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大幅利下げの解釈~楽観強まるも今後の指標次第
  • MRA外国為替レポート

2024年9月23日号

◆先週の市場総括


先週は日米で金融政策決定会合が開催され、結果を受けて円相場は大きく上下した。FOMCでは利下げ幅見通しが0.25%、0.50%で二分していたなか0.50%の大幅利下げが決定された。

直後はドル安円高に反応したが、今後の利下げ幅見通しが市場の見方よりも小幅だったこと、パウエル議長が米景気の底固さを強調し、景気を維持するためのいわば予防的利下げに踏み切ったと発言。米国景気のソフトランディング期待が強まった。

米長期金利の低下は一服。株価は上昇。ドル円相場は週初に一時139円台をつけていたが144円近くへ上昇した。さらに週末に日銀金融政策決定会合が開催され政策金利は予想通り据え置きだったが、植田総裁の会見で追加利上げを急がない姿勢と受け止められたことで円安に振れた。

欧米市場では144円中心の値動きとなり引けは143円90銭。ユーロ円相場も週初に155円台をつけていたが週末は161円台に乗せ引けは160円70銭。米国景気への楽観から株価は堅調。日経平均は、米国株堅調、円高一服、円安への揺り戻しも支えとなり37,700円台で取引を終えた。

月曜日の東京市場は休場。アジア時間の為替市場ではドル円相場は140円70銭で始まり140円台後半を中心に上下動。

ただFOMCで0.50%の大幅利下げ観測が強まった流れで上値重く、午後に入ると140円割れ。夕刻には139円60銭近辺まで下落した。その後はドル安円高は一服。

欧州市場では140円を挟んで上下。米国市場に入るとやや強めの経済指標やソフトランディング期待が支えとなって140円90銭に反発。60銭~90銭で上下して引けは140円60銭。

ユーロドル相場もユーロ高ドル安基調。1.1080で始まり1.1130に上昇して欧米市場では1.1120~30近辺でもみ合いそのまま引けた。

ユーロ円相場は156円ちょうどで始まりドル安円高に押されて155円40銭に下落、さらに夕刻は20銭割れ。その後は156円ちょうどに反発するなどユーロ高ドル安に支えられ、米国市場では156円台半ばでもみ合い引けた。

米長期金利は大幅利下げ観測が強まったことで低下。10年債は3.619%、2年債は3.557%。

米国株は大幅利下げ観測が強まったことでソフトランディング期待に支えられダウ銘柄が上昇。NYダウは前週末比+228ドル高の41,622ドル。ナスダックはアナリストがアップル社の業績見通しに慎重な見方を示したことでハイテク関連が軟調となり下落。▲91ドル安の17,592ドル。

発表されたNY連銀製造業景気指数(9月)は前月▲4.7から11.5へ大きく改善。新規受注、出荷、が大幅に改善した。

火曜日連休明けの東京市場では日経平均が下落。円高進行を嫌気し輸出関連銘柄中心に売られ朝方は一時前週末比▲750円安。半導体関連も軟調。ただひとまず円高がさらに進行しなかったことで押し目買いも入り、引けは前週末比▲318円安の36,203円。

ドル円相場は140円60銭で始まり朝方141円20銭に反発。その後は反落し欧州市場を通じて140円30銭~80銭で上下動横ばい。米国市場に入ると強めの経済指標を受けて141円80銭に上昇。その後もFOMCの結果を前にポジション調整の円売り戻しが続き引けは142円40銭。

ユーロ円相場も同様。東京市場では156円60銭で始まり朝方一時157円台に乗せたがその後反落して156円台前半で推移。夕刻から欧州市場にかけては156円50銭を中心に上下した。米国市場に入ると157円80銭に上昇して157円台後半で上下。さらに引けにかけて158円30銭近辺に上昇した。

ユーロドル相場は1.1130で始まりもみ合い小動き。欧米市場でも小動き、引けは1.1110近辺。米長期金利は強めの経済指標を受けて上昇。10年債は3.648%、2年債は3.607%。

発表された米国の小売売上高(8月)は前月比+0.1% と前月+1.0%から減速したものの予想▲0.2%を上回った。

鉱工業生産(同)は+0.8%と前月▲0.9%からプラスに転じ予想+0.1%を上回った。設備稼働率は前月77.8%から78.0%へ上昇。

米国株はまちまち。小売売上高が強めだったことで個人消費が底固いとの見方が強まった。寄付きから上昇。ただ内容をつぶさにみるとまちまち。FOMC待ちで様子見となり上値は重かった。NYダウは前日比▲15ドル安の41,606ドル。ナスダックは+35ドル高の17,628ドル。

水曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに反発。円高一服、円安への揺り戻しが支えとなり朝方は前日比+470円高。その後は円安が一服し上値が重くなった。FOMCの結果を前に取り組みにくく引けは+176円高の36,380円と伸び悩み。

ドル円相場は142円40銭で始まり軟調。午後は141円30銭を中心に上下した。夕刻から欧州市場にかけて142円ちょうどに戻したが米国市場では141円台後半で上下してFOMCの結果待ち。

市場では0.25%と0.50%に利下げ幅の予想は二分していたが結果は0.50%の大幅利下げ。ただ同時に公表されたメンバー予測では、年内の追加利下げ幅中央値は0.50%。0.25%との見方も相応に多かった。

来年は1.00%、再来年は0.50%の利下げで中立水準である2.9%まで達するとの予想。

発表直後はドル安円高に振れて140円40銭台まで急落。しかしすぐに反発して142円70銭台に急反発した。引けにかけては押して142円ちょうど近辺。

ユーロ円相場は158円30銭で始まり157円ちょうど近辺まで下落。その後欧州市場にかけては持ち直し157円60銭~158円ちょうどで上下した。FOMCを受けて157円10銭に下落したがすぐに反発し158円台を回復し引けは157円90銭近辺。

ユーロドル相場は1.1110で始まり1.1120~40で小動きもみ合い横ばい。FOMCの結果を受けて1.1190へ上昇、1.11ちょうどへ反落と高下したが引けは1.1120と東京市場とほぼ変わらず。

米国株は下落。利下げを好感したものの大幅利下げは織り込み済みで利益確定売りが上値を抑えた。NYダウは発表直後▲370ドル超下落したが持ち直し引けは▲103ドル安の41,503ドル。ソフトランディング期待は支えとなった。ナスダックは▲54ドル安の17,573ドル。

米長期金利は高下したあと前日比はやや上昇。10年債は3.713%、2年債は3.628%。

木曜日の東京市場では日経平均が大幅高。37,000円の大台を回復した。米国経済のソフトランディング期待が強まったこと、ドル高円安が進み143円台で推移したことを背景に、輸出関連主導、先物中心に全面高となった。

午前に一時+1,000円超上昇。引けは+775円高の37,155円。

円相場は大きく高下し流れとしては円安に振れた。ドル円相場は142円ちょうど近辺で始まり午前中に144円手前まで上昇。ただ午後から夕刻にかけては反落して142円ちょうど近辺へ。欧州市場では反発して143円を挟んで142円80銭~143円20銭で上下した。

米国市場に入ると強めの雇用指標を受けて143円80銭近辺に急上昇。ただすぐに急落して引けにかけては軟調。142円60銭近辺で取引を終えた。

発表された週次の失業保険新規申請件数は前週の230千件から219千件に減少して雇用が底固いとの見方を支えた。

フィラデルフィア連銀製造業景気指数(9月)は前月▲7.0から1.7へ改善。

米長期金利はまちまち。10年債利回りは3.718%へ小幅上昇。2年債利回りはやや低下して3.585%。

ユーロ円相場はドル円相場と同様の値動き。157円90銭近辺で始まり159円40銭へ上昇してもみ合い。夕刻にかけては158円40銭近辺へ反落した。欧州市場では反発し160円手前まで上昇。その後は上下して158円90銭に下落、159円60銭に反発、と上下して引けは159円20銭。

ユーロドル相場は1.1120で始まり1.1070に下落したあと夕刻には1.1180へ上昇。欧米市場では1.11台前半~後半で上下して引けは1.1160。

米国株は大幅高。大幅利下げ実施を受け、また強めの経済指標から景気への安心感であらためて買われた。NYダウは一時+650ドル高となり引けは+522ドル高の42,025ドル。初の42,000ドル台での引けとなった。ナスダックは+440ドル高の18,013ドル。

金曜日の東京市場では日経平均が続伸。前日の米国株大幅高、米景気への楽観を受けて一時+800円超上昇。引けにかけては上げ幅を縮めて+568円高の37,723円。

ドル円相場は142円60銭で始まり90銭台に上昇したあと142円ちょうど近辺へ反落して142円台前半で上下。日銀金融政策決定会合では予想通り政策金利は据え置き。その後の植田総裁会見を受けて円安が進んだ。総裁は、円安の修正により物価への上昇圧力が緩和、政策判断の時間的余裕がある、と述べた。

基本的に利上げ継続ではあるが利上げをさほど急がない姿勢と受け止められ円売りが活発化した。

ドル円相場は欧州市場にかけて144円40銭まで2円ほど大きく上昇。その後143円50銭に反落すると143円台半ば~144円台半ばで大きく高下し引けは143円90銭近辺。

ユーロ円相場も同様の値動き。159円20銭で始まり50銭に上昇したあと反落して158円台後半~159円で上下動。午後には158円40銭に下落していたが、植田総裁会見を受けて161円20銭まで大幅にユーロ高円安が進んだ。

その後米国市場では160円20銭に反落し160円台後半で上下しながら値幅を縮めて引けは160円70銭。

ユーロドル相場は総じて小動き。1.1160で始まりもみ合い小動き横ばい。欧州市場では1.11台後半、米国市場では1.11台半ばで小動きとなり引けは1.1160。米長期金利は小幅上昇。

10年債は3.741%、2年債は3.597%。

米国株は小動きまちまち。利下げ期待、ソフトランディング期待が支えとなったが、NYダウは最高値圏で利益確定売りや週末の持ち高調整で上値が重かった。引けは+38ドル高の42,063ドル。ナスダックは▲65ドル安の17,948ドル。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

米国景気への楽観が強まっているが指標がそれを支えるか。

火曜日 消費者信頼感指数(9月、予想103.5、前月103.3) リッチモンド連銀製造業指数(9月、前月▲19)

水曜日 新築住宅販売(8月、季節調整済み年率換算、予想696千戸、前月739千戸)

木曜日 GDP(4-6月期確報) 耐久財受注(8月、前月比、除く輸送機器、予想+0.1%、前月+▲0.2%) 週次の失業保険申請件数

金曜日 個人所得・消費支出(8月、前月比、予想+0.4%・+0.3%、前月+0.3%・+0.5%) 消費支出価格指数(PCEデフレーター、前年同月比、予想+2.3%、前月+2.5%、コア、予想+2.7%、前月+2.6%) ミシガン大学消費者態度指数(9月確報、予想69.3、速報69.0)

2.PMI景況感指数

月曜日にPMI景況感指数(9月速報)が発表される。ユーロ圏は製造業が予想45.6、前月45.8、サービス業が予想52.1、前月52.9、といずれも悪化が予想されている。一方米国は、製造業が予想48.5、前月47.9と改善予想。サービス業が予想55.3、前月55.7と悪化予想となっている。

全体としてソフトランディング期待を維持できるか。あるいは欧米間格差がユーロドル相場、ドルインデックスに上下いずれの影響をもたらすか。

3.日銀金融政策決定会合議事要旨(7月末開催分)

木曜日に日銀金融政策決定会合(7月30日・31日開催分)の議事要旨が公表される。同会合では、0.25%の利上げとともに国債購入減額が決定された。

その後の植田総裁や他の委員の発言を総合すると、追加利上げが既定路線、ただし市場混乱時は様子見、と受け止められる。先週の会合後の会見ではやや利上げに慎重姿勢とも解釈されたが、緩和解除継続の強い姿勢が確認されるか。

ほか、木曜日にはパウエル議長、ラガルド総裁、それぞれ発言の機会がある。

◆今週のMRA's Eye


大幅利下げの解釈~楽観強まるも今後の指標次第

先週のFOMCでは市場の利下げ予想が0.25%と0.50%でほぼ二分されるなか、0.50%の大幅利下げが実施された。その理由は、インフレが想定通り目標に向かって鈍化傾向にあること、労働市場が緩和傾向にありさらなる雇用悪化は望ましくないこと、が挙げられた。

パウエル議長は足元の経済は堅調でありそれを維持すべく大幅な利下げを実施したと述べた。景気への楽観を維持するなかでの大幅利下げ実施となったことで真意を測りかねる面もある。

ビハインド・ザ・カーブ、つまり政策変更・利下げの遅れを懸念した慌てた大幅利下げか。景気の悪化を未然に防ぐための先手を打った予防的大幅利下げか。当局としては、決して政策の遅れを理由とすることはない。政策対応はうまくいっているとしか表明しないものではある。

今回は雇用が想定よりも速いペースで悪化していることから、積極的な利下げ実施でのちのち雇用悪化を責められるリスクを回避するのが主眼とみられる。

ビハインド・ザ・カーブなのか、予防的緩和なのか、どちらかは今後の景気動向次第。金融緩和の効果はすぐには顕在化しない。政策効果が浸透するまでタイムラグがある。

また0.50%で効果があるか。インフレ率を差し引いた実質政策金利はなお2%以上。景気に対して引き締め的な水準にある。

年内になお0.50%の追加利下げが想定されているが、年内は景気悪化基調が続く可能性がある。市場はとりあえず大幅利下げを好感し、今後の景気悪化が鈍ってソフトランディングすると想定し始めた。

問題はこの先の市場の楽観通り景気底打ちが明確となるか、なお悪化に歯止めがかからないとの見方が強まることはないか。底打ちするとしても、それが指標で明確となるまで当面悪化が続くリスクがあり、あらためてビハインド・ザ・カーブが意識されて市場心理が悪化するリスクはある。

経済指標とくに雇用関連指標、消費関連指標の悪化が続き、企業の景況感が低迷すれば金融緩和が後手に回ったと解釈されればリスクオフに。大幅利下げが継続するとの見方が強まり長期金利は低下。景気懸念や企業業績不透明感から株価は軟調に。金利低下と株安が併存。為替市場では顕著なドル安となる可能性がある。

欧州でも景気懸念が強まれば、再び円全面高となりそうだ。

日銀は追加利上げ継続スタンスを崩していない。金利水準は現状で0.25%。インフレ率は2%台。インフレ率を差し引いた実質政策金利はなお1.5%以上マイナス。十分に景気刺激的で想定される追加利上げを踏まえても、実質マイナス金利は変わらないとみられる。

円のバリュエーションがなお割安であることを踏まえて、円買いが継続する可能性がある。

一方、強めの経済指標が続くようならソフトランディング期待が裏付けられてリスクオンとなる。利下げ継続で短期金利は低下、将来の景気回復を踏まえて長期金利とくに期間の長い金利は下げ渋り、イールドカーブは順イールドの度合いを強めるとみられる。

ドル短期金利低下、長期金利の下げ渋りと株高の併存。この場合、日銀が安心して追加利上げに踏み切れる環境が整う。結果、為替市場では緩慢なドル安円高が想定される。

大幅利下げとドル高円安。足元では米国景気への楽観が勝り、ドル売り円買いの手仕舞いがドル円相場を押し上げた。ただそこまで楽観できるかは不透明。これまでのインフレと雇用不安の強まりで消費者の財布の紐が固くなっているともされる。

早くもクリスマス商戦の苦戦を予想する小売企業も散見される。このまま米景気が再加速しドル高円安が進むとみるのはかなり楽観的に過ぎる見方と思われる。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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