株安・円安~米長期金利低下・ドル安となるか
- MRA外国為替レポート
2025年3月3日号
◆先週の市場総括
先週は前週末にかけて急速に高まった米国景気の先行き懸念や株安・リスク回避を受けて円高に振れて始まった。
ドル円相場は149円台前半で始まりその後も一時148円50銭台へ下落するなど週央までは上値の重い展開。FRBによる利下げ観測も年内1回から2回へと傾きドルを下押した。
ただ木曜日に米ハイテク株が大幅安となり、金曜日の日経平均が1,100円に達する急落となると一転して円安に。それまで海外投機筋が円買いを大きく積み上げていたことで急速にポジション手仕舞いの円買い戻しが入ったとみられる。
ドル円相場は週末に151円近辺まで反発し引けは150円台半ば。ユーロ円相場は週央までは概ね156円50銭~157円を中心に方向感なく上下。その後は157円台から155円割れへの急落・急反発と荒れ相場となり週末は156円台前半で引け。
ユーロドル相場は1.05ちょうど近辺で横ばいもみ合いのあと週末にかけて下落し1.03台後半で引けた。
米長期金利は低下。10年債は4.21%、2年債は4%を割り3.987%。ドル金利低下にもかかわらずドルは底固い値動きとなった。
日経平均は週末に37,155円で引け。これまで当面のレンジ下限とみられていた38,000円を割り込んだ。ただ週末の米国株は大きく反発。景気懸念は燻るものの、インフレ率の低下がみられ安心感が広がった。リスク回避はひとまず一服。
月曜日の東京市場は休場。アジア時間の為替市場ではユーロ高に跳ねて始まった。週末にトランプ大統領がゼレンスキー大統領とレアアースを巡る合意が近い、と報じられたことでウクライナ和平が前進と受け止められユーロが買われた。
ユーロドル相場は前週末に1.0460近辺で取引を終えていたが昼頃には1.0530へ上昇。ただその後反落して欧米市場では1.0460~80で上下。
ユーロ円相場は前週末の156円10銭から156円70銭に跳ねて始まり157円20銭台へ上昇。ただその後は米ハイテク株の大幅続落でリスク回避が強まったことから勢いを失い一時156円10銭近辺へ反落した。引けはやや戻して156円70銭近辺。
ドル円相場は149円20銭で始まり朝方一時148円80銭台へ下落。ただその後すぐ反発して米国市場朝方は149円90銭。米国市場では弱い経済指標、ハイテク株の大幅続落でリスク回避が強まり149円20銭に急反落。その後は持ち直して引けは149円70銭。
米国株はまちまちながら上値重くハイテク株が大幅続落。NYダウは前週末にかけて大幅安となった反動で反発狙いの買いが支え。3営業日ぶりに反発して前週末比+33ドルの小幅高、43,461ドルで引け。
一方ナスダックは▲237ドルの大幅続落。マイクロソフト社がデータセンター拡大路線を減速との分析でAI関連に売りが広がった。引けは19,286ドル。
米長期金利は前週末比小幅低下。10年債は4.40%、2年債は4.172%。
発表されたシカゴ連銀景気指数(1月)は▲0.03と前月0.15から小幅悪化。ダラス連銀製造業活動指数(2月)は▲8.3と前月14.1から予想外の大幅悪化。昨年8月以来の低水準となった。
火曜日の東京市場では日経平均が大幅安。一時▲600円超下落。前日にナスダックが大幅続落。AI半導体需要の先行き警戒感が強まり、テクノロジー関連、半導体関連、電線関連などが下落。また円高や関税への懸念を受けて自動車株も売られた。
マクロ経済指標の悪化も上値を抑制。一方商社株は逆行高。バフェット氏が追加投資との観測が材料。引けは前週末比▲539円安の38,237円。
ドル円相場は149円70銭で始まり朝方150円30銭に上昇したがその後は149円40銭台へ反落。その後は80銭台、20銭台、と上下。欧州市場から米国市場にかけては149円60銭~80銭で推移した。
その後米国で発表された消費者信頼感指数(2月、コンファレンスボード)が前月104.1から98.3へ予想外の大幅悪化となるとドル円相場は急落。148円60銭近辺へ下落した。引けにかけては持ち直し149円ちょうど近辺。
ユーロ円相場はドル円相場と同様の値動き。156円70銭で始まり朝方157円20銭に上昇したが反落し156円50銭台。その後は157円に持ち直したが欧州市場では156円10銭まで下落した。
米国市場朝方は157円30銭に戻したもののドル円相場の下落、米ハイテク株下落によるリスク回避で反落し156円30銭~50銭。引けは156円70銭近辺。
ユーロドル相場は東京市場では1.0460で始まり底固いながら概ね横ばいもみ合い。夕刻から欧州市場にかけては1.0460~80。米国市場では弱い米国の経済指標を受けて1.0520へ上昇。その後一時1.05を割ったが引けは1.0520。
米国で発表された経済指標は、ケースシラー住宅価格指数(12月)が前年同月比+4.5%と前月+4.3%から上昇加速。消費者信頼感指数(2月)は98.3に大幅悪化し、期待インフレ率は1年が前月5.3%から6.0%へ上昇。インフレ高と景気悪化のスタグフレーションリスクが一段と意識された。
ドルインデックスは106.30へ下落。米国株はまちまち。成長株を中心にリスクオフで売られた。NYダウは前日比+159ドル高の43,621ドル。ナスダックは▲260ドルの大幅続落で19,026ドル。
米長期金利は低下。10年債は一時4.28%台へ低下して4.298%、2年債は4.096%。
水曜日の東京市場では日経平均が続落。米ハイテク株安を受けて半導体関連株が下落。一時▲38,000円割れ。米国の対中半導体規制強化への警戒、ドル安円高が重石。引けにかけて下げ幅を縮め▲95円安の38,142円で取引を終えた。
ドル円相場は149円ちょうどで始まり朝方148円60銭台に下落。その後持ち直し149円40銭近辺でもみ合いのあと夕刻は149円40銭~60銭で上下。欧州市場から米国市場にかけては149円90銭へ上昇した。
ただ米国の新築住宅販売が弱かったことから米長期金利の低下とともに下落。148円80銭へ下落して引けは149円ちょうど近辺。
ユーロ円相場は156円70銭で始まり下落して40銭~60銭でもみ合い、その後午後から欧州市場にかけては157円手前でもみ合い横ばい。米国市場に入るとドル円相場の下落に連れて156円ちょうど近辺まで下落して引けは156円30銭近辺。
ユーロドル相場は1.0520で始まり小動き横ばいもみ合い。夕刻は1.0480台~1.0510で上下し引けは1.0480。
米国の新築住宅販売(1月)は季節調整済み年率換算で657千戸と前月698千戸から減少。米国株はまちまち。トランプ大統領が対EU関税をまもなく発動するとし、あらゆる製品に25%の関税をかける、としたことから、貿易戦争、世界経済への悪影響懸念でリスク回避が強まった。
一方、連日下落してきたハイテク株の一角には買いが入った。NYダウは前日比▲188ドル安の43,433ドル。ナスダックは+48ドル高の19,075ドル。米長期金利は低下。10年債は4.248%、2年債は4.076%。
木曜日の東京市場では日経平均が小幅ながら3営業日ぶりに反発。一時+200円高。相対的な日本株の底固さから海外短期筋が先物に買い。米国株安にもかかわらずしっかり。引けは+133円高の38,256円。
ドル円相場は149円ちょうどで始まり朝方148円30銭に下落したもののその後は堅調。149円20銭~40銭でもみ合い夕刻から欧州市場にかけては150円ちょうどへ上昇した。米国市場朝方にかけて149円40銭に下落。その後はユーロ安ドル高の進行を受けて150円20銭へ上昇して149円80銭~150円20銭で上下横ばい引けは149円80銭。
ユーロドル相場は東京市場では1.0480で始まり緩やかに1.0460から1.0480で上下。欧州市場に入るとユーロ安が強まり米国市場にかけて1.04ちょうど近辺へ下落しそのまま引けた。ドルインデックスは107.30ポイント近辺に上昇。
公表された1月のECB理事会議事要旨では、インフレ率は目標に向けて低下しつつあるが、依然として懸念があり一段の緩和は慎重にする必要がある、エネルギーコストの上昇と関税の物価押し上げリスクがある、とした。
市場では3月会合での利下げを織り込んでいるものの、4月以降は不透明との見方が強まった。
トランプ大統領は、欧州からの輸入に対する関税を近く公表する、25%になる、と表明。メキシコとカナダに対する関税は3月4日に発動する、中国には10%の追加関税をかける、とした。
ユーロ円相場は東京市場開始から夕刻までは156円台前半で上下。欧州市場に入りドル高円安とともに157円20銭に上昇したが急反落。156円ちょうど近辺に下落したあとは156円台前半で上下、その後は155円台に下落して156円を挟んで大きく上下し引けは155円70銭台。
米国株は大幅安。AI関連が需要と投資への不透明感から大幅安。トランプ大統領の関税発動方針表明、失業保険申請件数が増加したことも嫌気された。ナスダックは▲530ドルの大幅安。
一方、金融株、エネルギー株は循環物色されて堅調。NYダウは▲193ドル安の43,239ドル。
発表された週次の失業保険申請件数は新規申請が前週219千件から242千件に増加した。長期金利は関税によるインフレ懸念を踏まえやや上昇。10年債は4.267%。2年債はほぼ変わらずの4.059%。
クリーブランド連銀総裁は、当面政策金利を据え置き、インフレ低下を見極める必要がある、と述べた。カンザスシティ連銀総裁は、インフレは総じて2%の目標を上回って推移しておりインフレ警戒を緩めるべきではない、とした。
フィラデルフィア連銀総裁は、政策維持が適切、物価目標の達成は可能、と述べた。総じて利下げに慎重なタカ派寄りの発言が相次いだ。
金曜日の東京市場では日経平均が急落、大幅安。下げ幅は一時前日比▲1,400円に達し37,000円も割り込んだ。米ハイテク株が再び大幅安。トランプ関税への懸念が再燃し投資家心理が悪化した。ハイテク関連銘柄のほか自動車関連や中国関連にも売りが入り下げを牽引。全面安となった。
このところのレンジの下限とみられていた38,000円を割り込み、200日移動平均線も下抜けて低迷が長期化するとの見方が広がった。引けは▲1,100円安の37,155円。
ドル円相場は149円80銭で始まり大きく上下したあと急速に円安。朝方は149円50銭に下落したがすぐに反発して150円10銭へ。午後には149円10銭に反落したが、その後欧州市場にかけて急速に円安が進み150円70銭へ上昇した。
欧州市場では20銭に反落したあと米国市場にかけて151円ちょうど近辺へ続伸。引けにかけては150円30銭~80銭で上下し150円60銭で取引を終えた。株安リスク回避で積み上がった投機的な円買いポジションに手仕舞いの円売り戻しが入ったことが主因とみられる。
ユーロ円相場もドル円相場と同様の値動き。155円70銭台で始まり156円ちょうど近辺へ上昇、154円80銭へ反落、と大きく上下したあと、欧州市場にかけて156円70銭へ上昇した。
その後いったん20銭近辺に下落したが157円10銭へ上昇。その後は大きく上下しながら下落して155円80銭をつけ引けは156円30銭。
米国株は大きく上昇。弱めの物価指標を受けてインフレ懸念が緩和。長期金利が低下して株価を支えた。NYダウは+601ドル高の43,840ドル、ナスダックは+302ドル高の18,847ドル。
10年債利回りは4.21%。2年債は4%を割り3.987%。
発表された米国の個人所得・消費支出(1月)は前月比+0.9%・▲0.2%と消費が弱めの数字。PCEデフレーター(消費支出価格指数)は前年同月比で+2.5%と予想に一致。前月+2.6%から小幅低下した。
コア指数も前月+2.8%から+2.6%に低下して予想と一致した。
シカゴ購買部協会景気指数(2月)は前月39.3から45.5へ改善した。
◆今週の3つの注目ポイント
1.米国の経済指標
今週は重要指標の発表が相次ぐ。米国景気先行き懸念を強める内容となるか、緩和するか。
月曜日 PMI製造業景気指数(2月改定値、速報51.6) ISM製造業景気指数(2月、前月49.1、雇用指数、同50.3、新規受注指数、同55.1)
水曜日 PMIサービス業景気指数(2月改定値、速報49.7) ADP雇用報告(2月、雇用者数前月比増減、予想+148千人、前月+183千人) ISM非製造業景気指数(2月、予想53.0、前月52.8、雇用指数、前月52.3、新規受注指数、前月51.3)
木曜日 週次の失業保険申請件数
金曜日 雇用統計(2月、雇用者数前月比増減、予想+158千人、前月+143千人、失業率、予想4.0%で前月と変わらず、平均時給、前年同月比、予想+4.2%、前月+4.1%)
2.米地区連銀経済報告(ベージュブック)、当局者発言
水曜日にベージュブックが公表される。景気物価動向、雇用情勢について、各地区連銀はどのようにとらえているか。景気悪化の兆しが強まっているか、依然として底固いとの判断か。インフレ見通しについて楽観しているか、懸念が強まっているか。また当局者が最近の数字をもとにどのような見解を示すか。
月曜日にセントルイス連銀総裁、木曜日にウォラー理事、アトランタ連銀総裁、金曜日にパウエル議長の発言機会がある。
3.ECB理事会、ラガルド総裁会見
木曜日にECB理事会が開催され、終了後にラガルド総裁が定例会見を行う。今会合では0.25%の利下げが予想されている。
預金ファシリティ金利は2.50%から2.25%に引き下げの予想。先日公表された1月会合の議事要旨では、エネルギー価格や関税の影響で物価動向が不透明となっていることから、インフレ警戒を維持して慎重な対応が必要になる、との見方も示されていた。ラガルド総裁がどのような見解を述べるか。
ほか、引き続きトランプ関税の動向に留意。3月4日に対カナダ、対メキシコ関税が発動される予定。5日にトランプ大統領が演説。日本では5日水曜日に内田日銀副総裁が講演を行う。
◆今週のMRA's Eye
株安・円安~米長期金利低下・ドル安となるか
先週、株価は大きく調整した。米国で景気悪化懸念が燻るなか、トランプ政権が対カナダ、メキシコへの関税発動を正式決定。さらに中国への関税引き上げも表明。発表された米国の経済指標があまり芳しくないなか、スタグフレーションリスクが意識された。
加えてAI需要や関連投資の先行き懸念も台頭。米国ではハイテク関連株が大きく下落した。
ナスダックは急落。日経平均は金曜日に1,000円を超える急落となった。一方で金曜日には円が大幅に下落。148円台をつけていたドル円相場は一時151円へ。ユーロ円相場も154円台から157円台へ上昇。株安と円安が同時に進行した。
背景には投機筋の円買いが積み上がっていたことにある。
週末28日に発表されたシカゴ通貨先物の最新のポジション、2月25日時点の円ポジションは96,000枚の円買い越し。前週18日の60,600枚の買い越しから買い越し幅が増加していた。前週末から25日にかけては、米国の景気悪化が強く懸念されたことが大きい。
この水準は過去20年を振り返っても最大の円買い越し。それだけ円先高観が強まっていたことを示すとともに、突発的な事象、リスク回避イベントが生じた場合、円売り戻しが生じて円安に振れる状況にあったことを示している。
通常は円売りが恒常的だったことから、株安・リスク回避は円買い戻しによる円高を誘発したが、ポジションが全く逆の円買いとなっていたことで、リスクイベントは円売り戻し、円安をもたらす、これまでとは逆の現象となった。リスク回避の円高が一時的だったのと同様、今回のリスク回避による円安は一時的と想定される。
先週末には米国のPCEデフレーターがインフレ率の低下を示し、ひとまずスタグフレーションへの懸念は後退した。米2年債利回りは4%割れ、3.987%に低下。市場の利下げ期待が年内1回から2回へ傾きつつある。
ただ物価に対する不透明感はなお漂う。今週からトランプ関税が発動。その悪影響、物価への具体的な悪影響はなお意識されそうだ。
一方、さらに重要なのは景気動向。今週は重要な経済指標の発表が相次ぐ。ISM景気指数が企業景況感のさらなる悪化を示し、あるいは重要な雇用関連指標が雇用情勢の悪化を示すようなら、再び米国景気への懸念が強まる。米国経済への不安が高まり、あらためてドル安円高に振れる可能性が高い。
株安を起因としたリスク回避・米金利低下でのドル高・円安は短期的。より大きな流れとしての、米国経済の先行き懸念・米金利先安観測の強まり・米長期金利低下、が自然な流れとしてドル安円高につながるだろう。
FRBメンバーはなお関税等によるインフレ警戒を解いていない。一方でインフレ低下基調との認識は崩れていない。景気悪化が強まるなか、インフレ鈍化が確認されれば、関税の影響による不透明感はありながらも利下げに動く可能性は高まる。
投機ポジションの調整、円売り戻しで円安が進んだあとでは、再びドル安円高に振れる可能性が高まる。
ウクライナ和平への道のりは遠くなったようだ。
米国は対欧州での関税引き上げを表明。ウクライナ和平への一段の積極関与、あるいは紛争が長期化する場合の米国の消極姿勢と欧州のさらなる負担を求める姿勢は強い。
米欧対立ともいえる状況は欧州経済への懸念を強め、ユーロへの下落圧力をかけそうだ。
今週ECB理事会が開催され0.25%の利下げが実施されるとみられている。1月に続き今年2回目。合計0.50%の利下げとなる。今後の利下げについては関税引き上げなどの影響が不透明で慎重姿勢を示している。
欧州の景況感は底ばいから持ち直しの気配もあるが、先行き不安は大きい。欧州でもスタグフレーションが意識される可能性がある。
ユーロドル相場は1.05をつける場面もあったが先週末には1.03台に反落。ユーロ安円高基調には変化がない。ユーロ円相場の動きを見る限り、先週の円安は一時的。リスク回避でドル高、およびポジション調整による円安が生じたことで、ドル円相場が急速にドル高円安に振れた可能性がある。
米国経済、欧州経済、ともに懸念が高まるなか、円安がなお進む可能性は低いとみられる。リスクバイアスは円高のまま、円高が再燃するか、またそのペースは緩慢か速まる可能性があるか、という視点で見ておく必要はありそうだ。
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