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循環的円高局面へ~内外金融政策格差の縮小を再確認
  • MRA外国為替レポート

2024年8月26日号

◆先週の市場総括


先週は大きくドル安円高が進んだ。週初は148円近辺で始まったが前週末にかけての円高の流れを受けて早々に145円台へ下落。その後も上値は重く、週末のパウエル議長講演を受けてハト派姿勢が明確になると米長期金利が低下。144円台前半まで下落して引けた。

ユーロ円相場も下落したが下げは緩慢。円高ではあるがドル安の勢いが強くドルインデックスは前週末の102ポイント台前半から100ポイント台半ばまで下落した。ユーロドル相場は1.10から1.12へユーロ高ドル安。

米国株は利下げが確実となり長期金利が低下したことが支えとなり底固く推移。日経平均は円高が重石となったが米株堅調で38,000円の大台を維持して引けた。

米2年債は4%を割り3.90%へ低下。10年債は3.80%。植田日銀総裁は、金融市場混乱時は利上げを見送るが、景気物価展開が想定通りなら追加利上げの方向性を堅持するとのスタンス。

月曜日の東京市場では日経平均が大幅安。前週末にかけての急騰の反動で幅広く下落した。米雇用統計が年次改定で下方修正されるとの観測でドル安円高に振れたことも重石。一時▲700円超下落し引けは▲674円安の37,388円。

ドル円相場は147円60銭で始まり朝方148円ちょうどに上昇したが、その後、米雇用統計下方修正の可能性との報道をきっかけに急落し15時東証引け近辺は145円20銭。その後は持ち直しじり高。米国市場終盤は146円60銭近辺で推移し引けた。

ユーロ円相場も同様の値動き。162円80銭で始まり163円20銭に上昇したが午後には160円40銭台に下落。その後反発して欧州市場から米国市場にかけてはじり高。162円50銭近辺でもみ合い引けた。

ユーロドル相場は1.1020台で始まり底固く欧州市場では1.1040中心にもみ合い。米国市場ではもう一段上昇して1.1080~90で推移し引けた。ドルインデックスは102割れに下落。

米国株は堅調。景気後退懸念が和らぐ流れが続いた。ミネアポリス連銀総裁が、利下げの議論は適切、ただしよほど急速に雇用悪化しない限り利下げ幅は0.25%が適切、と述べた。利下げが景気を支えるとの見方も株価を押し上げた。

一方、パウエル議長の講演を今週に控え様子見姿勢も。NYダウは前週末比+236ドル高の40,896ドル、ナスダックは+245ドル高の17,876ドル。VIX指数は14.05と低位安定。

原油価格WTI先物は米雇用統計大幅下方修正観測を材料に74ドル台に下落。米長期金利は小幅低下。10年債は3.873%、2年債は4.07%。

火曜日の東京市場では日経平均が大幅反発。上げ幅は前日の下げ幅と同額。+674円高で前週末の水準38,062円。米ハイテク堅調で半導体関連株が上昇。円高一服で輸出関連も買われた。一時+800円超。ただ38,000円台では戻り売り、利益確定売りが厚く伸び悩み。

ドル円相場は146円60銭で始まり朝方145円80銭に下落。20日決済にからむ輸出企業のドル売り円買いが下押したとみられる。その後は持ち直し147円を挟んで上下。東証引けにかけて147円40銭近辺まで上昇した。

ただその後は欧州市場さらに米国市場にかけて一貫してドル安円高、大きく下落。145円ちょうど近辺で取引を終えた。

米国市場では米長期金利の低下でドルが全般に軟調。米10年債は3.81%、2年債は3.994%と4%を割り込んだ。

ユーロドル相場は東京市場から欧州市場にかけて1.1080近辺で小動きもみ合い横ばい。米国市場では1.1120へユーロ高ドル安が進み引けた。

ユーロ円相場は東京市場では162円50銭~80銭で始まりその後161円70銭に下落。その後は午後にかけて反発して163円20銭に上昇。ただドル円相場と同様、東証引け後、欧州市場にかけて反落して162円10銭~40銭でもみ合い横ばい。

米国市場ではもう一段円高が進み161円60銭~80銭で上下したあと161円40銭で引けた。

米国株はソフトランディング期待が支えとなったが、FOMC議事録の公表やジャクソンホール会議でのパウエル議長講演を前に様子見姿勢も強く、持ち高調整や利益確定売りが上値を抑えた。NYダウは前日比▲61ドル安の40,834ドル、ナスダックは▲59ドル安の17,816ドル。

水曜日の東京市場では日経平均が反落。米国半導体関連株が軟調で利益確定売りが優勢となった。一方、円高一服、やや円安になったことは下支え。一時38,000円台を回復したが引けは▲111円安の37,951円。

ドル円相場は145円ちょうどで始まり堅調。夕刻から欧州市場にかけては146円ちょうど~20銭で推移した。米国市場朝方にかけて145円60銭に反落。

注目の雇用統計の年次改定値が発表されると瞬間的に146円80銭に上昇するなど乱高下したあと145円20銭に下落。さらにFOMC議事要旨を受けて一時144円50銭に下落したが、その後引けにかけて反発し145円20銭近辺で取引を終えた。

雇用統計の年次改定では、23年4月から24年3月の1年間合計で▲818千人下方修正された。ただ市場予想の一部には▲1,000千人の大幅下方修正との見方もあったことから反応はさほど大きくなかった。

FOMC議事要旨では大多数のメンバーが、指標が予想通りなら9月会合での利下げが適切とした。雇用のリスクは高まりインフレリスクは低下との認識。また数人は7月会合での利下げもありえた、とした。

ユーロドル相場は1.1130で始まり1.1120中心に小動きもみ合い。雇用統計の下方修正、FOMC議事録を受けて米長期金利が低下しユーロ高ドル安に振れて1.1170。引けは1.1150。ドルインデックスは101.17ポイントまで下落した。

ユーロ円相場は161円40銭で始まり夕刻までじり高、162円60銭。欧州市場から米国市場朝方にかけて161円80銭に下落。雇用統計の年次改定で163円ちょうどをつけたがその後は161円40銭台に下落。引けは161円80銭。

米長期金利は雇用統計下方修正、FOMC議事要旨を受けて低下。10年債は3.801%、2年債は3.934%。

米国株は小幅高。利下げ期待が支え。NYダウは前日比+55ドル高の40,890ドル。ナスダックは+102ドル高の17,918ドル。

木曜日の東京市場では日経平均が上昇して3週間ぶりの高値。米主要株がしっかり、リスク選好の回復が支えとなり一時+400円高。米利下げ期待が支え。ただ後場は上値重く上昇幅を縮小した。引けは+259円高の38,211円。

ドル円相場は145円20銭で始まり朝方144円80銭台に下落その後は145円台前半で上下して夕刻は145円10銭。欧州市場から米国市場朝方にかけて上昇して146円近辺。

発表された米PMI景況感指数は製造業が前月48.6から48.0へ悪化、サービス業が55.0から55.2へ54.0への悪化予想に反してやや改善。米長期金利は上昇。10年債は3.855%、2年債は4.014%。

ドル円相場は146円50銭に上昇、145円90銭に反落と高下したあと146円20銭~40銭で上下して引けは146円20銭。ドルが堅調。

ユーロ円相場は161円80銭で始まり60銭に下落したあと162円30銭に反発、161円台後半で上下、と方向感なく、欧州市場にかけては162円40銭に上昇、161円30銭に反落、と上下した。

米国市場では162円90銭~40銭で高下したあと162円ちょうどに下落。その後162円台半ばで推移して引けは162円50銭。

ユーロドル相場は1.1150で始まりもみ合い横ばい。夕刻から欧州市場は1.1130~50で推移。米国市場ではドルが堅調。1.11ちょうど近辺に下落してもみ合い引け。

米国株は下落。金曜日のパウエル議長講演を前に持ち高調整の売りに押された。9月利下げ観測の高まりが支えとなったが長期金利はやや上昇しハイテク株の重石となった。

金曜日の東京市場では日経平均が続伸。植田総裁は内田副総裁と意見の相違はないとして、市場混乱時には利上げしない姿勢を明らかに。市場には一定の安心感。一方、景気物価動向が予想通りなら追加利上げを継続する方向性は維持した。引けは+153円高の38,364円。

ドル円相場は146円20銭で始まり植田総裁発言で145円30銭に下落。その後は30銭~80銭で上下した。欧州市場から米国市場にかけては145円30銭から146円50銭へ上昇。

注目のパウエル議長講演では9月利下げを明言したほかハト派スタンスが明確に。他の当局者も利下げに前向きな発言が続いていることもあり米長期金利は低下。ドルが下落。ドル円相場は大きく下落して144円20銭~40銭でもみ合い引けは144円40銭。

パウエル議長は講演で、金融政策を調整すべきときが来た、金融政策の方向性は明らか、として9月会合での利下げを明言。インフレ率は目標にかなり近づいている、PCEは7月に2.5%程度との推計も示した。

一方、企業の求人意欲は弱まっている、雇用の下振れリスクは高まっている、とも述べ、労働市場のさらなる減速は歓迎しない、とした。そのうえで、今後の利下げタイミングやペースはデータ、見通し、リスクバランスに依存すると述べた。

シカゴ連銀総裁は、現在の金融政策は極めて制約的、現在の経済情勢に合致していない、と述べた。ほぼすべての尺度で労働市場が冷え込んでいることが示されているとした。

米10年債利回りは3.804%へ、2年債は3.909%へ低下。ドルを押し下げ。ユーロドル相場は東京市場では1.1110で始まり1.1120~30で小動きもみ合い横ばい。パウエル発言を受けて1.12ちょうどへ上昇して引けは1.1190近辺。ドルインデックスは100.68ポイントに低下した。

ユーロ円相場は162円40銭~60銭で始まり昼前に161円70銭に下落。その後は162円を挟んで上下し、夕刻から上昇して欧州市場から米国市場では162円40銭中心に上下。パウエル発言を受けたドル安円高に押されて161円20銭に下落し引けは161円60銭。

米国株は上昇。パウエル議長の発言が想定よりもハト派、FRBが景気の過度な悪化を避けるべく緩和姿勢に転ずることが明確となったことが支え。NYダウは前日比+462ドル高の41,715ドル、ナスダックは+258ドル高の17,877ドルで引けた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

引き続き米国景気の悪化度合いがドル金利、ドル相場を左右する展開が続く。

月曜日 耐久財受注(7月、前月比、除く輸送機器、予想0.0%、前月+0.5%)

火曜日 ケースシラー住宅価格指数(6月、前年同月比、前月+6.8%) 消費者信頼感指数(8月、予想100.1、前月100.3) リッチモンド連銀史枝増業指数(8月、前月▲17)

木曜日 GDP(4-6月期改定値) 週次の失業保険申請件数

金曜日 個人所得・消費支出(7月、前月比、予想+0.2%・+0.5%、前月+0.2%・+0.3%) PCEデフレーター(同、前年同月比、予想+2.6%、前月+2.5%、コア、予想+2.7%、前月+2.6%) シカゴ購買部協会景気指数(8月、予想44.5、前月45.3) ミシガン大学消費者態度指数(8月確報、速報67.8)

2.欧州の経済指標、ECB当局者発言

ECBは7月に利下げを行って以降、9月利下げについてラガルド総裁は明言を避けてきたが、域内中銀総裁の一部からは利下げを求める声も上がっている。

イギリス中銀も利下げに傾斜。指標および当局者の発言、指標に注目。

月曜日 ドイツIFO景況感指数(6月、予想86.0、前月87.0)

火曜日 同GDP(4-6月期改定値)

木曜日 ユーロ圏経済信頼感(8月、予想95.8、前月94.8)

金曜日 ユーロ圏CPI(8月、前年同月比、予想+2.8%、前月+2.9%)

また火曜日にドイツ連銀総裁の講演、木曜日にレーンECB専務理事の講演、が行われる。

3.日本の経済指標

日銀の植田総裁は先週、景気物価動向が想定通りなら金融緩和調整=利上げを継続するスタンスを明確にした。経済指標が強めの数字なら追加利上げ観測の支えとなり円高につながりやすい。

金曜日 失業率(7月、予想2.5%、前月2.5%) 有効求人倍率(同、予想1.23前月1.23) 鉱工業生産(7月、前年同月比、予想+2.7%、前月▲7.9%) 都区部CPI(8月、除く生鮮食品、前年同月比、予想+2.2%、前月+2.2%)

◆今週のMRA's Eye


循環的円高局面へ~内外金融政策格差の縮小を再確認

先週は日米金融政策の逆行をあらためて確認した。植田日銀総裁、パウエルFRB議長、双方の発言に明確なコントラストがみられた。結果としてドル円相場は週末にかけ大きく下落して144円台での引けとなった。

日銀が緩やかに緩和解除を継続するなか、今後のドル円相場は米国の金融政策変化のスピード次第。米国の景気動向、景気悪化のペース次第となる。

ソフトランディングが基本ではあるが、景気後退リスクも漂う。いずれになるか 確率は半々ではないか。ドル円相場は緩やかにドル安円高となるか、あるいはやや速いペースでドル安円高が進むか、いずれか。ドル高円安の可能性は低い。

FRBメンバーのリスクバランスは、インフレから雇用景気へ明確に変化している。パウエル議長は、ジャクソンホール会議での講演で、金融政策変更のときが来た、と稀にみる発言で利下げ姿勢を明確にし、9月会合における利下げを事実上明言した。

インフレリスクは解消し目標に向かって緩やかに低下基調を続けると判断。一方、雇用の悪化、景気下振れリスクが増していると述べ、これ以上の雇用悪化は望まない、と踏み込んだ。

金融政策をインフレ警戒から景気雇用配慮へ修正したことが明らかになった。

他の地区連銀総裁からも利下げに前向きな発言が相次ぐ。シカゴ連銀総裁は急先鋒だろう。現在の金融政策は極めて制約的であり現在の経済情勢に合致していない、と述べた。政策金利水準がもはや高すぎ、景気を過度に抑制する懸念があるとしている。ほぼすべての尺度、指標で、労働市場が冷え込んでいることが示されている、と懸念する。

NY連銀前総裁も、景気が急速に悪化するリスクを懸念。利下げが遅すぎ、7月のFOMC会合で利下げすべきだった、と述べている。

先週は同会合の議事要旨が公開された。幾人かは、7月会合で利下げの可能性はあったとしている。最終的には全会一致で金利据え置きとなったが、利下げ実施の寸前だったとみられる。

当面は、利下げが0.25%ずつ、年内3回、合計0.75%か、利下げが遅れているとの解釈から0.50%の利下げもありうるか、年内の利下げ幅合計が1.00%に及ぶかが注目点だ。利下げ遅延の可能性が取り沙汰されていたときと状況は一変している。

欧州に目を転じれば、ECBは6月に0.25%の利下げを実施し4.50%から4.25%に引き下げたあと、追加利下げに慎重な姿勢を示してきた。ただ域内各国中銀総裁のなかにはポルトガルのように9月の利下げを支持する発言もみられる。

従来から南欧諸国はハト派色、ドイツはタカ派色が強く、ECB内でその調整が難しかった。ただそのドイツ経済が相対的に弱く、インフレ鈍化も続いており、9月に追加利下げが実施される可能性は高い。

またイギリス中銀も利下げに傾いているようだ。欧州で利下げが相次げば、米欧の金融政策に対し、一段と日銀の緩和解除姿勢が際立つ。一段の円高要因となる可能性がある。

160円台まで進んだドル高円安は、日本の対外収支赤字の定着や米国の中立金利上昇などの構造的要因、コロナ禍後のリオープンによる景気拡大・過熱局面での内外景況格差・金融政策格差・金利差の拡大という循環的要因、さらにそれらを背景にした円キャリートレード・投機的円売りの過熱という投機的要因、すべてが重なった結果だ。

しかし足元では投機的円売りは解消。循環的円安要因が円高要因に転じたことを先取りして、一気に円買い戻しに動いた。循環的要因の転換を伴って2022年以来の円安トレンドが解消したことも大きい。

シカゴ通貨先物の投機ポジション動向をみると、ここ2週間は円買い越しを維持している。20日火曜日時点は23.6千枚の円買い越し、13日火曜日時点は23.1千枚買い越しだった。円キャリートレードが解消したまま、むしろ円買いに転じている。

投機的円安の終焉から、循環的円安の修正および循環的円高へとのシナリオに方針転換した可能性が伺える。円キャリートレードのロジックが変化。円安要因とくに金融政策格差・内外金利差が拡大から縮小へ明確に反転したことが背景だろう。

こうした状況では、円ショートポジションで損失を生じた場合にロジカルに説明することが難しい。金利差がまだあるので円ショートを続けている、という説明では通用しないだろう。逆に、仮に円ロングポジションで損失が生じても、ポジションをとった背景をロジカルに説明しやすい。

今後、投機筋もなお割安な円のロングを継続するのかは注目される。相場の視点が循環的要因の変化というトレンド変化から、着地点としてのバリュエーション、円が割安と感じられない均衡水準を探る展開が続くとみられる。当面は年末140円割れ試す展開に。中期的には125円~130円が視野に入る。


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