ドル高円安材料の織り込みは修正へ
- MRA外国為替レポート
2025年1月20日号
◆先週の市場総括
先週は米国株が堅調に推移。NYダウは週間で1,500ドル超上昇。物価指標を受けてインフレ懸念が後退。一方景気指標は強く楽観が強まった。過度なインフレ懸念の後退、利下げ期待の持ち直し、で米長期金利の上昇が一服。株価の支えとなった。
為替市場ではドル高の抑制要因となりドル高一服。一方、日銀副総裁、総裁発言やメディアの観測報道により1月の日銀金融政策決定会合で利上げが実施されるとの見方が急速に強まった。
これを受けて円買い戻しが強まった。ドル円相場は週初157円~158円で推移したが週後半にかけて下落し一時155円ちょうどに接近。週末は156円台前半で引け。
ユーロ円相場は株高リスク選好と円買い戻しの動きで大きく高下。160円割れから163円を上下し週末は160円台半ば。
日経平均は米国株の堅調が支えとなったが、日銀の早期利上げ観測、円高ドル安が重石となった。週初に前週末の米国株安の影響を受けて38,000円台に下落したあと、38,000円台で上下した。
月曜日の東京市場は休場。アジア時間のドル円相場は157円80銭で始まりやや下落して30銭~60銭で上下動横ばい。欧州市場に入ると157円ちょうどまで下落し50銭に反発したあと一時157円割れ。米国市場では157円80銭に反発して30銭~80銭で上下し引けは157円50銭。
ユーロ円相場は161円60銭近辺でもみ合いのあと夕刻は160円台後半~161円20銭で上下し欧州市場で160円ちょうど近辺へ下落。その後は持ち直して米国市場引けは161円30銭。
ユーロドル相場は1.0240で始まり夕刻から欧州市場にかけては1.0210~30。さらに欧州市場では1.0180へ下落した。その後は下げ止まり1.02を中心に上下して引けは1.0220~40。
米国株はまちまち。NYダウは前週の大幅調整のあとで自律反発狙いの買いが入り反発。一方長期金利上昇は重石。インフレ懸念が根強く物価指標を見極めようという姿勢が強かった。
米10年債は4.782%、2年債は4.384%。NYダウは前週末比+358ドル高の42,297ドル。ナスダックは▲73ドル安の19,088ドル。
火曜日の東京市場では連休明けの日経平均が4営業日続落、大幅安。昨年11月29日以来の安値をつけた。
米国の半導体輸出規制強化への懸念から値がさ半導体関連株が軒並み下落。一時▲900円安。日米の長期金利上昇も嫌気。中国景気への懸念から関連銘柄も売られた。引けは▲716円安の38,474円。
ドル円相場は157円50銭で始まり20銭に下落したあと午前中に一時158円ちょうどに上昇するなど乱高下したあと157円50銭を中心に上下横ばい。夕刻から欧米市場にかけては堅調。上下しながら158円20銭へ上昇し引けは158円ちょうど近辺。
ユーロドル相場は1.0240で始まり夕刻まで1.0250~1.0270近辺で推移した。欧州市場では1.0240近辺にやや下落したが底固く米国市場終盤は1.03ちょうど近辺でもみ合い引け。
ユーロ円相場は161円30銭で始まり40銭~70銭で上下。夕刻には162円台へ上昇した。欧州市場では161円60銭に反落したが持ち直し162円60銭~80銭で引けた。
米国株はNYダウが続伸。生産者物価指数が予想比弱くインフレ懸念が後退。長期金利は高下し不安定。長期金利が低下する局面で株価は上昇したが消費者物価指数への警戒感は上値を抑制した。引けは前日比+221ドル高の42,518ドル。ナスダックは▲43ドル安の19,044ドルで引け。
生産者物価指数(PPI、12月)は前年同月比+3.3%と前月+3.0%から上昇したものの予想+3.5%を下回った。コア指数も同様に+3.4%から+3.5%へ上昇したが予想+3.8%を下回った。
水曜日の東京市場では日経平均が小幅ながら5営業日続落。米国の対中半導体輸出規制強化、日銀の利上げに対する警戒感、米国のCPI発表前の手控え、などが重石。引けは▲29円安の38,444円。
日銀の植田総裁は午後に、1月会合で利上げを議論する、賃上げ動向は前向きな話が多い、と発言したことで、利上げに前向きととられた。
ドル円相場は158円ちょうど近辺で始まりもみ合い。午後に入ると植田総裁発言を受けて大きく円高に振れて156円70銭台へ下落。その後欧州市場では一時157円20銭に反発したものの156円80銭近辺に反落。
米国市場に入ると予想よりやや弱い米消費者物価指数(CPI)を受けて一時156円割れに下落した。その後は156円台後半に反発し引けは156円50銭近辺。
ユーロ円相場は162円80銭で始まり植田総裁発言を受けて欧州市場にかけて下落し161円60銭~80銭でもみ合い。その後米国市場でも一段安となり引けは161円ちょうど近辺。
ユーロドル相場は1.03ちょうどを挟んで欧州市場にかけて1.0290~1.0310でもみ合い。CPIを受けて1.0350台へ上昇したがすぐに1.0260へ反落。引けは1.0290近辺。
米CPI(12月)は前年同月比が前月+2.7%から+2.9%へ上昇したが予想通り。注目のコア指数が+3.3%から+3.2%へ低下したことで安心感が広がった。
米長期金利は低下。10年債は4.651%、2年債は4.270%。利下げ期待が盛り返し。次回利下げ予想は9月が有力視されていたが6月へ前倒し。一部には3月利下げの予想も残る。
米国株は大幅高。NYダウは3営業日続伸。CPIコア指数の上昇率低下を好感。金融決算が良好だったことで金融株が軒並み上昇。イスラエルとハマスが停戦合意したことお好材料とされた。NYダウは+703ドル高の43,221ドル、ナスダックは+466ドル高の19,511ドル。
公表された地区連銀経済報告(ベージュブック)では最近の米国経済は小幅ないし緩やかなペースで拡大した、とし楽観が悲観を上回っていると記した。
リッチモンド連銀総裁は、物価上昇圧力の緩和継続を示唆、インフレは目標に向けて鈍化している、経済は底固い、と述べた。シカゴ連銀総裁は、インフレ率は目標の2%に向けて前進していると確信、とした。NY連銀総裁は、金融政策はデータ次第、政策の不透明性が高い、と述べた。
欧州ではフランス中銀総裁が、夏までに2%へ引き下げるのが適切(1%の利下げ)と述べた。
木曜日の東京市場では日経平均が前日の米株高を受け朝方から値がさ半導体関連株が上昇。指数を押し上げた。一方、日銀が1月会合で利上げを実施する可能性が高いと複数のメディアが報じたこと、それによる円高は重石。引けは前日比+128円高の38,572円。
為替市場では日銀の利上げ観測が強まったことでさらに円高に振れた。ドル円相場は156円50銭で始まり156円台前半で上下したあと昼前に155円20銭に下落。その後は円高が一服し夕刻には156円30銭に戻したが欧州市場で再び155円70銭に下落した。
その後は156円台前半では上値重く米国市場では156円ちょうどを中心に上下もみ合い。発表された米国の小売売上高が弱い数字となったことを受けて155円10銭に下落。引けにかけては155円台前半で上下して155円20銭近辺で取引を終えた。
日銀の利上げ観測が強まったことに加え米長期金利が低下したことで上値が重かった。
ユーロ円相場は161円ちょうどで始まり昼前に159円80銭に下落。その後夕刻にかけて160円80銭に反発したが欧州市場では反落し160円台前半でもみ合い。米国市場でも軟調に推移し引けは159円80銭近辺。
ユーロドル相場は欧米市場まで通じて終始小動き。1.0280~90で始まりもみ合い小動き横ばい、米国市場で一時1.0260に下落したが持ち直しし引けは1.03ちょうど近辺。
ドルインデックスは週初から上値重く推移しこの日の引けは108.94と109割れ。
米長期金利は低下。10年債は4.614%、2年債は4.232%。
12月の小売売上高は前月比+0.4%と前月+0.8%から伸びが鈍化し予想+0.5%を下回った。週次の失業保険新規申請件数は前週の201千人から217千人に増加。
FRBウォラー理事は、インフレ鈍化が一段と進めば年3回、4回の利下げの可能性もある、と述べた。公表されたECB理事会議事要旨(12月開催分)では基本シナリオ通りなら追加利下げが適切、と記された。
金曜日の東京市場では日経平均は小幅反落。前日の米国株安が重石。トランプ大統領就任早々の関税引き上げ案への署名に警戒感。
一方で当面の下値と意識される38,000円を前に押し目買いも。午前中に一時▲500円安となったが下げ幅を縮小した。引けは▲121円安の38,451円。
ドル円相場は円高一服。欧米市場にかけて上昇。東京市場では155円20銭で始まり夕刻から欧州市場では155円50銭~70銭中心。米国市場では156円台に乗せ156円を挟んで上下して引けは156円30銭。
この日発表された米国の経済指標が強く米長期金利が反発。週末のポジション調整もありドル高円安に。
ユーロ円相場も堅調。159円80銭で始まり夕刻まで160円ちょうどを挟んでもみ合い。欧州市場に入ると160円50銭に上昇して160円台前半で上下。その後米国市場では161円ちょうどに上昇したあと反落し引けは160円50銭。
ユーロドル相場は小動き。東京市場では1.03ちょうど近辺で始まり小動き横ばい。欧米市場でも1.03を挟んで上下し引けは1.0270。
ドルインデックスは反発し109.41で引けた。米長期金利は上昇。10年債は4.628%。2年債は4.285%。
発表された米国の住宅着工件数(12月)は季節調整済み年率換算で前月1,289千戸から1,499千戸に大幅増。鉱工業生産(12月)は前月比+0.9%と前月▲0.1%から持ち直し。設備稼働率は前月76.8%から77.6%へ大きく上昇した。
米国株は上昇。強い経済指標、IMFが世界経済見通しで米国の成長率を上方修正。景気楽観が支えとなった。NYダウは前日比+334ドル高の43,487ドル。ナスダックは+291ドル高の19,630ドル。
◆今週の3つの注目ポイント
1.トランプ大統領就任
20日月曜日にトランプ大統領の就任式が行われ正式にトランプ政権がスタートする。初日から活発に動くとみられており、関税引き上げ案への署名が早々になされるとの見方が根強い。
期待と懸念が入り混じるなか、市場の反応がポジティブ・ネガティブ、リスクオン・リスクオフ、いずれに振れるか。就任後には期待や予想から現実の見極めへとフェーズが移行するが、トランプ大統領の初動と市場の初動が注目される。
2.日銀金融政策決定会合
木曜日・金曜日の2日間にわたり日銀金融政策決定会合が開催される。先週の副総裁発言、総裁発言、さらに複数のメディアが政策委員が利上げに前向きとする報道を受け、市場ではほぼ利上げが確実との見方に傾いた。
利上げ決定は所与として、その背景、議論がどのようになるか。景気物価認識はどうか。併せて公表される展望レポートがどの程度ポジティブな内容となるか。その後の金利先高観が維持されるかが焦点に。
3.PMI景況感指数
金曜日に1月のPMI景況感指数(1月速報)が発表される。米国のひとり勝ちが確認されるか、欧米格差が拡大するか、が注目される。
ユーロ圏製造業は予想45.5、前月45.1。サービス業は予想51.5、前月51.6。ドイツ製造業は予想42.8、前月42.5。サービス業は予想51.0、前月51.1。
米国製造業は前月49.4、サービス業は前月56.3。米国の数字は大幅に良い数字となった12月のまま高止まりか反落するか。
◆今週のMRA's Eye
ドル高円安材料の織り込みは修正へ
ドル円相場は先週158円に乗せる場面もあったが上値重く週後半には一時155円ちょうどに接近するまで下落した。ドル高材料を織り込み切ったところで、日銀の早期利上げ観測が台頭したことでドル高円安の流れが転換。
今後もドル円相場は上値の重い展開が続く可能性が高い。急速なドル安円高は見込みにくいが、緩やかに150円へ向かうと想定する。
米国では長期金利上昇が一服した。インフレ指標が想定より弱く、過度なインフレ懸念が後退。FRB当局者からはインフレ鈍化基調がなお続いており目標である2%に向かっているとの発言もみられた。
トランプ政権がスタートすることで、関税引き上げや景気刺激策などインフレが加速するとの見方は根強い。そうしたなか足元で経済指標が強い数字だったことでインフレ期待が強まった。
市場の利下げ期待は後退。次回利下げは9月まで後ずれするとの見方が有力となっていた。さらに利下げはすでに打ち止め、次の一手は利上げとの見方まで台頭した。これにともなって長期金利は大きく上昇し、10年債利回りは先週一時4.8%台に乗せた。
しかし、PPI、CPI、ともに予想より弱い数字となり、FRB当局者がインフレ鈍化に自信を示した。これにより利下げ観測は9月から6月に前倒し。次の一手が利上げとの見方も沈静化した。
長期金利の上昇も一服し週末にかけて10年債利回りが4.6%に接近するまで落ち着いた。これによりドル高も一服。ドルインデックスは110に迫る勢いをみせていたが、次第に上値が重くなり109ポイント台で落ち着いている。
米長期金利が再び上昇するかがドル高再燃の鍵となる。
インフレ鈍化基調が続き、次の一手が利上げではなく利下げであれば長期金利は安定。あるいは上昇してきた反動で修正、低下する可能性も高まる。
パウエル議長の片腕であるウォラー理事は、インフレ鈍化が一段と進めば年3回、4回の利下げの可能性もある、と発言した。
FRB内にはなお利下げに慎重、一時停止を主張するタカ派もいるが、FOMCでの政策金利予測が再び下方修正される可能性も皆無ではない。とくに市場の織り込みがFRBよりもかなりタカ派に振れた現状では、長期金利がさらに大きく上昇するより、頭打ちから反動でやや低下するリスクも相応に高いと考えられる。
またトランプ氏が大統領選挙で勝利して以降の長期金利上昇は、景気物価動向や政策金利の予測の変化を反映したこともあるが、政策の不透明性が急速に高まったことでリスクプレミアムが上昇したことに起因するとの見方もある。
実際にインフレを加速し、あるいは景気刺激的な政策がとられていない現状での長期金利上昇は、政策によるリスクバイアスのみならず、先行き不透明感そのものが期間の長い債券のリスクプレミアムを上昇させ、金利を押し上げている可能性がある。
この場合、トランプ大統領が就任し、実際に政策を動かし始めると、不透明感が低下してリスクプレミアムが縮小し長期金利をやや低下させる可能性がある。
期待や予測から現実を見極めるフェーズへ。それが不透明感の解消につながる。となると、就任後は上昇してきた長期金利は調整反落する可能性もある。これにともなってドル高もやや調整する可能性があろう。
日本では日銀が今週開催される金融政策決定会合で利上げに踏み切るとの見方が急速に強まり現時点では確実視されている。
昨年12月の会合で利上げを見送り、総裁が賃上げ動向を見極めたいと発言したことで、利上げ時期は3月ないし4月末の会合が有力視されていた。
しかしこのところの副総裁発言、総裁発言、複数のメディアがメンバーは利上げに傾いている、との報道から、急速に利上げ前倒し観測が強まった。足元のドル高円安の進行、国内での値上げラッシュ、インフレ率が2%台で定着しさらに加速する状況、春闘に向けた賃上げ交渉の状況が判明し始めたこと、などで利上げを躊躇する条件が弱くなったことがあろう。
市場の見方が大きくハト派に振れていたことで、中立からさらにタカ派寄りへと転換してきた。なお利上げに慎重との見方も根強いなか、当面はどの程度利上げに前向きとなったか、今回の利上げのあと、次の利上げがいつ頃になりそうか、その思惑で円高の強度が変化しそうだ。
欧州ではフランス中銀総裁が、夏までにあと▲1%の利下げを実施するのが適切、と発言。ECBの利下げ姿勢は明確だ。その他の先進国中銀も利下げ継続に異論はない。
日銀は利上げ継続のなか慎重姿勢に転じたとの見方が年末年初で円安を招いた。しかし足元で明確な利上げスタンスが確認されれば円安の修正、円高基調は回復するだろう。
そうしたなか米国景気への楽観、ひとり勝ち観測、利下げ打ち止め、長期金利上昇がドル高をもたらした。結果ドルと円が強い状況となり、さらにドルが優勢となったが、そのドルの強さも調整しそうだ。3通貨の強弱は、強弱の度合いは変化しつつも、基調としては、円>ドル>ユーロ、とみられる。
主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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