CONTENTSコンテンツ

織り込まれた米利下げ停止・利上げ懸念のリスク
  • MRA外国為替レポート

2025年1月13日号

◆先週の市場総括


先週は強めの米経済指標を受けて利下げ期待が後退。FRB当局者から利下げに慎重な発言が相次ぐなか、トランプ政権の政策によるインフレ懸念もあらためて意識され、米長期金利が高止まり、上昇基調。ドルが堅調に推移した。

米国株は金利上昇により相対的な割高感が意識され上値重く推移。とくに週末の雇用統計が強めだったことから週末には急落した。

ドルは堅調に推移。ドルインデックスは週末に109ポイント台後半へ上昇した。ドル円相場は157円台後半で始まり週初には一時156円台前半に下げる場面もあったが、その後はほぼ157円50銭~158円50銭で上下動、高止まり。週末には長期金利上昇と株価急落で揺れ乱高下。

全般にドル堅調ななかでリスク回避による円買い戻しでユーロ円相場は急落。ユーロ円相場は火曜日には164円台半ばに上昇していたが、その後は大きく下落し週末は161円台半ばで引けた。

日経平均は一時4万円の大台に乗せたが週後半には米株安を受けて軟調に推移し引けは39,200円近辺で取引を終えた。

月曜日、年初営業初日の東京市場では日経平均が下落。昨年末の大納会に続き大発会は続落となった。海外短期筋が断続的に売り。4万円が意識され利益確定売りが嵩んだ。

国内長期金利が13年ぶりの高水準に上昇したことも嫌気され一時▲600円安。引けは▲587円安の39,307円。

ドル円相場は157円20銭で始まり80銭に上昇したあとは157円台後半で上下。海外市場に入り、トランプ政権が各国に対し一律に輸入関税引き上げることを検討と報じられるとドルが下落。ドル円相場は一時156円20銭に急落。ただその後すぐに持ち直し157円60銭近辺で横ばい上下して引け。

ユーロドル相場は1.0310で始まり小動き横ばい。夕刻は1.0360へ上昇。その後、海外市場でドル安に振れたタイミングでは1.0400~1.0440で上下。その後ドルが反発すると1.0360~80で推移し引けは1.0380近辺。

ユーロ円相場は162円ちょうどで始まり70銭に上昇し夕刻は162円60銭近辺。その後トランプ発言でユーロ高ドル安に振れたタイミングで164円ちょうどまで上昇した。米国市場にかけてユーロ高円安は一服し引けは163円80銭。

米長期金利は上昇基調が続き10年債は一時4.64%をつけて引けは4.62%。2年債は4.268%。

米国株はまちまち。米長期金利が上昇し上値を抑制。NYダウは朝方+380ドル上昇も反落して引けは▲25ドル安の42,706ドル。一方ハイテク株は堅調。ナスダックは+243ドル高の19,864ドル。

FRBバー副議長が2月末で退任との報道を受けて規制緩和期待で金融株は堅調。FRBクック理事は、資産価格に割高感がある、リスクプレミアムが低下している、悪いニュースや投資家心理の悪化で大幅に調整するリスクがある、と述べた。

火曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに反発、大幅高。米ハイテク株高の流れ、円安、を受けて一時+900円超上昇。半導体関連株が上昇を主導。米金融株高を受けて銀行株が堅調。引けは+776円高の40,083円と大台に乗せて引けた。

為替市場では円安が進行。ドル円相場は157円60銭で始まり158円40銭へ上昇。ただ夕刻にかけて反落して157円40銭近辺へ下落。その後欧州市場では157円台後半で上下。

米国市場に入り発表された経済指標が強い数字だったことで米長期金利が上昇。158円40銭へ上昇した。その後は上昇一服し157円60銭に反落したあと引けは158円ちょうど近辺。

発表された雇用動態調査(JOLTS求人数、11月)は前月7,744千人から8,098千人に予想を大幅に上回った。ISM非製造業景気指数(12月)は前月52.1から53.2への改善予想を大きく上回る54.1。新規受注指数が53.7から54.2へ上昇。価格指数は58.2から64.4へ上昇した。

米10年債利回りは4.686%へ、2年債は4.289%へ上昇した。

ユーロドル相場は東京市場では1.0380~90で始まり夕刻から欧州市場にかけてじり高。1.0430へ上昇した。ただその後米国市場では反落して1.0340近辺で引け。ドルインデックスは108.68へ上昇。

ユーロ円相場は東京市場では163円80銭で始まり164円40銭へ上昇。その後午後には軟調となり164円割れに下落したあと欧州市場では164円50銭に反発。米国市場では上下しながら下落して163円20銭をつけ引けは163円40銭。

米国株は下落。経済指標が強く長期金利が上昇したことでハイテク株の下げがきつかった。経済指標が足元で景気堅調を示したことに加えトランプ政権の政策によるインフレ懸念が利下げ打ち止めを意識させ株価の逆風に。ナスダックは▲375ドル安の19,489ドル、NYダウは▲178ドル安の42,528ドル。

水曜日の東京市場では日経平均が反落。米国株安が重石。主力銘柄中心に利益確定売りが優勢となり一時下げ幅は▲300円を超えた。国内長期金利上昇も重石。一方ハイテク銘柄は堅調だった。引けは▲102円安の39,981円。

ドル円相場は158円ちょうど近辺で始まり158円を挟んで上下動。夕刻は157円90銭台。欧米市場ではドルが堅調。ドル円相場は158円台前半で上下し引けは158円30銭。

ADP雇用報告(12月)では雇用者数前月比が+122千人と前月+146千人から減少。しかし公表された12月のFOMC議事要旨ではメンバーがトランプ政権誕生でインフレに上振れリスクが増したとの見方を示したことが明らかになり長期金利が上昇。一方FRBウォラー理事は、インフレ鈍化見通しを明示しさらなる利下げが必要と述べた。

米長期金利は上昇したあと低下。10年債利回りは一時4.733%に上昇したが引けは4.693%。2年債は4.287%と前日とほぼ変わらず。

ユーロドル相場は東京市場では1.0340~50近辺で推移。欧州市場に入るとユーロ安ドル高に振れて1.0280~1.03で推移したあと引けは1.0320。ドルインデックスは上昇し109ポイントちょうど近辺。

ユーロ円相場は東京市場では163円40銭で始まり80銭に上昇したあと欧州市場にかけて反落し163円ちょうど近辺で上下。米国市場ではやや上昇して163円30銭近辺で引け。

米国株はまちまち。米10年債利回りが8か月ぶりの高水準に上昇したことが嫌気された。ただ午後にはウォラー理事の発言で金利が低下し株価を支えた。NYダウは+106ドル高の42,635ドル、ナスダックは▲10ドル安の19,478ドル。

木曜日の東京市場では日経平均が続落。バイデン大統領が半導体輸出規制を強化すると報じられ半導体関連が下落。一時▲500円超下落した。また円安進行、日銀がレポートで一部地域の景況感改善と継続的な賃上げの必要性を示し1月会合で利上げするとの思惑が台頭。株価の重石となった。引けは▲375円安の39,605円。

ドル円相場は158円30銭で始まり軟調。昼過ぎには157円80銭割れに下落した。その後は持ち直し夕刻から欧州市場にかけて158円ちょうど~20銭でもみ合ったが欧州市場では再び下落して157円60銭。

この日は米国株式市場がカーター元大統領国葬で休場。そうしたなか円安へ揺り戻し158円10銭近辺でもみ合い引けた。FRBボウマン理事が高金利政策維持の必要性を訴えた。

ユーロ円相場も同様の値動き。163円30銭で始まり162円60銭へ下落。その後は163円を挟んで上下したあと欧州市場では162円40銭へ一段安。米国市場では円安に戻して162円90銭近辺で引けた。ユーロドル相場は東京市場から海外市場を通じて小動き。1.0310~20で始まり1.03ちょうど近辺で小動きもみ合い横ばいそのまま引けた。

金曜日の東京市場では日経平均が3営業日続落。米長期金利高止まりを嫌気。またファーストリテイリング社が決算発表で増益を示したものの中国での売上不振への懸念から急落。1銘柄で日経平均指数の下落寄与が▲300円に達した。引けは▲414円安の39,190円。

ドル円相場は158円10銭で始まり夕刻から欧州市場にかけて158円40銭近辺でもみ合い。その後円買い戻しで一時157円60銭に下落して雇用統計発表前は158円ちょうど近辺。

注目の米雇用統計(12月)は強い数字。非農業部門雇用者数前月比は前月+227千人、予想+153千人に対し、+223千人の増加。失業率は前月4.2%から4.1%へ低下。平均時給前年同月比は前月+4.0%から+3.9%へ上昇が鈍化した。

強い数字を受けてドルは急騰。ドル円相場は158円90銭に上昇。ただその後米国株が大幅安となったことでリスク回避が強まり円買い戻し。クロス円相場での大幅な円高に押されてドル円相場も一時157円20銭台へ下落。引けにかけて戻して157円70銭近辺で取引を終えた。

ユーロ円相場は162円90銭で始まり163円ちょうど近辺でもみ合い。欧州市場では163円10銭から162円40銭へ下落。米国市場朝方は163円90銭台に戻していたが、雇用統計、株価急落、で161円20銭近辺へ急落した。その後は70銭近辺に戻したが上値重く引けは161円50銭台。

ユーロドル相場は東京市場では1.03ちょうどで始まり一時1.0280へ下落したが雇用統計発表前は1.03ちょうど近辺。発表を受けて1.0220へ下落。その後は1.0240~80で上下し引けは1.0240台。ドルインデックスは109.64へ上昇した。

米国株は大幅安。強い雇用統計を受けて利下げ期待が後退。長期金利上昇で株価の相対的な割高感が意識された。市場の政策金利予想、織り込みは、3月まで据え置きとの見方が7割強、5月でも6割に上昇した。

長期金利が一段高。10年債は一時4.79%と2023年11月以来の高水準。引けは4.761%。2年債は4.383%。NYダウは▲696ドル安の41,938ドル、ナスダックは▲317ドル安の19,161ドル。ミシガン大学消費者態度指数(1月速報)は前月74.0から73.2へ悪化。期待インフレは1年が2.8%から3.3%へ上昇、5年が3.0%から3.3%へ上昇。インフレ見通しの悪化が消費者心理を悪化させた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

米国景気への楽観、インフレ懸念が強まり、米金利先高観から米長期金利が上昇基調をたどるなか今週の指標もそうした流れを後押しするか。

火曜日 生産者物価指数(PPI、12月、前年同月比、前月+3.0%、コア、同+3.4%)

水曜日 消費者物価指数(CPI、同、予想+2.9%、前月+2.7%、コア、予想+3.3%、前月+3.3%) NY連銀製造業景気指数(1月、予想▲2.0、前月+0.2)

木曜日 小売売上高(12月、前月比、予想+0.5%、前月+0.7%) 輸入物価指数(12月、前月比、前月+0.1%) 週間失業保険申請件数 フィラデルフィア連銀製造業景気指数(1月、予想▲8.0、前月▲16.4)

金曜日 住宅着工件数(12月、季節調整済み年率換算、予想1,315千戸、前月1,289千戸) 鉱工業生産(12月、前月比、予想+0.3%、前月▲0.1%) 設備稼働率(同、予想77.0%、前月76.8%)

2.米地区連銀経済報告(ベージュブック)、当局者発言

水曜日にベージュブックが公表される。このところ強めの経済指標が散見されるが、定性的な景気物価動向を各地区連銀がどのように判断しているか。景気堅調、インフレ懸念の強まりが意識されているか。

市場では既に利下げ打ち止め、次の一手が利上げとの見方も台頭しつつあるが、そこまでのタカ派姿勢を後押しする内容となるか。また当局者の発言も多い。

12月のFOMCでは利下げ基調そのものは合意されたが、このところ当局者の発言には利上げ継続、慎重、双方バラつきがある。

火曜日にNY連銀、カンザスシティ連銀総裁、水曜日にリッチモンド連銀、シカゴ連銀総裁、の発言機会があり、そのニュアンスが注目される。

3.ECB理事会議事要旨

木曜日に12月のECB理事会の議事要旨が公表される。同会合では0.25%の利下げが実施されたが、メンバーのなかには0.50%の大幅利下げを主張する意見もみられた。

全体としてハト派姿勢が強まっているかあらためて確認。1月末のECB理事会での追加利下げの可能性を探ることになる。これに先立ち月曜日にはレーンECBエコノミストの発言機会がある。景気物価動向をどうみるか。利下げを示唆する内容か。

ほか中国では月曜日に貿易統計(12月、輸出、前年同月比、予想+7.3%、前月+6.7%、輸入、予想▲1.5%、前月▲3.9%)が、また金曜日に主要経済指標が発表される。10-12月期GDP(前期比、予想+1.7%、前期+0.9%)、12月の小売売上高(前年同月比、予想+3.5%、前月+3.0%)、鉱工業生産(同、予想+5.4%で前月と変わらず)。日本では火曜日に国際収支(11月)が発表される。

◆今週のMRA's Eye


織り込まれた米利下げ停止・利上げ懸念のリスク

米国の経済指標には強めの数字が散見される。年初に発表されたISM製造業景気指数(12月)は49.3と景況感の分かれ目である50をなお下回っているものの改善傾向にある。新規受注指数は52.5と50を明確に上回り、価格指数は50.3から52.5へ上昇。

先週発表された非製造業景気指数は前月52.1から54.1へ改善し引き続き50を上回って上昇。新規受注指数は53.7から54.2へ改善した。さらに価格指数が58.2から64.4と上昇圧力が強まっていることを示した。

週末の雇用統計(12月)では雇用者数増加ペースが巡航速度にあり、失業率は前月からわずかながら低下。雇用の底固さを示した。ミシガン大学調査では1月の消費者態度指数がやや悪化したが、これはインフレ懸念の再燃が原因と推察される。

期待インフレ率は1年が前月の2.8%から3.3%へ上昇、5年も3.0%から3.3%へ上昇した。これらは大統領選挙の不透明感解消によりビジネスが動き始めた可能性に加え、トランプ政権の誕生を前にその政策から景気刺激・インフレ懸念、双方が強まっていることをあらためて示している。

これらがセンチメントのみにとどまるか、小売や生産の実態にも強さがみられるか、インフレ率の低下が鈍りさらに上昇する気配がみられるか、が今後の焦点だ。

FRB当局者の意見は割れているようだ。インフレ低下基調にあり利下げを継続することが望ましいとの意見もあれば、政策金利は高水準で維持する必要がある、利下げは想定よりも少なくなる、との発言もみられた。

こうしたことから市場ではFRBが今次利下げ局面の終了を模索しているのではないかとの見方が強まっている。週末時点で3月利下げの織り込みは3割以下に低下。さらに5月利下げの織り込みも4割程度まで低下した。加えて次の一手が利上げになるとの見方も台頭している。

これを受けて米長期金利の上昇も顕著になってきた。10年債利回りは週末に一時4.8%に接近し4.76%で取引を終えた。予測先行、期待先行の長期金利上昇にはリスクもある。

ひとつは、利上げの前に長期金利が上昇したことで今後景気抑制効果。足元の景況感の改善が政策への期待先行であれば、結果的に実体経済と乖離した金利上昇となり、景気にはマイナスとなる。

今のところ雇用統計が強いことからそうした懸念はリスクシナリオだが、やや時間をもってみる必要がある。インフレ率の上昇、インフレ期待の高まりは消費者毎度を悪化させる点にも留意が必要だろう。

もうひとつは金利上昇による株式市場の大幅調整。それによる投資家、家計のマインド悪化。これが景気に下押し圧力となる可能性だ。

先週FRBのクック理事が資産価格の割高感を指摘し大幅調整のリスクに言及した。昨年は利上げ停止から利下げ局面入りを囃して上昇してきた米国株だが、その前提条件が逆転するなら調整圧力は一段と高まる。

為替市場では、ドル金利先高観が強まり、米長期金利が上昇したことでドルが堅調だ。ドルインデックスは110ポイントに迫りつつある。経験則では、長期金利上昇に加えドル高となれば米国株には下落圧力が強まる。ドル高は米企業業績にマイナス要因となりうるが、今のところトランプ政策への期待が懸念を打ち消している可能性もある。

リスクが高まり表面化するとすれば、その期待が崩れた場合だろう。

資産価格の調整、株価の大幅下落、リスク回避の強まり、は、米長期金利にカウンター的に低下圧力をかける可能性がある。この場合、米国債には逃避資金が流入。当初はドルがなお堅調に推移する可能性がある。

ただ市場が落ち着いたあとでは通常の金利との相関を回復し、ドルに下落圧力となる可能性がある。今のところこれはリスクシナリオであるが可能性として頭の片隅におく必要はあるだろう。

当面は株式市場の調整でリスク回避が強まるなかでも、米国の金利先高観がドルを支える可能性が高い。欧州ほかで利下げ継続が明確となるなかではなおさらだ。

日銀が慎重ながらも利上げ継続姿勢にあることは、ドルと円の双方が堅調に推移する要因となる。市場心理がリスク回避に傾けば投機筋が円を買い戻す可能性がある。ドル高・円高の併存、クロス円相場の下落・円高が継続する要因だ。

日米金利差は足元で拡大したが、日欧金利差は縮小傾向にあり、こうした動きを底流で支える要因にもなっている。円安そのものが終了したとみられるなか、ドル高要因のみでドル高円安が加速していく可能性は低いとみる。

すでにFRBの次の一手が利上げとの見方も台頭するなか、米国経済がリアルに加速し実際に利上げとなるまで、当面のドル円相場は高止まりながら、160円台へドル高円安が加速する可能性は低いとみる。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
【MRA外国為替レポート】について