FRBは利下げ継続もペースダウン
- MRA外国為替レポート
2024年12月9日号
◆先週の市場総括
先週は米国で重要な経済指標の発表が相次いだが強弱まちまち。ドル高・ドル安いずれにも大きく振り切れず。韓国で突如非常戒厳令が発令されリスク回避で円高に振れたが、すぐのちに日銀が12月の会合で利上げを見送るとの報道もあり円安に振れるなど上下動。ドル円相場は150円を中心に上下した。149円台半ばで始まり早々に150円台後半へ。その後148円台後半、151円台前半、と高下。
週末には円買い戻しが活発化したが150円を挟んでの上下動から大きく外れず。
ISM製造業景気指数は強め、非製造業景気指数は弱め、週末の雇用統計は概ね予想通り。
ユーロドル相場は下げ止まり。ユーロ円相場は158円台半ばで始まり週前半は156円台半ばに押されたがが週末にかけて堅調。159円台半ばまで戻す場面もあった。
ただ週末には円買い戻しが強く158円台前半で引け。米国株は主要3指数が史上最高値を更新するなど総じて堅調。米景気への強気の見方、12月に利下げが実施されるとの思惑が支え。
米長期金利は小動き、やや低下し10年債は4.15%。ハイテク株を支え。日経平均も米株高に支えられ週後半には39,000円台を回復して推移するなど堅調だった。
月曜日の東京市場では日経平均は上昇。午前中は上値重く一進一退も38,000円割れでは押し目買いに底固く推移。午後に入ると、GPIF(年金管理運用独立行政法人)が資産運用目標利回りを0.2%引き上げる、と報じられ、内外株式への投資比率を引き上げるとの思惑が台頭。買い優勢となった。
発表された中国の財新製造業PMI(11月)は前月50.3から51.5へ上昇し中国景気不安が弱まった。引けは前週末比+304円高の38,543円。
為替市場ではユーロ安円高が際立った。ユーロ円相場は158円20銭で始まり158円ちょうどまで押したあと戻して158円40銭~60銭でもみ合い。東証引け後、欧州時間にかけて157円60銭へ下落した。
その後は一旦持ち直して157円90銭~158円20銭で上下したが、米国時間に入ると156円40銭へ急落した。フランスで現内閣が予算案を強行採決するとの方針に左派と極右が反発。内閣不信任案が可決する可能性が高まり、政治経済の混乱が意識された。引けはやや戻して157円ちょうど近辺でもみ合い。日銀の追加利上げ観測が高まっていることも円買い戻しを促した。
ドル円相場は149円60銭台で始まり午前中に150円70銭近辺まで上昇。その後は50銭~70銭でもみ合いとなった。欧州時間に入りユーロ安円高に押されて16時過ぎには150円ちょうど近辺へ下落して150円ちょうど~40銭で上下動。米国時間にはさらに149円ちょうど近辺へ下落した。その後はドル安円高一服。149円70銭に反発して20銭~60銭で上下して引けは149円60銭。
ユーロドル相場は1.0570で始まり夕刻から欧州市場では1.0520近辺でもみ合い。その後も上値重く1.05台に戻す場面もあったが米国時間には1.0460に下落。引けは1.05ちょうど近辺。
米国株はまちまち。NYダウは前週末に最高値を更新したことから短期的過熱感、高値警戒感から利益確定売りに押された。関税引き上げ、報復合戦への警戒感も重石。一方、ISM製造業景気指数が強めだったことは支え。引けは前週末比▲128ドル安の44,782ドル。
ハイテク株は堅調。ナスダックは+185ドル高の19,403ドルで史上最高値を更新して引け。
発表されたISM製造業景気指数(11月)は前月46.5から予想47.6を上回り48.4へ改善。雇用指数は44.4から48.1へ、新規受注指数は47.1から50.4へ改善した。価格指数は54.8から50.3へ低下。
FRBのウォラー理事は、12月会合で利下げ支持に傾いている、と述べた。NY連銀総裁は、インフレ鈍化が続くに従いさらなる利下げを実施する可能性が大きい、とした。米長期金利は小幅上昇。10年債は4.185%、2年債は4.175%。
火曜日の東京市場では日経平均が大幅高。米ハイテク株高、ナスダックが史上最高値を更新、さらには米国の新たな対中半導体規制から日本企業が対象外となったこと、などを好感。半導体関連が大幅高となり牽引役となって全面高。
米国ではISM製造業景気指数が強めの数字、12月の利下げ観測が高まっていることも支え。GPIFの日本株投資増の思惑もあり、一時前日比+900円超上昇。引けは+735円高の39,248円。
ドル円相場は149円50銭で始まり午後には150円20銭台まで上昇。ただその後は軟調に転じて夕刻は149円80銭へ下落した。その後は150円を挟んで上下し米国市場朝方は149円70銭。
その後、韓国で突如、非常事態戒厳令が発令されたため、ポジション手仕舞いで円が買い戻されドル円相場は148円60銭に急落した。ただその後は円高一服。戒厳令が解除され149円台前半で上下して引けは149円60銭。
ユーロ円相場は157円ちょうどで始まり午後は157円30銭~50銭でもみ合い。夕刻から欧州市場にかけて158円ちょうど上昇したが米国市場では156円20銭まで急落した。その後157円20銭に反発して157円を挟んで上下し引けは157円20銭。
ユーロドル相場は方向感なく横ばい推移。東京市場では1.05ちょうどで始まり1.0490近辺でもみ合い。欧州市場では1.05台に乗せたが上値重く横ばいもみ合い小動き。引けは1.0510。
米国株はまちまち。高値警戒感、短期的過熱感が重石。NYダウは前日比▲76ドル安の44,705ドル。ハイテク株は堅調。ナスダックは+76ドル高の19,480ドル。
FRBクグラ―理事、シカゴ連銀総裁、はいずれも今後の利下げ実施を支持したが具体的なスケジュール、12月会合の利下げ有無には言及せず。サンフランシスコ連銀総裁は、12月の利下げを排除せずとしつつ確実でもない、とした。
水曜日の東京市場では日経平均が小幅上昇。米ハイテク株が引き続き堅調。半導体関連株が上昇した。日銀は想定より利上げに慎重との報道で円安が進行し支えとなった。しかし利益確定売りが上値を抑制し伸び悩み。引けは前日比+27円高の39,276円。
為替市場では円安が進行。日銀の年内利上げ見送り観測が報じられ円安が進行した。ドル円相場は149円60銭で始まり夕刻、欧州市場から米国市場にかけて一本調子で上昇。米国市場朝方は151円20銭。
その後発表された米国のISM非製造業景気指数が弱い数字だったことで150円ちょうど近辺へ急反落した。引けにかけては戻して150円60銭。
ユーロ円相場は157円20銭で始まり60銭へ上昇したあと157円ちょうどに反落したが、午後から欧州市場にかけて158円60銭へ急上昇した。米国市場では158円ちょうど~40銭で推移し引けは158円30銭。
ユーロドル相場は小動き横ばい。1.0510で始まり1.05ちょうど前後で上下。米国市場ではISMを受けて1.0540へ上昇したが押し戻されて引けは1.0510で東京市場朝方と同水準。
発表された米国の経済指標は総じて弱め。PMIサービス業景気指数(11月改定値)は速報57.0から56.1へ下方修正。
ADP雇用報告(11月)は雇用者数前月比が前月+233千人から+146千人へ増加幅が減少し予想+165千人を下回った。
ISM非製造業景気指数(11月)は前月56.0から55.5への小幅悪化予想に対し52.1と大きく悪化。雇用指数も53.0から51.5へ、新規受注指数も57.4から53.7へ低下した。米長期金利は低下。10年債は4.185%、2年債は4.127%。
米国株は主要3指数がそろって史上最高値を更新した。セールスフォース社の株価が大幅高となりNYダウを200ポイント超押し上げ。米景気への強気の見方、利下げ観測が支えとなった。NYダウは前日比+308ドル高の45,014ドルと初の45,000ドル台。ナスダックは+254ドル高の19,735ドル。
パウエル議長は、米景気は9月に想定していたより強い、政策調整を慎重に進めることができる、と述べた。フランスで内閣不信任案が可決されたが織り込み済みで市場の反応は鈍かった。
木曜日の東京市場では日経平均が小幅続伸。米国株の堅調を受けて朝方+350円超上昇。一方、今週の大幅高で過熱感もあり、イベントを前に上値追いも難しく、利益確定売りに押された。引けは+119円高の39,395円。
ドル円相場は150円60銭で始まりやや上値重く方向感なく150円台後半で上下動。午後には一時149円60銭台へ下落。その後欧州市場にかけては反発し150円台前半で上下。米国市場では150円70銭へ上昇したものの150円ちょうど近辺に反落して引けた。
ユーロ円相場は158円30銭で始まり夕刻には157円60銭へ下落。その後欧州市場から米国市場にかけては大きく反発して159円30銭へ。ただその後は158円台半ばへ反落して引けは158円90銭。
ユーロドル相場は1.0510で始まりじり高、夕刻は1.0540。その後もみ合いのあと米国市場では1.0590へ上昇して引け。ドルインデックスはやや下落して105.70近辺。米長期金利は概ね前日同水準。10年債は4.178%、2年債は4.144%。
米国で発表された週次の失業保険新規申請件数は224千件と前週213千件から増加。米国株は反落。前日に史上最高値を更新したあとで利益確定売りが優勢。翌日の雇用統計を前に様子見姿勢も強かった。NYダウは前日比▲248ドル安の44,765ドル、ナスダックは▲34ドル安の19,700ドルで引けた。
金曜日の東京市場では日経平均が反落。米国株安で投資家心理が悪化。半導体関連株が軒並み売られた。ドル円相場は149円台に下落したことも重石。下げ幅は一時▲400円を超え39,000円割れ。引けにかけては下げ幅を縮めて▲304円安の39,091円で引けた。
ドル円相場は150円10銭で始まり150円ちょうど~20銭でもみ合いのあと昼頃には149円80銭近辺に下落。午後は149円80銭~150円ちょうどで上下した。東証引け後から欧州市場にかけては円安が進み150円70銭へ上昇。その後米国市場朝方にかけては反落して150円40銭~60銭で雇用統計の発表を迎えた。
注目の米国の雇用統計(11月)は、非農業部門雇用者数前月比はストやハリケーンの影響が解消したこともあり前月+36千人から+227千人に増加した。一方、失業率は前月4.1%から4.2%へ上昇。平均時給は+4.0%で変わらず。
内容はさほど弱くなかったが市場は直後にドル売りで反応、その後ドルは戻したが円が全面高。ドル円相場は149円40銭割れへ急落した。円買い戻し一巡のあとは戻して150円ちょうど近辺で引け。
ユーロ円相場は158円90銭で始まり下落して40銭~60銭で上下。東証引け後から欧州市場にかけて円安が進み、上昇して159円40銭近辺で上下した。
雇用統計後はドル円相場の下落、円買い戻しに158円10銭近辺へ急落した。円高一服も上値重く10銭~50銭で上下し引けは158円50銭~60銭。
ユーロドル相場は東京市場から欧州市場にかけては1.0580中心に小動きもみ合い横ばい。雇用統計発表直後には1.0630へ上昇したがすぐに反落。1.0540台に下落し1.0540~60近辺でもみ合い引けは1.0570近辺。
米長期金利はやや低下。10年債は4.149%、2年債は4.098%。雇用統計でも12月の利下げ観測は後退しなかった。米国株はまちまち。
NYダウは前日比▲123ドル安の44,642ドル。高値警戒感から利益確定売りが優勢。景気敏感株、ディフェンシブ株、が売られた。一方ハイテク株は堅調。利下げ期待、長期金利上昇一服低下が支えとなった。ナスダックは+159ドル高の19,859ドル。
◆今週の3つの注目ポイント
1.米国の経済指標
ISMや雇用統計など主要指標の発表が一巡したあと、今週は物価指標に注目。
12月のFOMC前のほぼ最後の判断材料となる。利下げを促すか。
水曜日に消費者物価指数(CPI、11月、前年同月比、前月+2.6%、コア指数、同、前月+3.3%)、木曜日に生産者物価指数(PPI、11月、同、前月+2.4%、コア指数、同、前月+3.1%)、が発表される。
2.ECB理事会、ラガルド総裁会見
木曜日にECB理事会が開催される。今会合では利下げが予想されているが、利下げ幅は0.25%との見方が過半ながらも、0.50%との見方も残る。結果はどうか。
中国経済低迷の影響を受けたドイツ経済の不振に加え、足元ではフランスで内閣不信任案が可決されるなど政治混乱から経済への悪影響も懸念される。ラガルド総裁は会見でいかなる政策見通しを示すか。
3.日本の経済指標
今週は景気関連の指標が多い。日銀の金融政策決定会合に向けて利上げを後押しする材料となるか。
月曜日に国際収支(10月)、景気ウォッチャー調査(11月、現状判断、前月47.5、先行き判断、前月48.3)、金曜日に日銀短観が発表される。大企業製造業の現状判断は前月13、先行き判断は14、非製造業の現状判断は34、先行き判断は28だった。今回はどうか。
水曜日にはカナダ中銀が金融政策決定会合を開催し政策金利を3.75%から3.50%へ引き下げると予想されている。
◆今週のMRA's Eye
FRBは利下げ継続もペースダウン
先週発表された米国の主要経済指標は強弱まちまち。総じて景気減速基調にあるものの雇用の底固さも示した。ISM景気指数は製造業が改善し予想より強く、非製造業が悪化し予想より弱かった。
これまでは製造業の不振、サービス業の堅調、を示していたが直近の数字は逆の動きとなった。内訳項目である雇用指数も同様の動き。製造業が改善し、非製造業が悪化した。ただ総じて製造業が抑制され、サービス業がしっかり、という状況には大きな変化はなかった。
雇用関連指標も強弱ばらつきがみられた。雇用動態調査(10月)の求人数は大きく増加した。一方、ADP雇用報告(11月)では雇用者数前月比の増加が大きく減少した。
週次の失業保険申請件数は、新規申請が増加、継続受給が減少、とまちまち。週末の雇用統計(11月)では、非農業部門雇用者数は増加したものの227千人と中立的な数字で概ね予想通り。失業率は4.1%から4.2%へ上昇したが大幅には悪化せず、水準も長期的にみればなお低い。平均時給の上昇率は前年同月比+4.0%と前月と変わらず底固かった。
今月17日・18日の両日に開催されるFOMCを前に来週にはブラックアウト期間(発言禁止期間)に入る。それを前にFRB当局者から発言機会が多かった。
パウエル議長は、米国経済は9月に想定していたよりも強い、政策調整を慎重に進めることができる、労働市場が軟化した場合は支える、と述べた。
利下げ継続のスタンスは示しながらも、景気が想定よりも強めとの認識からは、これまでの利下げペースを緩める意向と受け止められる。
他のメンバーからは、インフレが低下基調にあるとの認識が示され、さらなる利下げを支持する姿勢がみられた。景気認識はパウエル議長と同様、堅調との見方で一致している。
経済の基調は力強く、利下げペースを緩める時期に近づいている、と明言するメンバーもみられた。
12月会合の利下げの有無については明らかではないが、市場ではほぼ利下げ実施が織り込まれている。今週のCPI(11月)は気になるところだが、よほど強い数字でなければ中期的なインフレ鈍化基調にあるとの見方は揺るがず。利下げに向けた最終確認ということになるだろう。
利下げ継続ながらペースダウンがほぼ確実となり市場も織り込み済み。ペースダウンがどの程度となるかが焦点となってきた。
振り返れば、FRBはインフレ警戒の利上げから景気配慮に転じて利上げ打ち止め、利下げ姿勢に転じ、9月の初回利下げはいきなり0.50%の大幅利下げとなった。さらに次の11月会合でも0.25%の2会合連続利下げ。そして12月会合でも0.25%の利下げとなれば3会合連続となる。さすがにペースダウンとなるのは当然。
9月のFOMC会合におけるメンバーの政策金利予測でも、年間で1%、すなわち、3ヵ月に1回、0.25%の利下げ、となっていた。
9月以降足元までの利下げペースが異例のペースであり、そのペースを緩和することには何らサプライズでもなく当然だ。来年の利下げ幅がどれほどになるのか。年末のFF金利の水準が3.50%なのか、3.75%なのか、その程度の違いか。問題は来年のどこかで利下げが停止するリスクはないのか。
今のところFRBのメンバーはゆっくりと中立金利に引き下げていくことで見方は一致している。
一方、中立金利そのものがどの水準かはなお不透明だ。3%近辺との見方が有力。であれば、来年はかなり近づくことになる。そのうえでトランプ政権が景気刺激的な政策をとり、あるいはインフレが再燃の気配をみせ、来年央以降に利下げが停止するリスクシナリオはなお残されている。一方で、景気に悪影響が及ぶ可能性も排除できない。
一方で、日銀が利上げ姿勢を堅持しているがそのスタンスもまた慎重。結果、日米金利差の縮小が緩やかに進み、ドル安円高もまた緩慢との見方がメインシナリオだ。
来年末のドル円相場の水準は140円程度と予測。一方、欧州ではECBが利下げを加速する可能性がある。日本とユーロ圏の政策金利が相当程度接近すると予想される。
ECBの政策金利、預金ファシリティ金利は現状3.25%。今週のECB理事会で3.00%か2.75%への利下げが想定される。景気失速懸念、インフレが目標以下に低下するとの見方、などから、来年末には2%以下に低下、1.50%との見方も強まっている。日銀が1.00%まで利上げすると想定すればほぼ金利差はない。
ユーロ円相場は155円~160円にあるが、歴史的にみれば高水準。ユーロ円相場の大幅な下落、円高を主導する可能性がある。米国の状況、ドル安かドル高かは不透明な部分もあるが、円安修正の流れ自体は変わらないと想定される。
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