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トランプ懸念の緩和、強まるリスク選好
  • MRA外国為替レポート

2025年1月27日号

◆先週の市場総括


先週はトランプ大統領就任式に始まり、週末は日銀金融政策決定会合、と注目のイベントが続いた。トランプ大統領は演説で従来示してきた政策方針を繰り返したにとどまった。大統領令への署名では懸念された即時の関税引き上げは見送られ、市場の懸念は後退した。

カナダやメキシコへの高率関税の導入、中国への関税10%引き上げなどは示唆しているものの大統領令署名はなく実施に至らず。インフレ懸念が後退、長期金利上昇は一服。市場では安心感からリスク選好が強まった。

米国株は週初から堅調に推移。AI巨額投資の方針表明も後押し。日経平均も4万円に近づく堅調な推移。

週末の日銀金融政策決定会合では予想通り0.25%の利上げが実施された。政策金利は0.50%となり17年振りの高水準。ドル円相場は一時154円台に下落した。

一方、トランプ政策による欧州懸念が緩和するなか、リスク選好の強まり、欧州の経済指標が強めだったことからユーロ円相場が大きく上昇。163円台後半へ。ドル円相場も156円近辺に反発して引けた。

トランプ大統領が現実的なスタンスを示しインフレ懸念が後退、米長期金利が低下しドル高が一服。ドルインデックスは週初の109ポイント台前半から週末は107ポイント台前半へ下落した。

月曜日の東京市場では日経平均が上昇。一時前週末比+500円超上げて39,000円台に乗せた。週末の米国株高、中国株・香港株の堅調が追い風。一方、トランプ大統領就任を前に政策への警戒感で様子見姿勢も。引けは+451円高の38,902円。

ドル円相場は上値の重い展開。156円20銭で始まり朝方60銭に上昇したものの早々に反落。昼頃には155円70銭近辺へ下落した。その後、夕刻、欧州市場、米国市場朝方にかけて156円40銭近辺へ戻した。

トランプ大統領就任演説の内容はこれまでの主張と大きく変わらず。ウォールストリートジャーナル紙が、初日の関税発動は見送りと報じたことでドル安に。155円40銭に下落し、その後は155円台後半で乱高下して引けは155円70銭近辺。

ユーロドル相場は東京市場では1.0280で始まり夕刻にかけて1.03ちょうど近辺へじり高。トランプ就任演説で1.0420台へユーロ高ドル安に振れ、その後は1.04を挟んで上下し引けは1.0410台。

ユーロ円相場は160円60銭で始まり夕刻は50銭近辺で推移。欧州市場では161円40銭近辺まで上昇。トランプ演説後は乱高下。ユーロ高ドル安に連れて162円30銭へ上昇したが161円60銭に反落するなどして引けは162円10銭近辺。

米国市場はキング牧師誕生日で休場。

火曜日の東京市場では日経平均が小幅続伸。トランプ大統領就任初日の関税発動が見送りとなり投資家心理が改善。半導体関連を中心に上昇。午前は一時+300円高。ただカナダとメキシコに対する25%関税適用が示唆されており自動車関連中心に反落した。引けは+125円高の39,027円。

ドル円相場はトランプ発言を受けて乱高下。155円70銭で始まり154円90銭に下落したあと156円20銭に急反発、昼には154円70銭台へ急反落。その後は堅調に推移して欧州市場終盤にかけては156円ちょうど近辺へ上昇した。

米国市場では上値重く推移。155円20銭台へ下落したあと155円台半ばで推移し引けは155円50銭。ユーロドル相場は1.0410で始まり1.0350台へ下落、1.04ちょうどへ反発、その後欧州市場にかけて下落して1.03台半ばで上下した。

米国市場では1.04台前半にユーロ高ドル安が進み引けは1.0430近辺。

ユーロ円相場は162円10銭で始まり161円ちょうど近辺へ下落。その後は下げ止まり欧州市場では161円台前半でもみ合い横ばい。米国市場では上昇して162円10銭近辺で引けた。

米国株は上昇。トランプ大統領が即時関税引き上げを見送り安心感が支えた。カナダ・メキシコに対する25%関税導入の考え方を示すものの世界一律関税引き上げに踏み込まず。インフレ懸念後退で長期金利が低下したことも支えとなった。

AIへの巨額投資報道で関連銘柄が買われた。NYダウは+537ドル高の44,025ドル、ナスダックは+126ドル高の19,756ドル。VIX指数は15.06の低水準。米10年債は4.57%、2年債は4.274%。

水曜日の東京市場では日経平均が大幅続伸。米国株高が支え。AI巨額投資報道でソフトバンクおよびデータセンターでの需要で電線銘柄が買われた。ハイテク株は堅調。一方、小売など内需関連銘柄、海運、商社株は売られた。引けは+618円高の39,646円で引け。

ドル円相場は底固く推移。155円50銭で始まり155円台後半で上下したあと、午後から夕刻まで155円70銭~90銭台で上下横ばい。夕刻は156円10銭。欧州市場では155円台後半で上下したあと、米国市場では156円70銭まで上昇し引けは156円50銭近辺。

関税導入への警戒感から米長期金利が上昇してドルを支えた。米10年債は4.613%、2年債は4.301%。

ユーロドル相場は終始水準は大きく変わらず。1.0430で始まり1.04を挟んで上下したあと夕刻にかけて1.0410~20で小動きもみ合い横ばい。欧州市場では1.0460へ上昇したが米国市場では反落して1.0410近辺で引け。

ユーロ円相場は162円10銭で始まり162円を挟んで上下。その後は162円台前半で上下した。欧州市場では162円90銭へ上昇、40銭台へ下落したあと米国市場では163円20銭へ上昇と堅調。引けにかけようやく上昇一服、162円90銭近辺で取引を終えた。

米国株は続伸。AI巨額投資の発表を受けて関連銘柄が上昇。一方、関税への懸念は重石。カナダ・メキシコへの25%関税に加え、中国への追加関税10%検討と発言。米長期金利上昇は重石。NYダウは+130ドル高の44,156ドル、ナスダックは+252ドル高の20,009ドルで引け。

木曜日の東京市場では日経平均が4営業日続伸。米ハイテク株高、AI巨額投資を材料に引き続き値がさ半導体関連、AI関連銘柄が堅調。引けは+312円高の39,958円。

ドル円相場は海外市場にかけて次第に上値重くなった。東京市場では156円50銭で始まり30銭に下落したあと持ち直し70銭台へ。しかし欧州市場にかけて156円20銭台へ下落し、その後は156円台前半で上下、

米国市場では156円割れ。155円90銭~156円10銭で上下したあと155円70銭台に下落し引けは156円ちょうど近辺。トランプ大統領が原油価格抑制やFRBに対する利下げ要請について発言。ドルの重石となった。日銀の利上げを睨んで円買い戻しの動きも。

ユーロ円相場は165円90銭で始まり80銭近辺でもみ合い。一時163円台に乗せる場面もあったが欧州市場にかけて下落し162円台後半で上下動。米国市場では162円20銭に下落し162円50銭を挟んで上下した。

ユーロドル相場は終始小動き。東京市場から米国市場朝方にかけて終始1.04ちょうど~1.0420でもみ合い。米国市場で1.0380~1.0420で上下したが水準は変わらず引けは1.0420。

米国株は堅調。NYダウは4営業日続伸。トランプ発言を好感。このところ下げていた景気敏感、ディフェンシブ銘柄が買われた。NYダウの引けは+408ドル高の44,565ドル。ナスダックは+44ドル高の20,053ドル。S&P500指数は6,118ドルとおよそ7週間ぶりに史上最高値を更新した。

米10年債利回りは小幅上昇して4.646%、2年債は4.291%。

金曜日の東京市場では日経平均が5営業日ぶりに反落。日銀の金融政策決定会合で利上げ実施、展望レポートで物価見通しが上方修正されたこととあいまって長期金利が上昇したことは重石。引けは▲26円安の39,931円。

朝方発表された日本のCPI(12月)は総合指数が前年同月比+3.6%と前月+2.9%から加速して予想+3.4%を上回った。除く生鮮食品は+3.0%と前月+2.7%から加速。除く生鮮食品・エネルギーでは+2.4%と前月比横ばい。

ドル円相場は乱高下。156円ちょうどで始まり上昇して40銭近辺で日銀の結果待ち。利上げが報じられると一瞬円安に振れたもののすぐに円高が進み155円ちょうど近辺でもみ合い。

植田総裁の会見を受けて155円70銭に上昇、154円90銭に下落、と乱高下して夕刻は155円ちょうど近辺。

欧州市場に入ると円安に振れて156円60銭へ上昇。20銭~60銭で上下。米国市場では155円50銭台に下落したあと156円手前でもみ合い引けは155円90銭近辺。

ユーロ円相場は総じて堅調。162円50銭で始まり163円ちょうどに上昇。日銀の利上げ決定で162円ちょうどに下落したが欧州時間には一貫してユーロ高円安が進み163円台後半~164円で上下した。

発表された欧州のPMI景況感指数(1月速報)が強い数字。ユーロ圏製造業は46.1と前月45.1から45.5への小幅改善予想を上回った。サービス業は51.6から51.4へやや軟化。

ドイツでは製造業が42.5から44.1へ予想を上回る改善。サービス業も51.2から52.5へ改善した。

ユーロドル相場は東京市場から欧州市場にかけて1.0420近辺でもみ合い横ばい。欧州市場では強い指標を受けて1.0520へ上昇。その後米国市場にかけては1.0450~1.0520で上下して引けは1.05ちょうど近辺。

米国のPMI景況感指数(1月速報)は製造業が前月49.4から50.1へ予想49.8を上回る改善。サービス業は56.8から52.8へ大きく鈍化した。総合指数は55.4から52.4へ悪化。

ミシガン大学消費者信頼感指数(1月確報)は速報73.2から71.1へ下方修正。米長期金利は小幅低下。10年債は4.625%、2年債は4.266%。

米国株は下落。NYダウは5営業日ぶりに反落。利益確定売りが優勢。ナスダックも▲99ドル安の19,954ドルで引けた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.FOMC、パウエル議長会見

火曜日・水曜日の2日間にわたりFOMCが開催される。今会合では政策金利の変更は予想されていない。トランプ政権がスタートし政策が始動し始めたが、当局としてはなお様子見というところ。

インフレ圧力が強まるとの懸念からタカ派に傾く委員が増えたようだが、今回の議論はどうか。インフレ鈍化基調と先々の懸念をどう考えるか。トランプ大統領からは利下げ圧力ともとれる発言があった。委員は忖度しないとみられるがどうか。

2.ECB理事会、ラガルド総裁会見

木曜日にECB理事会が開催され終了後にラガルド総裁が会見を行う。今回の会合では0.25%の利下げが実施されると予想されている。中銀預金金利は3.00%から2.75%へ引き下げられる予想。

ECBは12月の会合で0.25%の利下げを実施したが、その際に委員の一部から0.50%の大幅利下げを主張する意見もみられた。景気不透明感が漂うなか積極的な利下げ姿勢が確認されるか、あるいは慎重な姿勢が垣間見えるか。ラガルド総裁はやや慎重な姿勢とみられたが変化はあるか。

3.米国の経済指標

足元で米国景気は堅調に推移している。一部、山火事の影響で雇用に陰りもみられるが一時的との見方が大勢。市場では利下げ打ち止め、次の一手は利上げ、との見方まで台頭しているが、足元の指標はそこまでの強さを示すか、あるいはこうした見方を抑制するか。

月曜日 新築住宅販売(12月、季節調整済み年率換算、予想670千戸、前月66千戸)

火曜日 耐久財受注(12月、前月比、予想+0.5%、前月▲1.1%) 消費者信頼感指数(1月、予想106.0、前月104.7) リッチモンド連銀製造業景気指数(1月、前月▲10)

木曜日 週次の失業保険申請件数 GDP(10-12月期、速報、前期比年率、予想+2.6%、前月+3.1%)

金曜日 個人所得・消費支出(12月、前月比、予想+0.4%・+0.5%、前月+0.3%・+0.4%) PCEデフレーター(同、前年同月比、予想+2.5%、前月+2.4%、コア、+2.8%で前月不変予想) シカゴ購買部協会景気指数(1月、予想40.0、前月36.9)

◆今週のMRA's Eye


トランプ懸念の緩和、強まるリスク選好

20日月曜日にトランプ大統領の就任式が行われ、市場は固唾を飲んでその初動を見守った。初日から大統領令への署名を乱発し、なかでも関税引き上げを即時に導入するのではないか、との懸念が事前に強まっていた。

しかし、数々の大統領令に署名しバイデン政権の大統領令を廃止したものの、関税引き上げは見送られた。事前の期待や懸念から現実を見極めるフェーズへ移行するなか、まずは実際の行動によって懸念が緩和する方向に市場心理が傾いた。

景気への楽観が維持されるなか、前週には物価指標でインフレ鈍化継続との見方が維持されるなか、トランプ大統領の慎重ないし現実的なスタンスが追い討ちをかけて過度なインフレ懸念は緩和。それにともなって利下げ打ち止め観測、あるいは利上げ観測も後退。米長期金利の上昇は一服し低下に転じた。

これらは市場のリスク選好を強め株価を押し上げた。先週S&P500指数は史上最高値を更新した。

為替市場ではドルインデックスが反落。昨年末には108ポイント近辺にあったが、年明けに上昇基調を強め1月13日には110ポイントへ。ただその後反落し、先週は下げ足を強めて107ポイント台前半まで下落した。

米10年債利回りは今月に一時4.8%台まで上昇する場面もあったが、先週は一時4.5%台へ低下。ドルを押し下げた。

インフレ懸念の緩和と同時に、トランプ政策への不透明感が緩和しリスクプレミアムが低下したことも大きいとみられる。トランプ大統領自身がインフレを懸念する発言をし、あるいはFRBへ利下げ圧力を強めつつあることも影響した可能性もある。

一方、ユーロ先安感が緩和したことも反面からドル安を促したとみられる。トランプ大統領は、カナダ、メキシコへの25%関税導入に言及し、対中国関税の10%引き上げの可能性も仄めかしている。

ただ欧州ほか一律関税引き上げには慎重だ。中国への即時関税引き上げとならなかったことは、中国経済の影響が大きいとみられる欧州への懸念が緩和。ユーロ安に歯止めがかかり、反発するきっかけとなった。

そうしたなか、先週末に発表された最新のPMI景況感指数(1月速報)がこの間の欧米格差拡大から欧州が持ち直し、米国が悪化、となって格差が縮小したことでユーロ高ドル安を後押しした。ユーロドル相場は年初に1.02台に下落していたが足元では1.05を回復した。

日銀は週末に市場の予想通り0.25%の利上げを実施した。植田総裁は利上げ継続姿勢を維持しているが、次の利上げは経済金融情勢次第としてタイミングについて明言を避けた。

このため年内利上げはもう1回あるとの見方が主流ではあるが、慎重姿勢との見方も根強く追加利上げは微妙との見方も残る。そのため円金利先高観による円先高観もまた弱いままだ。

むしろ株高やリスク選好の強まり、それを背景としたユーロ高円安などクロス円相場の堅調、によって円高は抑制されている。結果、ドル安のなかでもドル安円高がいまひとつ進んでいない。

ただリスク選好が継続、株高円安が継続するのは難しいのではないか。ここまでは懸念の緩和に過ぎず、積極的にリスク選好が強まったわけではない。中国経済や欧州経済への楽観が強まっていく状況にはない。

これらも足元では過度な懸念が緩和したまで。この点は今週のECB理事会でどのような景気物価判断がなされるか、どれほど積極的な利下げ姿勢が示されるかを確認したいところ。当面は上昇してきたユーロ円相場、クロス円相場の動向、上昇一服、反転下落の動きを見極めたい。

また米国の景気物価動向に陰りがみえないか。期待と楽観が時間の経過とともに剥落する可能性がある。トランプ政策が現実的な政策に傾けばドル金利上昇圧力は緩和。インフレが安定的に推移すれば利下げ期待が持ち直す可能性がある。

リスクシナリオとして、逆にインフレ刺激的な政策をとった場合、短期的には金利面で再びドル高を招く可能性があるが、その後の反作用、景気押し下げリスク、金利先安感が強まりドルが急反落するリスクもある。

不透明感の台頭、ボラティリティの上昇、などはリスク回避姿勢を強めることになる。この場合はクロス円相場を中心に円高をもたらすことになりそうだ。

もうひとつのリスクシナリオは、トランプ政権の政策が理想的に景気堅調と物価安定を両立できる場合。これはなかなか両立しにくい、実現可能性の低いシナリオだ。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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