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市場混乱の行方~米国景気リセッションかソフトランディングか
  • MRA外国為替レポート

2024年8月12日号

◆先週の市場総括


先週は週初に前週の流れのまま大きく円高が進みドル円相場は一時141円台、ユーロ円相場は154円台へ急落。ただその後は円高一服。円安方向へ揺り戻しじり高。ドル円相場は146円台半ば、ユーロ円相場は160円ちょうど近辺で週末の取引を終えた。

日銀の内田副総裁が市場混乱のもとで追加利上げに慎重な姿勢を示したことがきっかけ。株価は週初に暴落商状。日経平均は月曜日に前週末比▲4,450円安と過去最大の暴落。31,000円台まで下落した。

ただその後は荒れ相場ながら持ち直し市場心理の悪化が一服した。米国景気後退への過度な警戒感が緩和、リスク回避が緩んだ。日経平均は週末に35,000円台を回復して引け。

米10年債利回りは週初に一時3.6%台まで低下したが、週末は3.9%台に戻した。2年債は3.9%に低下したが4.0%台に戻した。

月曜日の東京市場では日経平均が暴落。過去最大の下げ幅となった。前週末の雇用統計が想定以上に悪い数字となり、米国景気後退懸念が台頭。急速な円高もあり投げ売りが広がった。信用買いの手仕舞いの投げ売りもあり急落。引けは前週末比▲4,451円安の31,327円。

ドル円相場は146円50銭で始まり朝方144円80銭に下落その後145円50銭に戻したが142円20銭台へ下落、143円60銭近辺へ反発、と値動き荒い展開となり、日経平均の暴落を受けた市場心理の悪化、リスク回避、円買い戻しで東証引け頃には141円70銭へ下落した。

その後も乱高下。144円に戻したが141円80銭に反落。欧州市場から米国市場にかけては戻り歩調で上下しながら持ち直し144円10銭近辺で引け。予想より強めのISM非製造業指数が支えとなった。

ユーロ円相場も同様の値動き。160円ちょうど近辺で始まり155円50銭近辺へ大きく下落し一時持ち直したが東証引け後には154円40銭近辺まで下落。5円以上の急落となった。その後は乱高下。157円台後半に戻したあと155円台前半へ反落。米国市場では158円台後半まで上昇して引けは157円80銭近辺。

ユーロドル相場は1.0920台で始まり1.0940へ上昇したがユーロ円相場の下落に押されて1.0890へ下落。その後は堅調に推移し1.10台に上昇したが引けは1.0950台。

欧米株も軒並み下落。エヌビディアやアップルなどハイテク半導体関連が大幅安となったほか、景気後退懸念でディフェンシブ銘柄も下落。NYダウは前週末比▲1,033ドル安の38,703ドル。ナスダックは▲576ドル安の16,200ドル。VIX指数は38.57ポイントに上昇した。

10年債利回りは3.779%に低下。一時3.6%台に低下したが強めのISM指数で金利が持ち直した。2年債は3.901%に小幅上昇。

発表された米国のISM非製造業景気指数(7月)は51.4と前月48.8から改善し予想51.0を上回った。雇用指数も46.1から51.1へ、受注指数も47.3から52.4へ改善した。

火曜日の東京市場では日経平均が急反発。上昇幅は過去最大となった。下げ過ぎとみて自律反発狙いの買いが優勢。円高一服も支えとなった。引けは前日比+3,217円高の34,675円。

ドル円相場は荒い値動きながら145円を中心に推移。144円10銭で始まり朝方143円60銭に下落したが急反発して146円30銭。その後は144円30銭~146円30銭で大きく上下し欧州市場では144円台後半で上下したあと145円40台。

米国市場では144円ちょうど近辺に下落したあと145円50銭に反発したが反落して144円50銭近辺で引け。

ユーロ円相場は157円80銭で始まり160円20銭に上昇。その後は158円ちょうど~160円ちょうどで上下して欧州市場では157円50銭台に下落。その後欧州市場から米国市場にかけては157円台半ば~158円台後半で上下して引けは157円90銭。

ユーロドル相場は1.0950~60で小動きもみ合い、欧州市場ではやや下落して1.0910。米国市場では1.0930近辺で推移して引けた。

米国株は好決算を受けて反発。景気後退懸念が緩和し自律反発狙いの買いが優勢となった。ただVIX指数は低下したもののなお水準が高く市場の警戒感は残ったまま。NYダウは前日比+294ドル高の38,997ドル、ナスダックは+166ドル高の16,366ドル。VIX指数は27.71に低下したが市場心理の安定を示す20未満を大きく上回ったまま。

米長期金利は過度な景気後退懸念が緩和して反発。10年債は3.895%、2年債は3.983%。米国では民主党ハリス大統領候補が副大統領候補としてワルツ氏を指名したことで少なくともトランプ氏と互角になる見方が強まった。

水曜日の東京市場では内田日銀副総裁の発言を受けて大幅安となっていた日経平均が急速に反発。朝方は前日比▲900円安だったが引けは+414円高の35,089円。

内田副総裁は、金融市場が不安定なもとでは利上げを実施しない、と発言。市場の警戒感が緩和した。発言を受けた円安ドル高も支え。ただ追証発生による強制決裁はなお続き乱高下は変わらず。

ドル円相場は144円50銭で始まり145円20銭台に上昇。その後、内田副総裁発言を受けて144円70銭台から147円90銭台へ急速に円安が進んだ。ただ夕刻には146円ちょうど近辺まで反落。

欧州市場から米国市場にかけては146円台半ば~147円台半ばで上下し引けは146円40銭近辺。

ユーロ円相場は157円90銭で始まり158円台前半で上下。植田副総裁発言を受けて158円10銭近辺から161円40銭台へ急騰。その後は159円60銭に反落、161円台を回復、と上下して欧米市場で160円~161円台半ばで上下して引けは160円ちょうど近辺。

ユーロドル相場は1.0930で始まり1.0910~30で小動きもみ合い横ばい。引けは1.0920。

米国株は下落。ボラティリティが高止まりし不安定な金融市場動向を嫌気して10年債入札が不調。金利が上昇。ネガティブサプライズとなり午後に半導体関連が売られた。リスク選好は弱いまま。VIX指数は27.85に高止まり。NYダウは▲234ドル安の38,763ドル、ナスダックは▲171ドル安の16,195ドル。

米10年債利回りは3.952%に上昇、2年債は3.982%と前日とほぼ変わらず。2年債と10年債の金利差は急速に縮小した。

木曜日の東京市場では日経平均が3営業日ぶりに反落。米国半導体株指数(SOX指数)が下落したことで半導体関連株が売られた。下げ幅は午前中に一時▲800円超。一方、好業績銘柄への買いは支えとなった。35,000円台では戻り売りに押され引けは▲258円安の34,837円。

ドル円相場は146円40銭で始まり早々に145円50銭近辺に下落。その後は146円台半ば~後半に反発するなど1円幅で上下する荒れ相場。夕刻にかけては上下しながら145円60銭台に下落した。欧州市場から米国市場朝方にかけては146円50銭に反発したあと146円ちょうど近辺に下落。

発表された週次の失業保険新規申請件数が予想より少なかったことで米国景気後退への過度な懸念が緩和。147円50銭近辺へ上昇した。その後は147円台前半でもみ合い引け。

ユーロ円相場も同様の値動きで円の強弱で上下。160円ちょうど近辺で始まり159円ちょうど~160円ちょうど近辺で大きく上下。160円台半ばに上昇したあと夕刻には159円30銭近辺に下落した。欧州市場から米国市場朝方にかけては160円台から159円台半ばに下落したが、

強めの米経済指標を受けたドル円相場の上昇、円売戻しを受けて160円台後半で上下じり高、160円70銭近辺で引けた。

ユーロドル相場は1.0920で始まり小動き、底固い値動きで1.0940へ小幅高。米国市場朝方の指標を受けて1.0930から1.0880台へユーロ安ドル高に振れたがその後は持ち直し1.0920で引けた。

米国の新規失業保険申請件数は前週249千件から233千件に減少。ただし継続受給件数は前週1,877千件に対し1,875千件とほぼ変わらず。米長期金利は上昇。10年債は3.991%、2年債は4.038%。

米国株は大幅反発。景気後退への過度な懸念が緩和して買い戻された。ただし決算で小売減退への警戒は残った。NYダウは前日比+683ドル高の39,446ドル、ナスダックは+464ドル高の16,660ドル。VIX指数は23.79へ低下。

金曜日の東京市場では日経平均が小幅反発。ただ荒れ相場は続き日中の値幅は1,000円を超えた。米国株高や円軟調を受けて朝方は+800円超上昇。しかし後場には3連休前の利益確定売り、ポジション調整で売られ一時▲400円安まで下げた。ハイテク株の一角は強かった。引けは+193円高の35,025円。

ドル円相場は147円20銭で始まり朝方80銭に上昇したがその後は欧米市場にかけて上値の重い展開。午後に146円70銭近辺に下落したあと一時147円台に反発したが欧米市場では146円台前半に下落し引けは146円60銭近辺。

ユーロ円相場も同様に160円70銭で始まり早々に161円40銭近辺に上昇したがその後は160円台後半を中心に上下。欧米市場では159円80銭台に下落し米国市場では160円ちょうど~20銭で推移して引けは160円ちょうど近辺。

ユーロドル相場は1.0920近辺で終始小動き横ばいのまま引けた。

米国株は小幅高。大型ハイテク株に買い直しが入ったが、週末の持ち高調整売りに押され伸び悩み。景気悪化への警戒感、来週の物価統計、小売売上高への警戒感が上値を抑えた。引けはNYダウが前日比+51ドル高の39,497ドル、ナスダックは+85ドル高の16,745ドル。VIX指数は20.37へ低下。

米10年債利回りは3.94%、2年債は4.057%。ドルインデックスは103.15ポイント。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

今週はとくに物価指標が注目される。

火曜日 生産者物価指数(PPI、7月、前年同月比、前月+2.6%、コア指数、同、+3.0%)

水曜日 消費者物価指数(CPI、同、予想+2.9%、前月+3.0%、コア指数、予想+3.2%、前月+3.3%) 輸入物価指数(7月、前月比、予想▲0.1%、前月0.0%)

木曜日 小売売上高(7月、前月比、予想+0.3%、前月+0.0%) 鉱工業生産(同、予想+0.0%、前月+0.6%) 設備稼働率(同、予想78.7%、前月78.8%) NY連銀製造業景気指数(8月、予想▲5.5、前月▲6.6) フィラデルフィア連銀製造業景気指数(8月、予想7.5、前月13.9) 週次失業保険申請件数

金曜日 住宅着工件数(7月、季節調整済み年率換算、予想1,353千戸、前月1,353千戸) ミシガン大学消費者態度指数(8月速報、予想66.4、前月66.4) 期待インフレ率(1年、前月+2.9%、5年、同+3.0%)

2.日本の経済指標

米国景気後退懸念が高まるなか、円高急進、株価急落、など市場が混乱。その実体経済に対する今後の影響は不透明だが、日本経済の足元までの動向が日銀の金融正常化を支持するか。

火曜日 国内企業物価指数(7月、前年同月比、予想+3.1%、前月+2.9%)

木曜日 GDP(4-6月期速報、前年同期比、予想+2.3%、前期▲1.8%、前期比、予想+0.6%、前期▲0.5%) 個人消費(前期比、予想+0.5%、前期▲0.7%) 設備投資(同、予想+0.9%、前期▲0.4%) 鉱工業生産(6月、予想▲3.6%、前月+3.6%)

金曜日 第三次産業活動指数(6月)

3.中国の経済指標

木曜日に中国の7月の主要経済指標が発表される。景気低迷からの持ち直し感が得られるか。あるいは引き続き不振から脱しないとみられるか。小売売上高(前年同月比、予想+2.6%、前月+2.0%)、鉱工業生産(予想+5.3%、前月+5.3%)、固定資産投資(予想+3.9%、前月+3.9%)。

◆今週のMRA's Eye


市場混乱の行方~米国景気リセッションかソフトランディングか

先週初は、円が急騰、日経平均が暴落、ボラティリティ急上昇、など、リスク回避が強まりリスクポジションの圧縮と相乗的な動きとなって市場混乱が極まった。株価下落には歯止めがかかったが荒れ相場は続いている。今回の市場混乱の要因をあらためて整理しておくことは、今後の相場展開を想定するうえで重要だ。

今回の混乱の原因を日銀の国債購入減額、利上げに帰する見方もある。

確かにきっかけのひとつかもしれないが、十分に予想されていたことだ。むしろここまで超金融緩和を継続してきたことにより、過去にない規模で投機的な円売りが積み上がっていたことが原因とみるべきだろう。

円売りの反対側には必ず何らかの通貨の買いが生じる。概ねドルかユーロということになる。たださらにその先、様々な資産に資金が回った可能性もある。円をゼロ金利で調達し、ドルに転じれば金利差が手に入るが、さらにドルよりも値上がり益が見込める資産があればそちらに回しただろう。

ゼロ金利の金(ゴールド)や、その他のコモディティに資金が流入した可能性もある。株式は企業収益という「利回り」があるゆえ一段と資金が流れやすいだろう。そして調達した円が下落基調にあったことも大きい。

円安と様々な資産価格の上昇が、そうした投機取引でセットになっていた可能性は高い。その円安トレンドが日本の通貨当局による円買い介入と日銀のさらなる金融正常化で潰えただけだ。

そもそもは投機的な円売りを積み上げ過ぎていたことが原因。その誘引はコロナ禍後のリオープンによる経済の急回復とインフレにおいてもなお、日銀だけが異常な超金融緩和政策を続けたことにある。

その意味で、日銀が責められるとすれば、足元の金融引き締めではなく、超金融緩和を必要以上に続けたことにある。金融正常化が遅きに失したことこそ今回の市場混乱の源泉といえそうだ。

今回の市場変動に焦点をあてれば、日銀の政策変更より影響が大きかったのは米国景気の後退懸念の高まりだろう。ソフトランディング期待が剥落し景気後退懸念に一気に傾いた。9月利下げが確実となったが、市場や一部のエコノミストには7月の利下げ見送りをFRBが後手を踏んだとみる向きもいる。

年内0.75%の利下げは確実視されており、1%幅の利下げ予想もある。9月利下げが0.50%となるとの見方だ。株式市場はこれまで利下げを好感して堅調に推移しきたが、その利下げが景気後退に基づくとの見方になり、むしろ景気悪化懸念が株価を押し下げる要因となった。

米ハイテク株が買われ過ぎ、割高となっていたことで、いつ調整してもおかしくない状態だったが、それが顕在化した。

VIX指数が歴史的にみて低水準で推移していたことが市場の慢心を示していた。市場のリスクが高まるのは長期にわたってVIX指数が低水準で推移しているケースだ。

こうした場合はリスクポジションが積み上がり、何らかのきっかけでリスク回避に傾きやすく、またひとたび調整するとポジションが大きいだけに調整幅は大きく値動きが急になる。

円相場の今後の動向を左右するのは、まず米国景気の悪化がどの程度になるか、だ。ソフトランディングか景気後退か。景気後退リスクが高まればFRBの利下げも急になるだろう。足元の市場コンセンサスはこのシナリオだ。

ドル安円高は米金利低下、リスク回避の継続のなかさらに進むことになる。年末には140円割れを試す展開となりそうだ。この場合は日銀も追加利上げに慎重になるとみられるが、米金利低下・米景気悪化主導でドル安円高が継続しよう。

一方、底固さを示しソフトランディングとなれば利下げペースは市場の想定よりも緩やかになる。市場の織り込みよりも金利低下が緩やかとなるため、ドル安円高は一服。ひとまず140円台前半で安定推移しそうだ。

市場混乱は一服するが、この場合は日銀の追加利上げの可能性は高まる。米景気後退のケースよりは緩やかながらもドル安円高が進むことになるだろう。

今年に入ってからは日米金利差の縮小に逆行してドル高円安が進んだ。金利差そのものが開いていること、株価が堅調に推移していることに示される強いリスク選好が投機的な円売りの支えとなっていた。この投機的な動きはかなり修正されたとみられる。

シカゴ通貨先物の円ポジションは、先週火曜日時点でわずか11千枚の売り越しまで急減、ほぼ中立となった。シカゴ通貨先物は投機筋の動きを示す氷山の一角に過ぎないが、急速に大量の円買い戻しが生じたことが推察される。

問題はこのあと。再び円売りが活発化し円安となるか。ソフトランディングからドル金利低下が一服するようならその可能性もある。

ただリセッションとなれば、投機的な円安の解消、円買い戻しによる円高のあと、循環的な円高局面に入るだろう。少なくとも日米長期金利差、10年金利差とドル円相場の相関が維持され、あるいは今年に入ってからの乖離が調整されるとすれば、現状で示唆されるドル円相場の水準は140円割れだ。当面は米国景気がどちらのシナリオをたどるか、指標に左右される展開が続こう。


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