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リスク選好と不透明感の狭間で揺れる市場
  • MRA外国為替レポート

2025年1月6日号

◆先週の市場総括


例年は市場参加者が少なく薄商いのなかでの乱高下や大幅な値動きが警戒されるが、この年末年初は比較的落ち着いた値動きとなった。

米長期金利が高止まり、米国株は上値重く上下動。ドル円相場は取引の薄いなか値動き荒く156円~158円の高値圏で方向感なく上下した。

米国の経済指標は総じて強め。加えて新年にスタートするトランプ政権の政策による景気刺激やインフレ圧力、財政悪化への懸念から長期金利に上昇圧力がかかった。米10年債利回りは4.5%台から一時4.64%へ上昇した。1月3日の引けは4.60%。

米国株は米景気への楽観や企業業績への期待が支えとなったものの長期金利上昇が上値を抑制。年末年初は利益確定売りが優勢となりNYダウは5営業日続落、S&P500指数は6営業日続落。1月3日にようやく反発した。NYダウは42,732ドル、ナスダックは19,621ドルとクリスマス休暇前の引値からやや下落した水準。

ドルは米長期金利の上昇高止まりに支えられ総じて堅調。ドルインデックスは一時109ポイント台前半に上昇し1月3日の引けは108.9ポイント。ユーロドル相場は一時1.02台に下落するなど上値重く、1月3日の引けは1.0310。

ドル円相場は米長期金利の高止まり、ドル堅調に支えられ総じて底固く推移した。156円近辺では底固く、一方で158円では上値が重かった。日銀の利上げ慎重姿勢から円は軟調。

ユーロ円相場は年末を前に一時164円台に上昇したが、年末にかけて米株式氏需要ともども利益確定売り、リスクポジションの手仕舞いによる円買い戻しに押されて162円台に下落。年初には161円台に続落して1月3日の引けは162円ちょうど近辺。

3日金曜日に発表された米国のISM製造業景気指数(12月)は前月48.4から49.3へ改善し予想48.8を上回った。新規受注指数は50.4から52.5へ改善。一方雇用指数は48.1から45.3へ悪化した。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

今週は重要な指標の発表が続く。米国景気への楽観的な見方が維持されるか。

月曜日 サービス業PMI(12月改定値、速報58.5) 製造業新規受注(11月、前月比、予想▲0.3%、前月+0.2%)

火曜日 雇用動態調査(JOLTS求人数、11月、予想+7,775千人、前月+7,744千人) ISM非製造業景気指数(12月、予想53.2、前月52.1)

水曜日 ADP雇用報告(12月、前月比雇用者数増減、予想+130千人、前月+146千人)

木曜日 週次の失業保険申請件数

金曜日 雇用統計(12月、非農業部門雇用者数前月比、予想+153千人、前月+227千人、失業率、予想4.2%で前月と変わらず、平均時給、前年同月比、予想4.0%で前月と変わらず) ミシガン大学消費者態度指数(1月速報、前月74.0)

2.FOMC議事要旨(12月開催分)

水曜日に12月17日・18日に開催されたFOMCの議事要旨が公表される。同会合では市場の予想通り▲0.25%の利下げが実施されたが、メンバーの景気物価政策金利予測が上方修正された。

2025年の利下げ回数は9月時点の予測4回から2回へ半減。そのタカ派スタンスが意識され米長期金利は上昇。ドルを押し上げた。公表される議事要旨であらためてそのタカ派スタンスが意識されドルを支えることになるか。

3.欧州の経済指標

年末年初にかけてユーロドル相場は上値の重い展開。ユーロ安ドル高が進み一時1.02台をつけた。欧州の景気悪化懸念は根強く、ECBは利下げ継続姿勢を明確にしている。一連の指標がさらにユーロ安ドル高を後押しし、ドルインデックスの上昇が続くことになるか。

月曜日 サービス業PMI(12月改定値、ユーロ圏、速報51.4、ドイツ、51.0) ドイツCPI(12月、前年同月比、予想+2.4%、前月+2.2%)

火曜日 ユーロ圏CPI(12月、前年同月比、予想+2.4%、前月2.2%、コア、予想+2.7%で前月と変わらず)

水曜日 ドイツ製造業新規受注(11月、前年同月比、予想+3.0%、前月+5.7%) 小売売上高(同、予想+2.5%、前月+3.6%) ユーロ圏経済信頼感(12月、予想95.0、前月95.8) 生産者物価指数(11月、前年同月比、予想▲1.4%、前月▲3.2%)

木曜日 ドイツ鉱工業生産(11月、前年同月比、予想▲4.5%で前月と不変) ユーロ圏小売売上高(11月、前月比、予想+0.3%、前月▲0.5%)

◆今週のMRA's Eye


リスク選好と不透明感の狭間で揺れる市場

年末年始は薄商いのなか値動きが通常より荒かったものの、急激な相場変動は生じず穏やかな年越しとなった。米長期金利は高止まり、ドルは堅調に推移。ただすでにドル高が進んだあとだけにドル急騰とはならず。

米国株式市場では2024年が総じて右肩上がりの堅調相場だったあとだけに利益確定売りが優勢。米長期金利高止まりも重石となり上値の重い展開となった。

今週から市場は2025年の景気物価金利予測シナリオをもとに動き始める。まず肝心な米国景気については楽観的な見方が大勢だ。

今週は12月のFOMC会合の議事要旨が公表されるが、メンバーは同会合で景気物価見通しを上方修正した。これまでの見方が誤りだったことを認めたかたち。急激な利上げを実施し近年では大幅に高い水準である5%台で政策金利を長らく維持してきたことから、景気下押し圧力がかかるとの見方をとってきた。

高騰していたインフレ率も急低下。政策金利からインフレ率を差し引いた実質政策金利はむしろ急激に高まりさらに景気下押し圧力がかかっていると判断。雇用情勢に緩和の兆しがみえたことで利下げに踏み切った。

しかし想定よりも米景気が底固く、インフレ低下のペースも鈍化。従来見通しよりも利下げペースを緩める判断となった。

これはトランプ政権の誕生以前の問題として、FRBの見立てよりも足元の景気が粘り腰であることが背景。一部のメンバーは減税など財政政策による景気刺激策や関税引き上げによる輸入物価面からのインフレ圧力、移民規制強化による労働市場タイト化によるインフレ圧力、などが想定されるが、それはまだ何ら現実なものとなっていない。

市場ではFRBのお墨付きをもらったかたちで米景気への楽観が強まっている。もはや景気後退リスクを懸念する見方はほぼなくなった。ソフトランディングからさらにノーランディングとの見方が主流となった。

景気堅調を前提とすれば市場環境予測の前提はリスク選好の継続となる。リスク資産価格は上昇しやすく、株価は堅調との予測が基本だ。

一方、リスク選好に棹差す要因もある。まずトランプ政権の誕生は景気刺激策への期待の反面、財政悪化やインフレリスクにより長期金利に上昇圧力がかかる。

市場は先読みで動くことからすでに米長期金利は上昇し高止まり。これがリスク資産価格には下押し圧力となる。金利との相対評価で株価は割高化し下落圧力がかかる。景気堅調・業績期待と金利高止まりによる綱引きとなる。どちらが優勢となるか不透明となり株価は安定しないだろう。

少なくとも2024年のような一本調子の株価上昇とはなりにくいとみられる。となればリスク選好は抑制されることになりそうだ。

インフレが再燃すれば景気そのものにもマイナスとなる。個人消費は抑制され企業は慎重なスタンスに。金利面のみならず業績面からも株価の下押し圧力となる可能性がある。

さらに不透明感そのものがリスク選好の逆風となる。2024年は経済政策面では予想が立てやすかっただろう。インフレ抑止のための金融引き締めが一巡。引き締め解除、利下げに向かうとの方向感が想定された。

インフレ鈍化の安心感、金融引き締め解除の安心感、は市場のリスク選好を支えた。しかし2025年はトランプ政権の政策そのものに不透明感が強い。インフレ加速のリスク、金融引き締め解除の一服、など2024年とは異なる環境となる。

不透明感の台頭、予測可能性の低下、はリスク選好の大敵だ。こうした状況は米国経済および金融政策動向をみれば米国株には逆風となるが、日本株については状況が異なる。利上げ継続とはいえなお金融政策は緩和的。政策金利はインフレ率を大きく下回る。

逆風は米国から、米国株の調整や米国景気の悪化、ないし不透明感の高まりやボラティリティの上昇がマイナス要因。米国株に比べて相対的な条件は優位となりそうだ。

為替市場では当面はドル堅調が続きそうだ。米国景気への楽観が維持され、米長期金利がポジティブな意味で高止まりするなか、ドルは支えられそうだ。米国経済のひとり勝ち観測は根強い。

ただトランプ政権の政策が発動されて以降は不透明感が強まる可能性がある。政策が米国外の国々にとってマイナスとなり一段と米国ひとり勝ちが強まるとの見方からドル高となる可能性もある。

ただ次第に米国経済そのものへのマイナス面も意識される可能性がある。それでもリスク回避のドル高が継続するか。

円は貿易サービス収支が安定的に赤字となったことで安全通貨としての位置づけをすでに失っているようだ。唯一、投機的な円売りが積み上がっている場合には買い戻されて円高となるが、さらに進んで積極的に円へ資金シフトが生じるか。日本の投資家が国内回帰するかが本格的な円高局面になるかのポイントだ。

ただすぐには想定しにくい。日銀が金融政策を調整、利上げを緩やかに進めるなか、内外金利差の縮小、とくにドル以外の通貨に対する相対的な円高圧力が強まるかたちで円安の修正が緩やかに進むとの見方がメインシナリオとなる。

ドル円相場はドルの堅調が維持されるなかではドル安円高が極めて緩慢。米国経済の理想的な状況、高成長低インフレとなればドル高円安再燃のシナリオもあるが現状では極めて不透明感が強い。

ドル高円安状態が継続し安定的に推移するとの見方が大勢となりつつあるが、高まる不透明感との対比では違和感もある。こうした状況では上下双方のリスクが拡大、値動きが激しくなる可能性があるので留意が必要だろう。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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