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景気後退懸念緩和も景気悪化への警戒感残る
  • MRA外国為替レポート

2024年8月19日号

◆先週の市場総括


先週は米国の経済指標がインフレ鈍化を示す傍ら消費堅調、雇用の底固さを示したことで過度な景気悪化懸念が緩和。ソフトランディング期待が強まり、米長期金利が上昇。株価も堅調に推移。

投機筋の円買い戻しが前週に一巡したあと、今週初からあらためて円売りが活発化、円安に反転した。

ドル円相場は146円台半ばで始まり週末にかけて149円近辺に上昇。ただ週末には米金利上昇が一服。シカゴ連銀総裁が景気動向に警戒感を示し利下げに前向きな発言。週末で円売り戻しが入るなかドル安。ドル円相場は147円台半ばで引け。

ユーロドル相場は1.10台に上昇した。日経平均は2週間ぶりに38,000円台に戻して引け。最高値からの急落幅の半値戻しを達成した。市場のリスク選好は回復し、急騰していたVIX指数は20ポイントを割り週末には14.80ポイントまで低下した。

月曜日の東京市場は休場。アジア時間の為替市場ではドル円相場、ユーロ円相場ともに円安。投機的な円売りポジションの解消が進んだとみられ再び円売りの動きが強まった。

ドル円相場は146円60銭で始まり早々に147円台に上昇。欧州市場に入る頃には147円20銭近辺。さらに米国市場午前中には148円20銭近辺に上昇した。しかしNY連銀調査で期待インフレ率が低下したことで米長期金利が低下。ドル円相場は反落して引けは147円20銭近辺。

ユーロ円相場も同様の値動き。160円10銭で始まり欧州市場から米国市場朝方にかけて162円手前まで上昇。その後は反落して引けは160円90銭。

ユーロドル相場は1.0920で始まり終始小動きもみ合い引けは1.0930近辺。米国株はまちまち。物価統計など重要指標の発表や小売決算を前に様子見姿勢が強かった。景気動向や金融政策の見極めも。

NYダウは前週末比▲140ドル安の39,357ドル、ナスダックは+35ドル高の16,780ドル。米長期金利は低下。10年債は3.907%、2年債は4.021%。

火曜日の東京市場では日経平均が大幅高。今年2番目の上昇幅となった。米ハイテク株高を受けて値がさ半導体関連株が上昇。好決算銘柄の個別物色、海外勢の買い戻し、先物売り解消が押し上げた。引けは前週末比+1,207円高の36,232円。

ドル円相場は147円20銭で始まり朝方147円割れ。その後は上昇して夕刻から欧州市場にかけては147円80銭近辺で上下。欧州市場から米国市場にかけて反落し、さらに米国市場朝方の生産者物価指数が弱かったことから長期金利が低下し一段安。146円90銭~147円20銭で上下。さらに146円60銭に続落し引けは146円80銭近辺。

ユーロ円相場も東京市場では上昇、欧米市場で反落して上値重い展開。160円90銭で始まり60銭に下落したあと反発し夕刻は161円60銭近辺で上下。米国市場にかけて下落して160円70銭~161円40銭で上下。引けは161円40銭。

ユーロドル相場は1.0930~40で小動き。欧米市場ではユーロ高ドル安。1.0990~1.10まで上昇し引けは1.0990近辺。

米国の生産者物価指数が予想を下回り米長期金利がさらに低下。ドルを押し下げた。米生産者物価(PPI、7月)は前月比+0.1%と前月+0.2%から上昇が鈍化して予想+0.2%より低い数字。前年同月比は+2.2%と前月+2.7%から鈍化。コア指数は前月比0.0%と前月+0.4%から鈍化して予想+0.2%を下回り、前年同月比も+2.4%と前月+3.0%から大きく鈍化した。米10年債利回りは3.846%へ、2年債は3.935%へ低下。

米国株は上昇。PPIが予想を下回り9月利下げ期待を後押し。長期金利が低下しハイテク株中心に買われた。NYダウは前日比+408ドル高の39,765ドル。ナスダックは+407ドル高の17,187ドル。

水曜日の東京市場では日経平均が続伸。前日の米国株が利下げ期待、長期金利低下、でハイテク株中心に上昇したのを受けて半導体関連の上昇が牽引。上昇幅は一時+450円超。一方前日の大幅高の反動で利益確定売りが上値を抑えた。

岸田首相が総裁選への不出馬を表明したことで次期政権の政策不透明感も手控え要因に。引けは前日比+209円高の36,442円。

ドル円相場は146円80銭台で始まり朝方147円20銭に上昇。その後、岸田首相の総裁選不出馬表明を受けた円買い戻しの動きで146円ちょうど近辺まで円高に振れた。

夕刻にかけては持ち直し147円50銭に上昇したが米国時間朝方は146円90銭近辺に押してCPIの発表待ち。結果を受けて146円60銭~147円60銭で乱高下。146円60銭に下落したあと引けにかけて持ち直し147円30銭近辺で取引を終えた。

ユーロ円相場は161円40銭で始まり80銭に上昇したあとドル円相場と同様160円60銭に反落。その後は持ち直し夕刻は162円30銭に上昇。米国市場では一時162円60銭に上昇したが161円60銭へ下落、162円40銭へ反発、と上下して引けは162円10銭台で引けた。

ユーロドル相場は1.0990で始まり小動き横ばいのあと、夕刻には1.1020へ上昇してもみ合い。さらに1.1040へ上昇し引けは1.1010台。

注目された米国の消費者物価指数(CPI、7月)は前月比+0.2%、前年同月比は+2.9%と前月+3.0%から上昇が鈍化してインフレ率の低下傾向の継続を示した。コア指数は前月比が+0.2%、前年同月比が+3.2%と前月+3.3%から低下。ただ詳細をみるとエネルギー価格やサービス価格の上昇率がなお低下しにくい様子もうかがわれた。

米国株はCPIを受けてインフレ鈍化、金融緩和期待で底固い値動き。NYダウは前日比+242ドル高の40,008ドル、ナスダックは+4ドル高の17,192ドル。VIX指数は16.19ポイントに低下してリスク回避の解消を示した。アルファベット株が米国におけるいわゆる独占禁止法違反で会社分割を強いられるのではないかとの報道で大きく下落した。

米10年債利回りはほぼ横ばいの3.839%、2年債はやや上昇して3.96%。

木曜日の東京市場では日経平均が4営業日続伸。米国株堅調を受け海外勢が先物中心に買い。発表されたGDP(4-6月期)が前年同期比+3.1%と強く、個人消費が前期比+1.1%、設備投資が+0.9%としっかりだったことも支え。バリュー株全般が上昇。引けは前日比+284円高の36,726円。

ドル円相場は147円20銭~50銭で小動きもみ合い横ばい。米国の小売売上高発表待ち。結果は予想より強く景気後退観測が後退、ソフトランディング期待が強まり、149円30銭へ大きく上昇した。その後は149円を挟んで上下横ばい、引けは149円20銭近辺。

ユーロ円相場も東京市場から米国市場朝方までは162円ちょうど~40銭で上下動、横ばい。米国小売売上高を受けて163円70銭に上昇したあと60銭中心に上下して引け。

ユーロドル相場は1.1010近辺でもみ合い横ばいのあと米国市場で1.0950へユーロ安ドル高。ただその後は下げ止まり引けは1.0970近辺。

米国の小売売上高(7月)は前月比+1.0%と前月+0.0%から増加し予想+0.3%を大きく上回る強い数字。週次の失業保険申請件数も新規申請が前週234千件から227千件へ減少。

小売指標が強く、ウォルマート社の決算で業績見通しが良好だったことで個人消費は底固いとの見方が強まった。雇用も底固く、ソフトランディング期待が強まり株価を支え。

NYダウは前日比+554ドル高の40,563ドル。ナスダックは+401ドル高の17,594ドル。VIX指数は15.28ポイントまで低下してリスク選好の回復を示した。

米長期金利は上昇。10年債は3.927%、2年債は4.103%。

その他の指標は、NY連銀製造業景気指数(8月)が前月▲6.60から▲4.70へ小幅改善。フィラデルフィア連銀製造業景気指数(8月)は前月13.9から7.0へ悪化。

輸入物価指数(7月)は前年同月比+1.6%と前月+1.5%からわずかながら上昇率が増した。鉱工業生産(7月)は前月比▲0.6%と前月+0.3%からマイナスに転じ、設備稼働率は78.8%から77.8%へ低下した。

金曜日の東京市場では日経平均が大幅高。2週間ぶりに38,000円台に戻して引けた。最高値からの急落幅の半値戻しを達成。米景気懸念の後退や円安が支え。内需株、金融株にも再び買いが入った。引けは前日比+1,336円高の38,062円。

ドル円相場は149円20銭で始まり軟調。昼前に148円80銭へ下落。夕刻に149円ちょうど近辺に戻したが、欧州時間に入ると円が買い戻され反転下落。下げが加速して147円60銭近辺。その後も148円20銭に反発したが上値重く、米長期金利低下にも押されて147円60銭。

ユーロ円相場は163円70銭で始まり163円40銭に下落したあと夕刻は163円60銭~70銭。欧州時間には円買い戻しを受けて162円30銭に急落。その後は163円で上値重く引けは162円70銭~80銭。

ユーロドル相場は東京時間には1.0970~80で小動き。欧州市場から米国市場にかけてはドル安の流れで1.1030へユーロ高ドル安が進み引けた。

米国株は小幅高。スタグフレーション回避との見方、景気後退への過度な懸念が和らぐ流れが続いた。景気敏感株の一角に買い。NYダウは前日比+96ドル高の40,659ドル、ナスダックは+37ドル高の17,631ドルで引けた。

米長期金利は低下。10年債は3.883%、2年債は4.054%。

発表された住宅着工件数(7月)は季節調整済み年率換算で1,238千戸と前月1,353千戸から大幅減。ハリケーンや高いローン金利が重石とみられる。

ミシガン大学消費者態度指数(8月速報)は前月66.4から67.8へ改善。5ヵ月ぶりの上昇。期待インフレ率は1年が2.9%、5年が3.0%でいずれも前月と不変。

シカゴ連銀総裁は、米国経済の一部に黄色信号、失業率の上昇、クレジットカード延滞率上昇、を懸念。金融引き締めを必要以上に維持しないよう慎重に対応する必要がある、と述べた。

◆今週の3つの注目ポイント


1.FOMC議事要旨、ジャクソンホール会議

今週は水曜日にFOMC議事要旨(7月30日・31日開催分)が公表される。同会合では政策金利は据え置かれたが、インフレ鈍化の進捗と雇用情勢の緩和を認め、インフレと雇用のリスクバランスが均衡した、として従来のインフレ警戒から軸足が変化したことを示した。

パウエル議長は会見で9月利下げに前向きな発言。他のメンバー、とくにタカ派の姿勢が変化したか注目。

さらに木曜日からジャクソンホール会議が開催される。最近の経済指標を受けて、パウエル議長がさらに利下げに前向きな姿勢を示すか注目される。市場の目下の注目は利下げ幅や利下げ回数。市場の織り込みに変化を与える発言はあるか。

2.ECB理事会議事要旨

木曜日にECB理事会議事要旨(7月18日開催分)が公表される。同会合では追加利下げは見送られた。インフレ圧力は根強いとして、ラガルド総裁は9月会合に向けて、追加利下げの確約を何ら示さず。

追加利下げに慎重な姿勢を再確認することになるか。このところのユーロドル相場の堅調、ユーロ高ドル安基調をあらためて支持するタカ派的な内容が確認されるか。

3.PMI景況感指数

木曜日にPMI景況感指数(8月速報)が発表される。米国ではひとまず景気後退懸念が緩和したが、PMIが強めの数字となりそうした見方を支持するか。

景況感の分かれ目である50を割り込んでいる製造業が持ち直しを示すか(前月49.6)。サービス業が引き続き底固さを示すか(前月55.0)。また欧米間の景況格差がどちらの相対的優位を示すか。

ほか、水曜日に日本の通関統計(7月、貿易収支、輸出入)が発表される。

◆今週のMRA's Eye


景気後退懸念緩和も景気悪化への警戒感残る

先週は過度な米国景気後退懸念が緩和した。月初の雇用統計が予想より大幅に悪かったことで景気懸念が一気に広がっていたが、5日に発表されたISM非製造業景気指数が底固さを示した。

先週は生産者物価、消費者物価、いずれもインフレ鈍化を示し利下げ期待が維持されて市場心理が落ち着きを取り戻した。さらに失業保険申請がやや減少したこと、小売売上高が強かったこと、小売決算で業績見通しが強気だったことで、雇用悪化、消費鈍化による景気後退懸念が和らいだ。

少なくとも景気悪化とインフレ高止まりの最悪の組み合わせ、スタグフレーションは避けられるとの見方が強まった。そのうえで、市場は緩やかな景気悪化、ソフトランディング期待に傾いている。

ただFRB当局者のなかには景気悪化に対する警戒感は根強い。7月のFOMCではそれまでのインフレリスクに傾斜したタカ派的なスタンスから、インフレと景気雇用双方のリスクはバランスしているとしてハト派寄りに修正。

景気配慮に傾いているわけではないが、現状の政策金利水準がインフレ率を大きく上回り、実質金利が極めて高く景気抑制的であること、さらに景気悪化の兆しがみえることから、リスクバランスを中立に戻す方向に修正。すなわち現状の政策金利水準を高すぎるとみて、利下げに傾斜したことが明確になった。

ダドリーNY連銀前総裁は、7月の利下げ見送りにはリスクがある、と述べ、利下げ遅延のリスクを指摘している。

先週、シカゴ連銀総裁は、失業率の上昇、クレジット延滞率の上昇、など米国経済の一部に黄色信号が灯っている、と述べた。そのうえで、金融引き締めを必要以上に維持しないよう慎重に対応する必要がある、として利下げを促す見解を示した。失業率が緩やかな上昇から急速に上昇する変曲点にある、との見方も根強い。

市場には景気楽観論が再び強まり、リスク選好も回復。VIX指数は先週末15ポイントを割り込むまで低下した。ただ景気が良くなるわけではなく、リスク選好の回復には限界がある。

景気悪化の程度がどれほどか、に過ぎず、景気後退かソフトランディングかのいずれかのためだ。ソフトランディングの可否は利下げがどの程度のスピード感で実施されるかによるだろう。利下げが遅れ、あるいはペースが遅ければ景気後退に陥るリスクが高まる。リスク選好がFRBの利下げに依存する度合いは一段と強まった。

こうした状況がドル円相場に与えるインパクトは少なくともドル高円安ではない。投機的な円売りの手仕舞いが進んだあと、先週13日火曜日時点ではついに円買い越しに転じていた。

先週15日には米経済指標を受けて急速に円安に動いたが、短期的には、そうしたポジションの調整、米国のソフトランディングシナリオが強まったことで、円買いの反動による円売り戻しが生じたものと推察される。

投機筋は少なくとも円売りを再び強め一方向かつ持続的な円安を再開させる方向に動いてはいないようだ。そのうえで、投機的な円売りの終了、円買い戻しによる円急騰が終了したあと、円安に転ずるのではなく、なおも円高基調が続くのではないか。

米景気悪化、ドル金利低下に伴うドル軟調、円堅調が続くと予想。投機解消の急速な円高から、循環的な緩やかな円高局面への移行を想定する。

ドル安円高のペースや深度は、米国景気悪化のペースや深度による。足元ではソフトランディング期待が強まっているが、景気後退を意識せざるをえない状況となれば、FRBの利下げペースが速まる可能性がある。それにより、もう一段、急速にドル安円高が進むリスクは残る。

ソフトランディングの場合でも利下げが前提。ドル金利低下が緩慢ながらも続くことで緩やかなドル安円高となろう。

リスク選好が維持されること、株価が堅調に推移する可能性は、円に売り圧力となる可能性もあるが、日本株買い・円売りの戦略が大きく崩れたあと、同様のポジションを再構築する可能性は低い。場合によっては、日本株買い・円買いとなる可能性も考えておく必要はありそうだ。


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