深まる欧州の景気懸念、利下げ加速
- MRA外国為替レポート
2024年10月21日号
◆先週の市場総括
先週は円安というよりもドルが堅調。米国では引き続き経済への楽観的な見方、ソフトランディング期待が強く、長期金利は10年債を中心に上昇しドルを押し上げた。
ドルインデックスは週初の103ポイント台前半から後半へ上昇。ユーロドル相場は1.08台前半へ下落。ドル円相場は149円台半ばから後半を中心とする値動きで一時150円台前半に上昇した。ユーロ円相場は週初の163円ちょうど近辺から一時161円台に下落するなどして引けは162円台半ば。
木曜日にECBが予想通り0.25%の利下げを実施。さらに年内追加利下げに動くとの見方が強まった。
米国株は企業決算が概ね良好だったことで引き続き堅調。NYダウは史上最高値を更新する展開。ただ半導体決算が波乱となり上下する場面があった。
日経平均は米国株堅調やドル高円安を追い風に一時4万円の大台に乗せたものの海外半導体関連企業の決算の波乱で大きく反落するなどし週末は38,900円台で引けた。
月曜日の東京市場は休場。アジア時間のドル円相場は149円10銭で始まり20銭~40銭で底固く推移。欧州市場に入ると上昇して150円手前、米国市場にかけて149円90銭中心に80銭~150円ちょうどでもみ合い引けは149円80銭。
ユーロ円相場は163円ちょうど~20銭で上下し欧州市場では163円30銭近辺で上下。米国市場では一時60銭に上昇したが押し戻され引けは163円40銭。
ユーロドル相場は1.0920~30でもみ合い、欧州市場から米国市場にかけてはややユーロ安ドル高に振れて1.09ちょうどへ。引けは1.0910近辺。ドルインデックスは103.20ポイントに上昇した。
米国市場では債券市場が休場のなか米国株は堅調。ソフトランディング期待、利下げ継続期待、が支え。金融決算を受けて金融株が堅調。NYダウは前週末比+201ドル高の43,065ドル、ナスダックは+159ドル高の18,502ドル。
火曜日の東京市場では日経平均が上昇。4営業日続伸。上げ幅は一時+600円を超え一時4万円の大台を回復した。米株高、円安を好感。ただ短期的過熱感や利益確定売りが上値を抑え上げ幅を縮めた。引けは前週末比+304円高の39,910円。
ドル円相場は149円80銭で始まり40銭~80銭で上下したあと夕刻にかけて下落。欧州市場では148円80銭台まで下落した。ただその後は持ち直し149円ちょうど~40銭で上下。米国市場では149円50銭台に上昇し引けは反落して149円20銭。ユーロ円相場は163円40銭で始まり軟調、下落。
夕刻から欧州市場は162円40銭~80銭で上下した。米国市場にかけても上値重く引けは162円50銭近辺。
ユーロドル相場は1.0910で始まり軟調。欧州市場では1.0880台に下落。その後は反発して1.09ちょうど近辺でもみ合いとなったが上値重く引けは1.0880~90。
米国株は下落。半導体関連株が下げを主導した。米国政府が船体半導体の輸出規制を強化すると報じられた。オランダの半導体製造装置大手ASML社の決算、業績見通しが不芳。7-9月期の受注が前期比5割減少。25年12月期の売上見通しが下方修正されたことを嫌気した。
NYダウは前日比▲324ドル安の42,740ドル、ナスダックは▲187ドル安の18,315ドル。
米長期金利は小幅低下。10年債は4.037%、2年債は3.950%。
発表されたNY連銀製造業景気指数(10月)は▲11.90と前月11.50から予想3.85への悪化に対し大きく悪化した。NY連銀調査の期待インフレ率は1年が2.3%で前月と不変、3年は2.5%から2.7%に上昇。
サンフランシスコ連銀総裁は、インフレ鈍化、労働市場減速のなか当局は警戒姿勢を維持する必要がある、とする一方、現在の景気拡大を維持できるとの楽観的見通しを述べた。年内利下げはあと1回ないし2回の可能性が高いとした。
水曜日の東京市場では日経平均が大幅反落。ASML社の不芳な決算業績見通しのショックで大幅安となった。一時前日比▲800円超下落。値がさ半導体関連株が下げを主導した。引けは▲730円安の39,180円。
ドル円相場は149円20銭で始まり149円ちょうど~40銭で上下し夕刻は40銭。欧州市場でも同水準で上下。米国市場では一段高となり149円台後半、60銭~80銭で上下して引けは149円60銭。ドルが全般に堅調。
ユーロドル相場は1.0890で始まり横ばいもみ合い。欧州市場では同水準で上下したあと米国市場は1.0860に下落して引け。
ユーロ円相場は162円50銭で始まり20銭に下落したあと反発して欧州市場では162円50銭~80銭で上下。米国市場ではユーロ安に押されて162円50銭で引けた。
米長期金利は小幅低下。10年債は4.018%、2年債は3.941%。
原油価格WTI先物は70.39ドルに下落。イスラエルがイラン攻撃に際して核施設および石油施設を標的としないとワシントンポストが報じたことが材料となった。
米国株は3指数そろって反発。翌日に控えた台湾の半導体受託生産大手TSMC社の決算への期待から半導体関連の一部に買い戻しが入った。金融決算で良好な銘柄も買われた。NYダウは前日比+337ドル高の43,077ドル、ナスダックは+51ドル高の18,367ドル。
米国の輸入物価指数(9月)は前年同月比▲0.1%と前月+0.8%から低下した。
木曜日の東京市場では日経平均が続落。オランダASLM社の不芳な決算業績見通しが引き続き重石となり値がさ半導体関連株に売り優勢。台湾半導体製造大手TSMC社の決算は良好だったが織り込み済みでさほど押し上げ要因とならなかった。円安は輸出関連株の支えに。引けは前日比▲269円安の38,911円。
ドル円相場は149円60銭で始まり20銭台に下落したが夕刻にかけて持ち直し欧州市場朝方は149円90銭。その後50銭に反落したがECBの利下げを受けたユーロ安ドル高を受けて一時150円台10銭に上昇するなど堅調。米国市場では149円60銭台に下落したものの終盤には150円20銭~30銭で上下して引けた。
米国の良好な経済指標、米長期金利の上昇がドルを押し上げた。ユーロドル相場は1.0860中心に小動きもみ合い。ECBの利下げを受けて1.0810台に下落してもみ合い引けは1.0830。ドルインデックスは103.78ポイントに上昇した。
ユーロ円相場は162円50銭で始まり朝方10銭に下落したが反発して40銭~60銭で上下。ECBの利下げを受けて161円80銭台に下落したがその後は持ち直し162円70銭中心にもみ合い引けた。
ECBはこの日の理事会で市場の予想通り0.25%の利下げを実施。預金ファシリティ金利を3.50%から3.25%に引き下げた。市場は、インフレが予想を下回るとともに景気悪化懸念が強まっていることから早期の追加利下げを想定。
米国で発表された小売売上高(9月)は前月比+0.4%と前月+0.1%から大幅に加速、除く自動車関連でも+0.5%と強い数字だった。
週次の失業保険新規申請件数は前週258千件から241千件に減少。
フィラデルフィア連銀製造業景気指数(10月)は前月1.7から10.3に改善。一方鉱工業生産(9月)は前月比▲0.4%と前月+0.8%から減少に転じ、設備稼働率も78.0%から77.5%へ低下。
いずれもハリケーンの影響が上振れ下振れを生じている可能性が指摘されている。
米長期金利は上昇。10年債は4.094%、2年債は3.976%。
米国株は底固い値動き。消費堅調、雇用の底固さを示す指標が好感された。半導体需要への懸念は一服。一方で長期金利上昇は重石となった。NYダウは前日比+161ドル高の43,239ドル。ナスダックは+6ドル高の18,373ドル。
金曜日の東京市場では日経平均が小幅高。米国株の堅調を受けて一時+200円超上昇したが半導体関連の一角には引き続き売りが続いた。日本の総選挙で与党が過半数割れの可能性もと報じられ様子見姿勢も強まった。引けは前日比+70円高の38,981円。
ドル円相場は週末のポジション調整、米長期金利上昇一服で上値の重い値動き。150円20銭で始まり午後には149円80銭近辺に下落。その後は150円を挟んで上下横ばい、米国市場では一時149円40銭に下落した。引けは149円50銭。
ユーロドル相場は1.0830で始まり米国市場にかけて終始緩やかに上昇、じり高。引けは1.0870。ドルインデックスは小幅低下して103.46ポイント。
ユーロ円相場は終始横ばい上下動。162円70銭で始まり40銭~60銭で上下。海外市場では40銭~80銭。米国市場では162円40銭~50銭の小幅な値動きとなり引けは162円50銭。
日本の消費者物価指数(9月)は前年同月比2.5%と前月3.0%から低下。除く生鮮食品では2.8%から2.4%へ低下。一方、除く生鮮食品・エネルギーでは2.0%から2.1%へ上昇した。
中国の主要経済指標(9月)は予想より良好。小売売上高は前年同月比+3.2%と前月+2.1%から伸びが加速。鉱工業生産も+4.5%から+5.4%へ加速した。米長期金利は上昇一服、小幅低下。
10年債は4.085%、2年債は3.950%。米国株は小幅高。企業決算発表が続くなか内容はまずまず総じて良好だったこと支え。ただNYダウが連日史上最高値を更新しており短期的過熱感で利益確定に押される場面もあった。引けはNYダウが前日比+36ドル高の43,275ドル、ナスダックは+115ドル高の18,489ドル。
◆今週の3つの注目ポイント
1. ベージュブック(地区連銀経済報告)
水曜日にベージュブックが公表される。このところ強めの経済指標が続き、とくに雇用堅調との見方が強まっているが実態はどうか。雇用統計はブレが大きいため、実際の雇用情勢の強弱、とくに雇用減速に歯止めがかかったのか、定性的な判断が注目される。
また消費動向に変化がみられるか。ハリケーンの一時的な影響を除いて、影響のない地区での景気物価動向がどうか。11月のFOMC会合での利下げの有無を示唆する内容がみられるか。
2. 米国の経済指標
月曜日 景気先行指数(9月、前月比、予想▲0.3%、前月▲0.2%)
火曜日 リッチモンド連銀製造業指数(10月、前月▲21)
水曜日 中古住宅販売(9月、季節調整済み年率換算、予想390万戸、前月386万戸)
木曜日 PMI景況感指数(10月速報、製造業、予想47.6、前月47.3、サービス業、予想55.2、前月55.2) 週次の失業保険申請件数 新築住宅販売(9月、季節調整済み年率換算、予想720千戸、前月716千戸)、
金曜日 耐久財受注(9月、前月比、予想▲1.0%、前月0.0%) ミシガン大学消費者態度指数(10月確報)
3. カナダ中銀政策金利、欧州PMI景況感指数(10月速報)
水曜日にカナダ中銀が金融政策決定会合を開催する。今回は政策金利を4.25%から3.75%へ大幅に引き下げると予想されている。
米国の隣国でその影響を受けやすいだけに景気物価動向の判断が注目される。FRBの利下げスタンスに示唆する内容があるか。
木曜日には欧州でもPMI景況感指数(10月速報)が発表される。景気失速懸念が強まるなか数字はどうか。とくにドイツの不振が懸念されている。
ドイツは製造業が前月40.6から40.8へ小幅改善が予想されているが依然として景況感の分かれ目である50を大きく下回る予想。サービス業は前月50.6から50.7へわずかに改善と予想されるがサービス業への懸念が強まらないか。
◆今週のMRA's Eye
深まる欧州の景気懸念、利下げ加速
先週木曜日のECB理事会では0.25%の利下げが決定された。預金ファシリティ金利は3.50%から3.25%へ、主要政策金利は3.65%から3.40%へ。9月12日の会合でも0.25%の利下げが実施されており、2会合連続の利下げ。
ラガルド総裁は9月末に、インフレ目標である2%を速やかに達成する自信を深めている、この考えを次の政策決定会合に反映させる、と述べ、利下げを強く示唆していたがその通りの決定。
それまでは今後の利下げペースについては言及を避ける、とし、四半期に1度のペースとみられていたが大きくスタンスが変更された。
次回会合は12月12日だが、同会合でも0.25%の利下げが実施されるとの市場の見方は根強い。あるいはさらに利下げを加速して0.50%の利下げが実施されるとの見方も台頭している。仮にそうなれば預金ファシリティ金利は2.75%まで低下する。
背景にあるのはインフレの急速な低下と景気失速懸念。ユーロ圏の消費者物価指数CPIは直近9月に総合指数が前年同月比+1.7%まで低下。コア指数は+2.7%に低下。ドイツでは総合指数が前年同月比+1.6%まで低下した。景気動向にも不安が強まっている。
PMIは景気失速のリスクを示唆。とくに製造業の不振が極まっている。
製造業指数はユーロ圏で45.0、ドイツに至っては40.6まで低下。景況感の分かれ目である50を割り込んだ状態が長期にわたっている。ドイツでは製造業の不振あるいは空洞化が懸念される状況。
中国依存が高まっているなか、その中国経済に不振の波をまともにかぶったかたち。
米国の製造業PMIも弱く50を割っているが47.3とさほど深くはない。欧州ではサービス業も際どい状況だ。ユーロ圏のPMIは51.4、ドイツは50.6と景況感の分かれ目である50を辛うじて上回った状況。米国のサービス業PMIは55.2で景況格差は明らかだ。
年内利下げ見通しは、ECBとFRBでバイアスが真逆になってきた。あるいは先進国内においてFRBのタカ派寄りのスタンスが際立つ。
ECBは利下げペースを加速。0.25%の連続利下げを実施。さらに次回12月会合では0.25%の連続利下げに留まらず、0.50%の利下げへペースアップする可能性が生じている。バイアスは利下げ強化の方向だ。
欧州全体を見渡してもスイス中銀は追加利下げにさらに前向きとなっている。ECBの出方やユーロスイス相場の動向も大きな判断材料としているだけに、ECBのスタンスがハト派に傾けばそれに同調してハト派スタンスが強まる。
政策金利は現状1%だが、スイス中銀総裁はゼロ金利までの利下げ、さらには場合によってはマイナス金利まで利下げを行うことも排除しないスタンスを示した。
欧州以外では、米国の隣国カナダでも利下げがペースアップする可能性がある。10月23日の政策決定会合では4.25%から3.75%へ、0.50%の利下げが実施されるとの見方が根強い。実施されれば米国との金利差は1%以上拡大する。
一方FRBは、市場の利下げ期待よりも慎重な利下げスタンスを示しており、それが現実になりつつある。強めの雇用統計をはじめソフトランディングの可能性が高まっているとの自信からFRB当局者はより慎重なペースでの利下げを主張する意見が散見される。
9月FOMCのメンバー予測中央値では年内追加利下げ幅は0.50%だった。しかし0.25%との見方も相応に多く0.50%との予測をわずかに下回る程度。
年末までは11月、12月、2回の会合があるが、いずれも0.25%となるのか、あるいは11月会合では見送りとの見方が強まってきた。バイアスは利下げペースが緩慢となる側に傾き、ECBあるいはその他の先進国中央銀行とは真逆だ。
こうした状況を反映し米国の長期金利は上昇、欧州の長期金利は安定ないし低下気味。欧米金利差は拡大し、ユーロドル相場の上値は重くなった。先月末の1.12ドルから1.08台までユーロ安ドル高が進んだ。
米ドル/カナダドル相場も先月末の1ドル=1.34カナダドル台前半から足元では1.38カナダドルまで上昇。米ドル/スイスフラン相場も先月末の0.84フランから0.86台半ばまでドル高フラン安。
ドルインデックスはユーロドル相場の動きをより強く反映するが、他の通貨に対するドル高も進行してこのところ堅調。9月初の101ポイント台後半から足元では103ポイント台後半まで上昇した。
ドル円相場は先週150円台をつけたが、円安というよりもドル高の影響が大きい。米国景気の底固さ、米国経済の相対的なひとり勝ちというイメージ、日本を除く先進各国の利下げ強化、一方で米国は利下げ継続ながら慎重かつ緩慢、というなかではドルインデックスが堅調に推移する可能性が高い。
ドル高一服には今後の米経済指標が他の先進各国同様に弱い数字となるかが鍵となる。
日銀は12月に利上げを実施する可能性が高まっている。
円安進行や足元でなおコアインフレ率が2%を安定的に上回っていること、なおも値上げの動きがみられること、国内景気が比較的良好かつ安定的に推移していることが背景だ。
日米金融政策の方向は逆行しているが、足元では米国要因でその逆行度合いが緩んでいる。ドル円相場は中期的にドル安円高基調とみられるが、そのペースは当面緩慢になりそうだ。
米国のクリスマス商戦、さらに年末年初の雇用動向がどうなっているか。日銀の利上げが年末年初に確実に実施されているか。一方、米株高がなおも続き、リスク選好が円安を促すことになるか。あらためてドル安円高期待が強まるかどうかの見極めにはもう少し時間がかかりそうだ。
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