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政治リスクの織り込みと米景気への楽観の行方
  • MRA外国為替レポート

2024年10月28日号

◆先週の市場総括


先週は日米の政治イベントのリスクを織り込むかたちで市場が動いた。日本では27日実施の総選挙で与党が過半数割れの可能性が高いとの報道を織り込んで為替市場では円安が、日経平均は軟調となった。

米国では激戦州でトランプ候補が優勢と報じられ、政策による景気刺激ないしインフレ圧力が高まるとの見方が米長期金利を押し上げた。経済指標が比較的強めだったことも長期金利上昇圧力に。

ドルは堅調。ドルインデックスは104ポイントに乗せた。ドル円相場は週央に一時153円台に上昇。ただ週末にかけては反落して151円台をつけ引けは152円台前半。ユーロドル相場は1.08台後半から1.08割れに下落して引け。

米国株は長期金利上昇を嫌気。相対的な割高感からNYダウは上値の重い展開に。個別決算でまちまちの動き。ハイテク株は好決算期待で先回り買いが支えとなり堅調。日経平均は38,000円台中心に推移したが週末は米株安や選挙前の不透明感に押されて38,000円割れで引けた。

月曜日の東京市場では日経平均が小幅安。半導体関連の一角は買われたが材料難のなか国内政治の先行き不透明感で売り優勢。防衛関連など政策関連銘柄が売られた。引けは前週末比▲27円安38,954円。

為替市場では夕刻から海外市場にかけて円安が進んだ。ドル円相場は149円50銭~60銭で始まり昼頃は30銭近辺でもみ合い。

午後から欧州市場にかけて上昇し150円ちょうどへ。米国市場では一段高となり150円80銭~70銭で引け。米長期金利上昇がドルを押し上げた。

ユーロ円相場は162円40銭で始まり昼頃は162円ちょうどで推移。午後から欧州市場にかけて162円80銭へ上昇し60銭~80銭でもみ合い。米国市場では163円ちょうど近辺で推移し引けた。

ユーロドル相場は1.0860で始まり欧州市場にかけて軟調。米国市場朝方は1.0860近辺だったがドル高に押されて1.0820近辺に下落しもみ合い引け。

米国株はまちまち。連日の最高値更新のあとで利益確定売りが優勢。長期金利上昇が嫌気された。NYダウは前週末比▲344ドル安の42,931ドル、ナスダックは+50ドル高の18,540ドル。

このところの経済指標や当局者発言を受けて年内利下げ幅の織り込みが0.25%×1.6回分程度まで縮小した。

また大統領選挙でトランプ氏が優勢と報じられ財政拡大・景気刺激との見方から長期金利の押し上げ要因に。10年債利回りは4.196%へ、2年債は4.032%へ上昇した。

火曜日の東京市場では日経平均が大幅安。日米の政治不透明感で手控え。国内では与党過半数割れとの見方が強まったことが重石。米国株安、米長期金利上昇も向かい風、円安は支えにならず。一時▲700円安。引けは▲542円安の38,411円。

ドル円相場は150得70銭で始まり底固く推移。150円台半ば~151円ちょうどで上下し、夕刻から欧州市場、米国市場朝方にかけては150円70銭~151円ちょうどで推移。終盤は151円ちょうど~20銭で上下した。

米長期金利はこの日も上昇。ドルを支えた。10年債は4.207%。2年債も4%台に乗せて4.032%。

ユーロドル相場は1.0820で始まり夕刻に1.0840に上昇したがその後はじり安。米国市場の引けは1.08ちょうど近辺。ドルインデックスは104.07で引け。

ユーロ円相場は163円ちょうどで始まり163円台前半を中心に上下。欧州市場では162円80銭に下落したが底固く、163円台前半に戻してもみ合い引けは163円10銭近辺。

米国株は上値重く、NYダウは一時▲200ドル安。IMFは米国経済の成長率見通しを上方修正。景気楽観を強めた。一方、引き続き長期金利上昇が重石。株式の割高感が意識された。引けはNYダウが▲6ドル安の42,924ドル、ナスダックは+33ドル高の18,573ドル。

水曜日の東京市場では日経平均が3営業日続落。米長期金利上昇で米国株、NYダウが下落した流れで売り先行。半導体関連が軟調、円安は輸出関連の支えとなったが限定的。

東京メトロ上場で資金確保の売りが他の銘柄を圧迫したことも要因に。一時▲400円安。引けは▲307円安の38,104円。

為替市場では朝方から欧州市場、米国市場朝方にかけて円安が進行。ドルは堅調。日本の政局不安を材料に円売りが活発化。ドルはトランプ氏優勢との見方から政策への懸念、インフレ圧力が強まるとの見方が引き続き長期金利を押し上げ。

ドルは堅調。ドル円相場は151円ちょうど近辺で始まり夕刻には152円20銭~40銭で推移。欧米市場ではさらに上昇して米国市場朝方には153円20銭。その後は上昇一服して引けは152円70銭。

ユーロ円相場も同様に163円10銭で始まり夕刻は164円30銭~50銭。米国市場朝方には一時165円ちょうどまで上昇した。引けは164円60銭。ユーロドル相場は1.08ちょうどで始まり夕刻にかけ軟調。欧州市場、米国市場では1.07台後半でもみ合い。引けは1.0780。

ドルインデックスは104.42ポイント。米長期金利はさらに上昇。10年債は4.242%、2年債は4.082%。

米国株は長期金利上昇を嫌気し高PER銘柄、ハイテク株に売りが嵩んだ。NYダウは高値警戒感も重石。引けはNYダウが▲409ドル安の42,514ドル、ナスダックは▲296ドル安の18,276ドル。

木曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに小幅ながら反発。米株安を受け売り先行となり朝方は▲400円安となったが、その後短期筋が先物に断続的に買いを入れた。

ただ選挙前の不透明感で上値は限定的だった。引けは前日比+38円高の38,143円。

為替市場では円買い戻しが優勢。ドル円相場は152円60銭~80銭で始まり夕刻から欧州市場にかけて下落し151円80銭へ。その後一時152円30銭に反発したが151円台後半で上下して引けは151円80銭。

ユーロ円相場は164円60銭~80銭で始まり夕刻は163円80銭。その後は164円40銭に反発すると163円90銭~164円40銭で上下し引けは164円40銭。

ユーロドル相場は1.0780で始まり欧米市場にかけて終始じり高。米国市場では1.0830で推移して引けた。ドルインデックスは下落して104ポイントちょうど近辺。

米長期金利はようやく上昇一服。10年債は4.204%、2年債は4.083%。

発表された欧米のPMI景況感指数(10月速報)は、ユーロ圏製造業が45.9と前月45.0から改善、サービス業が51.4から51.2へ小幅悪化。

ドイツは製造業が40.6から42.6へ改善、サービス業が50.6から51.4へ改善した。

米国は製造業が47.3から47.8へ、サービス業が55.2から55.3へ改善した。週次の失業保険申請件数は新規が前週241千件から227千件へ減少したが、継続受給が1,867千件から1,897千件に増加した。

米国株はまちまち。個別決算を受けて上下。NYダウは前日比▲140ドル安の42,374ドル、ナスダックは+138ドル高の18,415ドル。

金曜日の東京市場では日経平均が反落。米国株NYダウが下落したことを受けて売り優勢。総選挙前に与党過半数割れの可能性との報道を受けて持ち高調整売りも嵩んだ。円安一服も重石。引けは前日比▲229円安の37,913円。

ドル円相場は151円80銭で始まり一時152円台に上昇したが上値重く夕刻から欧州市場にかけても151円台後半で上下した。米国市場ではドルが堅調。じり高となり152円20銭~40銭で上下し引けは152円30銭。

ユーロドル相場は1.0820~30で小動きもみ合い横ばい。米国市場ではドル高ユーロ安が進み1.08割れに下落して引けた。

ユーロ円相場は164円40銭で始まり164円ちょうどに下落するなど164円台前半で上下動。欧州市場では164円80銭に上昇したが上値は限定的で164円40銭を中心に上下して引けた。

米長期金利は強めの経済指標を受けて上昇。ドルを押し上げた。10年債は4.246%。2年債は4.107%。

米国株は長期金利上昇を嫌気してNYダウは下落。ハイテク株は好決算期待を先回りした買いに支えられた。NYダウは前日比▲259ドル安の42,114ドル、ナスダックは+103ドル高の18,518ドル。

発表された米国の耐久財受注(9月、除く輸送機器)は前月比+0.4%と前月+0.5%に続き堅調で予想▲0.1%を上回った。ミシガン大学消費者態度指数(10月確報)は速報69.5から70.5へ上方修正された。期待インフレ(1年)は速報2.9%から2.7%へ下方修正された。

◆今週の3つの注目ポイント


1.日本の総選挙の結果

日本の総選挙が日曜日に実施され夜には大勢が判明。週明けの市場動向が注目される。事前の報道で与党が過半数割れの可能性が高いと報じられてきたことで、為替市場では円安、日経平均は下落。

米長期金利上昇の影響はありながらも、財政ばら撒き懸念から円長期金利上昇となり円資産はトリプル安の様相を呈してきた。選挙結果を受けての週明けの各市場動向はどうか。

2.米国の経済指標

今週は重要指標の発表が続く。ハリケーンの影響で実態はつかみにくい面はあるがとくに雇用関連指標に注目。

月曜日 ダラス連銀製造業活動指数(10月、前月▲9.0)

火曜日 ケースシラー住宅価格指数(8月、前年同月比、前月+5.9%) 雇用動態調査(JOLTS、求人数、予想7,900千人、前月8,040千人) 消費者信頼感指数(10月、予想99.0、前月98.7)

水曜日 ADP雇用報告(10月、雇用者数前月比、予想+98千人、前月+143千人) GDP(7-9月期速報、前期比年率、予想+3.0%、前期+3.0%、同個人消費、前期+2.8%)

木曜日 個人所得・消費支出(9月、前月比、予想+0.4%・+0.4%、前月+0.2%・+0.2%) PCEデフレーター(前年同月比、予想+2.1%、前月+2.2%、コア、予想+2.6%、前月+2.7%) 週次の失業保険申請件数 シカゴ購買部協会景気指数(10月、前月46.6)

金曜日 ISM製造業景気指数(10月、予想47.6、前月47.2) 雇用統計(10月、非農業部門雇用者数前月比、予想+108千人、前月+254千人 失業率、予想4.1%で前月と変わらず 平均時給、前年同月比、予想+4.0%で前月と変わらず

3.日銀金融政策決定会合、展望レポート、植田総裁会見

水曜日・木曜日の2日間にわたり日銀の金融政策決定会合が開催される。今回の会合では政策金利の変更は予想されていない。

今回は展望レポートが公表されるが、景気物価見通しはどうか。今後の追加利上げに向けた環境が整いつつあることを示唆するか。終了後に植田総裁が定例会見を行う。

金融緩和解除の方向性は維持しつつも追加利上げは慎重に行う旨の発言がみられるが、会見でどのようなニュアンスを示すか。年内追加利上げの有無に関して何らかの示唆は得られるか。

◆今週のMRA's Eye


政治リスクの織り込みと米景気への楽観の行方

ドル円相場は先週、一時153円台まで上昇した。円安要因とドル高要因が混在。かつその要因は短期的な日米双方のリスク織り込みと中期的な米国景気楽観が入り混じる。米国経済への中期的な楽観に加え、政治リスクの織り込みは円安・ドル高と逆方向に強まったことで、ドル円相場が大きく反発上昇したのが現状だ。

円安が進んだ大きな要因は政局混迷リスクの織り込み。総選挙で与党が過半数割れとの報道が相次いだことがきっかけだ。

経済政策に対する漠然とした不透明感、現在の与野党双方による支持率維持のためのばら撒き、放漫財政への懸念、野党のインフレ目標ゼロ%の主張、など。

市場はとりあえず、円安・株安・債券安(長期金利上昇)のトリプル安で反応した。円安に関しては、投機筋のポジションが円買いに大きく傾いていた反動もあろう。

一方、一連の動きが持続するかどうかもまた不透明だ。選挙結果そのものが不透明で与党が過半数を維持する可能性があること、また過半数割れとなった場合でも野党が政権与党となることが考えにくいこと、実際の経済政策がネガティブなものとなるかは不透明であること、などがその理由。

初期反応としての円売り・円安が今後も持続するか否か現時点で確証はもてない。

予想外に与党が過半数を維持すれば円買い戻し・円高方向への揺り戻しが生じる可能性が高い。

過半数割れとなった場合でも、すでにかなり織り込んでいるためにさらに円安が加速するとは限らない。イベントリスクの終了で円売り一服となる可能性もある。

一方、政局混迷となった場合は嫌気して円安の流れが続く可能性もある。総選挙が短期的な円売り材料で材料出尽くしないし円売り材料としての梯子外しで円高に揺り戻しが生じるか、あるいは中期的な円売り要因となるか、選挙結果を受けて時間をかけてみていく必要がある。

米国については激戦州でトランプ候補が優勢と伝えられたことが大きい。ここにきてハリス候補の支持率がやや低下している。

市場は「トランプリスク」を睨み、いわゆる「トランプトレード」を活発化した。トランプ政権となれば、景気刺激的な政策がとられ、また輸入関税強化によってインフレ圧力が高まるとの見方がベースにある。

すでに足元の強めの経済指標を受けてソフトランディング期待は強まっていたが、米景気の楽観がさらに強まるとともにインフレ再燃リスクも織り込んで長期金利が上昇。とくに10年債など長めの金利ほど上昇が強まった。

2年債利回りも上昇し4%台を回復。これは金融政策の先行き見通しも影響を受けていることを反映したものだろう。年内利下げの織り込みはすでに0.25%が1回ないし2回の中間にまで後退した。

さらに利下げを慎重に進めるべきとの当局者の見解が相次ぐなか、トランプ政権となった場合に来年以降の利下げシナリオが影響を受けるリスクを織り込み始めたとみられる。

こうしたドル金利先安感の後退はドルを押し上げている。

ただトランプリスクについても、まず大統領選および議会選挙の結果が実際にどうなるか、また来年に新政権がスタートしてからの実際の経済政策がどうなるか、見極める必要がある。初期反応のあとの相場展開がどうなるかなお予断は許さない。

中期的な要因、すなわち米国経済がソフトランディングないしノーランディングの可能性すらありうるとの楽観的な見方も、このところドルを押し上げている。

経済指標には強めの数字が散見される。しかし、先週公表されたベージュブック(地区連銀経済報告)は、そうした経済指標あるいは市場の楽観とは趣が異なる内容だった。

経済活動は横ばい、雇用の伸びは過半の地区でわずかないし緩慢、消費に関する報告は強弱入り混じる、とされた。指標は堅調な雇用消費を示していたが、なお景気減速が続いている可能性が示唆された。

経済指標はブレが大きく、大きな流れをみるうえでは定性的な判断が重要となる。

ベージュブックを踏まえれば11月のFOMC会合でどのような判断がなされるのか微妙になってきた。利下げ見送りとの見方が強まったが、0.25%の利下げが実施される可能性も相応にある。

市場の楽観が強すぎることから、今後の経済指標が弱い数字となれば、その見方が修正されるリスクもある。

いずれにしても、今後2週間はドル円相場が大きく変動する可能性がある。日本の総選挙結果を受けて円安は一服するのか、円高に揺り戻しが生じるか、あるいはなお円安基調となるのか。

米国の重要指標が景気楽観を揺るがす可能性はないのか。ドル高基調に変調を来す可能性はないか。11月5日の大統領選挙・議会選挙の結果はどうなるか。さらに6日・7日のFOMCでの政策判断はどうか。極めてボラティリティの高い状況となりそうだ。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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