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ドル円相場は押し目買いから戻り売りへ
  • MRA外国為替レポート

2024年7月22日号

◆先週の市場総括


先週は大きく円高が進み日経平均は米国ハイテク株の下落とあいまって一時4万円の大台を割り込んだ。週初にパウエル議長は、インフレ低下基調に自信を示し、利下げが近づいていることを示唆した。

さらに火曜日には大統領選で優位と報じられるトランプ氏がドル高を問題視し、円が安すぎると発言、さらに日本では河野大臣が円安を問題視する発言をするなど要人発言も相次ぎ円買い戻しが活発化した。

ドル円相場は週初158円台で始まったが水曜日には156円台へ、さらに木曜日朝方には一時155円台前半まで下落した。年初来のドル高円安トレンドを円高方向にブレークしたことも円買い戻しを誘ったとみられる。

ただその後週末にかけて円買い戻しは一服し引けは157円台半ば。ユーロ円相場も一時170円ちょうど近辺に下落したが引けは171円台半ば。米国ではハイテク株に利益確定売りが嵩んだ。

これを受けて日本株も半導体関連株が下げを主導。円高もあいまって下げ幅が拡大した。一時4万円の大台を割り込んだが週末は辛うじて大台を維持して引けた。

月曜日の東京市場は休場。アジア市場のドル円相場はやや円安に振れて始まった。トランプ前大統領が銃撃されたことをきっかけに、大統領選挙でトランプ氏が有利になったとの見方が、景気刺激策、インフレ的な政策への思惑からドル円相場を支えた。

158円10銭で始まり40銭台に上昇。ただその後は上値重く157円90銭~158円ちょうど近辺で推移。

発表された中国の経済指標は、GDP(4-6月期)が前年同期比+4.7%と前期+5.3%から減速。小売売上高(6月)は前年同月比+2.0%と前月+3.7%から大きく減速。

鉱工業生産は+5.6%から+5.3%へ減速した。夕刻から欧州市場、米国市場朝方にかけては158円を挟み157円80銭~158円20銭で上下。その後パウエル議長の発言を受けて一時157円20銭に急落。ただすぐに持ち直して158円近辺で推移して引けた。

パウエル議長は、インフレ目標に向けた持続的低下にいくらか自信が持てるようになった、利下げは目標到達を待つ必要はない、と利下げが近づいていることを示唆した。

NY連銀製造業景気指数(7月)は前月▲6.0から▲6.6に悪化し景気減速を示した。ユーロ円相場はアジア市場で172円20銭に上昇して始まり172円ちょうど~40銭で上下動。

欧州市場から米国市場朝方にかけては172円40銭中心に上下。パウエル発言で一時171円60銭に下落したがすぐに反発して172円ちょうど~20銭で推移して引けた。

ユーロドル相場は小動き。1.0890~1.09ちょうどでもみ合い欧州市場では1.09ちょうど~1.0920で推移し引けは1.09ちょうど近辺。

米国株は主要3指数がそろって上昇。NYダウは史上最高値を更新した。トランプ氏が大統領選挙で勝利する可能性が高まったとの見方から減税、規制緩和期待で関連銘柄が買われた。引けは前週末比+210ドル高の40,211ドル。

ナスダックは+74ドル高の18,742ドル。米長期金利は上昇。10年債は4.231%、2年債は4.461%。

火曜日の東京市場では日経平均は小反発。前週末に今年最大の下落となったあと、前日の米国株が堅調だったことから自律反発狙いの買いが入った。トランプ氏による企業寄りの政策期待、防衛関連銘柄への期待、から上昇。

円安一服は輸出関連銘柄の上値は重かった。引けは前週末比+84円高の41,275円。

ドル円相場は158円10銭で始まり上昇して60銭~80銭で上下。欧州市場から米国市場朝方にかけて158円20銭台に下落した。発表された小売売上高が予想より強めだったことで158円80銭に反発したが上値重くじり安となり引けは158円30銭近辺。

ユーロ円相場は172円20銭で始まり上昇して80銭~90銭で上下。その後60銭~80銭で上下したあと米国市場終盤まで172円60銭近辺で上下して引けた。

ユーロドル相場は引き続き小動き。1.09ちょうど近辺でもみ合い。米国市場朝方に1.0870に下落したがその後は持ち直しじり高で引けは1.09で引けた。

発表された米国の小売売上高(6月)は前月比0.0%と前月+0.3%から鈍化したが予想▲0.3%を上回り消費の底固さを示した。

ZEW景況感指数(7月)はドイツ期待指数が前月47.5から41.8へ大きく悪化した。米長期金利は低下。10年債は4.159%、2年債は4.421%へ小幅低下。

米国株は大幅高。ソフトランディング期待が強まり、資本財、一般消費財、出遅れていたバリュー株にも買いが広がった。トランプ氏の政策綱領をもとに銘柄選択する動きとなった。NYダウは前日比+742ドル高の40,954ドルで引け史上最高値を更新。ナスダックは+36ドル高の18,509ドル。

水曜日の東京市場では日経平均が反落。バイデン政権が先端半導体技術へのアクセスを中国に許容し続ける場合には厳しい貿易措置をとる、と報じられ、値がさ半導体関連株が大きく売られた。

一方、米経済のソフトランディング期待やトランプ政策関連銘柄はしっかり。引けは▲177円安の41,097円。為替市場では午後から欧米市場にかけて大きく円高が進んだ。

トランプ氏が、ドル高により大きな問題を抱えている、対ドルでの円安、人民元安がはなはだしい、米国の輸出企業にとってすさまじい負担になっている、とドル高円安を問題視する発言をしたことが材料に。

また日本でも河野デジタル担当大臣が、円安を問題視、日銀に利上げを求める発言をしたことで円買い戻しが進んだ。ドル円相場は158円30銭で始まり60銭に上昇したが東証引けにかけては157円70銭まで下落。その後一時158円台に戻したものの欧州市場が始まると156円10銭まで急落した。

その後は156円台半ばでもみ合い推移。米国市場朝方にかけて上下しながら軟調となり引けは156円ちょうど~20銭。

ユーロ円相場も172円60銭で始まり80銭に上昇したあと午後には172円ちょうど近辺に下落。欧州市場ではさらに急落して170円70銭台へ。その後米国市場でも上値重く170円70銭~80銭で上下し引けた。

ユーロドル相場は小動き。1.09ちょうどで始まりもみ合い横ばい。欧州市場から米国市場にかけては1.0940~50でもみ合いそのまま引けた。

公表された米地区連銀経済報告(ベージュブック)では、前回の報告以降、経済活動は僅かまたは緩やかに拡大しているとの報告が過半。ただ2地区からは初めて活動が縮小していると報告された。すべての地区で消費者の節約志向を受けて価格転嫁が困難となり値下げで対応したとの報告がみられた。

FRBウォラー理事は、利下げが正当化される時期が近づいている、と述べ、NY連銀総裁も、利下げが今後数か月で正当化される、と述べた。米長期金利は小幅低下。10年債は4.157%、2年債は4.437%。

米国株はまちまち。半導体規制により関連銘柄が大きく売られた。ナスダックは▲512ドルの大幅安で17,996ドル。逆にソフトランディング期待やハイテク銘柄からの資金シフトで出遅れ銘柄が買われてNYダウは前日比+243ドル高の41,198ドル。初めて41,000ドル台で引けた。

木曜日の東京市場では日経平均が大幅続落。下げ幅は一時1,000円を超えた。米ハイテク株の大幅下落を受け値がさ半導体関連株、電子部品株が売られた。円高で輸出関連株も弱い。引けは▲971円の大幅安で40,126円。

ドル円相場は156円20銭で始まり朝方155円30銭台に続落。ただその後は下げ止まり反発して156円50銭台。夕刻から欧州市場にかけては155円90銭~156円40銭で上下し、米国市場では30銭~50銭でもみ合い。その後157円40銭に上昇し引けは30銭近辺。

ECB理事会では政策金利が据え置かれた。ラガルド総裁はインフレ懸念の根強さを指摘し次回の会合に向けて何ら確約はしないと述べた。

米長期金利は上昇。10年債は4.202%、2年債は4.473%。ドル円相場を支えた。ユーロ円相場はドル円相場と同様の値動き。170円80銭で始まり朝方170円ちょうど近辺まで下落。その後は下げ止まり171円10銭台に反発。

夕刻から欧州市場にかけては170円台後半で上下したあと171円ちょうど近辺で推移。

ECB理事会およびラガルド総裁発言を受けて上昇したあと171円30銭~40銭で推移し引けた。

ユーロドル相場は小動き。1.0940近辺でもみ合い、欧州市場では1.0930近辺で推移。米国市場後半は1.09ちょうど近辺で小動きのなか引けた。

米国株は続落。台湾TSMC社の業績堅調を受けて朝方は堅調だったが、バイデン大統領が選挙戦から撤退との報道を受けて不透明感からリスク回避が強まり売りが嵩んだ。NYダウは前日比▲533ドル安の40,665ドル、ナスダックは▲125ドル安の17,871ドル。

発表された週次の失業保険新規申請件数は243千人と前週222千人から増加。継続受給者数も1,852千人から1,867千人に増加した。一方、フィラデルフィア連銀製造業景気指数(7月)は前月1.3から13.9へ予想を上回る改善。

金曜日の東京市場では日経平均が小幅安。前日の米株安の流れを受けて一時前日比▲300円超下落して4万円の大台を割り込んだ。ただ最近の下げを主導した半導体県連株の一角に自律反発狙いの買いが入り下げ幅を縮めた。引けは▲62円安の40,063円。

朝方発表された日本の消費者物価指数(6月)は前年同月比が総合指数で前月+2.8%と変わらず。除く生鮮食品は+2.6%、除く生鮮食品・エネルギー価格では+2.2% と、いずれも前月から0.1%ポイント上昇が加速した。

ドル円相場は底固く推移。157円30銭で始まり朝方10銭割れに下落したが反発して午後には一時157円80銭台。ただすぐに押し戻されて157円割れに下落。欧州市場ではじり高で米国市場朝方は157円70銭。その後は157円30銭に反落して引けは50銭。

ユーロ円相場も同様の値動き。171円40銭台で始まり朝方20銭近辺に下落。その後反発して午後には一時171円90銭手前まで上昇した。ただ長くは続かず170円90銭に急反落。欧州市場では上値重く171円台前半中心に上下、もみ合いとなり引けは171円40銭。

ユーロドル相場は終始小動き。1.09ちょうど近辺で始まり欧州市場では1.0880と小安くなったが米国市場では1.0890近辺で小動きもみ合い、そのまま引けた。

米長期金利はやや上昇。10年債は4.243%、2年債は4.517%。

米国株は下落。マイケルソフト社のwindowsに不具合が生じてグローバルにシステム障害が発生。同社株が大幅安となり、投資家心理が冷え込んで一部ハイテク株が売られたほか、決算内容で明暗が分かれ主力株にも売り。

NYダウは前日比▲377ドル安の40,287ドル、ナスダックは▲144ドル安の17,726ドルで引けた。

この日発表されたカナダの小売売上高(5月)は前月比▲0.8%と前月+0.7%から急減速。除く自動車でも▲1.3%と大幅減となった。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

米国では来週の月曜日・火曜日にFOMCを控える。今週の指標が利下げに向けた議論をさらに一歩進める材料となるか。

火曜日 リッチモンド連銀製造業指数(7月、予想▲7、前月▲10) 中古住宅販売(6月、季節調整済み年率換算、予想400万戸、前月411万戸)

水曜日 PMI景況感指数(7月速報、製造業、予想51.5、前月51.6、サービス業、予想54.5、前月55.3) 新築住宅販売(6月、季節調整済み年率換算、予想645千戸、前月619千戸)

木曜日 GDP(4-6月期速報、前期比年率、予想1.9%、前期1.4%) コアPCEデフレーター(前期比年率、予想2.7%、前期3.7%) 失業保険申請件数 耐久財受注(6月、前月比、予想+0.2%、前月▲0.1%)

金曜日 ミシガン大学消費者態度指数(7月確報、予想66.5、速報66.0) 個人所得・消費支出(6月、前月比、予想+0.4%・+0.3%、前月+0.5%・+0.2%) PCEデフレーター(前年同月比、予想2.5%、前月2.6%、コア、予想2.5%、前月2.6%)

2.欧州の経済指標

先週のECB理事会では政策金利は予想通り据え置かれた。ラガルド総裁は次回会合に向けて何らのヒントを与えることあえてせず。ECBの次回利下げはなお不透明なまま。指標は背中を押すか。

火曜日 ユーロ圏消費者信頼感(7月速報、予想▲13.5、前月▲14.0)

水曜日 PMI景況感指数(7月速報、ユーロ圏、製造業、予想46.0、前月45.8、サービス業、予想52.9、前月52.8)

木曜日 ドイツIFO景況感指数(7月、予想89.0、前月88.6)

3.カナダ中銀金融政策決定会合

米国の隣国で景気物価動向が影響されやすいカナダの動向はひとつの注目材料。今週水曜日にカナダ中銀は金融政策決定会合を開催。政策金利を4.75%から4.50%へ引き下げると予想されている。

すでに6月5日に4年振りの利下げを実施し5.00%から4.75%へ引き下げているが、G7で利下げ、追加利下げに先陣を切る動き。

先週発表された消費者物価指数(6月)は前月2.9%から2.7%へ低下。小売売上高(5月)は前月比が前月の+0.7%から▲0.8%へ大幅に悪化した。これらが利下げへの後押しになるとみられる。

◆今週のMRA's Eye


ドル円相場は押し目買いから戻り売りへ

先週のドル円相場は大きく下落し一時155円台前半をつけた。きっかけはトランプ大統領候補がドル高を問題視し、とくに円と人民元が対ドルで安すぎる、と発言したこととされる。

トランプ候補が掲げる政策綱領をもとに、いわゆるトランプトレードが活発化しているが、金利上昇およびドル堅調にかけたトレードは梯子を外されたかたち。また河野デジタル大臣も円安を問題視し、日銀に利上げを求めたと報じられた。

ドル円相場は年初来のドル高円安トレンドの支持線である158円近辺にあったが、これをきかっけにトレンドラインを割り込むと円買い戻しが加速した。

値動きからは、年初来のドル高円安トレンドの終了が確認された。これによりドル円相場のトレードは押し目買いから戻り売りに様相を転じた可能性がある。

大きくドル安円高が進んだきっかけは要人発言だったが、ドル安円高が進む素地は整っていた。米国では経済指標が軒並み景気減速・雇用緩和・インフレ鈍化を示している。FRB当局者からはインフレ鈍化を好感する発言が相次いだ。

市場はすでに9月会合での利下げを100%織り込み、年内2回の利下げが有力視された状態となっていた。

11日に発表されたCPIがインフレ鈍化を示したタイミングで日本の通貨当局は円買い介入に踏み切ったとみられる。規模は3.5兆円ほどと推計された。翌12日にも2兆円ほど実施したとみられ、合計は5.5兆円ほど推測される。

今回の介入は円安を食い止める逆張り的な介入ではなく、ドル安円高に振れそうなタイミングで実施された逆張り的な介入となった。市場の背中を押すかたちで、介入効果は逆張り的な介入よりも効果を発揮しやすい。

さらに既述の年初来のドル高円安トレンドの支持線近辺まで押し下げたことで、トレンドの終了を意識した投機筋の手仕舞い、円買い戻しを誘いやすい状況をつくったことにも意味がある。

需給面では5.5兆円の円買いは、足元の日本の貿易サービス収支赤字の1年分に相当する。短期的には投機や投資の円売りに対する円買いとして余りあるボリュームだ。今回は介入による「冷酒効果」、あとからじわりと効く典型的なかたちとなりそうだ。

米国のファンダメンタルズの変調、利下げが確実となったこと、日本でも追加的な金融緩和解除が目前となる状況で、ドル高円安トレンドをブレークした意味は大きい。

投機筋にとってドル買い円売りの円キャリートレードは、これまで大きな収益をもたらしてきた。その収益の太宗は金利差収入よりも円安による為替差益。金利差収益は3ヵ月で2円ほどにとどまる。

トレンドが消失しても金利差がなお残るため円キャリートレードの魅力は残るとの見方もあるが、円安トレンドがなくなったとなれば、リターン/リスクは悪化するためポジションを縮小する可能性が大きい。

トレンドに沿った順張りから、少なくともレンジトレードに移行し、ドル高円安局面での戻り売りが強まる可能性が高い。押し目買いから戻り売りへ、相場つきが変化した可能性には留意が必要だ。

一方、ユーロ円相場はなお年初来のユーロ高円安トレンドを維持している。トレンドラインは170円近辺だが、今局面の下落でも辛うじて踏みとどまった。ドル円相場に比べて金利差は小さく、ユーロ円相場での円売りは一段とトレンド重視にならざるをえない。

なおトレンドが維持されていることで、円全面安の流れが完全に変わったとは言い切れない面もある。ただし、トレンドの維持が難しくなるのは時間の問題。日銀の国債購入減額、利上げ、米国の利下げ、それに欧州の利下げ、が加われば、相場の潮流変化が明確になるとみられる。7月~9月がそのタイミングとなりそうだ。

ドル円相場はなお高値圏でもみ合いが続きそうだが上値は重くなった。160円台の回復は難しくなったとみられる。年末に向けて150円ちょうど方向へ、次第にレンジを切り下げていくとの見方がメインシナリオだ。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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