、と真逆に動いた。
金融政策では、ECBが昨年から5会合連続で利下げを実施。積極的な利下げ姿勢を示してきた。しかしすでに中銀預金金利が2.50%となり、インフレ率が2%台で低下が一服していることから、利下げに慎重な姿勢に転じたようだ。
今後の関税によるインフレ懸念はむしろ強まっている。米国で利下げ期待が強まる一方、欧州では利下げ期待が後退した。
財政政策と金融政策の両面で欧米のリスクバイアスがこれまでの市場の見方と逆方向となった。ユーロドル相場は1.00すなわちパリティを割り込むリスクが見込まれていたが、むしろ1.10を目指してユーロ高ドル安が進むとの見方、ユーロ高ドル安のリスクバイアスを織り込み始めた。
ドルインデックスは年初に110ポイント目前までドル高が進んでいた。トランプ政権のもとで米国経済ひとり勝ち、ドルひとり勝ち、との見方が大勢だった。しかし足元でドルインデックスは103ポイント台へ下落。「米国経済ひとり勝ち」観測が揺らぎ「ドルひとり勝ち」との見方も揺らいだ。
むしろ「ドルひとり負け」といった状況だ。
こうしたなか、日本の金融政策見通しも変化している。昨年末には利上げに慎重との見方もあり、次の利上げは5月か7月との見方もあったが、1月の会合で利上げを実施。それでも次の利上げは半年後の7月ないし9月とみられていた。7月に次回利上げ、年度後半の来年1月にもう1回利上げがせいぜいとの見方が大勢だった。
しかし足元で急速に利上げ前倒し観測が強まっている。3月18日・19日の次回会合で利上げが実施されるのではないか、との見方も強まってきた。
背景は日銀総裁、副総裁、委員の発言に利上げ継続姿勢が明確にみられること。さらに円安による物価高が家計を圧迫し消費を抑制しているとの見方が強まり、政府・与党もさらなる円安是正に前向きとみられること。
加えて、トランプ大統領がここ数年の円安に懸念を表明。日本の通貨安政策が米国の利益を損なっているとの見方を示したこと。さらに春闘で賃上げ要求の平均が6.01%と1993年以来の6%台に乗せたこと。
日銀に利上げの背中を押す材料が相次いでいる。日本の長期金利は急上昇を続け、先週、10年国債利回りは1.5%台に乗せた。円金利先高観は円先高観につながった。
投機筋は昨年夏まで過去最大水準まで円売りを積み上げてきたが、日本の通貨当局による円買い介入や日銀の利上げ開始を受けて手仕舞った。
その後は円買い越しに転じることもあったがスタンスは定まらず。買い越しと売り越しの間で揺れていた。しかし足元では完全に円買い越しに転じ定着したようだ。
先週4日火曜日時点のポジションは13万3千枚の円買い越しで過去最大。買い越しは5週連続で、なおかつ買い越し幅は週を追って拡大している。この状況は、株価急落などリスク回避が急速に強まる局面ではポジションの手仕舞いによる円売り戻しで短期的に円安となる可能性を示唆する。しかし円売りが積み上がっていたときと同様、手仕舞いによる値動きは一時的だ。
日米の金利差により円買いが難しいとの見方もあるが、円高を促すマクロの材料がある場合にはさほど問題にならない。モメンタム、すなわち相場のトレンドはすでにドル安円高となっている。バリュエーションもなお円は割安だ。これらが円買いを促す環境は当面変化がなさそうだ。
キャリーつまり金利差の絶対水準が円売りを促すとの見方があるが、その金利差も今後は縮小しそうだ。円高、とくにドルが想定外に「ひとり負け」となる状況では、なおドル安円高が想定以上に進むリスクがある。年内140円割れの可能性が生じてきたと考える。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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