自民党総裁選を終えて
- MRA外国為替レポート
2024年9月30日号
◆先週の市場総括
先週は米国で利下げ期待やソフトランディング期待が強まるなかリスク選好が強まり米国株が堅調。中国の金融緩和も期待を後押しした。NYダウは利食い売りで押される場面もありながら史上最高値を更新。VIX指数(恐怖指数)は15ポイント台の低水準で推移した。
米長期金利は概ね横ばい。10年債は3.75%近辺、2年債は3.5%台中心の動き。為替市場では円高一服、ドル円相場は底固い値動きとなった。ドル円相場は143円~144円50銭で上下。
ユーロ円相場は週初に弱い指標で159円に下落したがその後は右肩上がりで160円台を回復。
週末にかけては自民党総裁選が注目材料に。高市氏がアベノミクスへの回帰を主張し、積極財政方針と日銀の利上げを牽制。高市氏が第1回投票で首位となるとドル円相場は一気に146円50銭へ、ユーロ円相場は163円50銭へ急騰。
ただ最終的に石破氏が新総裁となると急激に円高となって、週末の引けは142円20銭、158円80銭。
日経平均は週末にかけて急騰し金曜日の引けは39,800円台となったが、その後、海外の先物市場では2,000円以上下落している。
月曜日の東京市場は休場。ドル円相場はアジア時間に143円80銭~90銭で始まり144円40銭近辺に上昇してもみ合い。その後夕刻から欧州市場にかけてユーロ円相場の下落に押されて143円20銭に反落した。
ユーロ円相場は160円60銭で始まり161円10銭~20銭でもみ合いのあと、欧州市場に入ると160円60銭から159円ちょうど近辺に急落。ユーロドル相場も1.1160で推移していたが1.1080台へ下落。
発表された欧州のPMI景況感指数(9月速報)が弱くユーロ安。ユーロ圏は製造業が前月45.8から44.8へ、サービス業が52.9から50.5へ悪化。ドイツも同じく製造業が42.4から40.3へ、サービス業が51.8から50.6へそれぞれ悪化した。
ただ米国市場にかけて円高は一服。さらに米国のPMI景況感指数(同)が製造業が47.9から47.0へ悪化、サービス業が55.7から55.4へ悪化したものの予想ほどではなく50を上回ったことで景気への楽観を支えた。
ドル円相場は144円30銭へ上昇。ただFRB当局者から利下げへの前向きな発言が相次ぐと反落。143円30銭近辺でもみ合い引けにかけてやや強含んで143円60銭。
ユーロ円相場もドル円相場に連れて160円50銭に上昇したが同様に反落。159円40銭近辺でもみ合い引けは159円60銭。ユーロドル相場は1.1140に反発し引けは1.1110。
米国株は小じっかり。NYダウはわずかながらも史上最高値を更新。高値警戒感が残るなかでも利下げ継続、ソフトランディング期待が支えとなった。NYダウは前週末比+61ドル高の42,124ドル、ナスダックは+25ドル高の17,974ドルで引け。
米長期金利はまちまち。10年債は3.750%へ小幅上昇、2年債は3.586%へ小幅低下。
シカゴ連銀総裁は、ソフトランディングを望むなら後れをとるわけにはいかない、労働市場の弱さに早めに対処する必要がある、金利がかなり下がる必要がある、と述べた。アトランタ連銀総裁、ミネアポリス連銀総裁も、雇用情勢に配慮する姿勢を示した。
火曜日、連休明けの東京市場では日経平均が上昇。前日に米国株堅調に加え、植田総裁が利上げには時間的余裕がある、と発言。円安が進行したことも好感された。引けは前週末比+216円高の37,940円。
ドル円相場は143円60銭で始まり午前中は40銭~90銭で上下。その後植田発言で午後には144円70銭までドル高円安が進んだ。その後欧州市場に入ると143円80銭まで押し戻されて144円ちょうどを挟んで上下動。
米国市場では弱い消費者信頼感指数を受けて143円40銭台へ下落。その後一時反発したが引けにかけて軟調となり143円20銭で取引を終えた。
米国の消費者信頼感指数(9月)は前月103.3から98.7へ大きく悪化して予想103.5を下回った。
リッチモンド連銀製造業指数(9月)は前月▲19から予想▲13への改善に反して▲21へ悪化。
米長期金利は低下。10年債は3.729%、2年債は3.540%。
ユーロドル相場は1.1110近辺でもみ合いのあと夕刻は1.1140へ上昇。さらに米国市場ではユーロ高ドル安が進んで1.1180で引け。ドルインデックスは100.36ポイントに下落して引けた。
ユーロ円相場はドル円相場と同様の値動き。159円60銭で始まりもみ合いのあと、午後は植田発言を受けて161円10銭まで上昇して161円を挟んでもみ合い。欧州市場では160円ちょうど近辺へ反落。
ドイツIFO景況感指数(9月)は前月86.6から85.4へ予想86への悪化を下回る弱い数字だった。米国市場では160円台前半で上下して引けは160円10銭。
米国株は小幅高。NYダウは4営業日続伸して史上最高値を更新した。個人消費への懸念は重石となったが利下げ期待は支え。中国の景気刺激策、金融緩和も好感された。この日、中国人民銀行は利下げおよび預金準備率の引き下げ方針を示した。NYダウは前日比+83ドル高の42,208ドル、ナスダックは+100ドル高の18,704ドルで引けた。
水曜日の東京市場では日経平均が5営業日ぶりに反落。小幅安。米ハイテク株堅調は支えとなったが4日営業日続伸のあとで利益確定売りが優勢。引けは前日比▲70円安の37,870円。
ドル円相場は143円20銭で始まり143円を挟んで上下動。その後は143円台前半で上下。東証引け後から欧州市場にかけては144円40銭まで上昇した。米国市場では143円80銭台に反落したが持ち直し、引けにかけて堅調。144円80銭台まで上昇して引けは144円60銭。
ユーロ円相場も堅調。160銭10銭で始まり早々に60円割れに下落したが反発して160円台半ばでもみ合い。東証引け後から欧州市場にかけて161円60銭まで上昇した。
米国市場ではユーロ安ドル高を受けて反落。160円90銭近辺でもみ合い引けは161円ちょうど近辺。
ユーロドル相場は1.1180で始まり1.12に小幅高のあと押し戻された。欧州市場では1.1210へ持ち直したが米国市場では下落して1.1130近辺でもみ合い引けた。
ドルインデックスはやや反発して100.93。米長期金利が反発してドルを支えた。10年債は3.79%、2年債は3.561%。
米国株はまちまち。利益確定に押され上値が重く、NYダウは反落して▲293ドル安の41,914ドル、ナスダックは+7ドル高の18,082ドル。VIX指数は15.41まで低下した。
木曜日の東京市場では日経平均が大幅高。およそ2カ月ぶりの高値をつけ引けは39,000円目前。円安が進み輸出関連株が買われた。
米半導体関連株高で日本株も半導体銘柄がしっかり。前日の米国株式市場引け後に半導体メモリー大手のマイクロンテクノロジー社が示した決算が良好だったことが背景。配当権利付き取引最終日だったことも支え。引けは前日比+1,055円高の38,925円。
ドル円相場は堅調。144円60銭で始まり145円ちょうど近辺に上昇して144円60銭~145円で上下動。その後夕刻には145円20銭まで上昇した。
欧州市場では144円10銭に反落したが米国市場でも145円20銭に上昇。その後は144円台後半でもみ合い引けは144円80銭。
米国の経済指標が雇用の底固さ、景気の底固さを想起させ米長期金利が上昇。10年債は3.800%、2年債は3.630%。
週次の失業保険申請件数は新規申請が前週の219千件から218千件にやや減少して予想225千件を下回った。GDP(4-6月期確報)では下方修正なし。耐久財受注(8月)は前月比0.0とマイナス予想より強めだった。
ユーロ円相場も総じて堅調。161円ちょうどで始まり欧州市場では161円80銭台。その後160円80銭に反落したが持ち直しNY引けにかけては161円90銭近辺でもみ合い。
米国株は堅調。雇用景気がなお底固くソフトランディング期待から景気敏感株が買われた。中国の景気浮揚策への期待も下支え。NYダウは前日比+260ドル高の42,175ドル、ナスダックは+108ドル高の18,190ドル。
原油価格WTI先物はサウジアラビアの増産観測で下落し67.67ドル。
金曜日の東京市場では日経平均が大幅続伸。前日の米国株が堅調。総裁選第1回投票で高市氏がトップとなったことでアベノミクスへの回帰、積極財政と金融緩和継続、との思惑によるいわゆる高市トレードが活発化。円安株高との見方が強まった。日経平均は前日比+903円高の39,829円と大台の4万円に迫る動き。
為替市場では円安が進んだ。ドル円相場は144円80銭で始まり145円50銭へ上昇し一旦145円ちょうどに押したが、146円50銭まで急騰した。ユーロ円相場も161円90銭で始まり162円50銭に上昇。162円ちょうどに押したあと163円50銭へ急騰した。
しかし決選投票で高市氏が敗れ石破氏が総裁に決定すると急激に円が買い戻された。ドル円相場は142円80銭に急落したあと欧州市場では反発して143円台前半で上下。
しかし米国市場に入ると弱い経済指標も手伝って一段安となり142円台後半で上下。引けにかけてさらに下落して142円20銭で引け。ユーロ円相場も159円ちょうどに急落。その後160円ちょうど近辺に戻したが欧米市場では下落基調となり引けは158円80銭近辺。
ユーロドル相場は1.1180近辺でもみ合い。欧米市場ではじり高となり1.12ちょうどまで上昇したがその後は反落して1.1160近辺で引けた。
発表された米国の個人所得・消費支出(8月)は前月比+0.2%・+0.2%と前月から伸びが鈍化して予想を下回った。実質個人消費は前月+0.4%から+0.1%へ伸びが鈍化。
個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前年同月比が前月+2.5%から+2.2%まで低下。コア指数は+2.7%と前月と不変だったが全体としてインフレ鈍化が示された。
米長期金利は低下。10年債は3.751%、2年債は3.557%。
米国株は景気敏感株が堅調。インフレ鈍化で大幅利下げ観測がやや強まり、ソフトランディング期待が引き続き支え。発表された消費者信頼感指数が強かったことも押し上げ要因に。
NYダウは一時前日比+450ドル高。ただ利益確定売りに伸び悩み引けは+137ドル高の42,313ドル。ナスダックは▲70ドル安の18,119ドル。ミシガン大学消費者態度指数(9月確報)は速報の69.0から大きく上方修正されて70.1。期待インフレは1年、5年とも速報と変わらず、2.7%、3.1%だった。
◆今週の3つの注目ポイント
1.米国の経済指標
今週は重要指標の発表が続く。米国景気への楽観が支持されるか、悪化懸念が再燃するか。
月曜日 シカゴ購買部協会景気指数(9月、予想46.3、前月46.1) ダラス連銀製造業活動指数(9月)
火曜日 ISM製造業景気指数(9月、予想47.7、前月47.2) 雇用動態調査(8月、JOLTS求人件数、予想7,640千件、前月7,673千件)
水曜日 ADP雇用報告(9月、雇用者数前月比、予想+120千人、前月+99千人)
木曜日 週次失業保険申請件数 ISM非製造業景気指数(9月、予想51.5、前月51.5) 製造業新規受注(8月、前月比、予想+0.1%、前月+5.0%)
金曜日 雇用統計(9月、非農業部門雇用者数前月比、予想+130千人、前月+142千人、失業率、予想4.2%で前月と変わらず、平均時給、前年同月比、予想+3.7%、前月+3.8%)
2.日銀短観、日銀決定会合主な意見
10月1日火曜日に日銀短観が発表される。大企業の業況判断DIは現状判断が製造業、非製造業、ともにわずかに悪化すると予想されている(製造業、予想12、前回13、非製造業、予想32、前回33)。
先行き判断は製造業がやや悪化、非製造業はやや改善の予想。
日銀の景気物価見通し、景気は底固く推移するとの見方を支えるか。また想定為替レートが足元で急速に進んだ円高を受けてどのように変化しているか、併せて収益見通しにどの程度影響がみられるか注目される。
同日に日銀は9月の金融政策決定会合の主な意見を公表する。追加利上げが基本路線ながら、足元でやや慎重に急がないスタンスも垣間見られる。今後の緩和解除にどのような議論がなされたか。足元で進む円高の背中を押す材料になるか。
3.中国のPMI景況感指数
月曜日に中国のPMI景況感指数(9月、製造業、予想49.4、前月49.1、非製造業、予想50.4、前月50.3)、民間調査の財新PMI景況感指数(同、製造業、予想50.5、前月50.4、非製造業、予想51.6、前月51.6)が発表される。
このところ中国人民銀行の金融緩和実施などで中国景気の底入れ期待が高まっているが、市場の楽観を支える材料となるか。
ほかFRBパウエル議長ほか理事や地区連銀総裁の発言、ECBもラガルド総裁ほか各国中銀総裁の発言機会がある。追加利下げに向けたスタンスがどうか。
◆今週のMRA's Eye
自民党総裁選を終えて
自民党総裁選は石破新総裁で決着した。金曜日の市場は乱高下。第1回投票で高市氏が首位となると円安株高に反応したが、決選投票で逆転となり急激に円高に振れた。日経平均は引け後の海外先物市場で急落。金曜日の東証引け値から2,400円程度の大幅安。
アベノミクスか反アベノミクスか。とくに海外勢は物事を相場を、二極化して考えがち。
高市氏ならアベノミクス復活、財政拡大と金融緩和継続、株高円安、とのシナリオを張った。
高市氏はとくに日銀の金融政策に関して、今の時点で利上げするのはアホや、とまで言い切っていた。日銀が追加利上げしにくくなる、との見方で円売りに傾いたのは当然だろう。
とくにシカゴ通貨先物のポジションが円買い越し幅を次第に増しているなか、短期的なリスクは円売り戻し、円安方向となっていた。総裁選イベントで、事前から円売り戻し、円安傾向となり、さらに高市氏優勢との報で円安に振れたのは当然だ。
しかし結果は石破氏が新総裁に。アベノミクスと反対サイドにみられていただけに市場は急反転。円高株安に大きく振れた。円相場については、再びの円安期待が剥落してもとに戻っただけといえる。
高市氏が日銀の緩和解除にあからさまな反対意見を表明していたのに対し、石破新総裁は日銀の判断に委ねる姿勢を示してきた。
さらなる緩和解除、追加利上げは日銀の判断次第に。利上げができないのでは、という思惑が払拭され、年内に追加利上げの可能性が復活したに留まる。
元来の円高基調への回帰。ここからはFRBの利下げペースの遅速と日銀の緩慢な利上げにより、ドル安円高トレンドのペースが左右されるにとどまる。
金融政策は元来政治の埒外であり、今回の総裁選はそもそも中立要因だ。なお地方や中小企業を重視するスタンスからは、円安よりも円高が好ましいと考えていることは推察される。この点は円安志向のアベノミクスとはやはり反対の立ち位置となる。
一方、株式市場にとっては経済政策や税制が相場を左右する。政治政策はもっぱら国内要因であり、ミクロの問題から株価に影響する。
株価急落を石破ショックと表現する向きもあるが、緊縮財政の方針を打ち出したわけではない。可能性として金融所得税制の見直し、増税を懸念する向きがあるが、実際にそうした方向に動くかは不透明だ。
総裁決定後の株価の反応は短期的に行き過ぎ、あるいはこちらも前日までの上昇がやり過ぎで、それが元に戻っただけとみれば、ショックという表現は当たらない。浮かれた市場に冷や水が浴びせられ目が覚めた程度だろう。
政策全体は、アベノミクスの修正継続、分配の見直しを重視、という点ではこれまでの岸田路線の継承ということで大きな経済政策変更とはいえない。
さらに、地方重視や勤労者所得配分重視、物価対策重視で円高容認、との路線が色濃くなる可能性はある。
となれば、大企業製造業には逆風の可能性があり株式市場、日経平均が感情的にネガティブな反応をするのは想定内。ただ、株価が上昇するか、と、日本経済全体が良い方向に向かうか、別問題。日経平均が上昇するのが良い政策とは限らない。
短期的な株価動向よりも、中長期的な日本経済の足腰を強くする政策が実施されていくのか、が今後の注目点だ。
円相場は当面は日米の金融政策動向が大きな変動要因となる。一方、新総裁のもとでの政策については、中長期的な円相場の水準を左右する要因として、足元で懸念される構造的な円安要因を緩和できるかに注目したい。
ベースラインの為替需給においては、貿易収支においては、あらたに輸出を増強する施策がとられるか。
ハードとしての半導体関連輸出やソフトとしてのAIやデジタルサービスでデジタル赤字の縮小がなるか。
輸入においては、エネルギー安全保障への取り組み強化、化石燃料輸入の削減により貿易収支の改善がなるか。インバウンドによるサービス黒字増強がなるか。国内とくに地方の観光受け入れ態勢の整備によりオーバーツーリズムの問題を解消しながら黒字増強が可能か。
こうした問題は一朝一夕では成果はみられないものの、今後3年~5年程度で対応すれば、日本の貿易サービス収支は構造的に改善し、構造的な円安要因が減少する可能性もある。
世界経済の状況はコロナ禍、リオープン、AI、資源獲得競争、などによって基礎的な環境が大きく変化、長期的な変化の方向性もみえる。
グローバルデフレのもと、日本のデフレ脱却を主眼としたアベノミクスという政府と日銀による壮大な実験が終わりを迎えたのは首肯できる。
異なる政策ミックスが必要な局面になったことは確かで、新政権がどのように実現していくか。金融政策格差の変化により循環的な円高局面に入っていることは不変。
財政拡大による財政悪化懸念や日銀に対する緩和圧力による円安リスクが軽減されたのは確か。その先の着地点、どこまで円安の修正が進むか、今後の政策動向、経済状況、対外収支の変化など、中長期的にみていく必要がある。
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