CONTENTSコンテンツ

トランプ関税とウクライナ和平のリスクバイアス
  • MRA外国為替レポート

2025年2月17日号

◆先週の市場総括


先週はトランプ政権の関税政策に振らされる展開。またパウエル議長の議会証言や経済指標を受けて米国の利下げ観測が揺れドルは上下した。週初はトランプ大統領が鉄鋼・アルミニウムへの25%輸入関税適用を決めたことで懸念が広がった。

インフレ懸念が再燃するなかパウエル議長は利下げを急がない姿勢を再確認。さらに強い消費者物価指数を受けて利下げ観測が後退。米長期金利が上昇。

ドル円相場は週初151円20銭から水曜日の米国市場では155円手前まで押し上げられた。ただその後は反落。トランプ政権は相互関税の導入方針を決定したものの発動が4月まで見送りとした。

生産者物価指数はコアPCE(個人消費支出価格指数)の低下を予測させ、加えて週末に発表された小売売上高が弱い数字となって米長期金利は低下。ドル円相場は一時152円ちょうど近辺まで押し戻されて引けは155円30銭近辺。

ユーロドル相場は一貫して堅調。1.0290で始まり週末は1.05ちょうど近辺。ドルインデックスは106ポイント台後半まで下落した。ウクライナ停戦協議への期待がユーロを押し上げた。ユーロ円相場は155円60銭に下落して始まったが水曜日から木曜日にかけて161円台へ上昇。その後やや下げたが高止まり週末は160円ちょうど近辺で推移した。

米国株は個別決算を材料に上昇する場面もあったが金利上昇が重石。日経平均も個別決算と円安を好感して39,500円近辺へ上昇したものの週末は押された。

月曜日の東京市場では日経平均は小幅高。前週末の米国株安、関税への懸念で下落してスタート。一時▲180円安。ただその後半導体関連株が持ち直しプラス圏へ。日銀の早期利上げ観測、国内長期金利上昇は重石となった。引けは前週末比+14円高の38,801円。

ドル円相場は151円20銭で始まり昼には152円20銭近辺へ上昇。午後には151円80銭に押したが欧州市場にかけて152円50銭に続伸した。ユーロ円相場は大きく下落し155円60銭で始まった。

トランプ大統領が週末に鉄鋼・アルミニウムに25%の輸入関税を課するとしたことでリスク回避が急速に高まり円高に跳ねた。ただその後はすぐに持ち直し156円60銭~70銭で推移。さらに欧州市場にかけて157円40銭へ上昇した。

米国市場では円高に振れてドル円相場は151円80銭へ、ユーロ円相場は156円30銭へ反落。引けにかけてはやや戻して152円ちょうど近辺、156円60銭近辺でそれぞれ引けた。

米国株は上昇。前週末にやや大幅に下落した反動による押し目買い、良好な決算銘柄への買いが支え。一方で関税への警戒感が上値を抑制した。NYダウは前週末比+167ドル高の44,470ドル、ナスダックは+190ドル高の19,714ドル。

米長期金利は前週末と概ね変わらず。10年債は一時4.45%に低下したが引けは4.50%。2年債は4.279%。

火曜日の東京市場は祝日で休場。アジア時間の為替市場は小動き。ドル円相場は152円ちょうど近辺でもみ合い。ユーロ円相場は156円60銭で始まり40銭~60銭でもみ合い。

ユーロドル相場は1.03ちょうど近辺で推移。欧州市場から米国市場にかけてユーロ高円安が進行。158円20銭へ。引けは158円ちょうど近辺。

ドル円相場は152円20銭~60銭で上下し引けは152円50銭。ユーロドル相場は1.0350へ上昇し1.0380へ続伸したあと引けは1.0360。

この日パウエル議長は上院銀行委員会で半年に1度の議会証言を行った。利下げを急ぐ必要はないとの認識を再確認。市場では利下げが6月以降との見方が強まった。

7月利下げを行い年内の利下げは1回との見方が主流に。年内据え置きとの見方は1割から2割に増加。米長期金利は上昇。10年債は4.539%、2年債は4.29%。

米国株はまちまち。好業績銘柄は買われたが、利下げ先送り観測、長期金利上昇は重石。NYダウは前日比+123ドル高の44,593ドル、ナスダックは▲70ドル安の19,643ドル。

水曜日の東京市場では日経平均が上昇。好決算銘柄が個別物色された。一部値がさ株が指数を押し上げ。円安は支えとなったがトランプ観世氏への懸念が上値を抑制した。

自動車関連が売られたほか対象物品の拡大も懸念された。引けは月曜日比+162円高の38,963円。

為替市場では朝から円安が進行。パウエル議長の発言を受けてドル円相場は152円50銭から午後早々に153円70銭へ。その後は40銭~70銭でもみ合い横ばい。ユーロ円相場も連れて158円ちょうどから159円20銭へ上昇。その後は159円ちょうど~50銭で上下した。

注目された米国の消費者物価指数(CPI、1月)は、総合指数の前月比が前月+0.4%から+0.5%へ、前年同月比が+2.9%から+3.0%へそれぞれ加速した。コア指数は前月比が+0.2から+0.4%へ、前年同月比が+3.2%から+3.3%へ予想外に加速した。

米長期金利は一時4.66%へ急騰。その後一服して4.625%。米2年債利回りは4.355%で引け。

米長期金利の動きを受けてドル円相場は154円50銭へ上昇。その後10銭台へ反落したがすぐ反発して154円80銭へ。引けは反落して154円40銭近辺。

ユーロ円相場は159円ちょうど近辺から161円ちょうどへ上昇。その後反落して引けは160円30銭。

トランプ大統領とプーチン大統領が電話会談を行ったことからウクライナ停戦期待によるユーロ高、さらにリスク選好の高まりによる円安で上昇した。

ユーロドル相場は東京市場では1.0360で始まりもみ合い小動き横ばい。CPIを受けて1.0320に下落したがすぐに持ち直して1.0450へ反発。引けは1.0380近辺。

米国株はまちまち。年内利下げ観測がさらに後退し長期金利が上昇したことが重石。NYダウは前日比▲225ドル安の44,368ドル。ナスダックは+6ドル高の19,649ドル。

パウエル議長は下院金融サービス委員会で証言し、改めて利下げを急がない姿勢を示した。

木曜日の東京市場では日経平均が3営業日続伸。円安ドル高の進行で自動車関連が上昇。海外短期筋が先物に断続的に買いを入れた。値がさ株の一角が買われ指数を押し上げた。金利上昇で銀行株が堅調。引けは前日比+497円高の39,461円。

為替市場ではさらにユーロ高・円安が進んだ。ユーロ円相場は160円30銭で始まり161円20銭へ上昇。ただ夕方から欧米市場にかけて反落して159円30銭台。その後は160円台前半に反発、159円10銭へ反落、160円ちょうどへ反発と乱高下して引けた。

ドル円相場は東京市場では154円40銭で始まり154円台前半で上下動。夕刻から欧米市場にかけては下落し152円90銭へ下落した。その後は153円20銭台へ反発して引けは152円80銭近辺。

発表された米国の生産者物価指数(PPI、1月)は前月比が+0.4%、前年同月比が+3.5%と前月+3.3%から上昇加速。コア指数は前月比が+0.3%と前月からやや鈍化。前年同月比は+3.5%から+3.4%へやや鈍化。利下げ遅延との見方が後退し米長期金利が低下した。10年債4.526%へ、2年債は4.309%へ低下。

ユーロドル相場は堅調。東京市場では1.0380で始まり1.0440へ上昇。欧州市場では1.0380~1.04ちょうどでもみ合いのあと米国市場では乱高下しつつ引けは1.0460へ上昇して引けた。

ドルインデックスは107ポイントちょうど近辺まで下落して引け。

米国株は上昇。トランプ大統領が相互関税導入の大統領令に署名したが発効は4月1日まで見送りその間調査するとした。米国企業の輸出が有利になるとの見方が株価を支えた。利下げ遅延観測が後退したことも支え。NYダウは前日比+342ドル高の44,711ドル。ナスダックは+295ドル高の19,945ドル。

金曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに反落。円高を嫌気して売られた。前日の上昇のあとで利益確定売りが重石。一方好業績銘柄には買いが入った。引けは▲312円安の39,149円。

ドル円相場は152円80銭で始まり153円10銭に上昇したあと152円40銭台に反落。その後は概ね152円台後半で上下し米国市場朝方は152円80銭。

発表された米国の小売売上高が弱い数字だったことを受けて長期金利が低下。これを受けて152円ちょうど近辺まで下落した。その後は米長期金利がやや持ち直し引けは152円30銭。

米国の小売売上高(1月)は前月比が▲0.9%と予想▲0.2%を大きく下回った。前月が+0.2%から+0.7%へ上方修正されたものの総じて弱い数字。除く自動車でも▲0.4%でプラス予想に反して弱かった。

10年債利回りは一時4.44%台に低下。その後持ち直して4.477%で引け。2年債は4.261%へ低下した。

ユーロは引き続きウクライナ和平への期待で堅調。ユーロドル相場は東京市場では1.0460台でもみ合い横ばい小動き。欧州市場から米国市場にかけて1.0510台へ上昇し1.05中心にもみ合い引けた。

ユーロ円相場は160円ちょうどで始まり160銭20銭に上昇したあと、159円50銭~160円20銭の間で何回か上下して引けは159円80銭。ドルインデックスは106.78に下落。

米国株はまちまち。小売統計が消費減速を示したと受け止められ景気敏感株や消費関連株の一角が売られた。3連休前で手仕舞い売りも重石。一方相互関税の即時発動が回避されたことは支え。NYダウは前日比▲165ドル安の44,546ドル。ナスダックは+81ドル高の20,026ドル。

◆今週の3つの注目ポイント


月曜日の米国市場はプレジデントデーで休場。

1.FOMC議事要旨

水曜日に1月のFOMC会合の議事要旨が公表される。パウエル議長は先週の議会証言で利下げを急がない姿勢を再確認した。

他のメンバーの意見は割れるが全体として利下げ継続か、あるいは様子見姿勢が強まっているか。雇用物価に対する判断や消費動向への見極めはどうか。

景気への楽観が強いようなら利下げ遅延との市場の見方を支持する。ただ次の一手が利上げとまでのタカ派的な内容までは確認されないのではないか。

2.米国の経済指標

関税導入・インフレ懸念による長期金利上昇圧力の傍らで、景気減速を示す指標による金利低下も生じている。引き続き弱い数字が確認されるか。

火曜日 NY連銀製造業景気指数(2月、予想▲1.0、前月▲12.6) NAHB住宅市場指数(2月、予想47、前月47)

水曜日 住宅着工件数(1月、季節調整済み年率換算、予想1,394千戸、前月1,499千戸)

木曜日 フィラデルフィア連銀製造業景気指数(2月、予想25.4、前月44.3) 週次の失業保険申請件数

金曜日 PMI景況感指数(2月速報、製造業、前月51.2、サービス業、前月52.9) ミシガン大学消費者態度指数(2月確報) 中古住宅販売(1月、予想415万戸、前月424万戸)

3.日本の経済指標

日銀の利上げを後押しする強い数字となるか。貿易収支は大幅な赤字が想定されるが円安圧力となるか。

月曜日 GDP(10-12月期、前期比年率、予想+1.1%、前期+1.2%)

水曜日 機械受注(12月、前年同月比、前月+10.3%) 通関統計(1月、貿易収支、予想▲2兆1,000億円、前月+1,300億円)

金曜日 消費者物価指数(CPI、1月、前年同月比、総合指数、予想+4.0%、前月+3.6%、除く生鮮食品、予想+3.1%、前月+3.0%、除く生鮮食品・エネルギー、予想+2.5%、前月+2.4%)

◆今週のMRA's Eye


トランプ関税とウクライナ和平のリスクバイアス

先週はトランプ関税とウクライナ和平が市場を左右した。トランプ関税に関しては懸念と安堵が交錯し結果的には様子見に。米長期金利は上昇後に低下して元の水準に戻った。

ドル円相場は155円近くへ上昇ののち下落して152円台前半に回帰。ウクライナ和平への期待はユーロを押し上げユーロ円相場は上昇した。リスク選好の回復にも寄与し、クロス円相場全般が堅調となった。

トランプ関税に関しては切り口がいくつかある。ひとつは米国内のインフレが強まるとの懸念。民間部門のコスト増による景気下押し懸念。関税の内容次第だが米国企業に有利に働くとの期待。これらは金利や株価、ドル相場に異なる影響を与える。

インフレ懸念、さらには実際にインフレ率を押し上げるようなら、FRBが利下げを躊躇する要因となり、インフレ期待とあいまって米長期金利に上昇圧力となる。

金利面からドルは堅調となり、一方、米国株には悪影響を及ぼす。民間部門のコスト増、企業収益を圧迫し、あるいはインフレを通じた消費抑制は景気悪化につながる可能性がある。

スタグフレーションとなるか、あるいは最終的に雇用悪化や需要減退によるインフレ圧力の後退となるだろう。

この場合FRBは難しい選択を迫られる。しばらく様子見をしながら利下げの機会、タイミングを探ることになるだろう。米長期金利は高止まりする可能性があるが、早晩低下に転ずることが想定される。ドルは底固く推移したあと下落。株価は当初から下落することになりそうだ。

唯一、相互関税の発動の場合のみ、米国企業にプラスとなる可能性があり、また世界貿易への影響もさほど悪化しない可能性がある。

他国が対抗策として関税を引き下げれば、現在課されている輸入関税がグローバルに低位に収斂する可能性がある。

一方、米国が個別国に対して引き上げることが多くなれば好影響は限られる。FRBには利下げ余地が広がる可能性があり、米長期金利は低下。ドルは軟調。米国株には押し上げ圧力となりうる。

いずれの色合いが濃くなるかは現時点ではなお不透明。ただFRBの次の一手が利上げとの見方は行き過ぎだろう。利下げを急がない姿勢は確認されたが、利下げを否定したわけではない。市場の見方は6月~9月で揺れているが、年内利下げなしとまではみていない。現時点では年内1回が大勢だ。

先週はユーロが大きく上昇した。ユーロ円相場は155円ちょうどで始まり一時161円へ上昇し週末は160円近辺でもみ合い引けた。ユーロ高に寄与したのはウクライナ和平への期待だ。

トランプ大統領とプーチン大統領の電話会談、さらには今後直接会って会談する予定と報じられた。トランプ大統領は戦争終結に並々ならぬ意欲を示していることが市場の期待を高めている。

確かに戦争終結となれば欧州にとってプラスだろう。ウクライナ防衛への負担が軽減され、また終戦後の復興需要が欧州経済にプラスとなる可能性がある。さらにウクライナ停戦の余波はアフリカや中東地域にプラスとなる可能性もある。リスク回避の緩和、リスク選好が回復する可能性も秘めている。

ただ領土問題は和平合意の妨げとなる可能性もあり決着はみえない。

リスクバイアスは欧州にプラス、ユーロ高サイドであることは変わらない。しかし不透明感があるなか、積極的なユーロ高材料とまではいえない。

欧州景気の悪化懸念、ECBの明確な利下げ姿勢から、ユーロ安ドル高に賭けたポジションの手仕舞い、ないし金融政策格差からユーロ安円高に賭けたポジションの手仕舞い、ユーロの買い戻しがユーロを短期的に押し上げた範囲内にとどまる。

今後もユーロ高が継続するとみるのは時期尚早。リスク選好の回復も大きくは見込めないだろう。

ドル高は失速。ユーロ高とはなったが持続は不透明。そうしたなか日本の景気物価動向は日銀の予測通り推移。インフレ率は高止まり、目標の2%を上回る状況が続く。

今週末の物価統計が強ければ日銀の追加利上げへの期待は高いままとなる。先週は一時円安に振れたが、基本的には円安の修正局面、緩やかな円高が続くとみられる。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
【MRA外国為替レポート】について