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盛り返す米国景気への楽観とリスク選好
  • MRA外国為替レポート

2024年9月2日号

◆先週の市場総括


先週は米国の経済指標でインフレの安定を示す傍ら個人消費を中心に景気動向の強さを示す数字が続き、利下げ期待とあいまって米国経済への楽観的な見方が広がった。

低下していた長期金利は上昇。ドルを押し上げた。ドル円相場は144円台前半で始まり週末は146円台前半。ドルインデックスは100ポイント台後半から101ポイント台後半へ上昇。ユーロ円相場は週初と週末でほぼ同水準。

米国株は堅調に推移し史上最高値を更新して引け。日経平均は米国株の堅調、円高一服に支えられ底固く、38,600円台で引けた。

月曜日の東京市場では日経平均が下落。ドル円相場が一時144円割れに下落し輸出関連株が売られた。前場は一時前週末比▲500円超下落。一方、円高によるコスト削減期待で内需関連株には買い。円高一服で38,000円近辺では底固く下げ幅を縮小し引けは▲254円安の38,110円。

ドル円相場は144円20銭で始まり前週末にかけてのドル安円高の流れのまま143円40銭台に下落。ただ午後にかけては持ち直して夕刻は144円20銭。欧州市場でも143円60銭に下落したが、米国市場にかけては144円を挟んで上下したあと144円60銭に上昇して引けた。

ユーロ円相場は161円40銭で始まり160円60銭台に下落したあとは夕刻にかけて持ち直し161円20銭台に反発。欧米市場では160円台後半で上下したあと161円台前半で推移して引けは161円30銭。

ユーロドル相場は1.1190で始まりじり安小動き。欧米市場でもやや軟調となり1.1150~60近辺で推移し引けた。

米国株はまちまち。利下げ期待で景気敏感株や消費関連株の一角が買われ、NYダウは一時+240ドル高となったが利益確定売りで上昇幅を縮小した。AI関連投資への期待はあるものの決算や見通しが期待に届かないリスクもありハイテク株は下落。NYダウは前週末比+65ドル高の41,240ドル、ナスダックは▲153ドル安の17,725ドル。

米長期金利は経済指標が強めだったことから低下一服、小幅上昇した。10年債は3.817%、2年債は3.938%。

ダラス連銀製造業活動指数(8月)は前月▲17.5から▲9.7へ改善。耐久財受注(7月)は前月比+9.9%と前月+6.6%から伸びが加速。ただ除く輸送機器では▲0.2%減。サンフランシスコ連銀総裁は、9月の利下げは0.25%の可能性が高い、と述べた。

火曜日の東京市場で日経平均は反発。円が軟調となり前日の反動で輸出関連株が買い戻された。ただ米ハイテク株が軟調だったことは重石。エヌビディア社の決算を翌日に控え様子見姿勢が強かった。引けは前日比+178円高の38,288円。

ドル円相場は144円50銭で始まり朝方20銭に下落したがすぐに反発して144円90銭台へその後は144円台後半で上下し夕刻には145円10銭台に続伸し145円近辺で推移。ただ欧米市場では反落して一貫して下落し引けは144円ちょうど近辺。

ユーロ円相場も同様の値動き。161円30銭で始まり朝方161円ちょうどに下落したあとすぐに反発して161円60銭~80銭で上下して夕刻には162円20銭近くまで上昇。ただ欧米市場では下落基調となり160円90銭へ下落。161円を挟んで上下して引けは161円ちょうど近辺。

ユーロドル相場は1.1160~70で小動きもみ合い。欧州市場でも1.1150近辺。米国市場では上昇して1.1190近辺で引け。

米国株は小幅高。NYダウは利下げ観測を支えに連日の高値更新。ただ高値警戒感、短期的過熱感から利益確定売りが上値を抑えた。エヌビディア社決算を前に様子見姿勢も強かった。NYダウは前日比+10ドル高の41,250ドル。ナスダックは+29ドル高の17,754ドル。

米長期金利は2年債利回りが低下し3.899%。公表された7月の公定歩合議事録でシカゴ連銀、NY連銀の2地区連銀が利下げを支持していたことが明らかになった。10年債利回りは小幅上昇して3.829%。

発表された消費者信頼感指数(8月)は103.3と前月100.3から改善。リッチモンド連銀製造業指数(8月)は前月▲17から▲19へ、ダラス連銀サービス業活動指数(8月)は前月▲0.1から▲7.7へ悪化した。

水曜日の東京市場では日経平均が小幅高。主力株の一部が買われたがエヌビディア決算を前に半導体関連株中心にした日本株への影響を読み切れず様子見姿勢が強かった。引けは前日比+83円高の38,371円。

ドル円相場は144円ちょうど近辺で始まり朝方143円70銭に下落したもののすぐに反発して昼から午後には144円30銭~60銭で上下。欧州市場から米国市場午前中にかけては144円ちょうどから145円ちょうどへ上昇。その後は144円台後半で上下して引けは144円50銭近辺。

ユーロ円相場は161円ちょうどで始まり160円70銭に下落したあと反発して161円20銭~40銭で推移。その後欧州市場では上下しながら160円50銭近辺まで下落した。米国市場では160円台後半で上下して引けは160円50銭。

ユーロドル相場は1.1180~90で始まり欧州市場では1.1130~60で推移。さらに米国市場では1.11ちょうど近辺に下落し引けは1.1120。ドルインデックスはぜんじつの100.58から101.08へ持ち直した。

米国株は下落。取引終了後のエヌビディア社決算を前にハイテク株中心に持ち高調整売り。NYダウは連日の最高値更新で高値警戒感が上値を抑制した。引けは前日比▲159ドル安の41,091ドル。ナスダックは▲198ドル安の17,556ドル。

米10年債利回りは小幅上昇し3.838%、2年債は低下して3.865%、とまちまちの動き。注目のエヌビディア社決算は日本時間木曜日の5時半頃発表された。売上・利益ともに前年比2倍を超え見通しも良好だったが、一部の強気見通しには届かず。過大評価されていたことで同社株は時間外に大幅安。

木曜日の東京市場では日経平均が小幅下落。エヌビディア株が時間外で大幅安となったことで半導体関連株下げを主導し一時前日比▲400円安。しかし売り一巡後、38,000円割れで押し目買いに支えられ下げ幅を縮小した。引けは▲9円安の38,362円。

ドル円相場は144円50銭で始まり朝方20銭台に下落したあと80銭へ反発。午後から欧州市場にかけては144円40銭~80銭で上下した。米国市場に入ると発表された経済指標が強く145円台に乗せ145円20銭~50銭で推移した。その後引けにかけては144円80銭に反落して引けは145円ちょうど近辺。

ユーロドル相場は1.1120で始まり30~40で小動き推移。欧州市場に入るとドイツのCPIが低下したことを受けてユーロ安。ユーロドル相場は1.1070台。その後一時1.11ちょうど近辺に戻したが上値重く、1.10台後半で上下して引けは1.1080。

ユーロ円相場は160円70銭で始まり朝方40銭台に下落したあと161円20銭台に反発。その後は161円を挟んで上下。

欧州市場に入るとドイツCPIを受けて160円ちょうど近辺に下落した。米国市場にかけては161円20銭へ上昇したが上値重く反落。160円台半ばで推移して引けは160円60銭。

ドイツCPI(8月)は前月比▲0.1%と前月比下落。前年同月比は前月2.3%から1.9%に低下して2.0%を下回った。予想は2.1%だった。

米国では指標は強め。GDP(4-6月期、改定値)は前期比年率が速報+2.8%から+3.0%へ上方修正された。個人消費が+2.3%から+2.9%へ上方修正され全体を押し上げた。週次の失業保険申請件数は新規申請が231千件とやや減少。米長期金利は上昇。10年債は3.863%、2年債は3.895%。

米国株はまちまち。予想外に上方修正されたGDPを受けてソフトファンディング期待が強まり、景気敏感株、消費関連株、資本財関連株が買われた。ダウは一時+480ドル高。

一方、ハイテク株はエヌビディア株の大幅安が重石となった。ただ株価評価の問題でありAI需要そのものは堅調との見方は支えとなった。NYダウは前日比+243ドル高の41,335ドルで史上最高値を更新、ナスダックは▲39ドル安の17,516ドルで引け。

金曜日の東京市場では日経平均が上昇。米国景気への楽観でNYダウが最高値を更新。市場心理が強気に傾いた。日本株も先高感から海外勢が先物に断続的に買い。上昇幅は一時+300円超。引けは+285円高の38,647円。

ドル円相場は145円ちょうどで始まり144円70銭に下落したあと反発し午後には145円10銭。さらに欧州市場で145円70銭台まで上昇して30銭~70銭で上下。米国市場に入ると強い経済指標を受けて一段高。146円20銭台に上昇して引け。

ユーロ円相場も堅調。160円60銭で始まり20銭に下落したあと欧州市場にかけて一貫して上昇し161円30銭。160円90銭~161円30銭で上下したあと米国市場では161円50銭に上昇して引け。

ユーロドル相場は1.1080で始まり小動きもみ合い、夕刻は1.1070台~90台。欧米市場ではユーロ安ドル高となり引けは1.1050。ドルインデックスは101.73ポイントへ上昇。

欧州で発表されたユーロ圏CPI(8月)は前年同月比+2.2%と前月+2.6%から大きく低下。コア指数は+2.9%から+2.8%へ低下した。米国の個人所得・消費支出(7月)は前月比+0.3%・+0.5%と概ね予想通りながら堅調な消費動向を示した。

個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は前年同月比+2.5%、コア指数は+2.6%と安定推移。

シカゴ購買部協会景気指数(8月)は前月45.3から44.5への悪化予想に反して46.1へ改善。ミシガン大学消費者態度指数(8月確報)は速報67.8から67.9へわずかながら上方修正。

米長期金利は上昇。10年債は3.905%、2年債は3.919%。

米国株は上昇。消費堅調、インフレ鈍化を示す経済指標を受けて、利下げ期待とあいまって楽観がさらに広がった。NYダウは前日比+228ドル高の41,563ドルと連日の最高値更新。ナスダックは+197ドル高の17,713ドルで引けた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

足元で景気後退懸念からソフトランディング期待へと楽観的な見方に傾いている。今週は重要指標の発表が続くが、その楽観を支えるか、あるいは景気懸念が再燃するか。

火曜日 ISM製造業景気指数(8月、予想47.8、前月46.8)

水曜日 製造業新規受注(7月、前月比、前月▲3.3%) 雇用動態調査(7月、JOLTS求人数、前月8,184千人) ADP雇用報告(8月、雇用者数前月比、予想+145千人、前月+122千人) 週次の失業保険申請件数 ISM非製造業景気指数(8月、予想50.9、前月51.4)

金曜日 雇用統計(8月、非農業部門雇用者数前月比、予想+155千人、前月+114千人、失業率、予想4.2%、前月4.3%、平均時給、前月比、予想+0.3%、前月+0.2%)

2.ベージュブック(地区連銀経済報告)

水曜日にベージュブックが公表される。9月のFOMCにおける景気物価判断の基礎となる各地区の経済状況について、定性的な判断がとりまとめられる。すでにFRBはインフレ警戒から景気悪化警戒へと舵切りしたことが明らかになっている。指標による数値では読み取れない実態面がどのようになっているか。景気悪化を懸念すべき状況か、あらためて確認されるか。

3.欧州の経済指標

このところFRBの利下げ開始あるいは利下げペースや回数が注目されてきた。そうしたなかECBが9月の理事会で追加利下げに踏み切るかもあらためて注目される。その判断の前提となる指標はどうか。

月曜日 PMI製造業景気指数(8月改定値、ユーロ圏、速報45.6、ドイツ、同42.1)

水曜日 同サービス業景気指数(同、ユーロ圏、速報53.2、ドイツ、速報51.4) ユーロ圏生産者物価指数(7月、前年同月比、前月▲3.2%)

木曜日 ドイツ製造業新規受注(7月、前年同月比、予想▲1.9%、前月▲11.8%)

金曜日 ドイツ鉱工業生産(7月、前年同月比、前月▲4.1%) ユーロ圏GDP(4-6月期確報、前期比、速報+0.3%、前年同期比、速報+0.6%)

ほか、中国では月曜日に財新製造業PMI(8月、前月49.8)、水曜日に同サービス業PMI(同、前月52.1)が発表される。

水曜日にはカナダ中銀が金融政策決定会合を開催し、政策金利を現行の4.50%から4.25%へ0.25%引き下げると予想されている。

◆今週のMRA's Eye


盛り返す米国景気への楽観とリスク選好

先週は米国の経済指標に強めの数字が続き、米国景気悪化懸念が緩和した。過去データながら4-6月期のGDP、とくに個人消費が上方修正されたことが市場心理に大きく影響したようだ。

実数値としては7月の個人所得が前月比+0.3%、消費支出は同+0.5%と個人消費の底固さを示した。センチメントとしては消費者信頼感指数(8月)が前月100.3から103.3へ改善。ミシガン大学消費者態度指数(8月確報)は前月の66.4から改善した速報67.8から、さらに67.9へわずかながら上方修正された。

一方でインフレ率は落ち着いている。個人消費支出価格指数(PCEデフレーター、7月)は前年同月比2.5%、コア指数でも2.6%。米国経済の太宗を占める個人消費が底固さを示す一方、インフレが落ち着いていることは、市場のソフトランディング期待を強めた。景気後退やスタグフレーションが回避されるとの市場の楽観を後押しした。

一方、FRB当局者からはハト派的なスタンスが確認された。7月の公定歩合操作会合でNY連銀とシカゴ連銀が利下げを主張していたことが明らかになった。7月のFOMC議事要旨で、幾人かが同会合で利下げを実施していた可能性もあった、と述べていたことが明らかになっていたことと整合的。

またシカゴ連銀総裁が、現状の金融政策は極めて景気抑制的で足元の経済状況に合致していない、ほぼすべての尺度で労働市場が冷え込んでいる、失業率の上昇やクレジットカード延滞率の上昇など経済の一部に黄色信号が灯っている、と述べていたことと整合的。

またNY連銀元総裁が遅すぎる利下げのリスクを主張していたこととも合致する。パウエル議長はジャクソンホール会議で、利下げのときが来た、と9月利下げを事実上明言。他の地区連銀総裁からも9月利下げを所与のものとして、利下げ幅は0.25%が適切との発言もみられる。

個人消費が底固く、インフレが鈍化、利下げが確実に実施される、との見方は、ソフトランディング期待を強めると同時に市場のリスク選好を強めている。

NYダウは史上最高値更新を続けている。低下してきた米長期金利はやや持ち直し。米株高と米長期金利上昇が併存する状態はドルを支える要因となる。

直近のシカゴ通貨先物の投機ポジションは、27日火曜日時点で円は259千枚の買い越しで前週236千枚の買い越しからさらに円買いが増加していた。ユーロも前週の560千枚から928千枚へ買い越し幅が大きく増加していた。

米景気悪化と利下げを背景にドル売り円買い・ドル売りユーロ買いが積み上がりつつあった。先週はドルが堅調だったが、短期的にこうしたポジションに調整が入りドルが買い戻された結果だろう。

焦点は、米景気悪化、米金利低下の流れは所与として、そのペースがどうか。先週のドル反発は大きな流れがドル高に転じたわけではなく、ドル安の流れのペース調整とみておいたほうが良さそうだ。

緩慢なドル安の流れは変わらないが、そのなかでペース調整は生じうる。過度な米国景気懸念によりドル安が進んだあとの調整局面としてのドル反発。中期的な米景気・金利動向が変わらなければ、投機筋も含めて市場参加者のドル先安観は変わらないだろう。

さらに円高が進むとすれば、欧州の動向。ECBが追加利下げに転じればユーロ円相場主導で円高が進む可能性がある。

もっとも円高が進みやすいのは、米景気後退懸念が再燃してドル金利先安感が強まるなか、さらに欧州でも景気悪化懸念が強まり追加利下げ実施されるなどユーロ金利先安感も強まる場合。景気懸念、株安、リスク回避、欧米の金利先安感、が円高を急進させるリスクシナリオだ。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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