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米景気悪化懸念再燃~リスク回避と円全面高
  • MRA外国為替レポート

2024年9月9日号

◆先週の市場総括


先週の為替市場ではドル安というよりも円全面高。ドル円相場は前週末の146円台前半から142円台前半へ、ユーロ円相場は161円台半ばから157円台後半へ。いずれも4円ほど円高が進んだ。

前週に米景気悪化懸念が弱まっていたが、先週は経済指標が雇用悪化を示し一転して景気悪化懸念が強まった。利下げが大幅になるとの見方が強まって米長期金利は低下。

米国株は金利低下よりもその背景である景気悪化懸念が主導して下落。市場ではリスク回避が強まった。VIX指数(別名恐怖指数)は前週末の15.00から先週末には22.38へ上昇。市場心理安定を示す20以下から上昇した。

日経平均は米景気懸念、米国株安、ドル安円高、で大きく下落した。前週末は38,600円台で引けていたが、先週末は36,300円台で引け。その後の海外市場の日経平均先物は35,000円台前半まで急落。週明けの東京市場での混乱、リスク回避の一段の強まりを暗示している。

月曜日の東京市場では日経平均が小幅高。前週末の米国株NYダウの堅調、円安、が支えとなった。一時+400円超上昇。ただ39,000円超では利益確定売りが上値を抑えた。重要指標の発表を前に積極的な売買は手控えられた。引けは前週末比+53円高の38,700円。

ドル円相場は146円10銭で始まり朝方60銭に上昇したあと145円80銭に下落。ただその後、午後から欧州市場にかけて146円80銭まで上昇。さらに147円中心に146円90銭~147円10銭で上下して引けは146円90銭。

ユーロ円相場は161円40銭で始まり90銭に上昇したあと161円ちょうどに反落。その後反転上昇して欧州市場にかけて162円60銭へ、さらに90銭まで上昇した。引けは162円60銭。

ユーロドル相場は1.1050近辺で小動き横ばいのあと、欧州市場では1.1080に上昇し60~80でもみ合い横ばい。引けは1.1070。

欧州の製造業PMI景気指数(8月確報)はユーロ圏が速報45.6から45.8へ、ドイツが42.1から42.4へやや上方修正された。米国市場はレーバーデーの祝日で休場。

火曜日の東京市場では日経平均が小幅反落。半導体関連中心に下落。引き続き39,000円台での戻り売り、上値の重さを確認した。重要指標発表前で手控え。引けは▲14円安の38,686円。

為替市場では円高が進んだ。要因は定かではないが、植田総裁が追加利上げ継続姿勢を示したこと、米経済指標への警戒感が円買い直しを促したか。

ドル円相場は146円90銭で始まり朝方70銭に下落したあと147円20銭に上昇。しかしその後夕方から欧州市場にかけて一貫して円高。145円60銭まで下落した。

米国市場朝方にかけては146円20銭に反発したが、弱い米経済指標を受けて145円20銭に下落した。その後は反発して145円70銭~90銭で上下したが引けにかけて軟調。145円50銭近辺で取引を終えた。

ユーロ円相場も同様に円高が進んだ。162円60銭で始まり80銭に上昇したあとは反落して一貫して下落基調。

夕刻には160円90銭まで下落した。その後一時161円40銭に反発したが160円50銭に反落。160円台後半で上下して引けは160円60銭台。

ユーロドル相場は1.1070で始まり小動き横ばい欧州市場朝方には1.1040近辺に下落した。弱い米経済指標で1.1070へ反発したが上値重く1.1040近辺で小動きもみ合い引け。

発表された米国の製造業PMI(8月改定値)は速報48.0からやや下方修正され47.9。

注目のISM製造業景気指数(8月)は前月46.8から47.5への改善予想より弱めの47.2。50割れは5ヵ月連続。雇用指数は43.4から46.0へ上昇したが、新規受注指数は47.4から44.6へ悪化した。

米国株は大幅安。弱い経済指標を受けて景気悪化懸念が強まった。NYダウはこのところ史上最高値を更新する展開が続いていたことで高値警戒感が利益確定売りを強めた。

ハイテク株も軒並み下落。エヌビディア社の株価が9%を超える大幅安で市場心理を悪化させた。NYダウは前日比▲626ドル安の40,936ドル、ナスダックは▲577ドル安の17,136ドルと大幅安で引け。VIX指数は上昇して20.72ポイント。

米長期金利はリスク回避で債券が買われて低下。10年債は3.832%、2年債は3.865%。

水曜日の東京市場では日経平均が急落。大幅安。前日の米国株が景気不安から大きく下落し、エヌビディア株が大きく下落したことから市場心理が悪化。米ハイテク株の大幅安で半導体関連が、円高で輸出関連株が、全体の下げを主導した。引けは前日比▲1,638円安の37,047円。

ドル円相場は145円50銭で始まり145円台前半で上下。上値重く一時144円90銭に下落する局面もあった。夕刻にかけては144円70銭台まで下落。欧州市場から米国市場朝方にかけては145円20銭台に上昇。144円90銭~145円20銭で推移した。

米国市場朝方に発表された雇用関連指標が弱く米長期金利の低下とともに144円ちょうど近辺に下落。さらに引けにかけて143円60銭台まで下落して引けた。

ユーロ円相場も東京市場では方向感なく推移。160円60銭台で始まり80銭、10銭と上下したあと60銭~80銭でもみ合い。ただ夕刻から欧州市場にかけては160円ちょうど近辺まで下落した。一時下げ止まったものの米国市場に入るとさらに下落して159円20銭まで下落して引けた。

ユーロドル相場は1.1040で始まり小動きもみ合い夕刻は1.1050~60。弱い米労働市場指数を受けて1.1080に上昇しそのままもみ合い引けた。

米国の雇用動態調査(7月、JOLTS求人数)が前月8,184千人から7,673千人に減少し3年半ぶりの低水準となった。

公表された米地区連銀経済報告(ベージュブック)では、経済活動が横ばいから縮小とした地区連銀が前回調査の5地区から9地区に増加した。個人消費はほとんどの地区で減少。雇用は横ばい。需要減や先行き不透明感で雇用に慎重に傾く企業が増えた、と報告された。

米10年債利回りは3.757%へ、2年債は3.760%へ低下。

米国株はまちまち。ハイテク株や景気敏感株の一角に利益確定売りが続いた。一方、大幅安のあとで自律反発狙いの買いが支え。ただ重要指標の発表を週末まで控えて様子見姿勢も強かった。

NYダウは前日比+38ドル高の40,974ドル、ナスダックは▲52ドル安の17,804ドルで引けた。VIX指数は21.32ポイントに上昇。原油価格WTI先物は景気悪化が意識され69.20ドルに下落した。

木曜日の東京市場では日経平均が続落。円高進行で輸出関連に売り。米ハイテク株安で半導体関連の一角が下落。下げ幅は一時▲700円に達した。米景気悪化への警戒感も重石となった。引けは下げ幅を縮めて▲390円安の36,657円。

為替市場では円が堅調。日銀の高田委員が追加利上げを踏まえても金融は緩和的と述べたことも材料に。

ドル円相場は143円60銭台で始まり朝方20銭に下落したあと反発して80銭近辺でもみ合い。しかし午後東証引け後にかけて143円ちょうど目前まで下落した。

米国市場朝方にかけては143円70銭近辺で推移したが、弱い雇用指標で143円90銭割れに急落。

その後強めのISM非製造業指数を受けて144円20銭に急反発、と乱高下。ただ雇用悪化への警戒感が勝り143円20銭近辺に反落して引けは143円40銭。

ユーロ円相場は159円20銭で始まり158円70銭に下落したあと159円を挟んで158円60銭割れ~159円40銭台で上下。米国の経済指標に連れたドル円相場の上下に応じて159円を挟んで大きく上下したあと引けは159円30銭と東京市場の朝方と変わらない水準で引け。

ユーロドル相場は1.1080でもみ合い小動き。米国市場で1.1120に上昇したあと1.1090に反落するなど小幅ながら上下して引けは1.1110。

米国の経済指標は雇用全般の弱さを示す結果となった。チャレンジャー人員削減数(8月)は前月から大きく増加。

注目のADP雇用報告(8月)は雇用者数前月比が前月の+122千人から+99千人に減少し2021年来の低水準。

一方、サービス業PMI(8月改定値)は速報55.2から55.7へ上方修正された。

ISM非製造業景気指数(8月)も前月55.2から55.7へ改善。しかし雇用指数は51.1から50.2へ悪化した。

米長期金利は低下。10年債は3.725%、2年債は3.739%。

米国株はまちまち。雇用関連指標が弱く雇用統計への警戒感からNYダウは一時450ドル安。一方、9月の利下げが0.50%になるとの期待が強まったことは下支え。NYダウは▲219ドル安の40,755ドルで引け。ナスダックは+43ドル高の17,127ドル。

金曜日の東京市場では日経平均が続落。米国の雇用統計への警戒感、円高進行を嫌気して輸出関連株が軟調、売りが優勢となり前日比▲265円安の36,391円。

為替市場では円高が進んだ。ドル円相場は143円40銭で始まり一貫して下落基調。東証引け後16時頃には142円ちょうど近辺まで下落した。

欧州市場から米国市場朝方にかけては反発し143円20銭近辺で米国の雇用統計(8月)の発表待ち。結果は、非農業部門雇用者数前月比が+142千人と予想+160千人を下回り、また前月分が+114千人から+89千人に下方修正される弱い結果。

ただ失業率は4.3%から4.2%へ改善。平均時給前月比は+0.2%から+0.4%へ伸びが加速した。

強弱まちまちながら雇用者数増加ペースは鈍化。発表直後にドル相場は乱高下を繰り返した。144円ちょうどに上昇したあと142円ちょうどへ急落。その後も143円90銭へ反発したあと141円80銭へ下落。その後142円70銭に反発したあと142円台前半でもみ合い引けは142円30銭。

ユーロ円相場は159円30銭で始まり東京市場夕方に158円割れへ下落。その後159円台に戻して雇用統計待ち。ドル円相場の乱高下に連れて高下しつつ157円50銭に下落。その後は157円台後半で上下して引けは157円80銭。

ユーロドル相場は1.1100で始まり小動き、米国市場朝方は1.1100近辺。雇用統計で1.1150に上昇、1.1080へ反落、と高下したあとは1.11台での上値が重く1.1080近辺でもみ合い引けた。

米長期金利は低下。10年債利回りは3.75%へ上昇、3.64%へ低下、と高下して3.716%。2年債は3.654%。

米国株は大幅安。NYダウは一時+250ドル高となったが午後には急反落して引けは▲410ドル安の40,345ドル。ナスダックは▲436ドル安の16,690ドル。VIX指数は22.38ポイントに上昇した。

NY連銀総裁は、目標に対するリスクに応じて時間の経過とともに一段と中立的な水準に移行していく可能性がある、現在は利下げが適切になっている、9月の利下げは0.25%か0.50%か見解はない、と述べた。

FRBウォラー理事は、労働市場にはさらなる軟化のリスクがある、現在入手可能な一連のデータはもはや辛抱強さを求めず行動を必要とする、9月利下げ開始は重要、大幅利下げの可能性にはオープン、と述べた。

◆今週の3つの注目ポイント


週明けの株式市場の動向、市場の混乱、リスク回避が強まるか、留意を要する。

1.米国の経済指標

目下の注目は景気悪化の程度に関心が移っているが、インフレ鈍化をあらためて確認するかも注目。

水曜日 消費者物価指数(CPI、8月、前年同月比、予想+2.6%、前月+2.9%、コア、予想+3.2%で前月と変わらず)

木曜日 生産者物価指数(PPI、同、予想+1.8%、前月+2.2%、コア、前月+2.4%)

木曜日 週次の失業保険申請件数

金曜日 ミシガン大学消費者態度指数(9月速報、予想68.0、前月67.9) 期待インフレ率(1年、前月2.8%、5年、同3.0%)が発表される。

2.ECB理事会、ラガルド総裁会見

このところ米国景気の動向、利下げ幅に市場の関心が集中してきたが、欧州の動向も要注意。ユーロ安円高がさらなる円全面高につながるリスクがないか。

木曜日にECB理事会が開催され、結果公表後、ラガルド総裁が定例会見を行う。今会合では0.25%の利下げが予想されている。利下げは織り込み済みとして、景気物価動向はどのような認識か。景気悪化リスクを意識する判断が示され、追加利下げがあらためて意識されるか。

3.日本の経済指標

市場の混乱、株安や円高の影響は、なお景気動向に顕在化するタイミングではないが、足元のファンダメンタルズは日銀の追加利上げ方針の維持姿勢を裏付けるか。

月曜日 GDP(4-6月期改定値、前期比、速報+0.8%、前期比年率、+3.2%) 国際収支(7月、経常収支、予想、黒字2兆5,900億円、前月、1兆5,300億円) 景気ウォッチャー調査(8月、前月47.5)

木曜日 企業物価指数(8月、前月比、予想0.0%、前月+0.3%、前年同月比、予想+2.8%、前月+3.0%)

◆今週のMRA's Eye


米景気悪化懸念再燃~リスク回避と円全面高

先週は一転して米国景気悪化懸念が強まった。雇用関連指標に軒並み弱い数字が散見されたことが市場心理を悪化させた。9月のFOMCでは0.25%利下げとの見方がなお過半だが0.50%との見方は増えた。

年内トータルでみると合計1%以上の利下げを織り込み、さらに1.25%との見方もわずかながら増えた。

景気悪化見通しと同時に金利先安感が強まり米長期金利は低下。先々の政策金利動向を反映する2年債利回りは3.65%とこの間の最低水準を更新している。

米国株は下落。金利低下を好感することはできず、その背景にある景気悪化懸念に反応。結果、株安、金利低下、という典型的なリスク回避を示した。

VIX指数、いわゆる恐怖指数は、20を下回った状況では市場の安心感を示すといわれる。前週末にかけては16ポイント台まで低下していた。しかし先週は概ね20ポイントを超えた水準で推移した。

為替市場ではドル安円高が進んだ。

ドル円相場は前週末の146円20銭から一時は147円台に乗せたものの週末には一時141円台に下落するなど大きく下落し引けは142円30銭。

ただユーロ円相場も大きく下落した。前週末の161円50銭から週初には163円近くまで上昇する場面もあったが、その後は軟調となり週末にかけて大きく下落して157円80銭で引けた。

ユーロドル相場は1.10台後半でほぼ横ばい圏で推移。ややユーロ安ドル高気味。ドルインデックスは101台で大きく変化はなく、ドル安というより円全面高となった。米金利低下によるドル安円高というより、リスク回避による円高ともいえそうだ。

ただ、リスク回避で円高が急速に進む典型的な局面とは異なる面もある。

通常のリスク回避局面では、それまでに積み上がった円売りポジションが急速に解消、円が買い戻されて円高になる。しかしシカゴ通貨先物のポジションをみると、このところは円買い越しが続き、次第にその買い越しが増加している。

シカゴ通貨先物が投機動向のすべてを示しているわけではないものの、円買い戻しではなく、リスク回避局面で積極的な円買いが円高をもたらしている可能性がある。

あるいはユーロのポジションが円以上に買い越し幅を増加させていたことも影響したか。ユーロドル相場がややユーロ安ドル高気味だったことから、ユーロ円相場におけるユーロ安円高主導で円全面高となったか。

内外金利差が全面的に縮小するなか、円キャリートレードが取組みにくくなったことは間違いない。リスク回避が強まるなか、バリュエーション重視の取引、割安通貨である円買いが活発化している可能性も考慮に入れたい。

今週は木曜日にECB理事会が開催される。今会合では0.25%の追加利下げが実施されるとの見方が市場の大勢。利下げが実施されても予想通りだが、金融政策の場合は経済指標と異なり予想通りでも材料出尽くしとはならない。

短期金利の低下は実際に生じて市場に効果が残る。

また政策判断の背景が欧州景気の悪化リスクであれば、金利先安感が継続する。欧米の景気悪化リスクを背景に、ドル金利先安感、ユーロ金利先安感、ともに強まるようなら、円金利先高感とともに、円全面高が継続する可能性があり留意を要する。


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